第拾壱話 【2】 砕けた御剱

 まだまだ大量の邪念が、天津甕星の元に集まっている。どうにかして、僕に対しての希望を、夢を、幸せになりたいという思いをーーと思った所で、僕は重大な事に気付きました。


 人の幸せは、人それぞれ。


 他人に幸せにとか言われても、悪いことをして成功している人達は、それで満足であり、幸せなんですよね。そこに邪念があっても、その人が幸せなら、僕には反応しない。


 やってしまいました……やっぱり全ての人をなんて、ちょっとおこがましすぎました。


星神砲せいしんほう! どうした? 動きが止まっているぞ」


「くっ……!」


 そして、僕の浄化の光を押し戻す様にしながら、天津甕星が星の塊を飛ばしてきます。

 始めから全く威力が衰えない、天津甕星のこの星の塊の攻撃は、徐々に黒い光に塗れています。その度に、威力が増しているんですけど……。


「天神神威斬!」


 このままではマズいと思った僕は、浄化の光を消すと、相手の放って来た星を、御剱で切り裂いていきます。だけど次の瞬間には、大量の数の星が飛んできました。


星神流星砲せいしんりゅうせいほう!」


 それはまるで、流れ星みたいです。


「うわぁぁ!!」


 流石の僕でも、そんなに沢山の星の攻撃は受け止めきれなかったから、僕は次々とその攻撃を受けてしまって、後ろに下がっていきます。


 だけど、倒れないよ。


 例え邪な思いを持ったまま、それで幸せを感じている人がいても、幸せを憎み、僕にやられて欲しいと願う人がいても。

 幸せに形なんて無いように、僕も決まった型にはまる気なんかないですよ!


 僕が理想とする皆の幸せは、邪念を持っていたらなし得ないんです!

 だから、邪念を持って幸せを感じている人も、それが本当の幸せなのかを考えさせて上げます!


 あなたのその幸せの為に、他の人が不幸になり、あなたの幸せを憎むようになっているんだって事を。そうしたら、それが巡り巡って、あなたに返ってくるんですよ!


「因果応報……どんな事も、邪念や憎しみを持っていたら……それは全部、自分に返って来るんですよ。その覚悟が、あるんですか? 人の幸せを食い散らかすのなら、いつか自分の幸せが、他の人に食い散らかされても、文句は言わないで下さいね」


「ぬっ……? 何を……」


「お前にも言っているんですよ、天津甕星」


 そして腕を前にして、流れ星のような攻撃を受け止める僕は、その腕の隙間から、天津甕星を睨みつけます。


「うぬっ……」


「そんな覚悟がないのなら、僕に刃向かわないで下さい」


「ふっ。そんなもの、とうにーーぬっ?!」


 すると、天津甕星に纏っていた黒い邪念が、またちょっとずつ僕の方に流れてきました。僕はそれを受け止め、光で包みます。


 また僕の方にやって来た邪念は、まだ良心の呵責かしゃくがあったからなんでしょうね。

 それでも天津甕星に留まっている邪念は、その覚悟を持っているという事。それなら、もうこれ以上は無理でしょう。


 それを、この短時間で僕の考えに同意させるのは無理です。時間がかかります。だから今は、浄化するだけです。


「ぐっ……ぬぅぅ……!! おのれぇ……」


 それに、だいぶ相手の邪念も剥がせたかな? これなら力の差は同じくらいか、僕の方がちょっと上かな?


「白金の浄火焔じょうかえん!」


「ぬっ……!」


 試しに、白金色の浄化の炎を放ってみます。すると、相手は邪念のオーラで防いだけれど、体に少しだけ炎がついていました。邪念の密度が落ちて、僕の攻撃を防ぎきれていないようですね。


「……ちっ。だがまだ、この世には無数の邪念がある」


「そうですね。それはもう、しょうが無いです。人にも妖怪にも、必ず悪い心はあるんです。完璧な善人、完璧な悪人なんていないんです。僕にだって、悪い心はありますよ。白狐さん黒狐さんを独り占めしたいっていう、悪い心がね。でもね、それを自分で抑えられるかどうかでしょう?」


 そして僕は、天津甕星に向かって御剱を振り抜き、真空の刃を飛ばします。


「それを僕達が勝手に、悪いことだ良いことだって決めつけて、人間も妖怪もダメだって決めつけるのは良くないんですよ。僕達はあくまで、人々を見守る立場の存在なんですから!」


