第捌話 【1】 決戦! 白面金毛九尾の狐

 お父さんお母さんから、神妖の力の半分を返してもらい、急いで白狐さん黒狐さんの元に向かうけれど……1回地面を蹴っただけで、凄い距離を飛んじゃいました!


「ふふ。どうした? もう息が上がってきておるぞ? 妾はまだまだ……」


 そしてよりにもよって、その前に九尾の狐である白邪が……って、丁度良いからこのまま攻撃しちゃいましょう。


「ーーおっと」


「えぇっ?!」


「妾が気付かんと思ったか、子狐が」


 僕は白邪の後頭部に、思い切り膝蹴りを入れようとしたんだけど、顔を横に傾けられてしまって、簡単に交わされちゃいました。


「むぎゅっ……!」


 そしてそのまま、白狐さんの胸に飛び込んじゃいました。

 だって、白邪の前に2人ともいるんだもん。相手に避けられたら、そのままどっちかの胸にダイブする事になるよね。


「ふっ……やはり我か」


「むぐぐぐぐ! 白狐さん苦しい……って、それどころじゃないでしょう!」


 その後、思い切り白狐さんに抱き締められちゃっています。それと、抱き締められてから気が付いたけれど、白狐さんと黒狐さんの妖気がだいぶ減っていました。

 やっと身体が戻った所で、妖気がまだその身体に馴染んでいないのに、ずいぶんと無茶をしたみたいです。


「両親との感動の再会は、もう良いのか?」


「…………」


 もしかしてだけれど、その時間を作る為にと、2人とも無茶をしていたのですか?

 また僕の為に無茶を……でも、今は感謝だけにしておきます。戦闘中だからね。


「ありがとう。白狐さん黒狐さ……ん? あれ? 黒狐さん?」


 2人にお礼を言った時、僕はある事に気付きました。


 黒狐さんが、僕達に絡んで来ない……。


「どうした? 白邪を倒すんだろ? 椿、お前がメインだ。行くぞ」


「あっ……う、うん」


 すると、不思議がっている僕に向かって、黒狐さんがそう言ってきました。

 違う……いつもの黒狐さんっぽくない。だけど、そんな黒狐さんの見据える先を見て、何となく察してしまいました。


「妲己……」


 そんな事を呟かれたらもう……確定ですよね。


 黒狐さん、記憶が戻っている。ということは、白狐さんも?

 やっぱり、身体が仮のものじゃなくて、ちゃんと用意された妖狐の身体に戻ったから、僕のせいで壊れた記憶の一部も、ちゃんと治ったんですね。良かったです。


「椿。今はそれよりも、こいつを倒すぞ」


「……分かっています。うん、大丈夫です!」


 白狐さんにそう言われ、僕は自分に言い聞かせるようにしながら答えます。その後に、白邪を睨みつけます。


「おぉ、怖い怖い。じゃが、そう簡単に妾はーーふぐっ?!」


「そう簡単に、なに?」


 ずいぶんと自信満々に白邪がそう言ってくるもんだから、白狐さんの体を足場にして、思い切り踏み込み、そのまま懐に飛び込みました。

 そして火車輪を展開させて、みぞおち辺りを力いっぱい殴りつけます。


「こ……んのぉ!」


 その後は、白邪が9本の尻尾を使い、僕に反撃してきます。ただ、その尻尾が全て、武器になっていました。

 槍と剣と斧、そして槌と鞭と銃。更に、大砲と鎌と檄になっていて、それがそれぞれ別々に攻撃をしてきています。


「くっ……!」


 距離をとっても、銃か大砲でやられちゃう。

 それなら近距離で、攻撃の手を緩めずに押していけば良いだけです!


「黒槌岩壊!」


「甘いわ」


 僕は相手の、武器にされている尻尾を壊そうと思い、自分の尻尾をハンマーの様に変えて打ち込むけれど、白邪も僕と同じ様なハンマーにした尻尾があり、それで受け止められてしまいました。だけど……。


「はぁっ!!」


「ぬっ……?!」


 なんと白邪の後ろから、白狐さんが大剣のような刀剣で斬りかかっていました。

 だけど白邪は、それを剣にした尻尾で受け止めています。


「まだだ!!」


 すると今度は、黒狐さんが白邪の横から攻撃をしてきました。


「ふふ。弱いのう」


 だけど、白邪はそれすらも、涼しい顔をしながら、檄にした尻尾で黒狐さんの攻撃を受け止めています。


「そこっ!!」


 とにかく、攻撃の手を緩めない。

 だから僕も、御劔を構え直して、白邪に斬りかかるけれど、槍にした尻尾で受け止められ、更にはそのまま押し込まれ、御劔をはじき飛ばされそうになってしまいました。


 何とか腕を後ろに引いて、それは回避したけれど、流石は1つの国を大混乱に陥れた大妖です。ちょっとやそっとでは攻撃を当てられないですね。


「どうする? 椿!!」


「構いません! 次々に攻撃して下さい!」


 それでも、相手の集中力を乱さないと。だってもうーー


 僕達の勝ちは、確定しているんです。


 相手の妖気を見れば一目瞭然なんですよ。白邪の妖気が、徐々に分離しているのが……。

 ただ、それを白邪自身に悟られたらいけない。それだけは、絶対に避けないと。


 これの対策をされたら最後、妲己さんは助けられません。

 攻撃をする時に気付かれそうだけど、今は集中しているのか、それとも余裕だからなのか、全く気付いていません。だから、チャンスなんです。


「はぁっ!!」


「分かった、椿よ。お主の言うとおり、我々はとにかく攻撃をし続ける!」


 黒狐さんの叫び声とともに、白狐さんがそう言ってきます。


 ん? ちょっと待って下さい。何で僕が、2人に指示を出さないといけないのかな?

