第弐話 【1】 VS妖魔人 峰空&栄空
こっちにやって来る峰空と栄空に対抗すべく、僕は御剱を取り出し、それをしっかりと握り締めます。
警察署の前では、まだ何が起きるのか分かっていない人達が、僕の行動をじっと見ていますね。やっぱり動きそうにないですね。そうなると初撃は防がないと、ここに居る人達が怪我をしちゃう。いや、下手をしたら死んじゃうかも知れません。
相手はそれだけ、容赦が無いんですから。
「あの。本当の化け物って、いったい……?」
そんな中で、1人の女性がそう言ってきます。
今ここでそれを確認するよりも、避難をして欲しいんだけれど、説明はしておかないと。後で何を言われるか分かりません。
でも、寄生する妖魔や妖魔人なんて、いったいどう説明をすれば……。
「う~ん。これからここにやって来る化け物は、自分が利用されていると分かっていながらも、その私欲の為に、妖怪に体を改造された元人間……かな?」
「えっ? 元人間って……」
「そうです、元人間だよ。僕達の事を化け物って言うけれど、僕達にだって、良い妖怪とか悪い妖怪が居ます。それは半妖も一緒だし、人間も一緒。だよね?」
そう。人間も妖怪も、半妖とかも関係無いのです。悪い者は、他者にとって悪いと思う事をする。良い者は、他者にとって良いと思う事をしようとする。そして、悪い者を退治しようとする。
だから僕達妖怪を、全部ひっくるめて危険な者、危害を加える悪者なんだって、そんな風に捉えないで欲しいのです。
「椿!」
すると、2階の窓から雪ちゃんが叫んできます。
分かっていますよ。向こうが近くまで来ている事はね。妖気が膨れ上がり、こっちに放たれた事も。
その瞬間、峰空と栄空の妖気が感じられる場所から、大きな爆発音が響いてきます。吸収してもいいんだけれど、それじゃあ下に居る人達に、何が起こったかを見せる事が出来ません。だから僕は、咄嗟に上に跳び上がります。
それと同時に、遠くからやって来た爆発が、僕の居た場所に辿り着き、更に大きな爆発を起こします。
「きゃぁあ?!」
「うわぁぁあ?!」
「なんだなんだ!?」
「爆発した! テロだ!!」
爆弾テロだと思った下の人達は、慌ててその場から逃げようとして、凄くパニックになっています。
そこに捜査零課の人達と、半妖の子達がやって来て、手際良く避難誘導を始めようとするけれど、誰も言うことを聞いていません。
こんな時に限って、その人達を信用しないなんて。
「皆! 今はその人達の言う事を聞いて、急いで避難をーー!」
「あ~ら。そんな人間達に構っている暇はあるのかしら? 椿ちゃん」
「くっ……!! うぐぅ!」
しまった。下の人達の動きに戸惑って、峰空と栄空の居場所を感知する事を、失念してしまいました。
相変わらず真っ黒な体をした峰空が、目の前まで迫って来ていて、僕に向かって太い鞭を打ち付けてきました。咄嗟に腕で防いだけれど、腕が痺れてしまいましたよ。どんな威力ですか。
「ふ~ん。その状態でも、ちょっとはやるようになったわね」
「油断するな」「相手は神妖の妖狐だ」
「分かってるわよ。その2つの顔で喋らないで。めちゃくちゃ気色悪いわ」
峰空も栄空も、あの時と変わらない姿をしていて、その赤い目を僕に向けています。
だけど服装は、閃空みたいにいつも通りの服装ではなかったです。
峰空は更に肌を露出させていて、胸と股の部分しか隠していないです。しかもその背中に、悪魔の羽なんか付けていたら、もう小悪魔そのものですね。
そして栄空の方は、厳つい鎧を着ています。体に鬼の形相をした顔を掘り、後ろは刺々しい感じになっていて、それで突き刺してきそうです。
更に2人とも、禍々しい妖気が溢れ、以前に比べて強さを増していました。
だけど僕だって、あの時とは違うんです。増援が来る前に、何とか1人くらいは行動不能にしておきます。
「それにしても、舐めてるの? 自分からこうやって堂々と正体を明かし、名前も宣言するなんてね。私達に『ここに居ますよ!』って、そう宣言しているもんじゃない」
「そうですよ。そう宣言したんです、負なる者」
当然だけど、これはハッタリですよ。こっちが誘い出したってなれば、相手は罠かも知れないと、そう警戒してくれるかも知れないからね。
それでもこの2人を相手にして、小手調べなんかしていられません。最初から全力です。
僕は峰空に答えながら、浄化の神妖の力を解放し、金狐の姿になっていきます。
「へぇ~もう最初から飛ばすって事ね。栄空、ちょっと私にやらせて。その代わり、下の奴等は殺っていいわよ~」
「「私はゴミ掃除か?」」
「だから、2つの顔で喋るな」
そこは同感ですね。同じ言葉を喋ったら、まるでステレオで聞いているみたいになって、とても気持ち悪いですね。だから、こうです。
「その体、真っ二つにしておきましょう」
「なっ?!」「ぬっ?!」
そして僕は、栄空の前に瞬時に移動し、御剱を振り下ろし、そのまま相手の体を頭から斬りつけます。
咄嗟の事で反応出来なかった栄空は、一瞬で真っ二つになりました。
