第伍話 【1】 レイちゃんの作戦
僕の妖気が復活したと思った矢先、それを見た天津甕星が、攻撃の対象を変更してきました。今度は、四神達に向かって攻撃をしようとしています。
そしてレイちゃんは、急いで四神達の元に向かっています。
まるでレイちゃんの考えを読んだかの様にして、相手は的確に次の一手を仕掛けてきます。
僕の方には天照大神がついているから、まだ四神達を狙った方が、なんとかなると思っているのでしょう。
だけど、四神達がそう簡単にやられるわけがなかったです。
僕が受けた、あの大きな星の塊の攻撃を、玄武さんの光輝く甲羅で直に受け止めています。しかも、甲羅に巻き付いている蛇が、その相手の攻撃を食べていますよ!
『なるほど……邪な者になっても、星の神だけはありますね。神聖な力はそのままですか……ですが、逆に助かりました。吸収しやすいですからね』
嘘……でしょう? 全部食べちゃいました。僕達が急ぐ必要なんて無かったです。
『それでは、返しますね』
すると今度は、玄武さんが光り輝いているままの甲羅から、天津甕星と同じような、大きな星の塊を放ちました。
「ぬっ……! 余の術をそのまま返すとは」
『そのままではないですよ』
玄武さんがそう言うと、天津甕星に向けて放ったその星が、いくつかに分裂します。でもそれって……威力が落ちないですか?
「ぬっ?!」
あっ、攻撃するんじゃなくて、それが張り付いて固くなって、相手の動きを封じていました。
そして、身動きが取りにくくなった天津甕星は、そのまま地面に落下しました。
術の性質を変えていたんですか。取り込んで返すだけじゃないなんて、四神の名は伊達じゃなかったです。
『子狐! 早く来い! これがいるんだろう?!』
また子狐って……うん、まぁ良いです。見た目は子狐だし、しょうがないですよ。
とにかく、白虎さんが僕に向かって叫んでくるという事は、白虎さんがレイちゃんの言っていた、体力を回復させるというアイテムを持っているんですね。
そして、僕達がその白虎さんの真上に来ると、白虎さんは尻尾から何かを出して、僕達に向かって投げてきました。
「うわっと!」
危ないです。もの凄く勢いが付いていたから、うっかり落としそうになりました。
『おぉ、すまんすまん。まぁ、食ってみろ。絶品だぞ!』
「…………」
そう言われても……これ、なんのお肉ですか?
僕の手には、両端から骨が出た、円柱型の丸いお肉があります。そう、例の「あの肉」です。漫画とかに良く出る「あの肉」です。
最近は再現も出来るみたいで、実際にこれを出したお店もあるみたいですね。
食べますよ。ちゃんと食べます。妖怪食じゃないみたいだし、なんだか怪しいですけどね。
「んぐっ……! ん~?」
お肉でした。味はそのまんまお肉です。果たして、これは絶品なんでしょうか?
それでも僕は、なんとかそれを全部食べます。すると不思議な事に、徐々に僕の体に力がみなぎってきました。これなら……!
