第玖話 【1】 空中戦へ

 僕は白狐さん黒狐さんと一緒に、白邪に向かってひたすら攻撃をしているんですが、やっぱり1度もヒットしないです。


 僕達の妖気も無限じゃないし、考えて使わないといけません。

 それならば、あの白金色の妖狐になれば良いんでしょうけど、これはちょっとした僕の作戦なんです。


 とにかくこの状態で、白邪を追い詰めたいんです。


「狐狼拳、煉獄環!」


狐空斬こくうざん!」


雷槍斬らいそうざん!」


 そして僕が、火車輪をいくつも展開した、あの強力なパンチを打ち込んだ後、それに続くようにして2人も斬りつけました。

 それも全部、尻尾の武器で受け止められています。本当に、これが突破出来ないです。


「どうした? もはや限界か? ほほ。妾もようやく、この身体に妖気が馴染んできたわ」


 涼しい顔をしながらそんな事を言われたら、少しカチンときます。

 こいつには、後悔しながら倒れ伏して欲しいのに……そうじゃないと、僕の怒りは収まらないのです。


「椿よ、落ち着け。可愛い顔が台無しじゃ」


「うっ……」


 白狐さんに言われて、初めて僕は、眉間にしわを入れている事に気付きました。

 こんなにも怒りを露わにしていたら、僕が怒っている事がバレバレですね。


「ふぅ……ありがとう白狐さん。ちょっと落ち着いたので、頭は撫でないでくれます?」


「ん? そうか? 遠慮するな」


 そして今気が付いたけれど、この2人は常に、僕の横いるのです。戦いながらも、その位置はキープなんですね。それなのに……。


「少し待っていろ、妲己」


「…………むぅ」


 僕の横で、そんな事は言わないで欲しいです。心がざわつくよ。


「てぃ!」


「うぉ!? 何をする?! 椿!」


「良いから、黒狐さんはちょっと前に出て」


 ついつい黒狐さんの背中に、蹴りを入れちゃいました。こんな事している場合じゃないのに、なんでこんなにイライラするんでしょう。あぁ、そっか。全部白邪のせいだ……こいつのせいで。


「ほほ。仲間割れかの? 仲良くせんと、いかんぞ!」


「術式吸収」


 すると白邪が、自分の尾から大量の白い炎を生み出すと、それを僕達に向かって放ってきました。だけど僕は、それを影絵の狐の形にした左手で、全て吸収します。


「愚かな。その妖術は、正の感情。つまり清い心を糧にし、より強く燃えていくのじゃ。つまりーー」


「つまり、なんですか?」


「……んむ? 効かぬのか? バカな。まさかそなた、邪な想いをーー」


 そうですね。今の僕の中には、醜い想いがーーと思っていたら、今度は白邪が濃い紫色の炎を、その尾から放ってきました。今度はなんですか?


「なんての。白い炎はフェイクじゃ。先程の清い力で燃える、白き炎に引っ張られ、醜き憎悪の塊の炎が、その炎ごと食い尽くそうと、どこまでも追いかけ、燃やーー」


「神風の禊」


 そんなのは、浄化すれば良いだけなので、これで紫色の憎悪の炎は霧散しました。そしてついでに……。


「強化解放!」


 吸収した相手の白い炎を、より強力にして白邪に返します。


「やれやれ……参るのぉ。こうまで厄介とはの」


 でも、尻尾で振り払われちゃいました……だけど!


「狐狼拳!」


「おっと……!」


 嘘でしょう……? 炎を振り払っている間に、相手の懐に飛び込んで、強力なパンチを打ったけれど、それも尻尾で受け止められちゃった。

 とう言うか、相手の尻尾が元に戻っている。いつの間に……と思っていたら、今度はその尻尾の毛が、僕の腕に絡み付いて来ている?!


