第肆話 【1】 京都の四大守護神登場!

 とてつもない威力の相手からの攻撃を受けて、僕は地面に倒れてしまいました。


 体が動かない。痛みとか、そんなのを感じるよりも、意識が朦朧としちゃっていて、その伝達が来ないです。


 星そのものを落とされたと思う程の衝撃は、白狐さんの能力で防御力を上げていなければ、即死でした。


「椿、椿! 起きて下さい!」


 そんな中、天照大神様であるレイちゃんが、僕に向かって叫んできます。だけどごめん……聞こえているけれど、体が動かないや。


「やれやれ。最上神である天照大神が、なぜそのような者に肩入れするのやら」


 すると、とても冷淡な口調で、天津甕星がそう言ってきます。なんだかその声を聞いただけで、寒気がしてきますよ。


「確かに私は、全ての神々の頂点に立つ存在。ですから分かるのです。この者は、今の世を変える歯車だと。こんな所で、邪な者に負けては駄目なのです」


 レイちゃん……。


「駄目と言っても、其奴はもう動けんぞ。しぶとくも生きているようだが、あとはトドメを刺すだけ」


「あら。目の前で立ち塞がっている者が分からないのですか?」


 レイちゃん、ダメです。君の力は、普通の妖怪よりも低いんです。天照大神様である君が消えたら、いったいこの世界はどうなるんですか?


「立ちはだかるか、天照大神。ならば消し去ってやる」


「えぇ、構いませんよ。私はとうの昔に、体を失っています。だから、今の私には戦う能力なんてありません。それでも、椿が立ち上がる時間さえ稼げれば……!」


 そんな……! 天照大神様の体は、もうとっくに……?

 だから今の世の中は、こんなにも住みにくいんでしょうか? 


