第玖話 【2】 赤木会長への説得

 目の前に立ち塞がる赤木会長に、僕は退いて欲しいと、そう目で意思表示をするけれど、会長は退いてくれません。


「宗二、良いぞ。そりゃお前は私を守らないとなぁ……」


 そう言うとその人は、ゆっくりと赤木会長に近付き、両肩に手を置いた。

 これは、何か弱みでも握られていますね。そう言えばさっき、お母さんの事を言っていましたね。捕らえている様な言い方で……。


「ここには……いない。何処か別の場所ですね。赤木会長。お母さん、人質に取られているよね?」


 すると赤木会長は、一瞬目を見開き驚いた表情を見せた。だけど直ぐに戻って、あり得ない事を口にしてきました。


「違うよ。私は私の意思で、父に協力しているんです。だから、助けよう等と考えーー」


「うわっ?! 何だ、これは!」


「なっ!?」


 嘘がバレバレですよ、赤木会長さん。

 学校に居た時の方がもっとひょうきんで、とらえどころがない人だったよね?

 それに、僕の妖術分かっています? 影を使えば、会長が立ち塞がったとしても、全く意味が無いんですよ。


「父上!」


 とりあえず僕の影で、赤木会長のお父さんを捕まえたので、あとは僕お得意の尋問です。


「さ~て……妖怪から妖気を抽出しているその場所、教えてくれます?」


「ぬっ……ぐぅ! これくら……いひゃひゃひゃひゃ!!」


 どうせ、1回では喋らないと思っていましたよ。だから今度は、自分の影の腕にくすぐられておいて下さい。


『椿、お主……本当にそれが好きじゃな』


「何で? 面白くないですか? そ~れ、コチョコチョ」


「いひゃひゃひゃひゃ……! や、やめ、やめてくれぇ!」


 こうやって、くすぐったくて悶えている所を見ると、何ともいえない優越感に浸れて、癖になっているんですよ。


「それじゃあ、早く話して下さい」


「ひぃひぃ、だ、誰が……話すか!」


「強情ですねぇ……しょうがない、追加です。レイちゃん!」


「ムキュゥ!!」


「な、何だ!? それは!」


 鞄に付いているレイちゃんに呼び掛けると、まるで分かっていたかのようにして、レイちゃんは一つ目の細長い狐の姿になって、そのフサフサの毛で、赤木会長のお父さんの体をくすぐります。


「ひぃぃ!! ひゃはははは!! や、やめ、本当に止めてくれ……い、息が……いひゃひゃひゃひゃ!!」


 それにしても、面白い笑い方ですね。ずっとやっていたいかも……でも流石に、赤木会長が止めてきましたね。


「止めろ! 椿君! 君は、どんな奴等を相手にするのか分かってーー」


「亰嗟でしょ? どうせ僕は狙われているし、逃げてばかりじゃ改善策も見いだせません。だからって、無策で戦いを挑む訳じゃないですよ」


 その言葉に、赤木会長はまた目を見開いています。どれだけ驚いているんですか?


「椿君……君は……」


「僕は半年間、最強の鬼の下で修行をしていたんです。もう、半年前の僕とは違いますよ」


 それにしても、あなたのお父さんは本当に強情ですね。まだくすぐりの刑に耐えていますよ。

 仕方ないですね。これは極力使いたくなかったけれど、やっぱり手段なんて選んでいられないようです。出来るだけ急がないと、僕のこの妖気を察知して、あの鬼さんや妖魔人達が来てしまいます。