「そぉ~れ。どこまでの高さなら耐えられるかのぉ?」


 そう言いながら白邪は、地面を強く蹴り上げ、高く高く空へと跳び上がります。

 しまった……上空から、僕を叩き落とすつもりだ。どうしよう……相手がもう、決着を仕掛けてきました。


 分離してきてはいるけれど、元の華陽の妖気と、それに合わさった玉藻の前の妖気は、かなり安定している。


 妲己さんの妖気は徐々に分離しているのに……。


「いかん!? 椿!」


「クソ! 速いぞ!」


「ムキュゥ……!!」


 下で2人が叫ぶ中、肩にいるレイちゃんが鳴いてきました。

 そういえばずっと、僕の肩にいましたね。ということは、レイちゃんに乗せてもらえれば……。


「さて。その霊狐にも、少し大人しくしておいて貰おうかの」


「ムギュゥゥ!!??」


「レイちゃん?!」


 だけど白邪は、それすら見抜いていたのか、レイちゃんに白い雷を浴びせてきます。その瞬間、レイちゃんは悲痛な鳴き声を上げて、動かなくなっちゃいました。


 大丈夫、息はある。生きてる。


 また、僕の大切な者を傷付けて……。


「ほほ。さて、上空一千メートルじゃ。どうじゃ? 眼下に広がる妖界の、絵画の様に美しい景色。しっかりと見ておくんじゃな」


 確かに、燃えるような赤い夕焼けの広がる妖界の景色を、上空から眺めるなんて、まるで絵画を見ているみたいだけれど、僕は今、それどころじゃないです。

 そもそも、白邪は飛んでいない。跳び上がっただけ。それでここまで飛ぶなんて、どんな脚力をしているのって思うけれど、そこは大妖白面の九尾。もの凄い妖気を使って、跳び上がっていました。


 だけど、僕は怒っていて、こいつに勝てるかどうかなんて考えていない。

 この状況から脱して、こいつを慌てさせてやる。そんな事しか頭にないです。


 僕の大切な者を、どれだけ傷付けたら気が済むのかな? こいつは……。


「黒槌ーーくっ!」


「無駄じゃ」


 っと、ハンマーで叩くと思った? 僕の尻尾を掴んじゃって。残念、違いますよ。


爆玉ばくぎょく!!」


「ぬぁっ?!」


 妖具生成で、ビー玉で出来たおはじきを作り、それを指で弾いて白邪に当てました。

 今のは完全に油断していましたね。ちゃんと尻尾をハンマーにしていたから、相手はハンマーで攻撃してくると思ったのでしょう。


 それでも、そこまでダメージを与えられてはいません。


「全く……勝手に落ちるとはの。愚かじゃな」


 ただその衝撃で、相手の尻尾の毛が、僕の腕から離れました。ついでに、僕の尻尾からも手を離しています。つまり、そのまま僕は落下中なんだけど……そうはさせません!


「くっ……!?」


「……ん? ふん。定番じゃの」


 確かに、これは定番かも知れませんね。

 だって、僕の尻尾で相手の足を掴み、そのまま引っ張って、僕と一緒に白邪を落としているからね。とは言っても、白邪も落ちていたんですけど……。


 つまり白邪には、無傷で着地する方法があるんです。


 それにしても、咄嗟になると意外と出来るもんですね。僕、自分の尻尾を動かして、何かを掴んだのは初めてかも知れません。ほとんど影を使っていましたからね。


「こんな事をしても、妾はーー」


「どうでしょうね? 実際、やってみないと分からないよ!」


「頭の弱い愚かな子狐が。良いか? 妾は無傷で着地出来るんじゃ。だから、ここまで跳んだのじゃぞ? それなのに、妾も道連れとは」


「そうだね。だけど、例えお前でも、上空では身動きが取りにくいし、そして尻尾も使いにくい!」


 だって、遥か上空から落ちているんだもん。

 白邪の尻尾も風に煽られて、上になびき続けています。これを使おうとしても、そう直ぐに上手くは使えないよね。


「だから何じゃ? お主の方が先……に、ってこら! 妾の体をよじ登って、いったい何を!」


「何って、お前の頭の上に」


「待て待て! 待たぬか!」


 さっき尻尾で、白邪を掴んだのはこの為です。


 お前が先に落ちろ。


「くっ……ぬぅぅ!!」


「あっ……!? ちょっと、僕の尻尾を掴まないで!」


「うるさいなぁ……良いから、お主が先に落ちぬか! 着地した瞬間を狙われてたまるか!」


 えっ……あれ? 今一瞬……聞き間違い、かな? 華陽みたいな喋り方になった。


「い、や、です!」


「あ~もう! 降りぬか! この!」


 やっぱり、間違いないです。華陽みたいな喋り方……まさか、分離が更に進んでいる?

 もしかして妲己さんは、妖気だけじゃなくて、その身体もまた分離させる気なんですか?


「そっちが先、です! 狐狼拳!」


「えぇい!」


 とにかく、たった一撃。1回でもまともに、相手へ攻撃を与えられたら、その隙に妲己さんが分離の能力で、白邪を3体の妖狐に分離すると思います。


 そして、それにショックを受けている時が、お前の最後です。華陽。


「はぁっ!!」


「させぬわ!」


 僕は今度こそと思って、ハンマーを白邪の頭に打とうとしたけれど、しっかりと受け止められます。でも、想定内です。

 上空で僕に集中させれば、その内分からなくなっちゃうんですよね。周りの事が。


 実はもうすでに、地面が目の前にまで迫っているんです。


 だから僕は、急いで立ち位置を変えないといけません。

 そうしないと、僕の方がぺちゃんこになっちゃいます。まぁ、白狐さんと黒狐さんがそれをさせないけどね。


 とにかく僕はただ、こいつに攻撃を当てる事だけに集中します。

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