第肆話 【2】 何故選定するのか

 そんな京都の守護神が現れたのは、天津甕星にとっては想定外なのかも知れないです。やっぱり真っ先に、その4体を狙って攻撃しました。


「ダメ、危なっーー!」


『何かしましたか?』


 えっ……? 天津甕星の、星を飛ばしたような攻撃を難なく防いだ?

 腕を伸ばして、その先の指から小さな星の塊を飛ばした天津甕星も、顔をしかめています。


 防いだ時に凄い音がしたから、多分もの凄い威力だったんでしょうね。

 だけど、玄武さんの背中の甲羅から出してきた、光り輝く大量の甲羅は貫けなかったみたいです。


「あら。要らぬお世話でしたね」


 しかも、天照大神であるレイちゃんの前に出して、丁度天津甕星と自分達との間を分断するようにしています。自分達に援護は要らないといった感じです。


『さて。玄武が防いでいるとは言え、そう長くは持たない。我々は、京都の守護に行きたいが……お前の方も、危険そうだな』


「うっ……だい、じょうぶです」


『大丈夫じゃないですよね、全く……』


 白虎さんがそう言った後、朱雀さんが僕の背後に回って来て、その大きな炎の羽根で僕を包んできました。


「あっ……!」


 一瞬だけ熱くて、思わず燃やされるかもって思ったけれど、その直ぐ後に、丁度良い暖かさになっていきます。それと同時に、全身の痛みも消えていきます。


 あれ? 朱雀さんの能力って、こんなのだったっけ?


『私達は、守護神です。人が望めば、その能力を手にする事が出来ます。過去にそうした中で、死者を蘇えらせる能力を得てしまいましたが、今はこの能力になっています』


「治癒……ですか」


『いえ、熱による脳の混乱です』


「はい……?」


『つまり、脳や体の熱を上げてハイにさせ、痛みも何もかも忘れさせるんです』


 治癒じゃなかった!! 危ない薬を飲んだ時みたいな、とっても危ない状況にさせられているんですか?! それはダメ、ゼッタイ!


「そ、それは良いですから、僕なら自分でなんとかするので!」


『しかし……』


 朱雀さんには悪いけれど、そんなので体を騙しても、治ったわけじゃないから、その能力が切れた後の反動が凄い事になりそうです。だから僕は、慌てて朱雀さんの羽根から抜け出します。


 それでも、僕は立っているのがやっとだったから、その後直ぐにふらついてしまって、前に倒れそうにーー


「危ない!」


 ーーなった所で、レイちゃんが僕を支えて来ました。いや、レイちゃん……? 更に体が大っきくなっていないですか? 浮遊しながらも、倒れそうな僕を支えられていますよ。しかもついでにと、背中に乗せて飛びましたよ。


 こうやって飛んでいると、最初にレイちゃんと会った事を思い出します。

 僕、しつけをしっかりしないとと思って、叱っていましたね。レイちゃん、天照大神だったのに……あぁ、無礼な事をしちゃったよ。

 だけど、天照大神としての意識が戻ったのは、あの後だって思いたいです。それなのに……。


「ふふ。そう言えば、あなたと最初に会った時、あなたの事を考えずに飛んでしまって、叱られちゃいましたね」


 しっかりと覚えていました。あの時から既に、天照大神としての意識はあったんですね。


「うぅ、ごめんなさい……」


「良いのですよ。私は天照大神である前に、存在が不安定な霊狐なんですよ」


 レイちゃんはそう言ってくるけれど……やっぱり気にしちゃいますよ。


「それよりも、天津甕星をなんとかする事を考えないといけませんね。椿、動けますか?」


「うぅ……ちょっと無理です」


「そうですか」


 背中にうつ伏せで寝ている僕を、レイちゃんが心配そうに確認してくるけれど、やっぱり体を起こすのも無理そうです。

 こうやって飛んでいる間にも、天津甕星が僕達を狙って、その手から無数の小さな星を飛ばしてきています。それをレイちゃんは、ひたすらに避けている。


 攻撃さえ出来れば……それなのに僕は。


「このままでは、四神も守護に行けませんね」


「うぅ……やっぱり、僕がなんとか回復しないと……どうしよう」


 そんな焦る僕に対して、レイちゃんはとても冷静にしています。

 何か策でもないと、そんな冷静にはなれないと思うけれど……まさかレイちゃんには、何かとんでもない作戦があると言うのですか!?


