第参話 【1】 妖魔人の覚醒
白狐さん黒狐さんに頼んだ増援が、やっと来てくれました。
とても頼もしい四つ子の守護神。龍花さん虎羽さんに朱雀さんと玄葉さんです。長いポニーテールを靡かせ、凜とした立ち姿は、この状況下で凄く頼もしく見えます。
そして警察署の屋上では、わら子ちゃんが扇子を広げて舞を舞っていて、皆の運気を上げてくれていました。そのわら子ちゃんを守る様にして、白狐さん黒狐さんもいます。
本当は僕を守りたいんでしょうね。目が合った瞬間飛び付いて来そうだったけれど、まだ戦闘中ですからね。
「ちぃっ! あっついわねぇ!」
すると、朱雀さんの炎を振り払い、峰空がこっちに近付いて来ます。
朱雀さん達の攻撃は、妖術ではなく神術に近いもの。だから、その力を食べられたとしても、何らかのダメージはあるはずです。
「う~胃が焼ける。何よ、これ……全然消化出来ない。吐き出さないと。おぇっ」
「きったないですねぇ。だけど、今ので確信しました。やはりあなたは、妖気しか食べられないのですね。私達のは妖術ではないので」
「最悪ね。でもねぇ~こんな炎なんて、私のこの鞭で!」
そう言うと峰空は、手にした鞭を赤く熱していくと、さっき食べた朱雀さんの炎を、お腹の口からはき出し、更にそれに纏わせます。
だけど、それは無理ですよ。
「なっ! 鞭が焼けて……!」
「馬鹿ですか、あなた。守護神
そう叫ぶと、朱雀さんは背中の翼を大きく広げ、自分の前に持ってくると、そこから炎の羽根を1枚抜き、それを徐々に変化させていきます。
それは、
「
更にもう1枚羽根を取ると、今度はそれを矢に変えます。それを弓に当てると、思い切り引き絞り、峰空に向かって射抜きました。
それは物凄いスピードで、峰空は避ける間もなかったです。
「あがっ!! ちょっ……!?」
「まだです!!」
いや、朱雀さん。そんなに力を使って大丈夫なんですか? 羽根を次々と矢に変えていて、更に10本、更にもう10本と増えていきます。
「う~わ。流石の私もこれは、避けるしかないわね」
「避けられるのでしたらねーーふっ!!」
「甘いわよ!」
なんと朱雀さんが撃った矢を、峰空はギリギリで交わしました。見えたっていうんですか?
やっぱり妖魔人は、ちょっとやそっとではーーって、ちょっと待って下さい。確か朱雀さん、この技を『追炎矢』って言っていましたよね? まさかだけど、追尾機能とかあります?
峰空の横を通り過ぎた矢が旋回し、後ろから峰空に向かっているんですけど。
「へっ? きゃぁぁあ!!??」
「全く。ちゃんとヒントを与えていると言うのに。妖魔人となったら、頭が弱くなるんですか? 力と知能が反比例でもするんですか?」
朱雀さん、何で挑発をーーって、そうか。それも龍花さん達から教えて貰っていました。
相手のペースを崩すには、相手を挑発し、冷静さを失わせる事。そしてそれには、絶対的な力の差を見せ付け、相手のプライドを折るんです。だけどそれは、そう簡単にはいかないし、相手も分かっているはずですよ。
「まだまだ。ほら、次がありますよ!」
「くっ、ぅ……ぁぁぁあ!!」
とにかく朱雀さんは、大量の羽根から作った大量の矢で、峰空を射抜き続けます。
「椿様、今です。浄化の力で!」
その時、朱雀さんが僕に向かってそう言ってきました。
そうか。朱雀さん達は、神術に近い力を使っているけれど、浄化の力は僕だけの力でした。つまり、寄生妖魔を浄化出来るのは、今この場では僕だけという事です。
「分かりました。それでしたら朱雀。あの負なる者の口、もう少し開けさせてくれませんか?」
「無茶を言いますね。そこに浄化の槍でも突っ込むんですか?」
「ご名答。曲がり形にも、あれは妖魔人です。他の妖魔とは違います。見て下さい。あなたの矢、確かに刺さっていますし、貫通しているのも何本かありますが、その殆どが射抜けていないですよ」
「くっ……分かっています」
結局峰空は、両腕を前に交差させ、朱雀さんの攻撃を耐えているんです。そのせいで、逆に口が狙いにくくなっています。でも、そこだけ必死に守るということは、そこが峰空の弱点なのでしょうね。
