第弐話 【2】 北野天満宮にて

 おじいちゃんから色々と聞かされた後、お昼ご飯を食べ終え、僕は白狐さん黒狐さんと一緒に、溜まった任務をこなしています。

 気が付いたら、更に任務が溜まっていました。

 だって、センターが亰嗟に乗っ取られてしまい、その機能を失ってしまったので、ライセンス持ちの妖怪達への任務が、達磨百足さんとおじいちゃんとで作った、こっちのセンターに全て流れてくるのは当然なのです。


 そしてようやく、ライセンス持ちの妖怪さん全てに連絡が付き、前の様な動きを取り戻してはいるけれど、その前に任務が溜まりすぎていて、休みが無いです。


 僕はまだ、妖魔を捕まえる事は出来ないけれど、浄化は出来るので、特別な許可をおじいちゃんから貰って、その退治に出ています。


 ということで今僕達は、上流の賀茂川で悪さをする、河童さんの元にやって来ています。

 女子ばかりを誘拐するらしいので、厳重注意に来たのだけれど……。


『椿! 避けろ!』


「白狐さん、大丈夫です! 吸収して返します!」


 寄生する妖魔に寄生されていて、暴れまくっていました。

 だけど、どうやら寄生された直後みたいだし、本人はかなり抵抗している。更に、河童さんの頭のお皿に、寄生する妖魔の本体も出ているので、これは何とかなります。


「うぐ……ぁぁあ!!」


「大丈夫です、河童さん。今助けます!」


 僕は河童さんが操った川の水を吸収し、直撃しないようにして返します。

 その瞬間、沢山の水が舞い上がり、水しぶきとなって降り注ぐけれど、これを狙っていたんです。


「動水の儀!」


 その舞い散る水しぶきを操り、縄の様にすると、それを河童さんに向かわせ、体に巻き付かせました。あとは妖魔を倒すだけなので……。


「御剱!」


 御剱を取り出し、河童さんのお皿から飛び出している妖魔を浄化します。


「ふぅ……」


『本当に、俺達は必要なのか?』


『黒狐、嘆くな。フォローをすれば良いだろう』


 一息ついたところで、2人が愚痴っています。

 白狐さん黒狐さんは頼りになるんですから、そんなに落ち込まないで下さい。と言いたかったけれど、黒狐さんのスマホが急に鳴り出しました。


『むっ? 電話か? 嫌な予感が……』


 そして黒狐さんは電話をとり、何か話し始めました。また任務でしょうか?

 すると、僕の方のスマホも鳴り出しました。美亜ちゃんから? あぁ、向こうも終わったのですね。


「もしもし、美亜ちゃん?」


「椿、こっちは終わったわよ」


「姉さ~ん!! 自分がやりましたよ~!」


「ちょっと、うるさいわよ楓!」


 電話口の向こうから、楓ちゃんが叫んでいますね。


 僕達は今、チームを分けて任務に当たっています。

 ちゃんと妖魔人の動きも、僕がチェックしています。今は妖界にいるのか、その妖気が無いです。僕が閃空を倒したからでしょうか? 警戒されている感じですね。


 それと、あれだけの戦闘をした後でも、白狐さんの治癒と妖怪食で、もう次の任務をこなせるまでに回復しました。


「とりあえず、こっちも終わった……けれど」


『椿、また任務だが……すまん。白狐と俺2人だけと、指定されてしまった』


『何じゃと? ということは、やしろ関係か?』


『そういう事だ。守り神として、行かねばならん』


 こうやって2人は、偶に神社で起こる事件を解決しているけれど、そこは神域に入ったりする事もあるようで、認められた守り神じゃないと、行けないようなのです。

 それは白狐さん黒狐さんにしか出来ない事なので、僕としても誇らしいです。ちゃんと守り神なんだなって、実感できます。


「白狐さん黒狐さん、僕は大丈夫ですから、行ってきて下さい。でも、亰嗟と妖魔人には気を付けて下さいね」


 僕はそう言って、白狐さん黒狐さんを見送ろうとします。


「丁度良いわ、椿。こっちに合流して。翁から任務を言われたから」


 おじいちゃん……僕達を過労死させる気ですか?

