第弐話 【2】 妖魔人峰空の実力

 栄空の方はしばらくの間、半妖の皆が押さえてくれているけれど、倒す事は出来ないと思う。

 僕が峰空を倒すか、増援が来て手助けをしてくれないといけません。


 だから、皆の方も気になるけれど、僕は僕で目の前の峰空を何とかしないといけません。


「金華浄焔!」


 先ずはこの鞭から脱する為に、浄化の炎で鞭を焼き切ります。


「あら? ちょっとぉ、普通は焼き切れるもんじゃないのよ~」


「私の力を甘く見ないで下さい」


 峰空の方はさっき、多少でも寄生妖魔にダメージを与えたはず。

 それなのに、全くダメージを受けている気配が無いです。もっと与えないと駄目なんでしょうね。やっぱり、閃空とは違いますね。


「さ~てと。いい加減、一緒に来て貰うわよ。はっ!」


「断固拒否します!」


 再び高速で鞭を振るう峰空だけど、僕はそれが見えているので、御剱でしっかりと防ぎます。でもその後に、御剱に鞭が巻き付いていきます。


「ちょっと。引っ付かないで下さい!」


 何ですかこの鞭は。巻き付いたまま、御剱から離れない。まるで蛇みたいです。

 んっ? 蛇……? この鞭からも妖気を感じたので、誰かの妖具だとは思っていたけれど、まさか蛇女さんの妖具なんじゃ。


 そうだとしたら、また炎を纏わせて焼き切らないと、そう簡単には切れないですよね。そして今僕は、炎を出していないです。

 それを分かっているのか、峰空が思い切り鞭を引っ張ってきます。まぁ、それは問題ないから、僕は抵抗せずにそのまま引っ張られておきます。


「えっ? ちょっと!?」


 あれ? 僕が引っ張り返すと思った? 残念だけど、このまま勢いに乗ってーー


「食らいなさい、金華槌きんかこん!!」


「ぎゃぶん?!」


 尻尾を金色の炎で纏ったハンマーにして、峰空の頭を叩きつけました。

 こんな事をしてくるとは思わなかったのでしょうね。峰空は思い切り、僕のハンマーの餌食になりました。だけどーー


「あ~もう。いったいわねぇ!」


 やっぱり全然効いていません!

 硬すぎる。ちょっとやそっとの攻撃じゃ、ビクともしません。


 そうなると、当然栄空の方もーー。


「うぐ……! くっ!」


「嬢ちゃん、早く凍らせろ! その腕らせろ!」


「無、理。凍ら、ない……!」


 雪ちゃんが栄空に首を掴まれ、そのまま持ち上げられていました。

 それは完全に締まっていますよ。だから僕は、慌ててそっちに攻撃をします。


「金華浄槍!!」


「ぬっ?!」


 すると栄空は、咄嗟に雪ちゃんから手を離し、急いで後退しました。もしかして栄空の方は、峰空に比べたら硬くないのかな?

 違う。峰空は僕の攻撃が当たる前に、こっちの妖気を少しだけでも食べていて、僕の攻撃の威力を落としたんだ。という事は、これは峰空の方が強いという事になります。


「余所見なんて~ずいっぶんな態度よねぇ!!」


 すると、峰空はもう1本鞭を取り出し、それを振って僕に攻撃を仕掛けてきます。

 1本は僕の体に巻き付き、こっちの攻撃を封じてきて、もう1本で直接攻撃ですか。効率の良い武器ですね。


 だけど僕にだって、効率の良い物はありますよ。


「はっ!!」


「なっ! 尻尾で?!」


 そうです、自分の尻尾です。

 これを鞭のようにして使えば、もう1本の鞭の攻撃も防げます。そのまま尻尾にも鞭を巻き付かれたけれど、これで相手も攻撃出来ないよね。両手で鞭を使っているし、そのどちらの鞭も僕に巻き付き、どっちか1本でも離せば、僕が直ぐに攻撃をするからね。


