第捌話 【2】 まともにやっても勝てない
戦いながらも、白邪の妖気が少しずつ分離しているのが分かる。これは、妲己さんの能力ですね。
妲己さんは、妖気等を「分離」させる事が出来る能力を持っているから、それを使っていたみたいです。
だけど華陽は、それに気付きそうになっていた。
紅葫蘆の中で中々溶けずにいたら「何かしているな」と、そう疑うのは普通ですよね。
それでも、妲己さんはそれ以上の動きを見せなかったから、妲己さんが溶けない様に必死になっていただけだと、華陽は判断したみたいです。
ただ実際は、妲己さんの策略通りになっているという事なんです。だから僕達は、ただ白邪を追い詰めるだけ。
そして僕は、神妖の妖気を少しだけ解放し、金色の毛色と髪色になると、神術を放ちます。
「金華浄焔!!」
「祓えーー白き天剣、白龍斬!」
「押さえ込めーー黒き天剣、黒龍斬!」
僕が金色の炎を放った後、それに続くようにして、2人が大剣みたいな刀剣を構え、白邪に向かって行きます。
なんだか刀身が淡く光っていますよ。それ、当てられたら凄いダメージを与えられそう。
「甘いのう~はぁっ!!」
「ぐぉっ?!」
「ぐっ……! くそ!」
当てられたらね……。
2人が思い切り、見えない壁みたいなものに激突したかと思ったら、そのまま弾かれてしまい、そして追撃を受けたのか、同時に吹き飛ばされていました。
そして、僕の方に向かっ……て、ちょっと待って!
「ぎゃぅん?!」
白狐さんが僕にぶつかって来て、一緒にこけてしまいました。避ける暇も無かったよ……。
後ろに僕がいるのを、忘れないで欲しかったかな……あっ、でも。何だか胸元に、誰かの手の感触が……手? 誰の?
「くそ……! やはり一筋縄では……うん? これは……?」
「……あの、白狐さん……」
白狐さんの手でした。それが、僕の胸に……。
壁に背中を打たないようにと、咄嗟に左手を後ろにしたみたいだけど、後ろには僕がいるんだってば……それをされたら、こんな風に男子にとっては、とてもラッキーな事になるんです。
だから、こんな事をしている場合じゃーー
「うむ……成長したの」
「それは、どっちの話でしょうか?」
ここで無駄に怒ってはいけない。それに、触られたのは初めてじゃーーって、そうやって恥ずかしいのを誤魔化している場合じゃないんです!
「白狐さん! 白邪が!!」
「ぬっ? いかん!?」
白邪が、僕と白狐さんの目の前にやって来ていて、そして体毛を変化させ、大砲の様な形にした尾で、僕達を狙っていました。
「白狐さん、ちょっとごめん!」
もう今にも撃ちそうになっていたので、僕は慌てて白狐さんの持っている刀剣を、白狐さんの手の上から握ります。借りている時間がないんです。そしてそのまま、僕はその剣に妖気を込めていきます。
「む? そうか! しっかりと握っていろ、椿!
そんな僕の考えが伝わったのか、白狐さんも手に力を入れ、そして更に僕の妖気に合わせ、自分の妖気もその刀剣に流していきます。
「遅いわ。砕けよ!」
その瞬間、白邪が大砲にした尾から、気の塊のようなものを撃ち出してきました。
だけど、今この刀剣には、僕の妖気と白狐さんの妖気が混ざっているんです。だから、これくらいは。
「無駄だ、白邪よ。この刀剣には椿の、術を吸収する能力が付加されている。つまり、こんなものは無意味だ」
でもそれは、黒狐さんから渡された妖気で開眼した能力だから、黒狐さんの能力なんですよね。
僕のじゃないよ、白狐さ~ん……それでも、何だか嬉しそうなので、指摘しない方が良いですね。
それとも、何だか嬉しそうな顔をしているのは、僕の胸が白狐さんの肩に押し付けられているからかな?
今僕は、白狐さんの肩から身を乗り出して、刀剣を握り締めているんです。だから僕は、自分の胸を白狐さんの肩に押し付けている状態なのです。
白狐さんが鼻血出しそうだし、何故かにやけているし……。
「良い……これが、夫婦初の共同作業か……とても良いの。椿よ。ついでにケーキ入刀の練習をーー」
「だから、今戦闘中だってば。それと、それは西洋の結婚式のでしょう? 良いの? そんな事して」
更にはこんな事まで言ってきています。こんな僕の、ささやかな胸でも喜んでくれているのは、ちょっと嬉しいですけどね。
だけどやっぱり、凄く恥ずかしい。早くこの体勢から戻りたいです。
「ぬぅ? 妾の攻撃が?!」
そしてようやく、白邪の攻撃が全て、白狐さんの刀剣に吸い込まれました。
「さぁて。お主の攻撃、そのまま返すぞ!!」
ーーーー
ーーいや、早くして下さいよ、白狐さん。なに、ボーッとしているんですか?
