第拾弐章 華麗奔放 ~戦いの火蓋は華麗に~

第壱話 【1】 迫害される半妖達

 それから数週間後。

 世間がゴールデンウィークで浮かれていた中、僕達は次々とやって来る任務をこなしていました。


 もちろん妖魔人と、十極地獄の鬼に警戒しながらですけど。

 だけど、ここしばらく出て来ないです。機会を伺っている様な、そんな感じなのです。嵐の前の静けさですね。


 それでも、十極地獄の妖界浸食は進んでいて、早急に対策案が出され始めました。

 今は、影の妖怪『影法師』の妖具による浸食能力で、妖界を浸食仕返すという荒技に出ています。

 それが功を成したのか、丁度十極地獄の浸食が、3分の1程進んだ所で拮抗し、停止をしています。それでも3分の1は取られたので、僕達は妖界での活動を、かなり制限されてしまいました。


 大丈夫だよね? 何とかなるよね。

 おじいちゃんと達磨百足さんが必死に対策案を考え、頭から絞り出そうとして干からびているけれど、頑張って下さい。


 僕は僕で、自分の能力を上げておきます。因みに今はと言うとーー


「椿ちゃん。そこで足を引いて、腕はもっとしなやかに!」


「うぉっと……こ、こう?」


「うん! そうそう。それでーー」


 わら子ちゃんに舞いの指導を受けています。

 だって、僕の舞いにもあんな力があるんですから、ちゃんといつでも何回でも、しっかりと舞える様にしておけば、ちゃんと戦力になりますよ。


「座敷様、椿様が疲労しています。もうそろそろ……」


 だけどそんな時、玄葉さんがそう言ってきます。


「え~椿ちゃんと一緒に舞える日が来るなんて、そんな事思っていなかったから、もっと舞いたいのに~」


「あはは。そういえば小さい頃、僕もわら子ちゃんと一緒に舞いたいって、そう言っていたっけ」


「そうだよ~だから嬉しくて嬉しくて! ね、椿ちゃん!」


 しょうが無いです。もう少しだけ付き合って上げようかな。と思っていたら、今度は虎羽さんが注意してきました。


「駄目です。それに、椿様に来客です」


「えっ? 僕に?」


 来客? いったい誰でしょう?

 お客さんが来ているならしょうが無いです。わら子ちゃんには申し訳ないけれど、舞いの練習はまた今度ですね。


「最近椿ちゃん、人気者だね」


「誰かさんのせいでね」


 雪ちゃんが僕のファンクラブを、あんなにも拡大しちゃったから、こっちの依頼要請とかも、殆ど僕を指名して来る程になってしまいました。おじいちゃんが整理しましたけどね。


 そして僕達は玄関へと向かい、僕に用があると言うお客さんに会いに行きます。


 ただ、玄関に着いた瞬間悪寒がしてきます。嫌な予感がするよ。

 すると、僕達がやって来た事に気付いたお客さんは、いきなり上に跳び上がり、なんと僕に向かって来ました。長い舌を伸ばしながら。


「椿く~ん!! さっそく挨拶のペロペーーろぼぉぉ!!」


「そんなの、1回もした事ないです」


 咄嗟に尻尾をハンマーにして、赤木生徒会長を壁に叩きつけます。

 まさかお客さんって、あなた達の事ですか? 妖気で半妖なのは分かっていたけれど、いったい何しに来たんでしょうか?


 そして僕は、玄関口に居るもう1人のお客さんに話しかけます。


「それで、今日は何の用ですか? 杉野さん」


 そこには、何とか松葉杖で立っている、あの杉野さんが立っていました。

 相変わらずチャラい格好だけれど、何だかアクセサリーが増えていませんか?


「つれないなぁ。久方ぶりの再会だと言うのに、ご主人さーー椿ちゃん」


 睨み付けながらハンマーを上げたら、察してくれましたね。あなたには彼女がいるでしょう? 僕のお姉ちゃんの、夏美お姉ちゃんがね。

 あれからも、ずっと熱心に杉野さんの看護をしていたんですからね。お姉ちゃんがこんなにも世話焼きだったなんて、全く知らなかったです。


「杉野さん!? もう~来てくれるなら連絡してよ! 迎えに行ったのに~」


「いや、何時までも君に頼る訳にはいかないし、ご主人に元気な姿を見せたかったからね」


「全くもう……杉野さんったら」


 夏美お姉ちゃんはいつものギャルの格好なのに、口調が少しだけ丁寧な様な気がする。夏美お姉ちゃんは、完全にご執心ですね。

 しかもこの後、人目を気にせずイチャイチャしだしました。あの……一応ここ、おじいちゃんの家ですよ。そして、何しに来たのですか? 杉野さん。


「すまない。本当は、三間坂さんに来て貰いたかったのだが、あの人は半妖の子達を守るのに精一杯で」


「何があったんですか?」


 いつの間にか座り込んで、その場で項垂れていたはずの赤木会長が復活していて、僕に話しかけてくるけれど、隙あらば僕を舐めようとしていますよね?

