第玖話 【1】 赤木家の狙い

 それから僕達は、警護の人達に背中から銃を突きつけられたまま、変態会長の家に、ベランダから入っていきます。


 これはどう考えても歓迎されていません。隙を見て逃げた方が良いかも。

 白狐さん黒狐さんも、僕と同じように考えていたみたいで、僕とアイコンタクトを取ってきました。


「さて、そこにかけてくれ」


 ソファーに座った瞬間、そこに仕込まれた変態会長の妖具の舌で、全身舐められるなんて無いですよね?

 そう思いながら変態会長を見ると、凄く強張った顔をしていて、とてもじゃないけれど、冗談が出来る状態じゃなかったです。


 それならと思って、僕はソファーに座ります。

 それにしても、ここは応接室か何かでしょうか? 真ん中に置いてある長テーブルも、このソファーも高級そうです。


「さて、何か飲みますか?」


 僕と雪ちゃんがソファーに座って、白狐さんと黒狐さんがその後ろに立って警戒する中、変態会長のお父さんが言ってきました。

 でも、僕達は侵入者です。こんな風に、飲み物なんか進めないでしょう。それに、雪ちゃんの家での事もあります。僕も警戒を怠りませんよ。


「あっ、いえ、大丈夫です。それよりも、勝手に侵入してすいません。だけど……」


「息子をーーいや、半妖の息子を軟禁しているから、助けに来た。ですよね?」


 全部バレています。こっそり侵入なんて、最初から不可能でした。

 そうなると、ここに居る人達は全員、僕の尻尾と耳、そして白狐さん黒狐さんも見えているんですね。いや、見えていないと銃を突きつけられませんね。


「その情報、どこからですか?」


 出来るならその情報も手に入れたいけれど、そう簡単には教えてくれないでしょうね。でも、駄目で元々です。


「あの八坂という人ですよ。あなた達の事も教えて貰いましたし、こういう行動に出るという事も、全て教えてくれました。しかし、時間が掛かりましたな。餌をぶら下げておいたのに、中々見つけられずにいるなんてね」


 意外と呆気なく教えてくれましたね。


 それに朱雀さんによれば、実は前からこの家に居るんじゃないかと、その予測はつけていたようなんですが、あからさま過ぎたらしいんです。

 ベランダに舌みたいな妖具があったり、屋根にもそんな妖具が沢山置いてあったらしいです。


 何を勘違いしているのか、この人達は僕達の事を、知能が全く無い獣か何かだと思っていませんか?


「流石に怪しすぎたんですよ。あんなあからさまなのは……」


「おや。あなた達妖怪には、知能があったのですか?」


「ふざけないで下さい。伝承を読めば、知識があるくらい分かるよね?」


 すると、変態会長のお父さんは表情を変えず、ちょび髭を指で撫でると、とんでもない事を言ってきました。


「妖怪なんて、同じ行為しか行わないでしょう? そんなの猿以下、ただの獣です。しかし厄介ですね。伝承とは違い、あなた達には知性や理性、感情があるという事ですか……そうなると、あんな事をさせるのは、私も些か良心が痛みますね」


 その前に僕の後ろから、白狐さんと黒狐さんが変態会長のお父さんに飛びかかりそうです。

 雪ちゃんも自分の父親と重ねているのか、握り拳を作り、力を込めています。皆、ちょっと冷静になって下さい。


「皆、落ち着いて下さい。それで、変態会長のお父さん。あなたは僕達に何をさせようと?」


赤木半二あかぎはんじです。ふむ。しかし、息子のその2つ名は中々に面白い。言い得て妙だ。あの女の息子に相応しい」


 何だか話を逸らされているような気がするけれど、このお父さんからは妖気を感じられないし、さっきの言葉からして、お母さんの方が妖怪みたいですね。垢舐めのーーって、その妖怪が女性って事は、このお父さんもしかして……。


「話を逸らさないで下さい」


「あぁ、良いですね。その強気の目。うんうん、そういう女性の方が私は好きですよ」


 やっぱり、この人マゾです。しかもこれは、相当じゃないでしょうか。完全に、変態会長の父親です。


「そうそう、質問の答えですが。これはあなた達にとっても、利益のある事ですよ」


 そして再び、変態会長のお父さんはちょび髭を撫で始める。その髭が自慢なんでしょね。毛先が巻いているから、どこが良いのか分かりません。

 それをもし、白狐さん黒狐さんがしていたらーーあっ、しまった。変な想像なんかしたら駄目でした。笑っちゃいそうになっちゃいましたよ。我慢我慢。


「私が行っているのは、新エネルギーの研究です。そこで、八坂さんのあの発表。そして私に、妖怪や半妖が妖気を持っている事を教えて貰いました」


 嫌な予感がします。というか、もう確実にそうとしか……。


「素晴らしいではないですか。それを新たなエネルギーとすれば、半永久的なエネルギーが手に入るんですよ! あの女が妖怪だとは知らなかったが、八坂さんのお陰で気づきましたよ。研究にはうってつけの息子と、その妖気を抽出する妖怪が、私の手元にあったんですからね!」