 そのまま僕は、天津甕星に向かって叫びながら、真空の刃を次々と飛ばしていきます。


「ぬっ……くっ! 見守っても変わらぬ。そして自分達の国も、この星をも滅ぼそうとする者達を、貴様は許すのか!」


 だけど、僕の攻撃を防ぎながら、天津甕星はそう言い返します。相手の隙を作る為に、叫びながら放ったのに、全く意味が無かったです……。


「それも僕達が決めるんじゃない! 決めるのは、人間や妖怪達です!」


「だまれぇ!!」


 すると、天津甕星が最後の力を出し切ろうとしているのか、体から今まで以上の、黒い邪念みたいなオーラが噴き出して来て、あたり一面を包んでいきます。


 空気が重いです……。


 まだこれだけの邪念や怨念が残っていたなんて……本当に、人々の念というのは恐ろしいものです。

 これを全部どうにかしようなんて、僕には無理です。でも、こいつを倒して、再びこの邪念や怨念を鎮める事は出来る。


 そして僕も、全ての力を出し切るつもりで、妖気を全身に流し込んでいきます。すると、僕自身の体からも、光を放ってきました。

 これだけ天照大神の力を使ったんだから、当然だけどね。


 そのまま僕は、ゆっくりと天津甕星に近付いて行きます。

 そして天津甕星も、近付いて来る僕を待つかのようにして、その場で仁王立ちしています。


 その後、相対した僕達は、しばらくお互い沈黙するけれど、睨みつけてくる天津甕星を、僕は睨み返しています。


「もう消えよ」


「こっちの台詞です」


 天津甕星がそう言った後、僕もそう返します。そして次の瞬間……。


「がっ!?」


「くっ……!!」


 僕の拳は天津甕星の顎に、天津甕星の引っ掻くような攻撃も、僕の顎にヒットし、お互い後ろに仰け反ります。


 こんなものでは引きませんよ!


「神威斬!」


「星神砲!」


 その後僕は、御剱の刃を光らせて、相手を斬りつけ、そして天津甕星は、腕を振り、勢いを付けてから星を飛ばしてきます。


 だけど、その動作は少し遅れが出るよね。僕の攻撃の方が、早くに当たります。


「ぎゃふっ!」


 ーーと思ったら、相手の攻撃の方が速かったです。お腹に強い衝撃受けてしまい、僕は吹き飛んでしまいました。

 しまった……星の速さは尋常じゃなかったんだ。僕の刀剣を振る速度が、それ以上じゃなければ無理でした。


「くっ……!」


 僕は咄嗟に横に抜け、相手が飛ばして来た星から脱します。


「はぁっ!!」


「うわっ!」


 でもその後、僕の直ぐ近くに天津甕星の姿があって、その禍々しい腕で追撃をしてきました。

 それもなんとか避けられたけれど、こんな瞬時に移動して来るなんてーーと思ったら、今度は一瞬で僕の後ろに……?!


「終わりだ」


「終わりません!」


 そう簡単にやられる訳にはいかないんですよ。


 僕はなんとか、御剱で相手の攻撃を受け止めたけれど、相手を良く見たら、腕が巨大な剣に……?!

 しかも、周りを覆っている邪念や怨念が、その剣に集まって来ていて、もの凄い力を感じます。


 ダメだ。御剱で受け止めたけれど、これじゃあ押し込まれる!


星神滅神剣せいしんめつじんけん!!」


「うわぁぁぁあ!!」


 そして僕は、この世の邪念や怨念を、全て集めて形にしたような、そんな醜悪な剣の攻撃を防ぎきれず、また体中切り裂かれてしまいました。


 しかも、その相手の攻撃で、御剱にヒビが入り、そしてーー


「あっ!!」


 粉々に、砕けてしまいました。


 そんな……浄化の力を最大限に使える、僕の唯一の武器が……御剱が、壊れた。


「勝負あったな」


「うっ……くっ……!!」


 そして天津甕星は、地面に倒れた僕に向かって、醜悪な剣に変えた右腕を突きつけてきます。

 何とか避けているけれど、斬られたダメージが思った以上に大きいです。このままじゃあ……。


 だけど、まだです……まだこんな所で、諦める訳にはいきません。


 御剱が壊れても、僕はまだ戦えます!

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