第拾参話 【1】 無限迷路の回廊

 手長さん達を全員ノックアウトさせた僕は、その妖怪さん達から保管庫の場所を聞きました。


「全くもう……保管庫が地下じゃなくて、1階だったなんて。危うく迷子になる所でしたよ」


 しかもその場所を、ある妖怪さんが行きにくくしているようです。

 流石はセンターの防犯力ですね。その保管庫までの道、ホールから続く通路の先は、迷路になっていました。これは、元からのようです。


 狐から人の姿に戻った僕は、いつもの巫女さんの服に着替え、その迷路の先を睨みます。


「こういうのは、闇雲に行ってもしょうが無いんです。確か……右手を壁に付けて、そのまま真っ直ぐ歩いて行けば、出口に辿り着けるはず」


 そして僕は、右手を壁に付け、そのまま歩き出します。


 だけど、その10分後には元の場所に戻っていました。正しく振り出しに戻るです。何でですか?!


「うぅ……おかしいな。この迷路、まさか……」


 嫌な予感がした僕は、その迷路をじっくりと眺めてみます。

 するとなんと、その迷路は壁が常に動いていて、道が絶えず変化していたのです。しかも微妙に。目を凝らさないと分かりません。こんなの、クリア出来るわけないでしょう。


 防犯で言えば完璧ですけど、職員がその保管庫に行きたい場合は、どうしているんでしょうか? という事は、何かあるはずなんですね。ここを抜ける方法が……。


 だけど、のんびりと考えてはいられません。僕の背後からは、沢山の妖気が近付いて来ていました。センターの職員さん達ですね。

 そうなると、急がないといけません。しょうが無いです。ちょっと、合わせ技でもしましょう。


 そして僕は、巾着袋から御剱を取り出すと、それに神妖の妖気を流していく。

 切れ味が上がっているから、気を付けないといけませんね。その後に……。


「この迷路を作っている妖怪さ~ん! 今からここに、突風を混ぜた斬撃を飛ばすから、死にたくなかったら逃げて下さいね~!」


 やっぱり、相手は反応をしません。

 壁全体から妖気を感じるから、この迷路は全て、妖怪さんが作っているか、妖具を使っているはずなんです。とにかく僕は、ここで捕まるわけにはいかないんです。


「神風、華螺羅狗斬かららくざん!!」


 僕はそう言いながら、御剱を振り下ろし、同時に神妖の力も少しだけ解放し、浄化の風も一緒に乗せます。

 これで、この真空の刃は浄化の風と合わさり、勢いを増して迷路全体に行き渡ります。


「うわぁぁぁあ!!」


 すると、突然悲鳴が聞こえたと思ったら、壁から大きな顔が現れ、それが必死に動いて逃げ回っています。そのせいで、迷路もぐちゃぐちゃになってしまっていますね。

 その瞬間を狙い、僕は浄化の風の吹き抜け方から、出口の場所を特定しました。


 この壁に取り憑く妖怪『壁面へきめん』さんが、必死に逃げ回っている間に、早く迷路を抜けてしまいましょう。


 そうして迷路を抜けた僕は、再び走り出す。


 そこから先の通路は、若干薄暗いので、ちょっとだけ怖い雰囲気だけど、この廊下は、あのライセンス試験で使われた廊下に似ていますね。


 でも、廊下の横に大量の扉は無いです。だから、真っ直ぐ進むだけでいいですね。あとは……。


「ほっ! とっ! あわわ……あっぶない!」


 大量の防犯システムをかいくぐるだけなんだけど、ちょっと多すぎますよ!

 確か酒呑童子さんは、センサーが大量に張り巡らされていると言っていました。そのセンサーは妖具から出ていたし、妖気が分かる僕には、どこにそれがあるかは分かります。分かるんだけどね、その殆どが足下でした。


 その為に、僕は片足で跳んだり、両足で着地したりと、何だか端から見ると、遊んでいる様にしか見えない状態で、この長い廊下を進んでいます。


 でも、本当に長いです。足がつりそう……。


「うぐぐ……踏んだら死ぬ、踏んだら死ぬ」


 僕は自分にそう言い聞かせながら、片足で制止し、この先の安全な部分を確認するけれど、ちょっと待って下さい……この先には、足の踏み場が無いです。

 いや、あったけれど、数メートルも先じゃないですか。他には……無い感じですね。


 バランスは何とか取っていられるけれど、流石にこれ以上はキツいです。

 そうなると、片足だけで数メートル先にジャンプしないといけませんね。白狐さんの力を使えば、それは何とかなるかも知れないけれど、大丈夫かな……。


 ここで悩んでいてもしょうが無いです。とにかく僕は、出来るだけ遠くへ跳べる様にと、深く膝を曲げ、数メートル先に向かってジャンプします。


「はっ! と……うわっ、わわわ!!」


 思いの外に余裕でしたけど、ちょっと勢いを付けすぎて、危うく前方のセンサーに引っかかるところでした。片足でしか着地出来ない狭さだったし、それで何とかバランスをキープです。


