第拾話 【2】 最強チームの戦闘タイム

 おしおきタイムも終わったので、この先の階段を降りないといけません。

 その為、僕が黒焔狐火で、凍った階段を溶かしながら先頭を進んでいます。


 途中で、足が凍って動けなくなっている人達を見つけたので、三間坂さんが縄で1人ずつ縛っていました。手錠じゃないんですね……。

 その後はもちろん、部下の人に連絡をして、連れて行くようにと指示をしていました。


 そして、階段に居た5人全員を捕まえて、僕達は階段の下まで辿り着くけれど、真っ暗で何も見えないです。


「敵が来たとなると、まぁ当然こうなるな。待ち伏せをするのには、暗闇の方がうってつけだ」


 確かに三間坂さんの言う通りだけど、それは向こうも同じはずですよ。

 まさか……向こうは僕達の姿が見えているんでしょうか? そういう妖具、あったかなぁ。


 でも、その前に……。


「あのね皆……暗闇に紛れて、僕の尻尾を触らないで下さい」


 さっきから、尻尾を触られている感覚がするんです。いったい誰ですか?!


「えっ? 触っていないよ。椿ちゃん」


「あんた、敏感になりすぎてない?」


「自分もっすよ。真っ暗だから、姉さんの尻尾も見え無いっす」


「そうそう」


「……椿ちゃん。それ、誰に触られているの?」


 えっ? 皆じゃないんですか? それじゃあ、いったい誰なんですか? まさか、白狐さんと黒狐さんですか?


「白狐さん黒狐さん?!」


『ん? 違うぞ。お主の前にいるのが、妖気で分からんか?』


 あれ? 本当です。いつの間にか、僕の前にいました。見えないけれど、妖気で感じました。

 それに、皆の声も左右から聞こえてきたから、後ろにはいないです。そうだとしたら、僕の後ろから感じる妖気は、いったい誰なんですか?


「効かない……聞いているのと、違う」


 なに? 誰かの声が聞こえてくる。もう確実に、味方じゃないのは確かです。それなら……。


「よっ、と……! てぇいっ!!」


「……なっ?! ぎゃぁぁあ!!」


 よし、手応えありです。

 白狐さんの力を解放して、捕まれた尻尾を持ち上げ、そのまま尻尾を掴んでいた人を、思い切り地面に打ち付けてみました。


 するとその衝撃で、その何かは僕の尻尾から離れてくれました。


『むっ?!』


「ちょっと! どっからよ? 危ないわねぇ!」


 でも次の瞬間、白狐さんと美亜ちゃんが同時に声を上げました。そっちでも何かあったの? まさか、攻撃されたんですか?!


「おい! 『くらやみ目』ちゃんとそいつを抑えてろ! そいつが1番厄介なんだよ!」


「そ、そうは言われても……言われたように尻尾を触っても、悶えてませんでしたよ?!」


「うるさい!! そう書かれていたんだから、ちゃんとそうしろ! もっと強く触れ!」


 暗闇の中で、敵さんの声が響いているけれど、そうですか、捕まえていたのは、垢舐めさんだけじゃないんですね。

 それに、僕が尻尾を触られただけで悶えるなんて、それはいつの時の情報でしょうか。


「皆、敵の攻撃はどんなのですか?」


『良く分からんが、飛び道具みたいな物を使われている。くそ……! 明かりさえあれば!』


 確かにこの暗闇の中、相手だけは見えているみたいですからね。そうなると、こっちの方が不利です。

 何とか明かりを点けるか、明かりを発しないといけません。一番手っ取り早いのは、ここの地下の電灯を点ける事だけどーーと、そう思った瞬間、僕達の居る空間に、突然明かりが点きました。


「えっ? 何?」


『何じゃ? 急に明かりが!?』


「……ったく。この程度の初歩的な戦法で戸惑うな。俺の煙は妖気だけじゃなく、電気の流れも探れる。それで、ここの明かりのスイッチを探し当てただけだ。ついでに言うとだ、煙を使えば障害物も分かるから、俺には暗闇だろうと関係ない」


 なんと僕達の斜め前、敵の背後の壁にあるスイッチの所に、三間坂さんが立っていて、そのスイッチを押していました。

 返事が無いと思っていたら、こっそりとそんな事をしていたんですか。だけど、これは助かりました。


 そして僕は、咄嗟に自分の後ろを振り向きます。


「ひっ、ひぃ!!」


 顔に目が無いです。えっ? それじゃあこの暗闇の中で、どうやって僕の尻尾を? 