 そりゃ、白狐さん黒狐さんは妖気の感知が今ひとつらしいから、僕に頼るのはしょうがないけれど、指示までさせるなんて……いったいどういう事なんだろう?


「ふん。その小娘に指示をさせるとはな。浅い、浅いわ。おおかた、妾に何かを悟らせない為の策なのだろう? お主等2人が、最大級の攻撃をする為の準備……とかの」


 一瞬ドキッとしました。


 何かを悟らせない為。白邪がそう言った瞬間、妖気の事がバレたかと思いましたよ。違いましたね……これは、心臓に悪いですよ。


「さぁな!!」


「白邪よ。お主はただ、椿と我等に倒されておけ!」


 そして、2人はそう叫びながら攻撃を続けます。

 もちろん僕だって、同じように白邪を攻撃していきます。


 黒焔を放ったり、尻尾のハンマーで殴りつけようとしたり、妖具生成で出したおもちゃで攻撃をしたりね。


 全部弾かれてるけど……。


 白狐さんは基本的に、体術を組み合わせて攻撃しています。

 目にもとまらぬ速さで、白邪の前後左右、そして上下からも斬りつけているけれど、全部弾かれています。


 黒狐さんは、妖術を組み合わせて攻撃をしています。

 基本的に、黒い雷を使う事が多い黒狐さんは、それを大きな刀剣に纏わせ、威力を上げて斬りつけたり、雷を当てて相手の動きを封じた後、思い切り斬りつけようとしたりしているけれど、やっぱり全部弾かれています。


 白邪は9本の尻尾を巧みに利用し、僕達の攻撃全てに対処してきています。受け止めたり弾いたり、いなしたりしてね。ついでに腕を組みながら浮いていて、余裕の表情です。


 ちょっとムカつくけれど……まだ我慢です、我慢。その余裕の表情が、一瞬で崩れ去りますから。


「むぅ? ただ攻撃をするだけ。いったい、何を企ーーっ?!」


「避けられましたか」


 考える暇すら与えたらダメでしたね。

 僕は急いで影の妖術を発動させ、それで地面から白邪の足を掴もうとしたけれど、避けられちゃいました。


「やはり、なにか企んどるの……面白い、面白いぞ。そうでなくてはな。ふふ……ほほ。ほほほほ!」


 そう言うと白邪は、いきなり歪んだ笑みを浮かべ、笑ってきました。

 いったい何がおかしいのですか? 僕達と戦っているのが、そんなに嬉しいのかな?


 そう思った瞬間、僕はあることに気付きました。それは、白邪の目的です。


「そう言えば白邪。お前の目的は何ですか? 何で、僕達と戦うんですか?」


 これで良いです。少しは時間稼ぎにもなると思うし、そもそも1体の九尾の狐になった時点で、華陽の目的は達成され、消えているはず。


 それなら白邪の目的は、この行動理念はいったいなんなの?


 だから僕は、そう聞いたのです。だけど白邪は、表情を一切変えずに、こう返してきました。


「ふむ。特に何も……じゃな。強いて言うなら、破壊……かの。困惑する人々や妖怪達を見て、せせら笑う。それが何よりの、妾の娯楽じゃ」


「なるほど……悪の大妖の肩書きは、伊達じゃないですね」


「褒め言葉と取っておこう。しかしじゃ……それをするには、お主等が邪魔なのでのう。ここで消してやるのじゃ」


 そう言った後に、やっと白邪は組んだ両腕を解きます。

 つまりようやく、僕達を消す為に、本気で動こうとしているという事です。


「さて。そろそろ良かろう。もう十分、力の差は理解したはずじゃ」


「そうですね。十分に把握しましたよ、白邪。僕達とあなたの、圧倒的な実力の差と言うものをね!」


 そんな白邪の言葉に、僕は自信満々でそう返すと、弾かれた御劔を構え直し、そして相手に向かって突きつけます。


「そんな挑発には乗らんわい」


「挑発じゃない。としたら?」


「ふっ、ふふふふ! ほほほほほ! 何を言い出すかと思えば、妾よりも強いとでも言うのか? この、白面金毛九尾の狐に、この白邪に! 図に乗るのもいい加減にせよ!!」


「…………」


 やっぱり、この手の奴等はプライドが高い。特に、力や位が上の場合は尚更です。

 それじゃあ後は、僕の考え通りになれば……なんだけれど、それが起こるのには、あとどれだけの時間がいるのかな?


「カッ!!」


「つっ……!?」


 こうやって威嚇したたげで、その視線の先の地面が抉れるような相手に、そんな長時間も戦っていられないですよ。

 何とか僕達でも勝てるくらいには、追い詰めておかないといけませんね。

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