第参話 【1】 親友との再会

 レイちゃんのお陰で力が戻った僕は、第一地獄の厚雲の金棒を、今度は御剱で受け止めます。


「ぬぅ。まさか、力が? その一つ目の狐の仕業か!?」


 そんな僕の様子を見て、厚雲が驚いているけれど、直ぐにその原因を突き止めてきましたね。流石です。


「たぁっ!!」


 それでも、僕だって退けないので、そのまま力を込めて振り抜こうとするけれど、中々押し込めません。もっと、もっとです。もっと、力を……!!


「ぬぅ……!? くっ、ふふ。やるな。だが、甘いわ!!」


「ぎゃぅっ?!」


 えっ? そんな!? 押し負けたのですか?!


 厚雲が思い切り金棒を振り抜いたと思ったら、僕の体に衝撃が走り、次の瞬間には宙に浮いていました。


「ぐっ……! あぅっ!!」


 僕はそのまま地面にぶつかり、吹き飛ばされた勢いのまま床を滑り、何かにぶつかりました。


「いっつつ……あっ、レイちゃん! 大丈夫?!」


「ムキュッ!」


 良かった。レイちゃんの体も擦れていたし、気になっていたけれど、元気そうに返事をしてくれました。というか、僕はいったい何にぶつかったんだろう?


 そう思って顔を上げ、後ろを振り向くと、気持ち悪い程に禍々しいまでの、オブジェクトみたいな柱でした。

 凄い尖ったものまで出ていて、あれに刺さったら危なかったですね。


「ぐははは!! 休む暇なんかあるのか?!」


「うわっ!」


 しまった。こんなの気にしている場合じゃないです。目の前まで厚雲が迫って来ていて、金棒を振りかざしています。急いで避けないと!


「くっ!!」


 そして僕は、咄嗟に横に転がり、その直後に振り下ろされた、厚雲の金棒の攻撃を避けます。

 だけどやっぱり、その金棒の威力は凄まじくて、地面をえぐる程の衝撃が、僕を襲います。


「うっ……わぁぁああ!!」


 もう普通に突風ですよ、こんなの。また吹き飛ばされちゃいそうになったけれど、そんなにポンポンと吹き飛ばされる僕ではないですよ!

 僕は咄嗟に、厚雲の体に自分の尻尾を巻き付かせ、この突風を利用して、相手を吹き飛ばそうとします。


 その考えは良かったと思います。でもね……。


「……えっ?」


 厚雲は、一ミリもその場から動きませんでした。

 しかもその後に、僕の尻尾を掴まれてしまい、振り回されています。


「わぁぁぁあ!!」


「バカめ! この力の差はどうやっても埋まーーっ……?!」


 危なかったです。振り回されて目が回りそうになったし、尻尾がちぎれそうな痛みに泣きそうになったけれど、何とかそれを堪えて、妖具生成でけん玉を出しました。

 そして、振り回されている勢いに乗せて、相手の頭にけん玉の玉を打ち付けました。もちろん、死角からです。


 だけど、けん玉の玉が当たった瞬間、凄い爆発を起こしたんですけど?!


 この妖具生成は、玩具生成からパワーアップしているから、僕が思った能力を付加させられるんだけれど、今回は考えている余裕が無かったから、凄いダメージを与えられるものって、めちゃくちゃアバウトに考えて出しました。そしたらまさか、爆発をするなんて……でもお陰で、何とか助かりました。

 厚雲の手から僕の尻尾が離れ、そのまま吹き飛んでますけどね。威力は死んでいませんでした。


「くっ……!! あんまり使いたくないけれど。神風の禊!!」


 この神術を使うと、今の状態でも暴走するかも知れないのです。だから、極力使いたくなかったのです。だって僕は、白金の毛色のままだから。

 だけど、この状況はしょうがないです。このままだと壁にぶつかって、大怪我をしてしまいます。


 そんな事を考えている間に、僕の手から風が巻き起こり、それが僕が吹き飛ばされている方向に向かい、思い切り吹き荒れていきます。


 あれ……? 何だか思っていたのと違う。や、やっぱり……これは、この状態で使うべきじゃなかったのかな?

 僕の考えだと、これで威力を殺して着地する。もしくは、威力が上がっていたとしても、厚雲に追撃をしようと思ったんだけれど、何だか僕の周りにも吹き荒れているような……。


「あ、あれ?! ちょっと……どうなっているんですか? これぇえ!!??」


 だけど、とりあえずその場で留まっていますね。僕、浮いたままですけどね……。


「ちょっ、ちょっと……! どうせならこっちに~」


 とにかく何とかしようとした僕は、せめて厚雲の方に動いて欲しいと思いました。そしたらその瞬間ーー


「ーーって、わぁぁああ!!」


 僕に纏まり付いていた風が、その方向に向かって飛んでいきました。僕も一緒にね。まるで弾丸ーーいや、砲弾ですよ、これは!