「しまった!! まさか、そんな能力を持っている奴が居たとは!」


「えぇい! 明るくなったからって何だ! やることは変わらないだろう!」


「そうだ……そうしないと、俺達は地獄に落とされる!」


 そして辺りを見渡して気付いたのですが、僕達の周りを、亰嗟の人達が囲んでいました。多少の妖気を感じるから、半妖の人達ですね。ついでに、何か焦っています。


 それにしても、暗闇の中で隠れて攻撃をしていたわけではなかったようです。

 何でそんなに近づいていたのでしょうか? 絶対に大丈夫だと、そう思っていたのかな?


「あ~あ、焦ったら負けよ? ほ~ら」


 そして美亜ちゃんが、地面に妖気を流して呪術を張る。しかも、トラップ式です。つまり、美亜ちゃんに近付いた人達は……。


「うわぁぁあ!!」


「なんだこれは!?」


 地面から突然生えてきた木に捕まり、蔦で身動きが取れなくなっています。


「凍って……」


「いで!!」


「な、なんだこれは、さ、寒い! 手が、足がぁ!」


 そして雪ちゃんは、床を凍らせて相手を転倒させ、そのまま氷の塊を作り出し、相手の体を包んじゃいました。氷のキューブから顔だけが出てる……。


「攻撃しても、全部跳ね返すっすよ!」


 更に楓ちゃんも、相手の持っている妖具からの攻撃を、狸の像に付いた鏡で跳ね返しています。


「うわっ! き、効かねぇ! ぎゃぁ!!」


「こんなふざけた奴にまで! ちくしょう!」


「誰がふざけた奴っすか!」


 楓ちゃん。くノ一の格好をしていたら、ふざけていると思われちゃうよ。それは仕方ないと思います。


「う~、暗闇にして攻撃なんて、そんなの卑怯ですよ!」


 あっ、わら子ちゃんが不機嫌に……だけど卑怯というより、あれは相手の戦略なんだけど、まぁ良いです。

 お陰で、わら子ちゃんの幸運の気が暴走して、相手に微妙に酷い事が起きています。


「あぁぁ!! ズ、ズボンとパンツがぁ!」


「ちょっ、見るな!!」


 うん、とりあえず見ないで上げます。三間坂さん、早く捕まえて下さい。例え半妖でも、ちょっとお粗末でした。あれなら白狐さん黒狐さんの方がーーって、何を考えているんですか、僕は!


「椿ちゃん~両手で隠していても、指の隙間から見ているでしょう?」


「うわぁ!! 里子ちゃん! そ、そんな事はないです! って、あれ? 里子ちゃん、他の相手は? あと2人……」


「上に殴り飛ばしておいたよ」


「えぇっ?!」


 あっ、本当です。天井に穴が空いています。い、生きているんですか? これ……。

 それよりも、里子ちゃんって武闘派だったんですか? いつも僕にやられているのに。


「ん? どうしたの、椿ちゃん」


「い、いや……何でも無いです」


 すると、里子ちゃんは何かを察したようで、壁に近付いていくと、そこに拳で一撃与えました。その瞬間、大きな穴が空きましたよ。里子ちゃん、武闘派でした。


「私、妖術は苦手だから、こっそり練習したりしているけれど、妖術なしの戦いなら大丈夫だよ。だから、私を捨てないでね、椿ちゃん」


「は、はい」


 あれ? 僕が里子ちゃんを飼っていたんじゃなくて、飼わされていたんでしょうか?


「なっ、あっ……いったい何が?」


 あっ、この妖怪さんを忘れていました。

 その場に座り込んでいた、目が無い老人の姿をした妖怪さんを見ると、何と両方の膝頭ひざがしらに目が付いていました。


 目はそっちだったの?!


「あっ、ごめんなさい。あなたを捕まえていた人達は、僕達が倒しました。だから、もう安心して下さい」


「なっ、本当か? 本当に、私は解放されたのか?」


「そうですよ」


「そ、それならあの方も! あの方も、助けてやってくれないか!」


 すると、階段の方で大人しく戦いを見ていた赤木会長が、突然その妖怪さんに近付き、肩を掴んで問いただしています。


「それは、母……垢舐めですか?!」


「うぉ、おお……そうじゃ」


 必死ですね、赤木会長。やっぱり、それだけお母さんを助けたかったんですね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る