第弐話 【2】 この尾で救ってみせる!

 八坂さんを斬りつけて、仰向けに倒したけれど、死んではいないはずです。そんなやわじゃないですからね、八坂さんは。


「ふふふふ……なるほど。中々良いですね」


 ほらね、生きてた。しかも何故か、壊したはずの大鎌が一瞬で修復されて、元に戻りましたよ。そういう能力の鎌ですか……。


「ふふ。この鎌は『死に咲きの鎌』と言ってね、壊れて死ぬ程、威力を増して復活するのさ」


 そう言うと八坂さんは、その大鎌を今度は、下から上に振ってきます。たったそれだけで、僕は風圧で吹き飛ばされそうになってしまい、続けて飛んできた斬撃を、まともに受けてしまいました。


「ああぁぁ!!??」


 でも、まともに受けたのは分け身の僕です。本体の僕はとっくに、八坂さんの横に移動しています。


「白金の尾槌拳びついけん!」


 そして僕は、複数ある尾の内の1本を、拳の形に変え、硬質化して強度を増すと、それで八坂さんの頬を殴りつけます。


「いったいいつの間に、分け身に変わっていたんですかね?」


「うっ……!! くそ!」


 片手で受け止められちゃったーーな~んてね。


「ひっかかったね。そ~れ、プレゼント!」


「ん? なっ……!?」


 実はこの尻尾の拳に、ある物を握らせていて、それが本命だったんです。だから、受け止められるのは想定内なんです。


 八坂さんの手に渡したのは、妖具生成で出した、ルービックキューブです。

 懐かしいと思う人もいるでしょうけど、まだこれは健在ですからね。というか、玩具ばかりしか出せないんだよね、これ。


「なっ……!? 手から落ちない……何ですか? これは」


 もちろん僕の妖術で出したから、特別な能力が付いています。それは……。


「ほらほら。早く組み上げないと、爆発するよ~」


「……なるほど。しかし、爆発程度ではーー」


「この炎を使っていても?」


 それでも、まだ余裕の表情をしている八坂さんに、僕は右手の指を弾いて、白金色の炎を出して見せます。つまり、かなり強力な浄化の力が混ざった爆発なんです。


 流石の八坂さんも、これには多少焦ーー


「これが、どうかしましたか?」


 ーーらないで、ルービックキューブを握り潰してしまいました。しかも、爆発もしなかったんだけど……。

 あっ、そうか……あの呪禍の扇子。あれで僕の出した玩具の妖気を、全て吸い取ったんだ。


「さて。こんなふざけた事しか出来ないのに、さっきは大それた事を言いましたよね。それなら、あなたは何故、人間や妖怪を守るのです?」


 八坂さんは大鎌を構え直し、僕に向かってそう言ってきました。


「そんなのは簡単です。僕はただ、美亜ちゃん達や龍花さん達を守りたい。それが結局、人間達全員、妖怪全員を助ける事になっちゃっているだけです!」


 だから僕は、選定するに相応しいとか、そう言われる資格なんて無いのです。僕はただ、自分の為に戦っているんです。


「ふっ。くく、くくくく……椿ちゃ~ん。君はなんとも、良い感じに妖狐らしくなってるねぇ。惜しいよ。それがもう少し早ければねぇ」


「いつから僕を、ちゃん付けで呼んで良いと言いました?」


 前は『君』付けだったのに、今は『ちゃん』付け。ハッキリ言って、背筋が寒いです。なんだか気持ち悪いよ。


「良いでしょう。それで、君は自分の仲間以外の者なんて、全く関係ないと、そう言いたいんだね」


「だから、なんでそう悪い方に持って行こうとするんですか? そうじゃないよ。ただね、やっぱりどうしても、ある程度は1人でなんとかしなきゃならいんですよ。でも、1人だけではどうにも出来ない事は、神様じゃなくって、仲間と一緒に乗り越えたら良いじゃないですか」


 何でもかんでも何かのせいにして、誰かのせいにしたい。それが人間だし、どうしても直らない部分なんです。


 だけど、歯を食いしばって踏みとどまって、1度周りを見てみれば、多分きっと、皆同じ格好をしていると思うんだ。

 だからその時、ちょっとでも余裕があれば、隣の人に手を伸ばして、ほんのちょっとだけ、一緒に踏ん張ってみれば良いと思うんだ。でもね……。


「僕だって、この2本の両腕ででしか守れないんです。だから、人が人を守ろうとしても、この少ない2本の両手じゃ、全部は救えないんですよ」


「……しかし、手を差し伸ばさない者もいる」


「それは単純に、踏ん張ってないからです。どうしても余裕があると、人は人を見捨てちゃうんです。だって、自分はもう辛くないし、わざわざ辛い人に手を差し伸べて、また一緒に辛くなるなんて、バカみたいに見えますからね」