「ちっ……! 余とした事が……術を返された怒りで、相手の術にかかってしまうとは。だが、体力を回復させただけでは、この余はーーごふっ?!」
「あっ……ちょっと力入れすぎたかな?」
玄武さんの返した術から脱した天津甕星が、僕の後ろからまた攻撃しようとしてきたので、尻尾をハンマーの様な形にして、それで殴って吹き飛ばしてみたけれど、凄く吹き飛んでしまいました。
あの天津甕星を、こんなに吹き飛ばせるなんて……相手が油断していたというのもあるかも。
すると、天津甕星が吹き飛んだ先から、大きな星が2つ、猛スピードでこっちに飛んできます。
「妖具生成!!」
だけど、今度は何故か大丈夫な気がした僕は、妖術でプラスチック製のバットを作り出します。
「せ~の……カッキーンっと!!」
そしてそれで、相手の星を打ち返しました。ついでにもう一個もね。
「なにっ?!」
相手の野手は、それを受け取れずに直撃しちゃいました。野手って、天津甕星の事だけどね。
なんだか打ち返した後に、野球をしているような感じになっちゃって、相手が外野手に見えちゃいました。
『よし。その様子なら大丈夫そうだな』
「あっ、ありがとうございます! 白虎さん」
そんな僕の様子を見ていた白虎さんが、そう言ってきました。それに対して僕は、咄嗟にお礼を言います。その後に、ちょっと気になった事を聞いてみましょう。
「あの……さっきのお肉はなんなんですか?」
『あれか? 特別な方法で取り出した、俺の肉だ! 体力が回復して満腹になるだけじゃなく、力まで増加するという優れものさ』
聞くんじゃなかったです……。
自分のお肉を抽出して加工して、それを尻尾から出したんですか。
あんまり、進んで貰いたいという気にはならないですね。
『さて。これなら、ここを任せても良いだろうな。俺達は、人間界の方の守護に向かう』
「はい、分かりました。出来たら急いで下さい。皆ピンチですから」
『分かっています。ですが、あなたも気を付けて下さいね』
そしてその後、青竜さんがそう言って、朱雀さんが僕を気にかけてきました。
それから四神達は、再び光の玉になって、上空に浮かび上がると、そのまま凄いスピードでどこかに飛んで行きました。人間界へ向かってくれたのでしょうね。
僕は僕で、パワーアップしたからって油断しちゃダメです。
「ふぅ……やれやれ、全く」
天津甕星が、無傷で僕の元に戻ってきました。
自分の攻撃だからとかは関係無く、あの術は相当なダメージを与えるものだったはずだよね? 無傷なのは、流石に驚いちゃいます。
「そんなにしてまで、人間を守りたいか」
そして天津甕星は、再び僕にそう言ってきます。だけど、何度も言ったよね。僕は人間を守るだけじゃないんです。
「あのね。僕は自分の、あの日常を守りたいんです。そしてあの日常を、人間の人達に知って欲しい。出来るなら味わって欲しい。その為に僕は、人間を守るんです。妖怪にだって良い所はあるんです。悪い妖怪は、センターでちゃんと管理をしていれば良いんですからね」
「その理想に、現実が合うものか」
「合う合わないじゃない。合わせてみせますよ! 僕が! だからもう、余計な口出しはしないで下さい。勝手に決めつけて滅ぼすのは、もう時代遅れなんです!」
そして僕は、尻尾を硬質化させて槍の様にすると、それで天津甕星を攻撃します。
「白金の浄化槍!!」
「余を舐めるな……!
すると天津甕星は、服の性質を変化させ、鎧の様にしていきます。そのせいで、僕の浄化槍は完全に弾かれてしまいました。ここにきて、更にパワーアップをしてくるなんて……。
でもだからって、退くことは考えていません。レイちゃんだって、僕を乗せたままで、出来る限り揺れない様に飛んでくれています。
そしてそのまま、社の方に行こうとしていますね。あの……そっちに何かあるのでしょうか?
「レイちゃん……?」
「静かに。このまま、天津甕星に気付かれない様に移動します。社の上に……」
社の上? まさか、そこに「神の選定陣」が?
「椿。いくら力を付けても、今のあなたでは、あの天津甕星は倒せません」
「えっ? そんな……」
そんなにハッキリと言われると、ちょっとショックですよ。この状態で勝てないって、それじゃあどうしたら良いんですか?
「天津甕星と八坂が1つになった時から、もうあの方法しか、勝つ手段は無かったのです」
するとレイちゃんは、しっかりとした口調で僕に言ってきます。
「『神の選定陣』を起動させます。椿、良いですか? あなたは神に、稲荷神になるのです」
「えっ? 稲荷神……に? それって……天狐様みたいな?」
「そうです。それしかもう、勝つ方法はありません。幸い、力は申し分ないんです。あとは、その魂を昇華させるだけです」
そんな……僕が、僕がお稲荷様のトップに?
そんなの、本当になれるのか自信が……ううん、自信がないとか言っている場合じゃないです。
それしか勝つ方法がないなら、向き合うしかない。やるしかないんです!
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