第拾壱話 【1】 祇園四条での異変

 里子ちゃんはまだダウンしているので、今朝のご飯は僕が作りました。

 何だか、皆の目が期待に満ちあふれていたのです。そんなに僕の作ったご飯を、色々と食べてみたいのでしょうか。

 里子ちゃんと同じような朝ごはんしか出来ませんよ。だって、里子ちゃんをお手本にしているんだもん。


 そう思いながら朝ごはんを食べていると、いつの間にかもう1体増えていました。小っちゃな賀茂様が……。


「ほぅほぅ、これは旨そうではないか。今度は是非、本体の方にも作って貰おうかの」


「ねぇねぇ、椿お姉ちゃん~これなぁに?」


「わぁ!! 菜々子ちゃん! お箸で賀茂様をツンツンしないで!」


 だけど、小っちゃな賀茂様は嫌がりもせずに笑顔です。しかもこの賀茂様、本人よりデフォルメされている様な……か、可愛い。それとこういう姿って、どこかで見たことあるような気がします。


「はっは、別に気にするな。私は式神じゃ。本人の記憶と意思を持ってはいるが、所詮紙で出来た紛い物よ」


 やっぱりね、ゲームや漫画で良くあるやつでした。本人は神様だし、お仕事があるでしょうからね。こういう手法は定番なんでしょう。とにかく、皆に賀茂様の事を説明して、失礼の無いようにと言っておきます。


 それよりも、こっちに式神を飛ばすなんて……いったい何の用なんでしょうか。


『賀茂様、今日はいったいどのようなご用件で?』


 すると、姿勢を正してキッチリしている白狐さんが、チビ賀茂様にそう言いました。

 たとえ式神でも、低姿勢になる程に染みついているんですね。神社を守っているお稲荷さんだもんね。

 でも、仕えている神様が違うし、色々と問題があるんじゃ……そこは神様と言う大きな分類をして、対応をしているのかな。


「うむ……実はな。祇園四条の八坂神社の辺りでな、不可思議な出来事が起きておる。京都は様々な神がおるから、その領土をしっかりと守っとる。本来過干渉は良くないのじゃが、如何せん変な化け物が暴れたり、九尾が悪巧みをしとるから、そうも言ってられん。後手に回る前に動かねばの」


 神々ですか……そういえば僕ってば、男子だった頃は、神様を信じていませんでしたね。だけど、ちゃんと居ました。そこは反省です。


「うん? どうした、椿。尻尾を下ろして、耳まで垂れとるぞ」


「い、いや……その、過去の自分自身の態度に反省しているんです」


 何の事か分からないチビ賀茂様は、首をかしげていました。もう僕の事は良いんです。

 その不可思議な出来事って、いったい何なのでしょう? とにかく話を逸らすために、その不可思議な出来事の事を聞いてみます。


「それで、その不可思議な出来事って何ですか?」


「うむ。今の所、大した被害ではないのだが、何か別の目的がある気がしてな……まぁ、行けば分かる」


「はぁ、分かりました」


 何だか話をはぐらかされた気がします。そこに行けば分かるんですね。それなら、白狐さん黒狐さんと一緒に――


「待て、椿よ。何故白狐と黒狐を見とる。お前さんはもう立派な妖狐じゃ。よっぽどの事では無い限り、白狐と黒狐を頼るな」


 と思っていたら、おじいちゃんに怒られました。もうクセなんですよ。それと、白狐さん黒狐さんはニコニコしないで下さい。恥ずかしい……。

 あまりの恥ずかしさに、その場に居られなくなった僕は、直ぐに立ち上がって部屋を後にしようすると、またおじいちゃんが僕に声をかけてきました。


「こりゃ椿! 神様からの頼み事でも、チームで動け」


「「「「「えっ?!」」」」」


 おじいちゃん、それに驚いたのはチームのメンバーですよ。皆予想外だった様で、目を丸くしていました。


「なんじゃ、お前さん達。自分達は、今日はゆっくり出来ると思っておったのか? 甘いわ!!」


 皆、残念だけどこうなったら、おじいちゃんはてこでも動きません、諦めて行きましょうね。

 でも、今のところ目立った被害が無いのなら、こんなに大勢で行く必要は無いと思うけどな。


「うむ、皆頼んだぞ。うん? 今度は何じゃ? 全く、私は連絡係では無いぞ。しかし式神ゆえ、言う事を聞かねば……あぁ、椿よ。本体が今度、こっちに遊びに来いと言っておる。ではの」