 やっぱり……僕達を、人間の生活のエネルギーにするつもりです。でもそんな事、人間に出来る訳が無いんですよ。


「でも、そんな事はそう簡単には……」


「ところがね、私達に協力を申し出た組織がありましてね……亰嗟という組織なんですよ」


 そこで変態会長のお父さんが、自信ありげにその組織の名を言いました。


 なる程。それでこの家に、亰嗟の人間が出入りしていたのですね。

 でも今回ばかりは、亰嗟の狙いが分からない。この研究が完成すれば、亰嗟に居る妖怪達まで危うくなるんじゃないのですか?


「さて……そこであなた達への利点ですが、この研究、実はどうしても相互する必要があるのですよ」


「相互?」


「そう、渡し合うのです。妖怪は妖気を渡しますが、人間が徴収するだけでは無いのです。この研究、人間の生命力も必要なのですよ。それを使い、妖怪から妖気を抽出します。妖怪はその人の生命力を、妖気に変換出来ると聞きましたよ」


「それは、ほんの一部の妖怪だけです。勘違いしないで下さい」


 都合の良い事だけを言われていますね。

 恐らくそういう妖怪達に、快く協力して貰う為の言葉なんでしょうね。だけどそれを、存在する全ての妖怪がそうなんだと、勘違いして当てはめてしまったようです。


「なんと! それは参りました。ふむ……では、その妖怪を教えーー」


「教えるわけないでしょう。仲間は売りません」


「でしょうね……そうなるとやはり、半妖を使う事になりますか」


 どういう事ですか? それに、この人がそう言った瞬間、変態会長が震え始めました。


「人間と妖怪の合いの子。人間の生命力と、若干の妖気を持っているまさにハイブリッド! こいつ等を使えば、わざわざ相互させずに、ダイレクトに妖気を吸えますからね!!」


「なっ!!」


 抽出する機械は、そんな厄介な装置なんですか?! でも半妖を使えば、その生命力を使って、半妖の妖気を抽出出来るという事ですか? でも、それはーー


「その半妖は、死ぬ」


 雪ちゃんが静かにそう言ったけれど、眉間にしわを寄せて、更に拳を強く握り締めています。抑えて下さい、雪ちゃん。僕だって我慢しているんです。

 それと、半妖の妖気はそこまで多くない。それでも充分なんでしょうか? 機械を見てみないと分からないけれど、今はそれどころじゃないですね。


「さて、そうなると。もう妖怪は要らないですね。半妖は欲しいですけど……」


 そして次の瞬間、護衛の人達が、雪ちゃんに銃を突きつけてきました。僕の親友に、何を突きつけているんですか?


「あなた達妖怪は必要ありません。お帰り頂いて結構です。ただし、そこの半妖の子は置いていって下さい」


「断ります!! それとね、帰るのは帰るけれど、赤木生徒会長も一緒に連れて帰らせてもらいます!」


 もう僕だって我慢できません。立ち上がって怒鳴ってしまいました。

 そしてそれは、白狐さん黒狐さんも同じでした。狐の姿なら、既に牙を剥き出しにしていてもいいくらいに、顔を怒りで染めています。


「それは残念です。どうやらあなた達も獣、知性も理性もありはーーぐぁ?!」


黒雷放電こくらいほうでん。もう喋るな。うっかり殺してしまいそうだ』


 するといきなり、黒狐さんが黒い雷の妖術を発動して、辺りに放電させました。そのお陰で、SPも感電して倒れ、銃を握るどころじゃなくなっています。


「こ、これが……妖術……! 素晴らしい。やはり、妖怪から抽出した方が良いですね」


「黒狐さん。効いてない」


『しょうが無い。もう一発ーーなっ!』


 黒狐さんの妖術が、赤木会長のお父さんにだけは効いていなくて、黒狐さんがもう一発黒雷を放とうとした瞬間、目の前に誰か立ち塞がりました。


「赤木会長?!」


 それは、父親の隣に座っていた赤木会長でした。

 何で……何でそんな事をしているんですか?! こんな人を庇うなんて。


「頼むから、帰ってくれ……そして、この件にはもう、関わらないでくれ」


「何で、ですか……?」


「良いから、帰ってくれ」


 そう言われて、すんなり帰るわけにはいかないです。このままじゃ、あなたが死んじゃうんですよ。そんなの、納得出来る訳ないです。


 だから僕は、赤木会長を睨み付けて、ただでは帰らないという意思表示をします。


「馬鹿野郎……」


 馬鹿はどっちでしょうね。理由があるのなら、ちゃんと言って欲しいです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る