 そりゃ妖怪なんて、妖怪食を食べれば回復するけれどさ、それでも疲労はありますからね! 全くもう……。


『はっはっ……! まぁ、今は頑張るしかないの』


 白狐さん、そうは言っても苦笑いですよ。

 とにかく、愚痴を言っても任務は減りません。こなしていくしかないです。


 それと、河童さんと誘拐された女子達は、新しいセンターの職員達が、ちゃんと保護していきました。


 ◇ ◇ ◇


 その後、白狐さん黒狐さんと分かれた僕は、美亜ちゃん達の待つ、京都市の北野天満宮にやって来ました。


 天満宮と言えば、それだけで分かる人は大勢居ますよね。ここは、学問の神様が祀られています。

 その神社の駐車場側にある、とても大きな鳥居の前に、美亜ちゃんと楓ちゃん、それと雪ちゃん里子ちゃん、そしてわら子ちゃんが待っていました。


 ここの駐車場は広いですし、受験シーズンになると、学生さんでごった返しになります。もうその時期は過ぎたので、人はまばらですけどね。

 だけど、着いた瞬間に分かりました。この神社の周りに、凄い妖気と、憎しみに塗れた邪気が漂っています。


「うわっ……何ですか? この邪気」


「や~っと来たわね~遅かったじゃない? 白狐と黒狐に、た~っぷりと甘えていたようね」


 いや、美亜ちゃん……あのね、これでも僕は急いで来ましたよ。来る前に、2人に沢山尻尾を弄られましたけどね。


「もう、美亜さん。ふて腐れないで下さい」


「そう。椿の尻尾は、皆のもの」


「雪ちゃん。それも違うから……くぅ」


 そう言いながら、僕の尻尾を弄らないで下さい。

 早く任務をやらないといけないのに、何で皆はこんなにもお気楽なんですか?


「と、とにかく……これも妖魔の仕業だろうから、調査しますよ!」


「「「「は~い」」」」


 だけど、美亜ちゃんだけが返事をしませんでした。それどころか、尻尾と耳の毛が逆立っていますよ。まさか……怒ってる? 謝った方が良いかな。


「椿……」


「わっ! ご、ごめんなさい!」


「何で謝ってんのよ?」


「えっ?」


 あれ? 怒っていないのですか? それなら何で、威嚇なんかしているのでしょうか。

 すると、美亜ちゃんが僕に近づいて来て、そのまま僕の耳を弄り出しました。


「ふ~ん……私に、何か悪い事をしたって思ってるのね~可愛いわね~」


「ちょっと、美亜ちゃん! 僕の方が年上だし、リーダーですよ! あぅ、ふやぁ……!」


「そうは思えないのよね~」


 それはそうだろうけれど……このままだと、リーダーとしての立場が無くなっちゃいますよ。とにかく、美亜ちゃんが威嚇していた理由を聞かないと。


「僕に怒っていないなら、何で威嚇していたの?!」


「あら? 気付いていないの? この感じ……誰かがこの神社に、呪いをかけようとしているのよ」


「呪い?! 妖怪さんが?」


「それは分からないわ。だから、調べるにしても注意しないといけないわね」


 美亜ちゃんは呪術専門だから、こういう時は頼りになりますね。だけどいい加減、僕の耳から手を離して下さい。


「とにかく調べるので、皆僕の耳と尻尾から手を離して下さ~い!」


「「「「「魅了能力があるからしょうが無い」」」」」


「全員口を揃えて言わないで!」


 分かっていますよ……魅了能力があるのはね。だけど流石に、限度ってものがあるんですよ。

 この魅了能力を、何とかコントール出来るようにならないといけません。そうしないと、僕は悶え死んでしまいます。


「もう……皆、行きますよ!」


 何とか尻尾から皆を引き離そうと、僕が先に歩き出すけれど、その瞬間後ろから、男性の声が聞こえてきました。


『ケモミミ……巫女さん妖狐……も、萌える!』


「へっ?」


 驚いて後ろを振り向くと、丸くて分厚い眼鏡をかけた、髪型がおかっぱの男子学生さんが居て、興奮気味でそう言ってきていました。

 というか……腰から下が透けてる? まさか、幽霊さん? でも、沢山の邪気がこの人から湧き出ています。そして、僕達に迫って来ている。


 しまった……これなら、レイちゃんも連れて来れば良かったです。

 でも、出会った頃みたいに小さくなってしまったレイちゃんは、日中はひたすら寝ているし、夜は霊気を補充するために外に出て、一生懸命悪霊となった妖怪を食べていますからね。あんまり無茶はさせられないのです。


 そうなると、ここは僕達だけで、この男子学生さんを成仏させるしかない。

 だけど、その頭の先からは、妖気も感じられます。まるで、操られているような……二重で厄介です。


『妖狐……巫女さん……萌え限界、突破している……! あは……はは。しゃ、写真、写真を、撮らせてください!』


 駄目だ。この人を拒否したら駄目だと分かっていても、鳥肌が立っちゃうんですけど。


「椿ーー」


「姉さんーー」


「「「「「ファイト!」」」」」


「皆他人事だと思ってるでしょう!?」


 全部僕に押し付ける気ですか?! そんな事はさせませんよ! 皆にもやって貰います。

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