第拾話 【1】 雪と楓の協力妖術

 赤木会長の家から、雲操童さんを呼んで移動した僕達は、堀川通りと御池通りの大きな交差点に着きました。だけど同時に、様変わりしたその場所に驚いています。


「美亜ちゃん、相変わらずです。でもこれって、情報操作するのが難しいんじゃないのですか?」


 せめて、その赤木会長のお父さんが言った、妖気を抽出している会社のビルだけをと思ったけれど、どうやら駄目だったようです。


 ついでにその周りには、捜査零課の人達が、一般人が入らないようにと、一生懸命に動いていたけれど、上空にヘリが飛んでいますよ、ヘリが……これ、絶対にニュースにされますよ。


「ふっふ~ん。どうよ、椿。私の能力に驚いて……」


「いや、もうちょっと調整出来るようにして欲しいです」


「なっ……?! お、驚いてな……いや、そりゃそうだけどね。それに私、妖気が少ないし、調整なんて……」


 それは分かるけれど……でもね、人にバレずに陰で動いていくのが、妖怪なんでしょう? 目立ったら大変な事になりますからね。


「しょうがないです。今度僕と一緒に、その辺りの修行をしましょうか」


「つ、椿。あんた……いや、私はライバルよ! あんたの助けなんか……か、うぐっ」


 ま~だそんな事を言うんですか? だから僕は、真っ直ぐ美亜ちゃんの目を見ます。だって、僕達は友達でしょ?


「ごめんなさい……」


「それで良いんです」


 それよりも、早く赤木会長のお母さんを見つけないとね。

 という訳で、その夫である赤木会長のお父さんに、その場所の話を聞きます。何だか、この首輪が良く似合っていますね。


「さて。赤木会長のお母さん、垢舐めの妖怪さんは、地下のどこに捕まえているんですか?」


「あ、案内します」


「ありがとうございます」


 それと、赤木会長はいつまで呆然としているんでしょうか? ずっと樹海を眺めていますよ。


 そうそう。樹海の木には、そのビルの従業員や社員の人達が、蔦で捕らえられています。

 僕が美亜ちゃんに指示をしておいたんですけど、誰が半妖で、誰が亰嗟の人間なのか分からないので、一旦そうさせて貰ったんです。

 もちろんだけど、地下に居る人達全員もです。美亜ちゃんのこの呪術、奇襲にはもってこいですね。


 そして捜査零課の人達が、その人達1人1人に事情を話し、その人の話を聞き、亰嗟と全く関係や繋がりが無いと分かれば、直ぐに解放していっています。

 たっぷりと謝罪をしてですけどね。ごめんなさい、助かります。


「ふぅ~やれやれ、全く。こんな大捕物は久々だな。で、その捕らえられている妖怪の場所を、社長自らが案内か……君は相変わらずだな」


「ごめんなさい、三間坂さん」


 僕の横で、煙羅煙羅の半妖三間坂さんが、苦笑いしながらそう返してきます。


「はっは、気にするな。バレないようにとこそこそ水面下で動く奴等は、こうやって手早く捕まえる必要がある。その為には、こんな大胆な攻めも、時には必要さ。まぁ、後始末や外堀を埋めていくのは、俺達に任せろ。君は、やりたい事をやりたい様にすれば良いさ」


 杉野さんもそうなんだけれど、捜査零課の人達は、随分と寛容ですよね。おかげで動きやすいし、仕事もやりやすいです。いつも助かっています。


「今回は俺になっちまうが、本当は杉野が行こうとしていたからな。流石に復帰もまだなのに、無茶されると困るから、君のお姉さんが止めていたよ」


 杉野さんの方は相変わらずでしたね。


 そんな事を三間坂さんと話しながら、皆で一緒になって、そのビルの中に入って行きます。

 三間坂さんは、捜査課としてちゃんと仕事をしないといけないみたいで、部下への指示も合わせてやっていますね。とても大変そうです。


『しかし、椿よ。もう殆ど、ここのビルに居る人間は、捕まえているんだろう?』


『そうだな。こんなにゾロゾロと複数人で行く必要があるか?』


「全員捕まっていればね。だけど、数人が捕まらずに、地下に居るようなんです。それなら、複数人で行った方が良いでしょう?」


 目的の地下から、ちょっとだけ妖気を感じるので、亰嗟のメンバー何人かが、この樹海の蔦から逃れているんでしょうね。

 そうなると、隠れて攻撃される可能性もあるので、複数人の方が良いという事なんです。


 すると、僕達が地下に向かおうとした瞬間、三間坂さんが口に咥えたタバコから、大量の煙を出してきました。

 そしてそれは、ゆっくりとフロアに充満していき、上へ下へと漂っていきます。


「ふん……ここより上には誰も居ないな。地下、その階段の途中に5人。下の踊り場に10人。奥に1人と、妖怪が1人? 誰だこいつは、やけに堂々としていやがるな」


 凄いですね、三間坂さんのその煙。タバコが妖具なのかな?