 チビ賀茂様は、ブツブツとそう言った後、その場で空を飛び、おじいちゃんの家を後にしました。やっぱりそこは式神、色々と扱き使われているんですね。何だか、チビ賀茂様に親近感が湧いてきました。


「ほりゃ! さっさと行ってこんかい!」


「「「「「は~い!!」」」」」


 だって僕達も、今まさに扱き使われていますからね。


 ◇ ◇ ◇


 その後、いつもの様に雲操童さんに運んでもらい、僕達は祇園四条にやって来ました。ここって歩道が狭いし、観光客が沢山いるから歩きにくいんですよね。


「全くもう……今日は良い天気だったから、日なたぼっこしようと思ったのに……」


「まぁまぁ、美亜ちゃん。翁は昔から、あんな感じですから」


 未だに美亜ちゃんはブツブツ言っています。里子ちゃんが宥めているけどね。でも、楓ちゃんと雪ちゃんは僕の横にいて、雪ちゃんなんか僕の腕に引っ付いています。


「ふふ、無償の仕事は、嫌。でもその後に待つ、椿とのデートは、魅力的」


「姉さん姉さん! 目が青い人が居るっすよ!」


 君達2人は楽しそうですね。それと楓ちゃん、外国人の人達をそんなにジロジロと見ないで! でも、向こうは見えて無いから大丈夫なのかな?

 だから、今見えているのは僕と雪ちゃんだけです。そうなるとね、端から見たら僕達、デートしている感じなんですよ。ちょっと離れて欲しいです。


「本当だね~楓お姉ちゃん。この人達って、他の国の人だよね? 私、初めて見た~」


 そして何故か、菜々子ちゃんまで着いて来ちゃいました!

 山姥さんからもお願いされたし、都会を見せる約束だったからね。今の所危険が無いのなら良いですし、何かあっても僕達で守れば良いんです。


 でもね……チビ賀茂様の言うとおり、行けば分かりました。


 不可思議な出来事。それは――


「そうどすな~」


「あらぁ、奇遇やわ~」


「ほな、そちらさんも?」


 ここにいる日本人の女性達が、全員舞妓さんや芸妓さんになっている!!


 因みにここで豆知識なんだけど、芸妓さんは芸者さんの事です。

 舞妓さんは京都特有で、接客とかを中心にやるので、街でよく見かけるのは舞妓さんが多いと思います。


 それと、舞妓さんはだいたい20代が多くて、場数を踏んで芸妓さんになるみたいです。だから、舞妓さんは若い人がやるみたいなんですよ。

 更に舞妓さんの髪なんですけど、あれは自分の髪を結っているんです。これが大変なんですよ。芸妓さんはカツラだけどね。


 だからね、今何故か舞妓さんや芸妓さんになっている人達も、歳によってそれが分けられています。細かい……。


 それにしても、なんでこんな事に? 正直、外国人観光客の方達は喜んで、この様子を写真で撮りまくっています。

 すると、楓ちゃんが不自然にならない様にしながら、僕のいつもの巫女服の袖を引っ張って来ました。


「姉さん、妖気は感じられますか?」


「う~ん、感じられ無いです」


 だから困っているんですよ。何が原因なんだろう……。

 それと問題なのが、当の本人達も楽しんでいる事です。賀茂様……これって、解決しないといけないのでしょうか。


 そう思った瞬間、四条大橋の方から少量の妖気を感じました。しかも、もう1つ妖気を感じる……その片方は半妖のようですね。

 という事は、その半妖が何か知っているかも知れない。もしくは、その半妖が原因を作っているのかも知れないですね。


 だけど、半妖にしてはやる事が大規模過ぎる。う~ん……まだ何かありそうですね。だから、油断はしないです。亰嗟の可能性だってありますからね。


 とりあえず任務開始なので、祇園四条のアーケードの屋根に上って、お昼寝場所を探している美亜ちゃんを、周りにバレない様にしながら、影の妖術で尻尾を掴んでおいて、そのまま四条大橋の方まで引きずります。そっちに向かう僕達と一緒にね。


「ちょっと! 分かった、分かったから! ちゃんとやるから、尻尾は止めてぇ! ふにゃぁ!」


 最初からそうして下さい、美亜ちゃん。

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