 それでも、人々は生きています。必死になって……。


「ぐっ、うぅ……!!」


 だから動いて下さい、僕の体! ここで立ち上がらないと、本当に取り返しがつかない事になります。


「椿……!」


「ほぉ、だいぶしぶとい奴だ。しかし、この状態の余に勝てる訳がなかろう」


「勝てなくても、それでも……最後まで僕は!」


 そして僕は、無理やり意識を叩き起こして、体を起こそうとします。でもその瞬間、体中に激痛が走りました。

 これ……絶対に、色んな所の骨が折れているよ。だからって、痛くて泣いている暇なんかないです。


 こんなの、普通の女の子だったり、何の力も無い女性の妖狐だったら、とっくに立ち上がれなくなっているかも知れません。


 得体の知れない巨大な敵。そして、死にそうな程の激痛に、死ぬかもしれない恐怖。その何もかもが、女の子では立ち向かえないものかもしれない程です。

 だけど僕は、身も心も男の子になっていた時があります。だからその精神力で、今僕は立ち向かっているのです。


 それと女の子にだって、立ち向かう勇気が湧く時もあるんですよ。

 それはとても大切な、愛する人の元に帰りたいと思った時です。その時、女の子は誰よりも強くなれるんです。


「うぅぅっ……!!」


 その2つの精神力を、僕は持っているんです。それに、今気付きました。だから僕はーー


「はぁ、はぁ……やらせません。全部、僕が守るんです!」


 ーー立ち上がられるのです。


「しぶとい。やっと立っているだけではないか。そんなもので、余の攻撃を交わせるものか!」


「いけない! 椿!」


「ぐぅっ!!」


 確かにそうです。避けないとと思っていても、全身に激痛が走るから、思うように体が動かせない。だからまた、相手の衝撃みたいな攻撃を受けてしまいました。


「ぐっ……!! はぁ、はぁ……」


「椿……」


 だけど、もう僕は倒れたりしません。


「なに!? 2度も受けて尚、その体が壊れんとは! えぇい!」


 天津甕星が驚いているよ。あぁ……でも、困ったな。御剱が握れないし、妖気も体に満たせない。攻撃が出来ない。本当に、立っているのがやっとです。


「……まぁ、良い。地上の方はあらかた終わったようだな」


「えっ? あっ!?」


 すると天津甕星が、また空間に鏡のようなものを出してきて、地上の様子を見せてきます。


 そこには、恐竜だけじゃない、他の古代生物になっていた選定者達にやられ、血まみれで地面に倒れてしまっている、白狐さん達の姿が映し出されていました。


「白狐さん……黒狐さん……皆……」


 妲己さんに玉藻さんと天狐様。更に、僕のお父さんお母さんまで歯が立たなかったなんて……。


「そんな奴等を見て、人間達はどうしていたと思う? この状況に恐怖し、襲って来る化け物も、守ろうとする妖怪も、全部畏怖して攻撃したのだ」


「えっ……?」


「そうだ。此奴等が倒れているのは、全て人間の仕業だ!!」


 そう叫びながら天津甕星は、鏡の中の風景をズームアウトしてきます。

 すると、白狐さん達やおじいちゃん達の周りを囲むようにしながら、沢山の戦車が止まっていて、空には戦闘機が飛んでいたのです。


「そんな!! 自衛隊が皆に攻撃を?! 自国を守る為に……国の自衛の為にって動いたのですか?!」


 だけどその自衛隊も、選定者達には全く歯が立たないらしく、次々とやられていっています。

 戦車はまるでボールの様にして殴り飛ばされ、飛んでいる戦闘機も、紙飛行機みたいに潰されてしまって、上空で呆気なく爆破されています。


 あれだけで何十人死んでいるんだろう……?


「どうだ? これでも人を守るのか? こんな、守る価値の無い奴等など」


「……仕方……ないんです。今まで妖怪達は、その正体を隠してきたんです。そして、時折その姿を現しては、人間達を恐怖させていたんです。こんな風になるのも、しょうがないよ。だから僕が、これを変えてやるんです!」


 こんなのを見せて、僕の心を折ろうとしたんだろうけれど、残念だね。逆効果だよ。


「そうか。だが、何を言ったところで、この事態はーー」


『いいや。ここは、我々に任せろ』


 すると、天津甕星が喋り終える前に、どこからともなく声が響いてきました。


「えっ? 誰……?」


『京の守護、再び我等がやってやろう』


『やれやれ。ここでのんびり隠居をしていたというのに、騒がしいことこの上ない』


『でも、私達がやらないと……』


 そして、僕の言葉に反応するように、次々と声が増えていきます。


「椿、大丈夫です。この方達は、頼もしい味方です。そうですか……こんな所に居たのですね」


『そなたに扱き使われたくなかったのでな』


 その後僕の目の前に、4つの光の粒が上から降りて来ると、それが次々と形を変えていきます。


 1つは体が長く、顎髭の立派な和風の龍に。


 1つは体毛が光り輝き、鋭い爪と鋭い牙を持った、真っ白な虎に。


 1つは燃え盛る炎を身に纏い、長い尾をしならせ、大きな翼を広げた鳥に。


 1つはドッシリと構えた岩の様に、とても大きな亀と、それに乗っかるようにして巻き付いた蛇に。


 それぞれがこの形になると、その4体は一斉に、僕の方を見てきました。

 僕の後ろに天津甕星が居るにも関わらず、とても堂々としています。


『全く。我々の後継者は何をやっているのやら』


『どうやら、派手にやられているようだな。情けない』


『相手が相手です。仕方がないかも知れませんが……』


『それでももう少し、耐えて欲しかったですね』


 龍、虎、鳥、亀の順に喋っています。もう間違いないです。この4体は、京都の四大守護神、青竜、白虎、朱雀、玄武です!


 こんな所に居たなんて……いや、多分正確には、妖界の京都のどこか片隅で、隠居をしていたのでしょう。さっき、隠居がどうのって言っていたしね。これ、龍花さん達が聞いたら凄く怒りそうですね。


 とにかくこの守護神達も、人間界の京都を守ってくれるのなら、向こうはなんとかなるかもしれません。


 少しだけ、光明が差してきました。


 だけど、僕の方を何とか回復しないと、攻撃すら出来ない程にダメージを受けているのは、とてもマズいです。


 それでも僕は、天津甕星の動きを見逃したりはしません。何をしてくるか分からないし、いきなり守護神に攻撃するかも知れないからね。


 そうなったら、無理やりでもなんでも、僕は妖術を発動して、守護神達への攻撃を防ぎますからね。


 だからーーレイちゃんが颯爽と、守護神達と天津甕星の間に行かないで下さい! 守るの僕ですよ?!

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