 そうだとしたらこの煙は、感知する為の煙なのかな。他にも色んな煙がありそうです。捜査するにはうってつけの妖具じゃないですか。


 それと、その地下の妖怪を監視している人ですけど、この感じは知っています。想像した妖怪を、描いて具現化する本の妖具の持ち主、和月慎太。

 丘さんと一緒に、自称亰嗟のナンバー2を名乗っていた人です。でも丘さんが死んで、本当にナンバー2になってしまいましたね。半妖と、アルバイトの人間達の中でだけど。


「三間坂さん、大丈夫です。この人なら、まだ何とかなります。それよりもその煙って、外に漂わせて、近付いてくる人達を察知する事って出来ます?」


「無理だ。風で舞い散ってしまう」


 残念です。それなら、美亜ちゃんに外の警戒を頼むしかないですね。

 美亜ちゃんは妖気が少ないし、調整も出来ないから、暴走させそうなんですよね。だけど、仕方が無いです。


 そして僕達は、そのビルの広い玄関ホールを抜け、廊下を進み、地下に降りる階段まで辿り着くけれど、確かに階段の途中に、半妖の妖気を感じます。待ち伏せされてる。

 それと、階段の壁にも妖気を感じるので、誰か妖具で隠れているのか、それとも妖具で罠を仕掛けられたのかのどちらかです。


「よし。ここは、私達がやる。楓」


「了解っす! 妖異顕現、狸腹反鏡りふくはんきょう


 すると突然、楓ちゃんが自分のお腹を叩く動作をしてきます。その瞬間、目の前に煙が現れて、その中からお腹に大きな鏡を付けた、狸の像が現れました。


「いくよ! 凍れ!」


 そして今度は、その鏡に向かって雪ちゃんが、指に付けた妖具から冷気を発します。


「それを倍にして、階段に向かって反射っす!」


 それってまさか、君の『鏡映し』の強化版ですか?

 凄い……あっという間に、階段の床や壁が凍っちゃいました。

 つまり、これで隠れている人達も、全て凍らせて捕らえられているから、あとは僕が溶かして、三間坂さんが捕まえればって感じですか。でもね……。


「これ、どうやって降りるの?」


 階段の床も凍っているから、このままだと、降りる時に滑って危ないってば。


「椿、ファイト」


「姉さんが溶かせばOKっすよ~って、いだだだ!」


「椿、何するの? いたた……」


 とりあえず、2人の影の腕を操作して、こめかみにそっと当てると、あとは力を込めてグリグリします。

 結局僕がやるのなら、最初から僕が対策をすれば早いってば。全くもう……やる前に相談して欲しかったです。


「皆。僕がリーダーだったらさ、これからは何かする時や、作戦がある時は、僕に相談してからにして下さいね。何の為のチームですか?」


「は、はい!」


 皆一斉に良い返事です。それと、相変わらず白狐さんと黒狐さんは、何を呟いているんですか?


『う~む……やはり、尻に敷かれる姿が……』


『白狐、止めろ。そう考えるな、プラスに考えろ。良き妻だろう』


 だから、それも聞こえてるってば。僕の耳を舐めないで下さいよ。

 だから影の妖術で、今度は自分の腕の影を伸ばして、白狐さんと黒狐さんのほっぺを片方ずつ、思い切りつねっておきます。


『いたたたた!! 悪かった。我が悪かった、椿よ。大丈夫じゃ、逃げわせん!』


『いつつ……! まさに地獄みーーいたたた!』


 黒狐さんは更に余計な事を言いそうだったので、そっちの方に振り返って、僕自身で両方のほっぺをつねっておきます。ついでに、そのまま円も描いておきますよ。


『悪かった、椿! 俺が悪かった!!』


「宜しい」


 そして僕達のその様子を、皆は笑顔で見ていました。

 何だか無性に恥ずかしいので、皆のほっぺもつねっておきましょうか?


「ちょっと、椿ちゃん! 何で!?」


「あんた、照れ隠しも良いところじゃないの!」


「姉さん……自分達は完全にとばっちりじゃないっすか」


「椿になら、良い」


「雪さん、変な事言わないで……」


 だけど、三間坂さんも赤木会長も、それを呆然と見ているのは何ででしょうね?


「おいおい。ここは敵地だぞ」


「椿君……更に天真爛漫に。あんな性格だったのか。いや、しかし……リーダーシップっぷりは発揮しているし、仕事はして……う~ん」


 どうやら怒るに怒れない様です。

 だけど、緊張して上手く事が運ばないよりかは良いんじゃないですか? それに僕だって、ちゃんとしなきゃいけない時はちゃんとします。


 でもね、今はおしおきタイムなんです。

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