 でもそんな時、僕の鼻にハエさんが……。


「えっ、へっ? ちょっとハエさん……は、くしょっ! あっ……」


 ハエさんの馬鹿野郎。くしゃみした瞬間、浮かせていた足を下ろしちゃって、センサーを踏んじゃいました。

 その瞬間、僕の足元が大きく縦に開いてしまい、その下が真っ暗な地下への落とし穴になっていました。ハエさん、恨むよ……。


「うわぁぁぁ!!!!」


 せっかくもうすぐ保管庫だったのに!! ハエさんもだけど、僕自身もバカとしか言いようがないです。

 そんな事よりも、真っ逆さまに落ちているこの状況を、どうにかしないといけません。


 影の妖術……は、真っ暗なので無理です。他に方法といえば、もうこれしか無いですね。

 気付いたらもう地面が近付いて来ているので、神妖の力を解放し、金色の毛色に変えると、地面に向けて神術を放ちます。


「神風の鉄槌!」


 この浄化の風の神術で、僕の体を浮かし、そしてそのままゆっくりと地面に着地します。うん、想像した通りにいきました。


「ふぅ……」


 神妖の力を抑えると、僕は場所を確認する為に、辺りを見渡します。

 ここは……上の廊下よりも更に暗くて、あんまり分からないですね。


「ん~落ちて来た場所は……高いですね。これは、跳び上がれないかな……」


 困りました……酒呑童子さんと丘魔阿さんは、まだホールで暴れているだろうけれど、そんなに長くはもたないですよね。

 上に上がる階段を見つけるか、もしくは他の脱出方法を考えないといけません。


 この暗闇にも目が慣れてきたので、少し探ってみましょう。ここって、幾つか扉があるんですよね。

 僕が落ちて来た場所は、大きな広間みたいになっていて、天井は吹き抜け。その1番上から落ちて来たみたいです。落ちて来た距離で考えると、ここは地下3階から4階程かな。


 そこからいくつか廊下が伸びていますね。その数、ざっと6つ。このホールの周りを、グルッと囲む様になっています。


「これ以上遅くなると、酒呑童子さんが怒りそうです。急がないと!」


 どこにしようかなんて、そんなの悩んでいる暇は無いです! だから、適当に1本を選んで、そのまま真っ直ぐ走る! そして同じ様な場所に出て来ました。また迷路ですか?!


 でもそれなら、とにかく適当に選んで……選んでーーーー選ぶ事数10回、もう同じ光景ばかりで飽きました。


「わぁぁあ~ん! 僕の気がおかしくなるよぉ!!」


 僕はいったい、何処に迷い込んだんですか?!

 毎回毎回広間に出る度、上を見上げて確認するけれど、落ちてきた穴は無いんです。

 つまり、同じ場所をぐるぐると回っている訳では無いのです。だから、余計に分からないよ。


 妖気も感じないし、妖怪や妖具の類いでは無いです。

 因みにここのセンターは、妖気をジャミングされているようで、白狐さんと黒狐さんの勾玉が使えませんでした。


 落ち着け……落ち着くんです、僕。とにかく元の場所に戻って、そこから上に行く方法を考えよう。


「はぁ、はぁ……天井に穴。元の落ちて来た場所……それなら、思い切りジャンプしてみて、どこまで跳べるかですね。たぁ!!」


 地面を思い切り蹴り上げ、上に跳び上がったけれど、急に上に天井が現れました。


「わぁ!! って……えっ?!」


 でも気付いたら、元の場所の地面から飛び出していました。何で?!


「こ、ここって……どうなっているの? 空間がおかしな事になっているんですか?!」


 その時、僕はようやく、最悪の展開が頭に浮かびました。ここから一生出られないという、最悪の展開が……。

 その瞬間、僕は血の気が引いていき、そして泣きそうになってしまいます。


 だけど僕は、半年の僕じゃ……ない!

 唇を強く噛みしめ、大きく深呼吸をして心を落ち着かせると、早速考え始める。


「落ち着け、僕。空間がおかしな事になるなんて、そんなの何か原因が無ければなりません!」


 大丈夫。絶対に、ここから脱出してみせます。

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