第拾弐話 【2】 新たな妖怪センターに潜入?

 丘魔阿さんを説得した僕達は、その翌日、早速センターにやって来ました。

 ゾロゾロと集団で行くわけにもいかなかったので、僕と酒呑童子さんだけで向かう事にしました。僕のチームの皆は、何かあった時の為にと、センターの近くで待機してもらっています。


「さて、これから潜入するわけだけれど……あなた、そんな変化が出来る様になったのね」


「その通りです」


 今僕は、狐の姿になって、そのままキーホルダーに変化しています。白狐さん黒狐がやっていたみたいにね。だから、その……体が動かせなくてキツいです。

 だって、動けないようにしっかりとホールドされた様な状態だからね。キーホルダーになった感覚なんて、人間には絶対には分からないと思います。


「さてと……そんじゃあ、行くか」


「待って下さい。酒呑童子さんはそのままですか?」


「あぁ、問題ねぇ。作戦があるからな」


 そうは言っても不安です。

 僕は一応、酒呑童子さんのトレンチコートの内側に入れてもらっているけれど、酒呑童子さんは何の変化もせず、変装もしていないです。


 その前に……ここ、凄くおじさん特有の匂いがするし、何より体臭がお酒臭い。もう今すぐにでも出たいよ。潜む場所を間違えたかもしれません。


「それじゃあ、行くわよ~」


 丘魔阿さんはそう言うと、妖怪センターの入り口に向かい始め、酒呑童子さんもそれに続きます。とりあえず、僕はキーホルダーに徹します。そう、僕はキーホルダー。


「お疲れさま~ちょ~っと失礼するわよ。亰嗟の丘魔阿よ。調べたい事があるから、良いかしら?」


「これは、お疲れ様です。それと……そちらは?」


 この声は、知らない妖怪さんの声ですね。多分、来客の対応をする妖怪さんでしょうね。話し方が丁寧です。


「おぉ、俺は酒呑童子だ。ちょいと、雷獣に話しがあって来たんだ。こいつから話は聞いているだろう? 亰嗟を設立した者として、ちょっくら警告にな」


 すると、酒呑童子さんは堂々とそう言いました。いや……せめて何か誤魔化したりはしないんですか? でもこれは、堂々としすぎていて、逆に怪しくない。流石です。


「あぁ、話しは伺っています。ですが、何故亰嗟のメンバーと?」


「そりゃお前、やり方が雑なんだよ。亰嗟が、お前等を怪しんだという事だ。監視係として、俺と一緒に付いて来ちまったんだよ。ったく、何で俺が行動を制限されなきゃならねぇんだ」


「あら、ごめんなさいね~茨木童子の命令だから~」


 これ……酒呑童子さんが咄嗟に思い付いたシナリオですか? こんな風にやるなんて、一切聞いて無いですよ。

 だけど、外の様子が分からないから、相手の表情が分からないです。何だか強い妖気を感じるので、これは疑われているんじゃ……。


「ほう……でしたら、そのコートの内側に隠している、妖狐が化けたキーホルダーは、いったい何でしょうかね?」


 ほら、もうバレた!?

 というか、それにしては早過ぎませんか? 僕の存在までバレるなんて、いったいどういう事ですか。


「なっ……くそ! しまった! こいつ、百々鬼どどめきか!」


「あらまぁ……腕を後ろにして隠しているなんて、意地悪ねぇ」


 あっ、百々鬼さんって確か、体中に無数の目が付いた妖怪ですよね。透視能力まであったっけ?


「申し訳ないですが、警備を強化しており、族の侵入は絶対に許さないです。それに、海外の妖具は強力な物が沢山ありましてね。透視の出来る妖怪がいるのですよ」


 そうか、センターは亰嗟と手を組んだ。それは、海外の妖具を使って、ここの警備を強化する為。

 それと、この事が分からなかったのも、きっと情報漏えいの対策もしているから。完全に準備不足。


 アナログな方法では、到底侵入なんて出来なかったじゃないですか。


「さて。そちらの亰嗟の方も、そんな方と一緒に居るという事は、そっちの味方をすると、そういう事で良いですか?」


「えぇ、別にそれで良いわよ。何だかちょっと面白くなってきたわ~酒呑童子、あなたどうせ、最初からやる気だったんでしょ?」


「ふん。あんな猿芝居でどうにかなるとは思ってねぇよ。急場しのぎで、ちと無理があったからな。だから、無理やり侵入させて貰うぞ!」


 あのぉ、僕はどうすれば? 最初から暴れるつもりだったのなら、僕はキーホルダーのふりをしなくても良かったような……。


「行け、椿!」


「へっ?! うわぁぁあ!!」


 すると、急に外の光が僕を照らしたと思ったら、そのままキーホルダーになっている僕を掴み、センターの奥に向かって放り投げられました。


 これは最低ですよ、酒呑童子さん!! 計画が穴だらけ過ぎます!