 だから後は、引っ張り合いをするだけかな。と、僕がそう思った瞬間、峰空のお腹の口から、何か塊の様な物が飛んで来ました。


「なっ?! 危なかっーー」


「甘い!」


 それを跳んで回避したのは良いけれど、そのまま勢いよく引っ張られてしまいました。そして僕は、結構な威力で地面に叩きつけられました。


「うぐっ!!」


「ふふふふ。食べた妖気を塊として吐き出したのよ。名付けて『妖気弾』ってとこかしら?」


「吐くなんて。汚いですね」


「うるさいわね! もう一発食らいなさい!」


 今まで食べた妖気を吐き出す。つまり、それを吐き出させ続ければーーって、そんな事くらい峰空も分かっているはず。もうそれならいっそ、こうしちゃえ。


「その締まりのないお口は、しっかりと閉じていて下さい」


「へっ? ちょっ!?」


 影の妖術で自分の影を操り、その手で相手のお腹の口を塞いでおきます。そうすると、吐き出そうにも吐き出せないよね。


「ぎゃぅっ?!」


 だから、吐き出そうとした妖気弾が、お腹の中で溜まっていき、暴発するのは当然です。咄嗟に引っ込めない所を見ると、本当に嘔吐しているのに近いですね。汚いなぁ。

 そして峰空は、その爆発で後ろに吹き飛んでいきます。両手は鞭から離れているので、僕は直ぐにその鞭を解いた。


「ふぅ……こんな束縛は、もう勘弁して欲しいですね。さて。栄空の方はーーあぁ、駄目ですか。かなり苦戦していますね」


 やっぱり半妖の妖気では、妖具を扱えても、それでダメージを与えるまでいかないようです。

 さっき雪ちゃんが、栄空を凍らせられなかったのも、単純にその妖気の差によるものでしたね。最初に凍らせる事が出来たのは、どうやら相手が油断していただけだったみたいです。


 それでも、他の半妖の人達と協力し、栄空に人間を狙わせない様にと、必死で戦っています。


 でも雪ちゃん、後ろが危ないです。もう1体の栄空が迫っている。助けないとーーと思っていたら、三間坂さんが防いでくれました。

 そこに、あの化け猫の半妖凛ちゃんが、相手の顔面を引っ掻こうとしていたけれど、変な衝撃波で吹き飛ばされています。


 あっ、今度は腕の長い子が、相手から距離をとって攻撃しようとしているけれど、栄空を怖がっちゃっているから、あっという間に腕を掴まれてしまって、グルグルと振り回されて吹き飛ばされてしまった。


 駄目ですね。このままだと、向こうが全滅しちゃいます。


「だ~か~ら~余所見なんてーー! ぐげっ!?」


「はぁ。少し、本気でいきますね。峰空」


 吹き飛ばした先から、峰空がまた飛んできましたね。

 それは見えていたので、尻尾でその首を掴み、上に持ち上げます。もうこれ以上、こっちに時間はかけられません!


 そして僕は、尻尾で掴んだ峰空を、そのまま上空へと投げ飛ばし、その後に追撃をします。


金華爆矢きんかばくし!!」


 尻尾から炎の塊をいくつも出現させ、それを矢に変え、相手を射抜く様にしながら、飛ばした峰空の元へと何本も放ちました。

 更にそれは、何かに当たると爆発をします。金色の炎なので、当然浄化の力付きです。


「さぁ、滅しなさい!! 負なる者!」


 相手にその矢が当たり、次々と爆発音が響く中、僕は峰空に向かってそう叫びます。だけどーー


「何を焦っているのかしらね?」


「なっ?!」


 峰空が、僕の横にいました。

 例え妖気を食べたとしても、それが追いつかない程の量を、次々と撃ち込んでいたのに、何時回避したの?


