第参話 【1】 魂を猟る妖怪「魂猟」

『は~い! 視線、こっち向けて下さい~!』


 は今、オタクっぽい幽霊さんの言うとおりにして、写真を撮らせて上げています。

 僕はいつもの巫女みたいな格好だから良いけれど、注文が難しいですね。色んなポージングをさせられて、色んな角度から写真を撮られて……なんて言いましたっけ、これ。あぁ、コスプレイヤーでした。


『ネコ耳の子、もっと笑顔でお願いします~!』


「くっ……」


「美亜ちゃん。ちゃんとやらないと、この人が呪いをかけようとしている幽霊さんなら、機嫌を損ねたら駄目なんでしょ?」


「何で、何で私まで……」


 ここの神主さんが、こういうのが見える人で助かりました。事情を話して、他の巫女服を貸して貰えましたよ。そう、皆の分をね。


「ね、姉さん……いつもこんな、恥ずかしい格好を?」


「恥ずかしいとは何ですか? 全国の巫女さんに謝って下さい、楓ちゃん」


「あの……座敷わらしの私が、こんな格好して良いのかなぁ?」


「ごめんなさい、わら子ちゃん。ちょっとだけ我慢して下さい」


 この幽霊さんは、僕以外も全員見えるみたいで、全員巫女服をご所望されました。

 何でそんなに、巫女さんにこだわるのでしょうか? そこが引っかかります。


「椿と、おそろ……」


「はぁ、はぁ……このまま椿ちゃんと、ペアルックデートを……」


 何だかご機嫌さんな2人は放っておきます。

 とにかく今は、この幽霊さんを操る妖怪を見つけないといけません。


 写真を撮らせながらも、僕はこっそりとスマホを使い、その妖気をチェックしています。

 だってね、1回写真を撮った後に、次はどんなポーズをさせようかって、その場にしゃがんで悩んでいますからね。


「あっ……やっとあった。魂猟こんりょう? 何これ……彷徨う魂を捕まえ、その未練、願いを叶えさせ、満足した直後を狙って食べる妖怪。って、まずいです。このまま満足させちゃったら、この幽霊さんが!」


 そんな妖怪に操られているとは思わなかったです。

 このままでは大変な事になると思った僕は、大声を出して言ったんだけれど、それを聞いた美亜ちゃんは、何故か唸りだしました。


「ん~? 何だか違う気がするわね。この幽霊はこうやって、色んなコスプレイヤーの巫女服姿を撮るために、神社で彷徨っているの? 違うわねぇ……神社を呪おうとしているのよ。その原因が、この幽霊の未練なんじゃないの?」


「あっ……そうか」


 それだったら、何でこの神社を呪おうとしているんでしょうか? 益々分からないですね。

 すると、何故か幽霊さんが急に静かになり、俯いてしまいました。

 もしかして、今のを聞いていたのかな? でも、これは聞かれても良いんです。だから僕は、大声を出したんです。


 実はこの魂猟の操る力は、幽霊さんが自分自身で、操られている事に気付いてくれれば、簡単に解けるんです。手配書にそう書いてありました。

 因みにBランクなんだけど、妖気の質からして、もうBランクじゃないです。


 この妖気の感じからして、魂猟も、寄生する妖魔に寄生されているのは間違いないです。


『……違う……』


「んっ?」


 そういえば、幽霊さんが何か呟いている? なんだろう……。


『こんな……こんな女の子なんか……居るわけがな~い!!』


 そう言うと、幽霊さんは自分のカメラを地面に叩きつけ、壊してしまいました。


 何をしているんですか?!


「え~?!」


「ちょっとあんた、どういう事よ?! こちとら恥を忍んで撮らせてやったのよ! それを『違う』って、どういう事よ!」


 それに納得のいかない美亜ちゃんは、幽霊さんに近付いて抗議しているけれど、ちょっと落ち着いて下さい。さっき自分で言ったよね? 写真を撮る事が、この幽霊さんの未練じゃないって。

 それなら、こうなる事は予想出来たし、自分で言った以上、成仏の条件がこれじゃないのは分かっているはずです。

 それでも撮らせていたのは、機嫌を損ねない為なんだけれど……もしかして美亜ちゃん、自分の美貌を撮らせてやってるって感じで、優越感に浸っていました?


「せっかくの、私の美貌の記録がぁ……へ?ーーふにゃぁ?!」


 やっぱりそうでした。

 それだと話が進まないので、僕は美亜ちゃんの尻尾を掴み、後ろに引きずります。


「美亜ちゃん。ちょっとややこしくなるから、下がってて」


「ふに……っく、尻尾は駄目。椿、止めてぇ!」


 止めませんよ。目的を見失われたままじゃ、危ないですからね。

 だって、その魂猟という奴は、ずっと僕達の近くに居るようで、こっちの様子を伺っている感じなんです。ハッキリとは見えないけれど、これがその妖怪の能力なんでしょうか?