あれ? おかしいな。案外呆気なかったですよ。
「ちょっと! 私が相手をするって言っているのに、いい度胸しているじゃない!」
それを見た峰空が、怒ってこっちに向かって鞭で攻撃をして来たけれど、僕はそれを読んでいたので、軽く躱します。
「おっと……! 負なる者であるあなた達の言う事を聞くなんて、一言も言っていませんよ!」
「それもそうねぇ。で、栄空。何時まで倒れている気?」
えっ? 待って下さい。栄空の妖気が無くなっていない。浄化出来ていない! ま、まさか……。
「言うな馬鹿」
「せっかくこれで奇襲をかけようとしていたが、全てパーだ」
栄空がそう言うと、2つに分かれたその体を起こし、そしてゆっくりと体の半分が再生していきました。
それはもう、分裂と言うしかなかったです。栄空が2人になっちゃいました。
これはやってしまいましたよ。妖気も減っていないから、分散して弱くなったとかじゃありません。強さはそのままです。
「くっ……! なっ?!」
「おっと、椿ちゃ~ん。あなたは私と遊びましょうね~足腰が立たなくなるまで、ね!」
栄空が分裂をした瞬間、逃げ惑う人達の方を向いたのです。だから僕は、先に栄空を片付けようと思ったけれど、それを峰空に止められてしまいました。
鞭を自在に操り、僕の体に巻き付かせ、更には締め上げてくる。それに、何だか熱も持っていませんか、この鞭。こんなに万能性のある鞭を使っているとなると、峰空の方も油断できません。
更に峰空の方は、妖気を食べてしまう特性もあります。つまり、妖術が効かないんです。限界はあるけどね。
「凍れ!」
「ぬっ?!」
「これは……?」
すると突然、2体の栄空の足下が凍り付き、身動きが取れなくなっていました。これは、雪ちゃんですね。でも、危険すぎますよ。
「雪、何をしているんですか? そこから離れて下さい!」
「嫌だ。一緒に戦う。それに、他の半妖の人達も、同じ考えだから」
「そう言うこった、嬢ちゃん。おら! 戦える奴は、あいつに集中攻撃をしろ!」
すると、下に降りて来た雪ちゃんと一緒に、後ろから三間坂さんもやって来て、咥えたタバコを吹かしながら、栄空に向かって行きます。
いや、だから危ないってば!
「雑魚ですか」
「引っ込んでいなさい!」
身動きの取れなくなった栄空は、向かって来る三間坂さんを爆発で吹き飛ばそうとしたけれど、その栄空の身体を、三間坂さんのタバコから出た煙が包みます。
「な、何?」
「そら。爆発させてみろよ」
「くそ。何故起爆しない!」
すると次の瞬間、その栄空の間近に、三間坂さんが瞬時に移動をし、そのまま顔面を殴り付けました。
「おらぁ!」
「ぐぉっ?!」
というか、今のどうやって移動したんですか?
三間坂さんの体も煙に包まれたと思ったら、そのまま栄空の前に……。
えっ? しかも次の瞬間、また三間坂さんは雪ちゃんの横に移動した。えぇ?!
「
「なっ? ぐわぁぁあ!!」
「こいつ! 妖具をーーぁぁぁあ!」
嘘でしょう。栄空の爆発を、栄空自身にぶつけたんですか? 三間坂さん、強すぎないですか?!
「ちょっと、嘘でしょう。半妖如きが」
「おっと。あなたの相手は、私でしたよね?」
それを見た峰空まで、栄空の方に加勢をしようとしていました。それを見た僕は、慌てて自分に巻き付いている鞭を掴み、峰空を引っ張ります。
「きゃっ?! ちょっと!」
「金華浄槍!」
そのまま近付て来た峰空に、槍にした尻尾を突き刺します。
「あ~ぶないわね~でも、私に妖術はーーうっ!」
「妖気以外も食べられたんですね。何という食い意地でしょうね。だけど、それが食べられる物かどうか、よく調べてからの方が良いですよ。私のこれは、妖術ではなく神術。しかも、浄化の力が混じっているんですよ。そんなのを食べたら、いったいどうなるんでしょうね?」
神術は妖気じゃなく、
それは、妖気とは比べ物にならない力で、禍々しい妖魔人が取り込もうとしても、それは相反する力として、体の中で反発し合うでしょうね。
更に僕の浄化の力で、中の寄生妖魔にもダメージを与えているとしたら。
「うっげぇぇえ!!」
お腹の口から寄生妖魔を吐き出しちゃうのも、無理はないですね。それでも、出て来たのは一部だけですか。それでも良いです。
慌てた峰空を見て、もしかしたらこの事を忘れているんじゃないかと思っていたけれど、バッチリ忘れていた様です。
それだけ三間坂さんが凄かったんだけれど、当然それで勝てるような相手なんかじゃない。そうやって、栄空を押さえているので精一杯みたいです。
だから僕は、いち早くこの峰空を浄化して、雪ちゃんと三間坂さん、そして半妖の人達の手助けをしないといけないーーのだけど……。
「んっ……ぐぅ。ゴクン」
「いや、飲まないで下さい」
「はぁ、はぁ……ふふ。そう簡単にはいかないわよ~」
お腹の口から出た寄生妖魔を、そのままお腹の口で飲み込んじゃった。
こっちも、そう簡単には浄化させてくれそうにはないですね。
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