「ぐぁっ?!」


 そして僕は、横腹に思い切り鞭を打ち込まれ、激しく吹き飛び地面に倒れ込みます。

 待って下さい。峰空の鞭なら、2本ともまだここに。って、服が溶けている。何なのですか? この鞭は……。


「うふふ。亜里砂様に作って貰った、私のオリジナル妖具。多種多鞭たしゅたべんのお味はどうかしら?」


「なっ……ぐぅ……オリジナル、妖具?」


「えぇ、そうよ。つい先日出来上がったのよ。作るのが大変らしくてね。だから閃空は、あの子のは間に合わなかった……」


 その瞬間、峰空がとても悲しい表情を見せたけれど、もう僕はそんなのでは迷いません。

 それにあなた達は、寄生妖魔に体を使われていて、人格は余程じゃなければ出て来ないはずなのです。寄生妖魔がダメージを受けていればね。


 でもそれなら、今この瞬間は、寄生妖魔に少しでもダメージがあるから、峰空の元の人格が出て来たとも言えるんだ。いったいどっちなんだろう。


「今じゃないかも知れませんが、答えて下さい。あなたは……元々の、峰空の人格ですか?」


「あら。何を言っているの? まさか今の表情で、私の元の人格が出て来たと、そう思っているの? それなら、寄生妖魔だけを浄化出来る。な~んて思ってるの?」


 そして峰空は、ゆっくりと僕に近付いて来た。鞭を片手に持ち、もう片方でその鞭の先を引っ張りながら。

 あの、その歩き方は止めて下さい。何だか危ない女王様って感じですよ。


 そんな感じで近付いてきた峰空は、僕の目の前まで来ると、その場で膝を折り、そして僕に話しかけてくる。


「残念ね。今の私が、元の私の人格よ」


「なっ……」


「私は、寄生妖魔を押さえているの。あいつ等でさえ乗っ取れない程の、強い強い想いで」


 嘘だ。妖魔人は皆、体を寄生妖魔に使われているんじゃないの? それが違うのだとしたら、この人はいったいなんで。


「そんなにショックかし、ら!!」


「ぐぅっ!!」


 そのまま峰空は、倒れ込む僕のお腹に、再び思い切り鞭を打ち込んできます。


「ふふ。この鞭はね、様々な状態に変化出来るのよ。それも、何本も何本も分裂して増えるの。つまり、こんな事だって出来るのよ」


 そう言うと峰空は、片手で鞭をしならせ始める。すると、僕の目の錯覚なのか、根元から分かれ始めたような……いや、違います。これは、本当に分かれています。鞭が二又に分かれている!


「片方を、高熱の鞭に。もう片方を、何でも溶かす酸を纏わせる。さぁ、どっちを受けても肌が焼けるわよ」


 そして峰空は、その鞭で僕に向かって攻撃をしてきます。

 こんなのを受けるわけにはいかないので、僕は咄嗟に立ち上がろうとするけれど、何故か足が何かに引っ張られ、立ち上がれません。


「なっ……何で!?」


「ふふ……うふふふふ! 誰も2つしか分けられ無いなんて、そんな事は言っていないでしょう?」


 そんな僕の足元には、もう1本の鞭がゆっくりと浮かび上がってきました。

 そんな……まさか?! 根元から2つに分かれたんじゃなくて、3つに分けられていて、その内の1つを透明の鞭にしていた?!


「うわぁぁ!!」


 そして、峰空の攻撃から逃げられなかった僕は、両方ともまともに受けてしまいました。

 この肌が焼ける痛みは、我慢が出来るレベルじゃないです。何とかしないと、このままじゃあ……。


 でも次の瞬間、空から声が聞こえてきました。


「椿様!!」


 これ……この声は!


「なに? きゃぁあ!!」


 すると、上から炎の柱が降り注ぎ、峰空を焼きます。


「椿様、大丈夫ですか?! 遅くなりました!」


 その後上から、朱雀すざくの翼を羽ばたかせ、朱雀あやりさんが降りて来ました。

 更に栄空の方には、龍花さんと虎羽さんが一斉に攻撃をし、そして玄葉さんも追撃して、半妖と一般の人達を、栄空から引き離しています。


 やっとですか。ようやく、心強い増援が来てくれました!

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