 とにかく先ずは、この幽霊さんの未練を聞き、魂猟の思い通りにはさせない様にしないといけません。


『巫女さんは。巫女さんは……』


 すると今度は、その幽霊さんが体を震わせ、何かを言おうとしています。巫女さんに対して、何か思い入れでもあるのかな? それならやっぱり、この巫女服の姿はーー


『巫女さんは全員。黒髪ロングの清楚系じゃないと駄目だろうが~!!』


「はい?!」


 その言葉に、僕が驚いてしまいました。だって、巫女さんだったらそうじゃないと駄目なんて、そんなの決まっていないでしょう。

 確かに、ちゃんと神社に務めるなら、あんまり染めていたら駄目だろうし、黒髪が定番なんですけど、髪の長さまではいいんじゃないの?

 偏見が強すぎる様な気がします。しかも、急に態度が変貌しているような……あっ、まさか。


 嫌な予感がした僕は、その幽霊さんの頭上を見上げました。するとそこには、白くてブヨブヨした肉の塊に、沢山の顔が付いただけの、何だか良く分からないものが浮かんでいました。


 これが魂猟? 顔が1つだけじゃなくて、いくつも付いているじゃないですか。これは気持ち悪いです。


「なる程。この妖怪さんに食べられた霊魂は、その妖怪さんの体の一部になっちゃうのね」


「ほほぅ、という事は……ここまでブクブク太ったこいつは、それだけ食ったという事っすね。食いすぎっすね」


「だったら、吐かす」


 雪ちゃん、最後に恐い事を言わないで下さい。わら子ちゃんは考えを言った後に、どうしようかと思案してくれています。

 これは本当に、レイちゃんが居てくれた方が良かったかも知れません。でも、あの子もまだ本調子では無いみたいだし、無理はさせられないです。


『黒髪ロング……全員、黒髪ロングに……そうじゃない神社なんて、神様なんて……呪ってやる~!』


「えっ!? たったそれだけの理由でですか?!」


 だけど、ここの神様が張っている結界みたいなもので、完璧に呪えてはいない上に、中にも入れていないじゃないですか。


 そんな時、その魂猟から、何か湯気の様な物が出て来て、幽霊さんに纏わり付かせてきました。

 もしかして、それで力を与えている? それなら、早く魂猟の方を何とかしないと。


『ふ、ふふ……力が湧いてくる。これなら呪える。黒髪ロングじゃない、不細工な巫女さんを使う神社なんか~!! ぐはっ!』


 全身で突撃しても跳ね返ってるし……全く呪えていませんよ。

 そもそも、そんな簡単に呪える相手じゃないのに、魂猟の力で理性まで失っていますね。


 その魂猟の方も、必死にその幽霊の未練を叶えようとしています。叶った瞬間に食べる為にね。

 だけどこの妖怪さんも、寄生する妖魔に寄生されているみたいなので、暴走している感じです。これ以上長引かせるのは危険ですね。だって、魂猟がこっちを向いているんです。


 もしかしたら、あの幽霊さんの未練や願いを叶える為に、神社を呪わせるのではなく、別の方法で満足させる為に、僕達を黒髪ロングの巫女さん姿に、変化させる気なんじゃ……。


「美亜ちゃん!!」


「やってるわよ……! ただ、辺りにこいつ等の邪気が漂っているから、邪気の上書きをするのが大変なのよ!」


 呪いって、そうやるのですか? 邪気を使うんですね。美亜ちゃんが、ずっと必死に相手を睨んでいるなと思っていたら、そんな事をしていたんですか。


「それなら自分が~!!」


 すると楓ちゃんが、くないを片手に握りしめ、急に魂猟へと向かって行きます。

 楓ちゃんってば……この任務の前にやっていた任務で、自分が妖怪を捕まえたからって、調子に乗らないで!


「ぎゃうっ?!」


 ほら~相手の謎の見えない攻撃で、吹き飛ばされているじゃないですか。


「楓ちゃん!」


「あぐっ……! す、すみませんっす。案外強かったっす」


「そりゃ、寄生する妖魔に寄生されているからね。だから先ずは、相手の動きを止めないと。結構力も強くなっているから、高確率で反撃されますよ」


 僕はそう言いながら、尻尾でキャッチした楓ちゃんを地面に降ろします。


「とにかく、皆でこの妖怪さんの動きを止めて下さい。僕は、寄生した妖魔の場所の特定をするので」


 皆に向かって、僕はそう言います。

 今回は、皆の力を借りないといけません。だって、幽霊さんも僕達を襲って来そうだし、寄生する妖魔も、魂猟の肉の体に隠れてしまっているのか、全く出て来ていません。


 だけど、妖魔の濃い妖気を感知すれば、どこに居るかの特定は出来ます。

 その為には、少し意識を集中しないといけません。だから皆、頼みましたよ。

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