「椿、1つ聞きます。あなたはこの世界を、どんな世界にしたいですか?」


「どんな……?」


 するとレイちゃんは、僕に向かってそう言ってきました。もちろん、敵の攻撃を避けながらね。でも、どんなのって言われても、僕には分からない。


 だって、それを決めるのは僕じゃないですから。


「それは……人間達が、他の妖怪さん達が作っていくものでしょう?」


 新しい世界を作るなんて、そんなのは神様がやるべき事じゃなくて、その世界に住む人達がやるべき事なんです。


 現状に満足していれば、新しい世界にしなくても良い。


「それならば、椿はなんの為に選定陣を?」


 えっと……今ここで聞く事ですか?

 だけど、答えた方が良いかも知れませんね。だってレイちゃんには、何か作戦がありそうなんです。その前に、僕の覚悟を再確認したいのかも知れません。


「決まっています。人間や妖怪が滅ぶべきか生きるべきか、そんな選定自体も、人間や妖怪達にやらせます。皆で、滅ぶも生きるも自由にしたら良いんです。誰かに言われたから、決まっているから。そんな言葉で逃げないで、誰もが運命に立ち向かえるようにしてあげるんです」


「それはある意味酷ですね。その中で今のように、人間が妖怪を滅ぼしても良いと?」


「そうなったら、僕が妖怪を守ります。僕は選定した後に消える気なんて、全く無いですから。とにかく、今ここで神の力で全てを決めるんじゃなくて、1人1人が考えて、そして答えを出していけば良いんです」


 神様が何もかも決めて良い訳じゃないんですよ。だから、止めないと。

 今、人間も妖怪も滅ぼそうとしている、とても身勝手な神様をね。


 すると、それを聞いたレイちゃんが、何故か嬉しそうな顔になりました。

 僕、結構身勝手な事を言ったと思うんだけど、なんで笑っているのかな?


 だってさ、何もかも全て押し付けられる身にもなって下さいよ。

 僕はそこまで、凄くはないんです。だから、皆で決めて欲しいんですよ。自分達でね。


 ただ僕は、僕の夢を叶える為に動くんです。


「ふふ。やはり、あなたに選定して貰うのが1番ですね」


「もう……勝手に僕を過大評価して、今僕はボロボロなんでーー」


「自分の体を確認して下さい」


 そういえば、レイちゃんと話している間、体の痛みが無かったです。

 そう言われて僕は、自分の体を再度確認してみると、相手の攻撃で出来た打ち身や擦り傷などが、綺麗に消えていて、ついでにあれだけ全身を襲っていた激痛も消えていました。


 体が動く!


「私は妖気を渡せるのですよ、椿。そして大量の妖気は、細胞を活性化させて、自然治癒力を飛躍的に高めてくれます」


 それを見て、レイちゃんが色々と言ってくるけれど、要するに自分の治癒力で回復しただけですか。という事は……。


「うっ……お腹空いた……」


 やっぱり……自然治癒力を上げるのは無理やりな事だから、体力とかをかなり使っちゃって、今度は空腹感から力が出ないです。体は動くのに……。


 とりあえず、ボロボロになった巫女服の袖から、いつもの巾着袋を取り出すと、そこからいなり寿司ーーは、妲己さんに食べられていました。僕のバカ……。


「椿。四神達の元に戻ります」


「えっ……でも」


 後ろからは、まだ天津甕星が迫っているんですけどね。このまま四神達の元に戻ったら、また四神達が危ないんじゃないですか?


「四神達には、体力を回復させるアイテムがあるんです。大丈夫です、上空を一瞬通るだけです。この状況は分かっているはずなので。四神達は耳が良いですからね」


 そう言うとレイちゃんは、スピードを上げて四神達の方に向かいます。そういう事なら、四神達に助けて貰いましょう。

 だって、また天津甕星があの大きな星を出していて、それを頭上に掲げ、今度は四神達に向かって放とうとしていますから。


 これは急がないと!

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