第拾弐話 【1】 反転鏡の鍵の在処は……

 亰嗟の丘魔阿さんを、いとも簡単に捕まえた僕達は、舞妓さんの人形を、僕の浄化の風で無害にした後、それを持っておじいちゃんの家に帰って来ました。


 帰って来た直後、白狐さんと黒狐さんが僕達を迎えてくれたけれど、僕達の成果を見て、呆然としてしまいました。

 その後にレイちゃんもやって来て、舞妓さんの人形の周りをクルクルと回っていたけれど、もしかして……悪霊も憑いていたのかな? それから、ヘビスチャンさんがそれを受け取り、何処かに持って行っちゃいましたけど、お焚き上げする為に、神社にでも持って行ってくれるのかな? それなら、そっちはもう任せましょう。


「ふ~む。まさか、ここまでやってのけるとはの……」


「本当よぉ……私も意外だわぁ」


 そして今は、ようやく目を覚ました丘魔阿さんと、おじいちゃんと白狐さん黒狐さん、更に僕達のチームで、彼を尋問する所なのです。

 ここで余計な事をされたら困るので、僕は御剱を取り出して、相手の背中をツンツンと突っついています。


「ちょっと~完敗したんだから、何もしないわよぉ」


「それじゃあ聞くけど。あなたは本当に、亰嗟のナンバー2なんですか?」


 それにしては弱いというか……いや、僕が強くなったという事なんだけど、それでも呆気なさすぎるんですよ。


「そうよぉ。半妖と人間のメンバーの中で、だけどね~」


 引っかけましたね。それって要するに、亰嗟に協力している妖怪さん達が、他にも沢山居るという事ですよね? そしてその中には、丘魔阿さん達以上の実力を持つ妖怪さん達が、もっと居るんですね。


「ふむ……ならば、亰嗟の真の狙いはなんじゃ? 今の所、段階的な事しか分かっとらんからな。人間界と妖界を反転させる、それだけじゃなかろう!」


 すると、おじいちゃんの部屋の襖が開き、酒呑童子さんも入って来ました。


「そいつに聞いても無駄だぜ。ただ下っ端を束ねているだけの半妖だからな」


「酒呑童子さん……」


 残念だけど、まだあなたの疑いは晴れていないみたいですよ。皆睨んでいます。特に、白狐さん黒狐さんがね。


「おぉっと、恐い目で俺を睨むなや。俺はな、創設した当時、世界を反転させようなんて事は考えていなかった。ただ、追いやられる半妖達の、その立場を改めさせようとしたのと、住処を作ってやろうと暴れていただけだ。今は、まぁ……これでも改心してんだ。その辺りは聞いてんだろ?」


「……そうですね。とりあえず、今は信じてあげます」


『椿! しかし此奴は!』


「白狐さん。酒呑童子さんは、嘘を言っている目では無いですよ」


 それと、今ここに姿を現したという事は、何かを掴んだのですよね? それを早く教えて欲しいです。


「あらあら、酒呑童子さんね。茨木童子から聞いているわ。敵であり、師でもあるってね。ただし、出会ったら直ぐに逃げろ。ってね」


「なるほど、良い判断だな。だが、今お前は逃げられない。さて……丘と言ったな。お前はろくな情報を渡されていないだろう?」


「えぇ、そうよぉ~前にこの子達に教えた事、あれが私達の知っている全てなのよ」


 そんな……丘魔阿さんが知っているのは、あれで全部。

 人間界と妖界を反転させる。それを、僕の神妖の妖気を使ってやる気なんだっけ。


「あ~その反転させる妖具なんだが、反転鏡は奴等が持っている。しかし安心しろ、それを使う為の扉の鍵は、俺が持っているんだよ」


 そう言うと酒呑童子さんは、ひょうたんのお酒を飲み始める。

 なるほど……あなたが重要な鍵を持っていたから、亰嗟は全く動けなかったんだ。準備をするしか、力を蓄えるしかなかった。それなら、なにも慌て無くても良いんじゃないのかな。


『おいおい、それを早く言えよ。それで、酒呑童子。それは肌身離さず持っているんだろうな?』


「ぷはぁ……いんや。前の妖怪センターの、地下にある保管庫に保存してある」


 今、何て言いましたか? 酒呑童子さん。その言葉で、皆が沈黙しちゃっています。

 だって、こことは違う、雷獣がやっている今のセンターは、亰嗟と手を組んでいるから、亰嗟はそこの出入りが自由になっていますよね。当然、地下保管庫にも……。


「……んぁ? あっ、いっけねぇ!! その為にあの野郎、新しい妖怪センターと!」


「「「「「馬鹿野郎!!」」」」」


 一同大激怒です。


 何で亰嗟が新しいセンターと手を組んだのか、その目的が今分かりましたよ! センターに協力する気は無い。単に、地下保管庫に行きたかっただけじゃないですか!