 この作戦、皆にも注意されていたのに、あなたが秘策があるって言うから、それで納得したんですよ。その秘策って、注意されていたこれですか?! 流石は悪鬼です……って言ってる場合じゃないです。


「くっ!」


 僕は急いでキーホルダーの変化を解き、狐の姿になると、そのまま奥の通路に向かって走りだす。でも、通路が3つあるよ。こんなの、僕達が居た時にはなかったよ。増築してる?! いったいどっちなんですか?


「椿! 通路は変わっても、場所は変わってねぇ! 左だ! そんで『い』の保管庫、B63だ! パスは4桁、俺ゆかりのものだ!」


 要するに、僕が行けという事ですか?! それと、パスワードが大雑把です! でも、このままだと追われるし、何より敵も沢山居るのに、ここでパスワードなんて言う訳にはいかないですよね。


 それから僕は、左の通路に向かって走り出し、そのまま通路を駆け抜けて行く。

 同時に警報が鳴り響き、その後に至る所から、新しいセンターに勤める妖怪さん達が出て来ました。


「そこの妖狐、止まれ!」


「止まりません!! 黒槌岩壊こくこんがんかい!」


 走りながら尻尾をハンマーに変化させ、前のハンマーよりも硬く強力になったもので、僕を捕まえようとする妖怪、|手長てながさんを吹き飛ばします。

 確かに、その長い手は捕まえるのにはうってつけですね。でも、1度その腕を避けてしまえば、戻すのに時間がかかるので、その間は懐ががら空きです。


 そして、また次々と手長さんが現れると、僕を捕まえようと襲って来ました。


 酒吞童子さんが言っていた保管庫というのは、殆どが地下のはずです。酒呑童子さん……場所くらいは言って欲しかったです。


 手長さんをハンマーで吹き飛ばしながら、先へ進む僕。だけど……。


「きゃぅ?!」


 ある地点を通り過ぎた瞬間、何故か横の壁から、太い鉄で出来た半月の輪が飛び出し、僕を捕獲してきました。


 こんなの、前のセンターには無かったはずですけど?!


「良し! 先週から設置した、新しい防犯システムが役に立ったぞ!」


 酒呑童子さん、やっぱりちゃんと下調べしておきましょう。何もかもぶっつけ本番で、誰が1番頑張らないといけないんですか?! 僕ですよね! あとで文句を言わないと。


「あ~もう! 酒呑童子さんの馬鹿ぁ!! 黒焔熔解こくえんようかい!」


 とにかく僕は、急いで黒狐さんの力を解放してそう言うと、黒い炎を全身から噴き出して、僕を捉えた鉄の輪を一気に溶かします。


「な、何!?」


「僕の邪魔をしないで!」


 捕獲する鉄を溶かされるなんて思わなかった手長さん達は、その場でたじろいでしまっています。それでもやっぱりお仕事ですから、僕を捕まえようとして来ました。


「くっ……それなら、炎を出される前に捕まえろ!」


「いや、もう出てる」


「それでも捕まえるんだ!」


 そう言いながら、半泣きで向かって来なくても……あなた達の方が、苦労していそうですね。だけど、容赦はしませんからね。それに、良いことを思い付きました。


 この妖怪さん達から、保管庫の場所を聞き出します。


黒槌岩連壊こくこんがんれんかい!!」


「「「うぎゃぁぁあ!!」」」


 ただ同じ技で、ハンマーを連続で打っているだけですけどね。だけど、こういう集団戦では、連続で攻撃出来る方が有利なんですよ。


 そして狐の姿のままで、僕は手長さん達の足元をかいくぐり、次々とハンマーで吹き飛ばしていきます。

 加減なんかしていたら、こっちが捕まりますからね。だから、立てなくなるくらいには攻撃します! 悪く思わないでよね。こっちも、仕事なんですから。


 そして全員を吹き飛ばした後、保管庫の場所を聞き出そうとすると、入り口の方から凄い音が聞こえてきました。


 まさか……酒呑童子さんと丘魔阿さんが暴れているんじゃ……。

 これ、潜入作戦でしたよね? ただの力押しの突撃になっちゃっていますよ! この後の事、ちゃんと考えているんでしょうね……。


 だけど、起こってしまった以上は、臨機応変に対応をしなくちゃいけません。

 そこでふと思ったんですけど……酒呑童子さん、これも修行とか言わないですよね?

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