第拾壱話 【2】 最強チームの誕生
四条大橋に着いた僕達は、早速妖気の下へと向かいます。この橋も沢山の人が居るから、ちょっとでも妙な行動をしたら怪しまれちゃう。でも、それは相手も同じ。
それと、実はこの四条大橋のある川岸には、その……カップルが多いんです。そして、それを妬む気で満ち溢れていて、その気に触れ続けていた動植物達が、偶に妖怪化するんです。
でも最近は、嫉妬する人も減って来た様に思えます。何ででしょうね。
「あっ、姉さんあそこ。舞妓さんが居ますよ?」
すると楓ちゃんが、丁度橋の中央で、こちらを睨む舞妓さんの姿をした人を発見しました。しかも、若干妖気が漏れているし、怒りのオーラがその人の周りを覆っています。
「菜々子ちゃん、僕の後ろに隠れていて」
「う、うん。でもお姉ちゃん。あの人、別に襲って来ようとはしてないよ?」
それはそうなんですけど、いつどのタイミングで変貌し、こちらに襲って来るかも分からないのです。だから、警戒は必――
「ちょっとあんた、どうしたの? そんな怒りのオーラなんか出して」
――ってちょっと美亜ちゃ~ん!! 何普通に話しかけているんですか?!
だけど、その人は美亜ちゃんに対して、何の反応も無かったです。あれ? それに、妖気が半妖のものじゃ無い。まさか……。
「ちょっと、聞いてるの?」
「美亜ちゃん! それに触れちゃ駄目!」
「えっ? きゃぁ!!」
あ~もう……反応が無いからって、美亜ちゃんがその舞妓さんの肩に手を置いちゃいました。そしてその瞬間、沢山の煙に包まれています。周りの人も僕の声に反応してしまい、煙に包まれた美亜ちゃんを見ていますね。
「何この煙。あれ? 舞妓さん?」
「えっ? いつの間に? こんな所でなにやって……」
「いや、動かない? ただの人形か?」
そうなんです。その舞妓さんは人形だったのです。物凄いリアルで、人間とほとんど変わらない程なんだけど……美亜ちゃん、流石に気付いて欲しかったよ。呪術が得意なのに、なんで引っかかるかなぁ……。
その後周りの人達は、突然現れた煙に注目しています。嫌な予感がします。
「にゃ、にゃんどすか~?! これは~!!」
やっぱり……美亜ちゃんが舞妓さんになっちゃった。不用心過ぎますよ、美亜ちゃん。
「おぉぉ! 舞妓さんが! ネコミミに、猫の尻尾を――あっ、うん」
「えっと……」
「ん~と……」
あぁ、しかも微妙な空気です。そりゃそうですよね。由緒ある舞妓さんの姿で、そんな格好は不自然だし、何より似合いません。
だけど、美亜ちゃんが舞妓さんにされた瞬間、皆にその姿が見えるようになったということは、これを設置した人は、妖怪も何らかの目的の対象に入れているという事。
「ちょっと! 何どすか、その反応は~! 椿~!」
「あ~よしよし。でも、こっちには来ないで欲しかったですね、美亜ちゃん」
今僕は、白狐さん黒狐さんの勾玉で、意識阻害の結界を張っています。だから、尻尾や耳は見えません。この容姿に巫女服姿なんて、見られる訳にはいきませんからね。
それでも、なんでこの格好をしているのかというと、この服は
だから僕は、学校に行く以外は、全てこの服を着る事にしたんです。
半年前は、恥ずかしすぎて極力避けていたけれど、山篭もりしている間に、酒呑童子さんからその事を聞かされていました。山篭もりしている時は、それが邪魔だからって、持っていけなかったけどね。
という訳で……。
「おぉ!! 巫女さん?!」
「ロリ巫女だと!」
「きゃぁ~可愛い!!」
「ここ京都だと、あんまり違和感ない!」
「ネコミミ舞妓よりも、巫女さんの方が可愛い!」
通行人達の視線が、一斉にこっちに向きました。巫女服姿は見られるので、こうなるのは分かりきっていましたよ。
「一旦撤退!!」
こんな状態じゃあ、舞妓さんの人形を調べられません!
そして僕は、皆を引き連れてその場から離れ、路地に入り、追ってから必死に逃げます。土地勘は僕の方があるし、地元の人しか使わない道もあります。だからそこに入って、屋根に跳び上がれば、一旦姿を隠せます。
雪ちゃんはそこまで出来ないので、僕が担いだけどね。菜々子ちゃんは、案外飛び上がれたみたいです。流石、妖怪の娘さんですね。
「ふぅ……全く、美亜ちゃんのバカ」
「ご、ごめんなさい……呪術の気配がなかったのよ」
なるほど。美亜ちゃんが言うなら間違いないですね。
呪術系じゃなかったけれど、邪悪な気は感じられたので、僕の浄化の力は効きました。それで美亜ちゃんを元に戻した後、僕はため息をついています。
そして、再び四条大橋に目をやると、いなくなった僕達よりも、舞妓さん人形の方に皆の興味が移っています。そのまま次々と、色んな人達がそれに触れていき、そのまま舞妓さんになっちゃっています。
自動着せ替え機とか、そんなんじゃ無いんですよ? 皆もうちょっと怖がろうよ、怪しもうよ、ねぇ……。
それなのに、次々と女性達は触っていく。
興味本位で男性も触っているけれど、変化が起こらず項垂れているし、外国人の人達も触っているけれど、やっぱり変化が無く、ちょっとだけ悪態をついている……様な気がします。
あれ? でも良く見たら、日本人でも変化しない女性が居る。太っている人、極端に細い人、顔がイマイチな人とか……。
「椿、これって……」
「う、うん、雪ちゃん。綺麗な人や可愛い人、要するに美人さんしか舞妓さんになっていないですね」
とても女性差別な人形でした。それなら尚更、この事態が良く分からないですね。わら子ちゃんも辺りを見渡していて、他に怪しいものは無いか調べてくれています。
「ふふ~ん。まぁ確かに。私の美しさは、反応されて当然よね」
なんで美亜ちゃんはご機嫌さんなんでしょう。
だけど、ようやく見つけましたよ。半妖の妖気の方。しかもこれは、感じた事のある妖気。
亰嗟の自称ナンバー2。丘魔阿さん! しかも後ろ?!