「あらら~そうだったのね~私達はただ、いつも通りに活動しろと言われていたし、分からなかった――わひっ?!」


「笑ってんじゃねぇよ。てめぇは、俺達がセンターに侵入する為の手助けをして貰おうか」


 酒呑童子さん、本気で焦っているのは分かるけれど、思い切り丘魔阿さんを殴ろうとしたよね。酒呑童子さんの拳が、丘魔阿さんの頬を霞めて、そこから煙が出ていますよ。


「い、嫌よ。そ、そんな事をしたら、私殺されるわよ」


「それじゃあ、今死ぬか?」


「ひぃぃい!!」


 殺気も本気です。酒呑童子さんがそんなに必死になるって事は、簡単に保管庫まで行けるんですね。


「わ、分かった。分かったけれど、入れるまでよ! そっから先は無理だからね!」


「それで良い。ったく、取りあえず保管されている場所までは、膨大な警備と警報、そしてトラップを仕掛けているから、そう簡単にはいかないだろうが。だが、あれから時間が経ち過ぎちまった。もう、トラップも解除されかけてるかもな……ちくしょう! 俺とした事が!」


 そう言いながら、酒呑童子さんはひょうたんを地面に叩きつけました。まぁ、誰にだって失敗はあります。

 それに、後悔して悔やんでいるその姿は、酒呑童子さんに対する皆のイメージを変える、良いきっかけになりますよ。


「ちくしょう。俺が、俺が……全国期間限定『匠のつまみ』フェアに目が眩んでいなければ! 46都道府県、その全てでつまみが違う。しかも、一流の料理人が作るつまみだ。そんな、酒飲みには堪らないイベントさえ無ければ!」


 前言撤回。酒呑童子さんは酒呑童子さんでした。


 何だか、皆の冷たい視線が一斉に酒呑童子さんに集まっています。


「んぁ? お前等どうし――いや、待てお前等……無言で殺気を放ちながら来るなぁ! うわぁぁあ!!」


 あ~あ……皆に囲まれて、色々と罰を受けてしまっていますね。主に、つまみを没収されたりだけどね。


「止めろてめぇら!! そ、それは、貴重な限定一品物だぞ! 止めろこらぁ!」


 自業自得ですよ、酒呑童子さん。


「あなたも大変ねぇ……」


「別に、あなた程じゃないです。それよりも、出来たらそのまま、僕達に協力して欲しいんですけど」


「それをして、私に何か得があるのかしら?」


「亰嗟なんかに付かなくても、僕がいつでも、あなたの相手をしてあげます。今度は1対1でも良いよ」


 すると、丘魔阿さんは驚いた表情をした後、物凄く恐い笑顔を僕に向けて来ました。


「あはぁ……なるほど。あなた強くなったものねぇ。私じゃ全然手が出せない程に。そんなあなたに勝つ為に、あなたに挑み続けられる。楽しい戦いを、続けられる……良いわねぇ、そっちの方が面白そうね」


 何だか寒気がしました。流石に変な事を言っちゃったかも。白狐さん黒狐さんもびっくりしていますからね。


『椿よ、何て事を言うんだ。危険過ぎるぞ、この男。ある意味、亰嗟の考えよりもおかしいかも知れないんだぞ』


『それにだ、椿が相手にせずとも、俺達がその前に潰してやるわ』


 残念ですけど、白狐さん黒狐さん。丘魔阿さんは「それも良いわね」なんて顔をしていますよ。やっぱりこの人は、ちょっとおかしかったですね。


「ふふ、良いわ~あなた達に協力しましょう。元より私は、亰嗟に固執する必要も無いし、2度もあなた達に負けたとなると、あそこにはもう戻れないわね~」


 良かったです。僕の中では、この人は殺し合いをせずに済むじゃ無いかと、そう思っていたのです。以前話をした時に、それに気付いていましたからね。

 そうと決まれば、早速新しい妖怪センターに乗り込んで、その反転鏡の鍵を回収しちゃいましょう。


 僕の力が要るとはいえ、このままだと僕は、本格的に2つの勢力から狙われる事になりますよ。それだけは、絶対に避けないといけません。

 だから皆、そろそろ酒呑童子さんを離して上げてくれませんか? 気付いたら、縄で吊し上げて火で炙っていますよ……。


「ぐわぁぉ!! あっちぃ! お前等……くそ! 覚えてろよ!」


 だけど、あんまり反省してなさそうなので、準備が出来るまでそうしておいて下さい。

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