 そしてその先には、僕のけん玉の爆発を受けて、膝を突いている厚雲の姿がありました。

 もしかして、あれで結構なダメージを? 膝を突いているのなんて初めてだよ。それならもう、このままいっちゃえ!!


「ぐぅ……いったい何がーー」


「そりゃぁぁあっ!!」


「なっ!? ぐぎゃっ?!?!」


 僕は体勢を立て直しながら突進し、膝蹴りするみたいにして、厚雲の頭を蹴りつけました。

 その直後に、風が爆発するかの様にして吹き荒れ、その風が厚雲を地面に叩きつけた後、僕も一緒に吹き飛んでしまいました。威力が強すぎた!


「うわぁぁああ?!」


 もう何回目の悲鳴か分からないし、スカートなんて思い切り捲れちゃっています。

 ここに白狐さん黒狐さんを連れて来なくて、本当に良かったです。


 その後に僕は、今度は壁に思い切りぶつかってずり落ちていきます。


「あぅっ!? いたた……」


 あんまり高くなくて良かったですよ。

 ちなみに、頭が下です。もうかなり情けない格好なんだけれど、それよりも僕は、厚雲の方が気になります。少しくらいはダメージを与えたかな?


「ふっ……くく。ぐはははは!! ガキの妖狐にしては中々やるな!」


 あっ、駄目ですか。やっぱり、まだ平然としています。ゆっくりと立ち上がっていますよ。どれだけ頑丈なんですか、この鬼は……。


「むっ。ガキの妖狐って、僕はもう60年もーー」


「ガキじゃないか」


 そうでした。他の妖怪さん達は、100年単位でしたね。僕なんて、まだまだガキですね……。


「まぁ良い。だが、これで我が地獄を攻略して貰ったと思ったら困るな。地獄は攻略不可能。だからこそ、誰もが落ちたくないと恐怖するのだ」


 そうですね。でも僕は、人間じゃないからーーと思っていら、また暑くなってきました。

 だけど今度は、レイちゃんがヒンヤリと冷たくなっていきます。一瞬死んだのかと思ったけれど、大丈夫でした。レイちゃん、まさか冷気まで放つなんて……。


「レイちゃん、凄いよ。これなら暑ーー」


 振り向くんじゃなかったです。僕の背後に、落ち武者の幽霊さんが……。

 いや、レイちゃん。いったい何を呼んでいるんですか? それとも、ここに居た幽霊さん? どっちにしてもこの冷気って、幽霊の気配のものでしたか。


「ぐわはははは!! 無駄だ!」


 だけど厚雲は、それを見ても全く焦らず、寧ろ高笑いをしてきます。無駄かどうかなんて、これで戦ってみたら分かりますよね。


「ムキュ……ゥゥ」


「んっ? え? あれ……? レイちゃん!? あ、暑い……! ちょっと、どうしたのですか?!」


 急にレイちゃんが、グッタリとしちゃいました。それと同時に、胸焼けするほどの熱気が、僕の肺の中にも入ってきます。


「あっ……くっ、うぅ」


「ぐはは! 霊体だろうと耐える事が難しいこの熱気に、生きた者が耐えられる訳ないだろう!」


 マズい。僕はどうなっても良いけれど、レイちゃんだけは……レイちゃんだけは、外に出して上げないと。グッタリとしちゃって、肩で息をしちゃっています。


「レイちゃん……!! くっ!!」


「さ~て。大人しく来てーーむっ?! なるほど、まだ折れないか」


「はぁ、はぁ……!! 当然ですよ。僕は罰せられるつもりも、捕まるつもりもないですから!」


 僕は一か八か、右腕に付けた火車輪を展開させ、厚雲に向かっていきます。


「そんなもので、この俺にダメージなど!」


「そんなの、やってみないと分かりません! 狐狼拳!!」


「ぐはは!! 無ーーだがぁぁ?!」


 厚雲は、完全に油断していました。だけど僕だって、これは予想していませんでした。


 防御体勢すら取らない厚雲のお腹を、力いっぱい殴りつけた瞬間、まるでそこに、隕石でも落ちたかの様な衝撃が走り、厚雲を激しく吹き飛ばすと、その先の気持ち悪い柱も壊していき、壁に激突させてめり込みました。


「へっ? えっ?」


『全くもう……椿ちゃんったら。いつからこんなガッツのある子になっちゃったの? そっちも悪くないけどね』


 えっ? 僕の後ろから聞こえてくる、この声は……。


「カナ……ちゃん?」


 そこには、もう落ち武者の幽霊の姿は無く、その代わりに、僕が会いたくて堪らなかった、大好きな親友の姿がありました。当然、幽霊ですけどね。それでも、嬉しいのは嬉しいのです。


「カナちゃん……カナちゃん!!」


『やっほ~椿ちゃん。って、抱き付こうとしてもすり抜けるってば~飛び込んで来てくれて嬉しいけどね』


 ついうっかり抱き付こうとしちゃいました。そのままカナちゃんの体をすり抜けちゃって、僕は地面にダイブです。痛い……。

 だけどついでに、これが夢じゃないことも確認できました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る