気付かれないようにと、お腹を隠そうとしないのは良い考えだけど、お腹にだけはダメージを受けない様にしているから、脆い部分である事は間違い無いと思います。
「しかし私達は、1人ではないのです」
すると、丁度峰空の後ろから、もう1人の影が現れました。
「
それは、虎羽さんでした。
栄空の相手をしながら、こっちの様子も伺っていたようで、こっちが隙ありと分かるや否や、虎羽さんの手の甲に付けたかぎ爪で、その背中から、峰空を引き裂いていきました。
「あっ……がぁ。な、なに?」
「忘れて貰っては困りますね。私達は、4人いますよ。いえ、あなた達からすれば、敵はもっと沢山いましたね」
すると今度は、峰空の体が凍っていきます。
また油断をしていたんでしょうか。今度は雪ちゃんが、峰空の体の背中からお腹にかけてを凍らしていきます。
そうでしたね。ここで戦っているのは、龍花さん達だけじゃない。半妖の人達だって、必死で戦っています。
自分達の居場所を守るために。自分達は人間に近いんだと、そう証明する為に。
「うぉぉお!! 怯むなよぉ! 相手がとんでもない奴だからって、一般人を犠牲になんかさせるものか!」
「分かっている! それにこんな奴等のせいで、俺達が濡れ衣を着せられて堪るか!」
気合いを入れる半妖の人達も、とても頼もしいです。
それに紛れる様にして、赤木生徒会長と、
流石にこの3人は、あんまり戦闘タイプではないので、一般人の避難誘導をし、そして赤木会長は、戦っている半妖達を鼓舞していました。
「良いか! 私達の力は、人を傷付ける為にあるのではない! それではこいつ等と同じになる! こんな化け物と同じになりたくはないだろう! 同じ扱いは受けたくないだろう!? それなら、戦うしかない! 戦うんだ! 人の為に! そしてその勇姿を、人々に見せ付けろ!」
赤木会長。ちゃんと会長としての仕事も出来るんですね。ちょっとだけ見直しましたよ。
「さて。これだけの数の敵を相手に、あなた達には勝算があったのですか?」
「くっ……うぅ」
「無いですよね? それならもう、浄化されなさい。負なる者。金華浄槍!」
そして僕は、背中を思い切り引き裂かれ、その衝撃でお腹を前に突き出し、朱雀さんの炎で身動きが取れなくなっている峰空に、槍にした尻尾で突き刺そうとしました。
「ふふ……うふふふふ。そりゃぁ、あなた達が増援を呼ぶのは分かっていたわ。いつもの手口だもの。だ・か・ら・当然勝算はーーあるわよ!」
だけど、僕を見てにんまりと笑った峰空は、全く負けたような表情をしていなかった。それどころか、峰空の妖気と邪気が、突然膨れ上がっていきます。
それは、その場所だけが爆発したかの様で、周りに激しい衝撃波を生み、僕達を吹き飛ばしてきます。
何ですか? あれは。
禍々しい峰空の姿が、更に変化していき、顔付きが鬼の様な形相に変わっていきます。
「くっ……! 何ですか、この力は?!」
「椿様! 早く浄化をーー!」
何とか吹き飛ばされない様にと踏ん張る僕に、空で必死にバランスを取っている朱雀さんが言ってくるけれど、無理です。
「いえ、無理です! この衝撃波で、槍が届きません!」
そして遂に、峰空はその姿を変えていき、もう人の原形を留めなくなっています。体の大きさも、警察署の2階に届きそうな程です。
下半身は蛇の様になってうねり、上半身は裸で、何か鱗の様なものがびっしりと付いていて、爪も鋭く伸び、鬼の様な形相で、峰空はこちらを睨みます。
「うふふ!! どう? どう?! この私の力! 最っ高でしょう?!」
「美しくは無いですけどね。何ですか、それは」
「閃空は子供の体だったから無理だったけれど、これが妖魔人の覚醒した姿よ! 寄生妖魔の特性、邪気増幅によって成った姿なのよ!」
そう言うと峰空は、突然警察署の方を狙い、その腕を振り上げ、鋭い爪で何もかもを壊そうとしてきます。
駄目です。そこには、夏美お姉ちゃんとわら子ちゃん、そして白狐さんと黒狐さんが!
「うふふ。あんたの守りたかった物、全部壊してあげるわ!!」
「くっ、させまーーっ!」
だけど、一歩遅かったです。峰空は腕を振り下ろし、そして警察署を崩壊させました。
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