第拾伍話 【2】 雷獣の訪問
たっぷりとお昼寝をしていた僕は、晩ごはんの時間が近付いた時に、里子ちゃんのダイブで目を覚ましました。
何で僕の上にダイブするんでしょうか?
「げほっげほっ。里子ちゃん、普通に起こして下さい」
「え~でも……白狐さんと黒狐の尻尾に包まれていて、そのまま朝まで寝そうな勢いだったし。それに、私ともあろうものが居ながら、こんなーーふがっ?!」
「何を言っているんですか、何を」
里子ちゃんが変な事を言ってきたので、影の妖術で鼻を摘まんでおきました。
もう晩御飯が出来ている様なので、僕はそのまま布団から出ーーられません。
また白狐さんと黒狐さんに尻尾を掴まれてしまっています。もうお約束なんですよね。起きています、絶対に。そして、僕の行動を待っていますね。
「はぁ……しょうが無いです。金狐の状態になってーー」
『良し椿よ。夕飯の時間だな、行くぞ』
『モタモタしていたら、皆に全て食べられるぞ』
早いですよ。僕がそう言った瞬間、白狐さんと黒狐さんは素早く起きて、そのまま部屋を出ようとしました。それなら最初から、こうしておけば良かったです。
ーー ーー ーー
その後僕達は、地下の大宴会場で夕食を取っています。
そこにはちゃんと、美亜ちゃんに雪ちゃん、楓ちゃんにわら子ちゃんの皆が居ました。良かったです。信じていたけれど、やっぱり不安でしたよ。
「ふふ。海坊主ったら、こ~んなに沢山お魚取ってくれちゃって。助かるわ~」
何だか美亜ちゃんがご機嫌さんです。あれ? 美亜ちゃん、任務じゃなかったの?
「美亜ちゃん。何処に行っていたんですか?」
「ちょっとお魚を取りにね。その為に、雪や楓、座敷わらしも着いて来て貰っていたのよ」
心配して損しました。君達は本当に、いつも通りですね。妖界で雷獣が暴れようとしていたのに、そんな事はつゆ知らず、お魚を取りに行っていたなんて。
それに僕なんて、大変な戦いをしていたんですよ。
「何だ、海坊主さんとデートですか。おっと!」
僕がそう言った瞬間、妖気を含み、こんがり焼かれたトビウオさんが飛んできました。
美亜ちゃん、投げたね? 僕の口に向かって。咄嗟に避けたけどね。
「まぁまぁ、美亜さん。今回は私達が悪いわよ」
僕の言葉に反応した美亜ちゃんを、わら子ちゃんがそう言って宥めているけれど、どうやら美亜ちゃんも、それは分かっている様です。
僕が寝ていた理由、おじいちゃんから聞いたのかな? そうだとしたら、もう少し考えて下さいね。
「はぁ……確かに悪かったわよ。あんたの方が大変な事になっていたもんね。だからほら。あんたの方、お魚多めにしているでしょう?」
うん。席に着いた時から気付いています。何この山盛りのお刺身は。
これは美亜ちゃんなりに、僕を気遣っているのでしょうか? 妖怪食なので、ウネウネと虫みたいに動いていて、まるで別の生き物みたい。
君の気遣いはとっても嬉しいです。だけど、これ全部食べたらお腹を壊しそうですね。だからここは、白狐さん黒狐さんにも手伝って貰います。
するとそんな時、僕達の居る大宴会場の扉が突然開かれ、誰かが入って来ました。
ここに来るという事は、勿論妖怪さんです。でもそこに入って来たのは、あり得ない妖怪でした。
尾が2つに分かれ、髪を逆立て、体の周りに雷を帯電しているのか、電気を放電をしています。
そうです。ここに入って来たのは、新たなセンター長になったはいいけれど、亰嗟にしてやられ、センターを奪われた妖怪、雷獣さんでした。
しかも大怪我をしていて、息も絶え絶え。何とか雷を身に纏い、その速度で敵から逃げ、そしてここにやって来たって感じですね。
「鞍馬天狗、達磨百足。力を貸せ」
「開口一番がそれかの? 違うじゃろう」
「全くだ。折角の食事の邪魔をしないで貰いたいな」
2人とも、雷獣さんの心配はしていません。
というか、僕も何だか知らないけれど、この妖怪さんは大丈夫かなって、そう思っちゃっています。それ位にタフみたいなんですよ。
雷獣さんのお腹には大きな傷があって、手でそれを塞いでいるけれど、血はもう止まっていそうです。
確か『天雷』に乗っていて、そこを落とされたのに、それでもまだ生きているという時点で、この妖怪さんはタフ過ぎるんですよ。
「くっ……! このまま亰嗟の、茨木童子の思い通りになっても良いのか!」