「くっ!!」
咄嗟に巾着袋から御剱を取り出し、後ろを振り向くと、僕達に向かって来る大斧を受け止めます。
「うふ。お久しぶり~椿ちゃん」
「あっはい、お久しぶりですね。そっちは相変わらずですか?」
「まぁね~それよりもあなた、だいぶしっかりしてきた? うふ、姿を隠している間に、何をしていたのかしら? 美味しくなっちゃってぇ」
うぅ、舐める様な視線で見ないで下さい。
そしてあなたが居るという事は、あの人形は、亰嗟が用意した物という事ですね。
「あんな妖具を置いて、何を企んでいるんですか?」
僕は斧を受け止めた状態のまま、丘魔阿さんを睨みつけ、相手に質問をします。だけど返ってきたのは、意外な答えでした。
「あら心外ね。あれは私達が置いたんじゃないわよ。寧ろ、あれを回収しに来たのよ」
「何ですって?」
回収? つまりあれは、亰嗟が置いたんじゃなくて、他の誰かがって事?
「それじゃあ、他の人が?」
「違うわよぉ。付喪神って知らない?」
「あっ……」
丘魔阿さんが出て来たから、咄嗟に亰嗟のせいだって判断しちゃいました。だけど、あの舞妓さんの人形は、ただの付喪神だったんですね。
長い年月使い続けた道具には、神や精霊が宿るらしいです。だけど、あの舞妓さんの人形には、邪念が染みつき、それで付喪神化してしまったみたいです。偶にそういう現象も起きるのです。神や精霊だって、邪念に塗れると、邪神や悪霊になりますからね。それに似たような状態です。
「そうですか。それで、亰嗟はそれを回収して、どうしようと?」
「分からない? あの人形、あぁ……マネキンなんだけどね。今は舞妓さんへの固執があるけれど、それを妖怪に変えたら、どうなるかしらねぇ」
「ま、さか……」
「触れた人間、皆妖怪化。亰嗟の狙いはそれよ」
そう言うと、丘魔阿さんは薄笑いを浮かべ、そしてその斧に力を込め始める。
「まぁ私はね、あんたと戦えればそれで良いのよ!」
その次の瞬間、丘魔阿さんの背中から、更に6本の腕が生えてきました。それが妖具なのは分かっているけどね。
その1つ1つの手に、同じ様な大斧を握っているという事は、相手はかなり本気だという事。それだったら、こっちも……。
「ふっ!」
先ずは受け止めた斧を弾く。そして、腕に付けていた火車輪に妖気を流します。
「あらっ、1本弾いても無駄よ! あと7本もあるのよ! それにあなた達は、既に私の蜘蛛の糸に――って、あら?!」
「ふふ。もうこの場所は、私達にとって、幸運の起きまくる場所になってるよ」
わら子ちゃん、ありがとうございます。咄嗟に扇子を広げて、幸運の気を僕達の周りに張ってくれていました。
そのお陰で、蜘蛛の糸は突然の突風に煽られ、上手く張れなかったようですね。切れる事は無くても、風があると張りにくいでしょう?
「くっ! それでも、この8本の斧はどうかしらねぇ!?」
「うん、遅いですよ」
蜘蛛の糸が使えないと分かった途端に、丘魔阿さんは、斧での攻撃に全神経を集中させました。その切り替えは良いですけど、ちょっと遅かったですね。僕はとっくに、あなたの懐に潜り込んでいますよ。
そのまま僕は、火車輪を広げて炎の輪を展開すると、それを腕の後ろに向けて、激しい炎を噴射します。ブースターの様にしてね。
「狐狼拳!!」
「ぐぶっ……!!」
そして、物凄い勢いを付けた僕の拳は、丘魔阿さんの鳩尾に綺麗に入り、そのまま真っ直ぐに吹き飛びました。ついでに嘔吐しながらですけどね。僕にかからなくて良かったです。
「美亜ちゃん!」
「もうやってるわよ! そいつが登場してからね!」
すると、地面の下から建物を伝って根っこが伸び、更には壁の隙間から、蔦やら葉っぱ等が沢山伸びてきて、吹き飛んだ相手の体にグルグルと巻き付き、そのまま捕獲してしまいました。
「ふふ。木が無くてもね、このアスファルトの下や建物の壁には、根強く生きる植物や、丈夫な木の根があるのよ。それに呪術をかければこの通りだし、この辺り一帯を、丸ごと樹海に変える事も出来るわ。まぁ、騒ぎになるからやらないけどね」
そして今度は、その木の根に楓ちゃんが着地し、丘魔阿さんの様子を伺っています。
「姉さん! 念の為に、雪さんと反撃の対策をしていたっすけど、反応無いし、とっくに気絶していたっすよ」
楓ちゃんは、相手が反撃してきても、それが妖術や妖気が含まれている攻撃なら、そのまま相手に跳ね返せるし、雪ちゃんは相手の足を凍らせて、動きを封じられます。
あれ? おじいちゃん……このチームって、何気に最強じゃありませんか?
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