「椿よ……」
「はい?」
「これは、どうやって返すんじゃ?」
そうだと思いましたよ。これは、僕しか使っていない能力みたいだから、他の妖怪がどうやれば良いかなんて、分かる訳ないんです。それは、白狐さん黒狐さんも一緒なんです。
だけど、どう説明しよう……。
「えっと……なんていったら良いのかな……?」
すると、困っている僕達を見て、白邪が直ぐに行動してきました。銃に変化させた尻尾を、僕達に突きつけています。
またそれで撃つんですか? 遠くから攻撃してばっかりですね。
「なんとまぬけな奴らじゃ。もう良い、消えよ」
そう言うと白邪は、今度はその銃から、火の玉のようなものを撃ち出してきました。
「これはの、着弾する前に爆発するのでな。吸収される前にーー」
爆発したところで吸収出来ますけどね。
だから、白邪の銃から撃ち出された火の玉が、目の前で爆発しても、白狐さんの刀剣に吸い込まれて終わりです。
「ほぉ……? なるほど。これも吸収するのか……厄介よのぉ」
すると次の瞬間、白邪の後ろから、黒い影が急に現れました。あっ……もう1人忘れていましたね。
「
「ほぉ。妾の後ろを取るか? じゃが、甘い!!」
「ちっ! これすら受け止めるか」
黒狐さんが白邪の背後から、刀身に黒い雷を纏った、大きな刀剣を振り下ろしたけれど、剣にした尾で受け止められてしまいました。
だけどその後、黒狐さんは追撃をしていて、まるで感電させるように、黒い雷を白邪の尾に伝わせて走らせ、本体の方に電撃を浴びせました。でも、相手は平然としています。
やっぱり、相当なチート級の化け物なのは間違いないです。まともにやっても勝てないや。
「白狐さん! 吸収した術の解放は……えっと、我慢し過ぎておならが出た感じです!」
「なっ……?! もうちょっと良い表現はなかったのか!」
「くっ……しょうが無いじゃないですか! こっちも恥ずかしいのに言ったんだよ? 文句言うなら、耳引っ張ります!」
「やめろ椿、こら!」
だけど、白狐さんの毛も触り心地が良いんですよ。だから僕は、白狐さんに怒鳴られても、そのまま続行です。
「なんじゃなんじゃ? 妾を前にして、そのような余裕をかまされるとはの……不愉快じゃ。直接絶命させてやろうか?」
すると白邪は、浮遊しながら僕達の方に向かって来ます。
でもその途中で、黒狐さんが何回か攻撃したけれど、全部弾かれるか、完全に受け止められています。
「ちっ……! お前等2人、なにやっーー」
「今です、白狐さん!」
「うむ! 解放! 狐龍天神剣、御劔斬!」
「ぬぉっ……? おぉぉ……おおおお!!」
黒狐さんが何回か攻撃した後、ようやく白邪が僕達の射程範囲内に入ったので、僕は白狐さんに合図を送り、白狐さんは強力に光り輝く刀剣を振り抜き、相手に攻撃を仕掛けます。
「くっ……! これを受け止めるのか」
本当にギリギリまで近寄らせてから攻撃したから、これは絶対に避けられない。
だけど相手は、いつでも攻撃が出来るようにと、尾を沢山の武器に変えていたんです。だから直ぐに、僕達の攻撃に反応出来たんです。今度は、斧で受け止められました。
でも、まだ大丈夫。僕も追撃するからね。
「…………」
だけどその前に、黒狐さんは何をしているんでしょうか?
なんだか納得していないような表情をしています。僕が白狐さんとばかり連携していたのが、そんなに嫌だったのかな?
「そうか、なるほどな。あのバカ……それならそうと……」
違った。これは多分、妲己さんの事だ。
良いですよ。黒狐さんには、妲己さんがいる。そう思ったから僕は、白狐さんを選んだんです。
それなのに、何でだろう? 今、胸がちょっとだけ痛いです。
いや、今はそれよりも戦闘です。
白狐さんが頑張って押し込んでいるんです。だから、早く僕も追撃しないと!
「御劔、神威斬!」
そして僕も、御劔をしっかりと握り締めると、そのまま勢い良く振り下ろし、真空の刃を白邪に向けて放ちます。
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