「そうでは無いわ。雷獣、儂等に助けを求めるならば、ケジメをつけんか。そもそもお前さんを入れたのも、先の事があったのと、その怪我故。しかし、頭を垂れずにそんな事を言うのならば、ここから追い出すぞ」
そういえば、この家を見張っている妖怪さんが何も言わなかったので、おじいちゃんが先に言っていたんでしょうね。もし雷獣が来たら通せと。
「ちっ……もう良い!」
プライドが高すぎますね。頭を下げる事だけは、絶対にしないんですね。そのままおじいちゃんに背を向け、さっさとここから出ようとして行きます。
全くもう。
「あのさ、何を焦っているんですか? 雷獣さん」
「なに?」
あれ、図星だったのかな? 僕の言葉に足を止め、そのまま睨んできます。これは、何となくそんな感じがしたんです。
因みに僕は今、雷獣さんの方は見ていません。杏仁豆腐の方に目がいっています。ツヤツヤしていておいしそう。
「この、ガキ妖狐が。あいつ等は妖界を地獄に変え、自らのものにしようとしているんだぞ。これが焦らずにいられるか!」
「その為に、僕達に酷い事をしたのですか? ちょっとは周りを見て下さい」
「うるさい!! 貴様等みたいに頭沸いている奴等に、とやかく言われる筋合いは無い! 俺は俺のやり方で、妖界を守ろうとしているんだ! 文句あるか!」
「そうですか。それじゃあ、私達は私達のやり方で、私達の世界を守らせてもらいますね。負なる者」
雷獣さんの言っている事も分かるけれど、それで焦ってしまい、その結果がそれだと、もう説得力が無いんですよ。
だから僕は、雷獣さんのした事にケジメをつけさせる為、金狐の姿になり、雷獣さんを威圧します。
「ぬっ……!」
「あなたはやり方を間違えたんです。それなのに、まだあなたは自分が正しいと思うのですか? 思っているのなら、その力で私を倒してみて下さい」
すると雷獣さんは、僕のその言葉に苛ついたのか、お腹を押さえている手とは反対の手に、雷を溜めていきます。
「小娘が……図に乗るな!!」
相変わらずプライドの塊ですね。でも、頭に血が上りすぎです。こんなの僕には効かないです。
「術式吸収、金華浄槍」
そして、僕に向けて放って来た雷獣さんの雷を吸収し、そのまま尻尾を槍に変え、雷獣さんの首元まで伸ばして突き付けます。
あっ、ちょっと!
「くっ……! うぅ」
もしかして、雷獣さん本気でした?
怪我をしているから本調子ではなかった様だけれど、今のは全力っぽかったね。それなのに、僕はご飯を食べながらでしたよ。
「ふん。まぁまぁだな」
それを見た酒呑童子さんは、ちょっとだけ満足そうにしています。でもまだまだですよ、僕は。
「くそ! こんなガキに!」
ガキなんて言わないで下さい。僕はもう、立派な妖狐なんですからね。
すると、悔しそうにしている雷獣さんに向かい、おじいちゃんが話しかける。
「雷獣よ、お前さんがやった事を無かった事にはできん。それも踏まえ、それでも儂等と協力しようというのなら、許してやらん事も無い。しかしその場合、お前さんは儂等の下につくことなるがな」
その辺りが妥当ですよね。僕達にした事を償わせる為に、存分に扱き使えば良いですよね。
だけど雷獣さんは、それが納得出来ないようで、僕達を睨み付けたままです。
そして一言。
「死んでもごめんだな」
その後に雷となって、おじいちゃんの家から去って行きました。ついでに捕まえようともしていたけれど、簡単に逃げられちゃいました。流石は、雷を扱う妖怪さんです。
だけど、おじいちゃんの家の地下から出て行かないでくれますか? 天井に大きな穴が空いちゃいましたよ。ついでにと言わんばかりに、この家も壊す気だったのでしょうか。
でも、ぬりかべさんが急いで天井を直し始めました。あとで一品、何か上げますね。
「ふん。雷獣よ、分かったとらんな。儂等も何もしていない訳では無い。情報収集と、的確な反撃の手段、そのタイミングを図っとるだけじゃ。作戦と言うものを、まるで分かっとらんな」
確かにここ最近、おじいちゃんの家の妖怪さん達が、忙しそうにしていますね。
という事は、僕達はその時までしっかりと修行をし、力を蓄えておけば良いんですね。分かりましたよ、おじいちゃん。僕、頑張ります。
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