第3話 争え もっと争え……

 翌日。東 陸玖(りく)と西 七海(ななみ)は同じ学校に通っていることに気付いた。


「……放課後面貸せや」

「あらあら、朝の挨拶も知らないなんて幼稚園未満だね? 朝の挨拶はお早うございますだよ?」


 その後、軽い煽り合いをして別れると放課後は東が入っている部活の部室へと移動して行った。







「……んで? 何でここでやんの?」

「諸角先輩しか止められそうな人がいないので」

「……まぁ面白そうだからいいんだけどさぁ……」


 運動部と言うのにロン毛と言うわけではないが無駄に長髪で更に無駄なことに髪艶がいい、ガタイの良い青年が東に呼ばれて全体が筋トレしている中で使われていない道場へと移動する。

 それに面白そうだからという理由で東と同学年の藤野もやって来た。そして丁寧に自己紹介を済ませた西と東を見て諸角は口を開く。


「さて……色々突っ込みどころあるな。まず東と西って……しかも名前まで陸と海かよ……」

「……凄いッスね……因みに何の脈絡もないッスけど、こしあんと粒あんだったら……」

「こしあんですよ」

「つぶあんですね」

「「あ゛?」」


 ほぼ同時に言って睨み合う東と西。


「……こしあんなんて食感の楽しみもないアズキ感もない単調なふざけたものですよね?」

「粒あんなんて歯にくっつくわ急に変な食感が入ってアズキを感じられないこしあんの進化前だろ」


 喧嘩が始まりそうになると藤野がその間に入って止め、諸角は楽しそうに笑って質問をしてみる。


「じゃあ、きのことたけのこは……」


 諸角の問いに再びほぼ同時に答える両者。


「きのこでしょう」

「たけのこに決まってるじゃないですか」

「「あ゛ぁ?」」

「何でたけのこなんだよ。チョコレートの量、下とのバランス感覚。どう考えてもきのこの圧勝だろ」

「はぁ~出たその理論。チョコレートが食べたいならチョコレート食べてくださいよ。それにどう考えてもたけのこの下の部分のビスケットの食感の方が優れてるでしょ。あなた本当に味障なんじゃないですか?」


 藤野が「アルフォート」と叫びながら入って宥める。諸角はもうその定位置に居ろと藤野に言って面白がって質問を続けた。


「じゃあ好きな食べ物」

「肉です」

「野菜です」

「「あ゛ぁん?」」


 また間髪入れずに二人は争い始めた。


「あんた男でしょうが。何野菜なんてナヨナヨしいもん食ってんですか? 本当に草食系になってどうするんですか? 力出ないんじゃないですか? 僧職系になりたいんですか? あぁそういえば禿るのを気にしてましたね? 先手を打ちたいという訳ですか」

「うっせぇ、お前こそビタミンも取らねぇで肉ばっかり食ってんのか? だからそんなに血の気が多いんだよもう少し血を抜け。具体的には俺が殴って流血させてやろうか? 放っておくと髪だけ抜けるぞ? ついでに油っぽいもんばっかり食ってると将来目も当てられないようになるぞ?」

「肉食獣はふさふさです~お肉にビタミンがないとかありえません~しかもこんな品行方正なお嬢さんを捕まえて凶暴とか言わないでください~」

「肉食獣と人間じゃ内臓器官が違うんだよ馬鹿。ビタミンがないとか言ってねぇだろ。ビタミンが足りてないから言ってんだよ。あと品行崩壊だろ」


 諸角は凄いな……と呟き、藤野にアイコンタクトを送ってその諍いを止める。その後も休日はアウトドアかインドア、武器を取るなら剣道とフェンシング、進路は理系か文系、好きな季節が夏と冬、好きな時間は夜か昼か、果ては嫌いな食べ物はピーマンかにんじんか。もう尽く割れた。


「あなたの心根が腐っているから黒なんて色が好きなんですよ。性根が残念な人は綺麗な白のことを好きになれないんですねぇ……」

「物理的に白は全ての光を透過した後に見られる最も汚れた色だ。お前は表面だけを見て内心が朽ち果ててるから白が……」

「はいはい」


 何度目か、いや何十回目かの藤野の仲裁を見て諸角はにやにやしながら二人に次のお題……ではなく、からかうように次のことを言った。


「何だ、俺が入らなくても仲いいんじゃね?」

「「それはないです!」」

「仲良しだ」

「藤野!」


 忍び笑いを漏らす藤野とずっとにやにやしっぱなしの諸角。二人は今日は休んでいいと言って筋トレに戻って行った。


 この後、先程までの鬱憤を晴らすかのように無茶苦茶乱闘した。そして、諸角に沈められた。

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