「ほぉ~ら。赤木会長のお父さん、僕の尻尾を見て下さい」


「ひぃ、ひぃ……えっ? はっ……な、なんと……美し……」


 影の妖術を引っ込めて、元の狐色の毛色に戻ると、赤木会長のお父さんに、自分の尻尾を見せびらかします。

 要するに、魅了させているんです。本当は嫌ですよ。だけど、僕の考えが正しければ、この人も……。


「あぁ……是非とも触らーー」


「嫌で~す。だったら、妖怪から妖気を抽出する場所、教えて下さい」


 やっぱりこの人も、人外萌えだった。多くないですか? そんな人達。

 それに、例え魅了させても、こんな人には触らせたりしません。だから僕は、自分の尻尾を持ち上げて、その人の手では届かない所まで上げたり、手から反らしたりしています。


「あぁ……! 言う、言います! 場所は、堀川御池の交差点にある、私の会社のビルの地下です! 社名は――」


 うわぁ、意図して人に使ったのは初めてだけど、なんて効果なんですか。ピョンピョン跳び跳ねて、僕の尻尾を触ろうと必死だよ。

 これは、人には使わない方が良いですね。無意識はしょうがないけど……。


 とにかく、場所は分かりましたね。京都市の主要道路、御池通りと堀川通りの交差点ですね。

 あそこは確か、大手企業のビルが立ち並ぶ場所ですし、通りもむちゃくちゃ広くて、地下駐車場がある程です。地下にそれだけの施設が作られていても、不思議ではないですね。


「さぁ、言ったぞ。さ、触らせてくれ。は、早く触らせて……!」


 それにしても、自分でやっておいてなんですが、気持ち悪いですね、これは……。

 それに、触らせるわけないですからね。だから、このまま捕らえておきます。あのアイテムで……。


「触りたいのなら、ちゃんと僕の言う事を聞いて下さいね~ほら、この首輪を着けて下さい」


「は、はい!」


 そして僕は、赤木会長のお父さんに首輪を着けます。そうです、あの隷属の首輪をね。


「よし。それじゃあこれからは、ちゃんと僕の言う事を聞いて、妖気を抽出するなんて事は止めて下さいね!」


「はい!」


「父上~!?!?」


「何ですか? 赤木会長。まだ何か文句でもありますか?」


 驚いた表情のままで口をパクパクさせても、こうなってしまったお父さんを庇う理由なんて、どこにも無いでしょう? だから、素直になって下さいよ。


 そのまま僕は、赤木会長に近付いて、下から見上げます。


「赤木会長。本当は、お母さんを助けに行きたいんでしょう? でも、敵が恐ろしいから、自分1人では勝てるわけが無いから。だから、自分の身を犠牲にする事しか、お母さんを守る術が無かったんだよね?」


「くっ……知っているなら何で」


「それを、あなたのお母さんが喜ぶと思いますか?」


「うっ……しかし、敵が……」


 まだそれで尻込みしているんですか? 赤木会長は、意外と情けないですね。

 とりあえず僕は、雪ちゃんに目配せをし、妖怪フォンを使って、別で動いていたチームに連絡をして欲しい事を伝えます。


「雪ちゃん」


「大丈夫。場所聞いた瞬間、美亜に連絡した。彼女の呪術で、そのビルの周りを、樹海で埋め尽くし、逃走出来ないように頼んだ。楓とわら子、里子も向かうそう」


「ありがとう。それと、亰嗟の下っ端は良いけれど、幹部の人や鬼が出て来た時は、直ぐに逃げてって、そう伝えて。それと、僕達も直ぐ行くからって」


「分かったわ」


「つ、椿君?!」


 また先輩は驚いていますね。そんなに意外ですか? こんなに動けるようになっていて。


「赤木会長。僕だけじゃなく、他の皆だって、強くなろうと修行をしているんですよ。それなのに赤木会長は、半年前の僕達を見ているんですか?」


「うっ……」


「それと、少しは男らしい所も見せてくれませんか? そしたら、尻尾くらいは触らせますよ」


「ははっ……それが嘘だと、気付いているよ。だけど……そうだね、君の言うとおりだ。私だって、母を助けたいんです」


 そう言うと、赤木会長は目を閉じ、ゆっくりと深呼吸をしています。そして再び目を開けると、その目はもう、決意の目に変わっていました。


「分かった、椿君。力を貸してくれ。母を、助けたい!」


「良いですよ。それじゃあ皆、行きますよ!」


 僕はそう言うと、そのまま家の玄関へと向かいます。もちろん、会長のお父さんも引き連れてね。奴隷がまた増えた気がするけれど、別に良いです。


『白狐……』


『あぁ、黒狐よ。我も同じ事を考えていた』


『俺達は、とんでもない妖狐を嫁にしようしているんじゃ……』


『うむ……何故か、椿に尻に敷かれる姿が目に浮かんだのだが……』


 また何を言っているんですか? 全部聞こえていますよ。だから僕は、2人に向かってこう言います。


「白狐さん黒狐さん、僕から逃げるの? 僕、白狐さん黒狐さんと一緒じゃなきゃ……ぐす。それに、こんな僕が嫌なんだったら、元の気弱な僕に戻るけど?」


『うわぁあ!! な、泣くな椿よ! 大丈夫じゃ、逃げんから!』


『そ、それに。今の椿の方が、可愛らしくて良いぞ!』


「本当?! 良かったです」


 分かってはいたけれど、実際に言われると、やっぱり嬉しいですよね。

 だから僕は、白狐さん黒狐さんの間に入り、2人の腕に自分の腕を絡ませます。要するに、2人と同時に腕を組んでいる状態です。

 あっ、赤木会長のお父さんはちゃんと、僕の影の腕でロープを掴んでいるから、大丈夫ですよ。


『嘘泣きか……椿よ』


『くそ……それでもその可愛さは……怒れん』


 やっぱり白狐さん黒狐さんは、僕に甘いですね。駄目ですよ、ちゃんと怒ってくれないと。僕、止まりませんよ?

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