「そうでしょうね~だからこそーー」


「だけど、僕は違います! この無数の尻尾で、皆救って上げます!」


 そして僕は、9本の尻尾を12本、13本と増やしていって、一気に15本まで増やします。


「っ?! おやおや、そこまで……それに、またそんな屁理屈を……そんなので救えたら、苦労はしないですよ」


「そうでしょうね。だけど僕は、もう諦めません。もう弱音も吐かない。僕は、僕の守りたい世界を守るんです!」


 僕はそう言うと、御剱を握り締めて、八坂さんと向き合います。どんな攻撃が来ても、これなら全部対処出来ます。


「仕方ないですね。こうなったら、全力であなたを潰すしかないですね」


「そうですよ。だけどもう、僕はあなたには負けないですから」


「言うようになりましたね」


 そして八坂さんは、見下すその目を細めて、身を低くし、一気に僕の懐に飛び込んで来るけれど、反射的に尻尾で八坂さんの頬を叩いておきます。


「ふむ。流石にそう簡単ーーにっ?!」


「あっ、惜しい」


 言っておくけれど、この状態の僕は、何本でも尻尾を出せるからね。

 今は15本だけど、20本でも30本でも出せます。ただ、そんなに出しても今の僕では扱いきれないので、せいぜい15~16本くらいの方が良いですね。


 とにかく、新しく出した尻尾を地面に突き刺して、地中を進ませ、下から突き出して八坂さんを狙ったけれど、これも上手く避けられました。だけど……。


「まだ10本以上はあるよ!」


「ぬっ……ぐぅ! くっ!」


 まだまだ僕は、攻撃の手を緩めません。残りの尻尾を拳の形にして硬質化し、それで殴りまくっています。

 ただそれすらも、八坂さんは避けたり受け止めたりしていて、中々ダメージにはならないです。流石の化け物です。


「呪禍の扇子は、もう効きませんか。やれやれ……」


 八坂さんはそう言いながら、まだ扇子を広げてきます。

 もうそれは、僕には効かないんですよ。浄化の力を体中に張り巡らしているからね。それなのに、まだ何かする気ですか?


「この場所を、操らないといけないなんてね」


「えっ? わっ!!」


 八坂さんが、広げた黒い扇子を下に向けた瞬間、広くなった一ノ峰の地面が波打ち、そこから大量の腕が現れて、僕に向かって伸びてきました。


 なんとか避けているけれど……ちょっと待って下さい。更に地面が盛り上がっていって、徐々に岩の人形みたいな形になっていくんですけど……?!


「なるほど。だけど、させないよ……!! 白金の神槌≪極≫」


 とにかく僕は、沢山ある尻尾の内の1本を、大きなハンマーに変えて伸ばし、その出て来ようとする岩の人形の頭の部分を叩き、一気に地面に戻します。


「いつの間に溜めていたんですか?」


「えっ? 一瞬で」


 なんだかこの姿になってから、術式を吸収する効率が上がっているんですよね。だから、今までは数分かかっていたのが、ほんの一瞬で溜める事が出来るようになったんです。


「厄介な。しかし、まだまだですよ」


 だけど八坂さんは、まだ黒い扇子を下に向けていて、地面から出て来る腕が何本にも増えていき、そして岩の人形みたいなものが出て来ようとしています。


「ちょっと、それは止めてくれないですか!」


 危ないんですよ、その形は。顔が丸みを帯びていて、岩の体には呪文がびっしりと付いていて、どこかのゲームに出て来ていそうなんです。

 その人形から湧き出る力は尋常じゃないんで、もの凄く強いとは思う。でもね……全体が丸いのはダメです。顔までは良いけれど、体もなんだか丸い……それはもうね、アウトです。色々とアウトです。


 だから僕は、次々と尻尾のハンマーで、その人形を地面に戻しているんです。

 そして気が付いたら、モグラ叩きみたいになっていました。


「椿ちゃ~ん。私はモグラ叩きをしたい訳じゃーー」


「僕だってそうです!! だからもう、止めて下さいって言ってるでしょう!」


 それでも八坂さんは、岩の人形を出すのを止めないです。しつこいですよ。

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