 この人はやっぱり、助けるべきじゃなかったのかな? とりあえず影の妖術で、赤木会長の動きを止めておきます。


「半妖の迫害だよ」


「えっ?」


 その後に発した赤木会長の言葉に、僕は自分の耳を疑った。

 だけど半妖の人達は、普通の人間とは容姿が変わっていたり、特殊な力があったりします。そんな自分達とは違う者を、人間は畏怖します。そして次に何をするかと言うと、それを迫害しようとする。自分の領域を、安全安心な生活を送る為の領域を、守ろうとするんです。


「今更と言えば今更だけど、他の半妖の子達も、私が親にされたように、両親に軟禁をされていたり、酷ければ監禁されていたよ。中には、殺そうとして暴力を振るっていた者もいた。自分の子だと言うのにね」


 そう話しながら、赤木会長は顔を強張らせ、許せないという感情が出てしまっています。気持ちは分かるよ。だけど。


「化け物の子を産んだ、もしくは産ませてしまったとなると、自分も迫害されるでしょう? そうなったら、そうせざるを得ないんじゃ無いのですか?」


「椿君……」


「当然、許せる事では無いです。だから、僕達が助けるんでしょ?」


 半妖の子達が、全国にどれだけ居るかは分かりません。だから先ずは、僕が通っていた学校、そこの半妖の生徒達ですね。

 すると、赤木会長が申し訳なさそうな顔をしながら、僕に続けて言ってきます。


「あ~それなんだが。雪君が協力してくれていて、私達の学校にいた半妖の生徒達は、もう既に皆助けていて、今警察に保護されているんだ。それで、この家の何処かに匿って貰えないかと、その相談に来たんだよ」


 あれ? もう助けていたんですか? えっ? 雪ちゃんが動いていたの?

 そう言われたら、昼前に出掛けては、帰るのが晩御飯前だったような……ただ、いつも僕のファンクラブのパンフレットを手にしていたから、てっきりそういう活動だと思っちゃっていました。


 あのぉ……格好をつけた僕の時間、返して貰えませんか?


「いたたたた!! つ、椿君?! 何でだ!」


「何となくです」


 釈然としないこの思いは、影の手で赤木会長のほっぺをつねって、解消しておきましょう。


「あぁ、ご主人。久々に私にもーーいだだだだ!!」


「私で良いよね? 杉野さん」


 夏美お姉ちゃんの前で何を言っているんですか、杉野さん。お姉ちゃんが怒っているよ。いい気味ですね。どうやらお姉ちゃんが、良い抑止剤になっている様です。


 するとその瞬間、杉野さんのスマホが鳴り響きます。


「はい。もしもし……えっ? 本当ですか?! 分かりました。急いで戻ります!」


 そして電話を取った瞬間、杉野さんが真剣な顔になり、そう叫んでいました。何か緊急事態が起きたたんだと感じた僕は、電話を切った杉野さんに話しかけます。


「何があったんですか? まさか……」


「そのまさかだ。俺達が配属する、捜査零課のある部署、その警察署が、住民に寄る抗議を受け、挙げ句政府にまで申し出をした。あぁ、そこまでは良い……想定内だ。だが、その政府が動いた」


 一応今までは、色んな妖怪さん達の力で、この日本が、妖怪や半妖に気付きにくくなるようにしていました。

 でも、あの八坂校長先生の発言で、半妖の存在に気付いた人達は、妖怪を認知するようにもなっていたのです。当然、恐怖や畏怖する人々も現れ、大混乱になっていました。


 それでも今までは、センターの力と他の妖怪さんの力で、その人達との衝突を避けていたけれど、半妖の方は駄目だった様です。

 それは、それぞれの家族に捕まっていたというのもあるけれど、センターが全ての半妖を把握仕切れていない事実もあったのです。達磨百足さんが、それを隠していましたからね。流石におじいちゃんが怒っていました。


「政府は半妖を『我々と同じ人間では無い』と、つい先程認定。今さっき、駆除対象として自衛隊が動いた!」


「法律は?! 警察署でしょ? 何でそんな事に」


「いや。ここ最近、おかしな事件が起きているだろう? 化け物が暴れ回っていたり、何かを探していたり」


 妖魔人とか、地獄の鬼とかでした!

 必死に僕を探していたから、それを人間に見られてしまって、恐怖されて。そんな、こんな所で僕が……僕のせいで。


「とにかく政府は、国の自衛の為にと、陸上自衛隊を動かした。そして、それらを匿っているとして、私達の警察署が、政府から猛抗議されてしまったんだ。署長からは半妖を出せと、そう強く言われているが」


「三間坂さんは、断っているんですね」


「あぁ、そうだ。そこで、他の警官や自衛隊が、私達の警察署を包囲したと、先程連絡があった。もう、三間坂さんの部署では匿いきれない。何とかあそこから脱出して、ここに匿って貰わないと」


 すると、それを聞いていたおじいちゃんが、僕の後ろからやって来ました。


「構わん。そんな事態になっているのなら、いくらでも保護をしよう。椿、行って来い」


「分かりました!」


 でもその後に、2階から誰かが慌てて降りてきました。


「待って、椿。私も、行く」


 雪ちゃん、目の隈が凄いですよ? 遅くまで何をやっていたんでしょう?

 そんな状態で僕に着いて行くって言うなんて、いったい何を考えているんでしょう。


「雪ちゃん。大丈夫ですか?」


「大丈夫。それに、私に良い作戦があるから。任せて」


 両手に大量のパンフレットを持っていて、若干不安なんですけど。自信満々の雪ちゃんを、信じる事にしましょう。何より今は、時間が惜しいです。

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