第拾話 【1】 たまには遊びましょう
昨日は、あれから皆にもてはやされて、珍しくおじいちゃんにも誉められました。
達磨百足さんも、前のセンターのままなら、わら子ちゃんと同じ級に昇級しても良かったのにと、そう呟いていましたよ。
それにしても、あれだけの大勝利は久しぶりなんでしょうか? その晩は皆、宴会状態になってしまって、夜遅くまで騒がしかったです。
僕は妖気を使いすぎたし、いっぱい頑張って疲れたので、沢山食べた後、お風呂に入って直ぐお布団にダイブでした。
ただその時に、もう少しだけ気を付けた方が良かったですね。
翌朝。僕のお布団には、雪ちゃんと楓ちゃん、更には菜々子ちゃんまでもが潜り込んでいました。多すぎです。
「うがぁ!! 1つのお布団にこれだけは入れないって!!」
とりあえず、布団を捲って皆を出そうとしたけれど、気のせいかな? お布団がちょっと大きいような……。
「姉さん、まだ肌寒いっす。あっ、姉さんの尻尾、温かくて気持ちいいっす~」
「んぅ……本当だね、楓お姉ちゃん。椿お姉ちゃんの尻尾、お布団より温かくて気持ちいい~」
そう言って、2人とも僕の尻尾を掴まないでよ。離れて下さい。流石に2人だと、ちょっとくすぐったいんです。
「椿が寝てる間に、大きい布団に変えておいた。これで3~4人は寝られる。さぁ、ゆっくり二度寝を……」
そんなに僕は疲れていたんでしょうか? お布団を変えられたのに気付かないなんて……それよりも、二度寝は駄目です。
昨日の晩御飯の時、龍花さん達から、今日の朝に出掛けるので、それに付き合って欲しいと言われましたからね。
任務とは言ってなかったけれど、何の用でしょうか? だから、もう起きないといけないのです。
「僕は龍花さん達に呼ばれているので、二度寝はしません。だから、尻尾から手を離して下さい」
「い~や~っす!」
「い~や~だ!」
うぅ……楓ちゃんも菜々子ちゃんも、一向に離してくれません。尻尾を上下に動かして、2人の手から振りほどこうとしているのに! そして、雪ちゃんも引っ付かないで。
「ん~椿……更に女の子らしくなって、胸も大きくなってる」
「ひゃぅ?! ちょっと、どこ触ってるんですか?!」
「良いな~私、全然育たなかった……妖気増えれば、大人っぽくなるんでしょう?」
それは完全な妖怪さんだけであって、半妖さんは違うって聞きました。雪ちゃんはその事を、氷雨さんから聞いていないのかな。
「うぬぬ……良いから離して! あっ、駄目……パジャマが!」
「ちょっと、うるさいわよ~つばーー」
すると、いきなり僕の部屋の扉が開き、夏美お姉ちゃんが入って来て、半分怒りながら言ってきたけれど、僕の様子を見ると直ぐに、真顔に戻りました。い、嫌な予感……。
「ほどほどにね……でも、私はそっちの気は無いから、襲わないでよ」
「ちょ、違っ……! 夏美お姉ちゃん、勘違いしないで!!」
でも、僕のパジャマも半分はだけているし、皆引っ付いているから、どう考えてもそう思っちゃうよね。だからさ、皆早く僕のお布団から出ていって!!
◇ ◇ ◇
その後、何とかお布団から脱出し、朝ごはんを食べ終えた僕は、龍花さん達4人と一緒に、妖界のある場所に向かっています。
「椿お姉ちゃん。私、妖界に来るの初めて! こんな所なんだ~すご~い」
そこに何故か、菜々子ちゃんまで着いて来ていました。別に良いけれど……戦闘さえしなければね。
今の所、あの妖魔人の4人の妖気は無いですね。しばらくは大丈夫そうです。
「朝はお楽しみでしたね」
そして何故か龍花さんにも、今朝の事で弄られました。見ていたの? 聞いていたの? どっちですか……。
「ふふ。どうやら椿様の尻尾は、あなたより妖気の少ない者を、魅了してしまうようですね」
「えっ……あ~」
やっぱり、そういう能力でしたか。
虎羽さんに言われて、それが確信になりました。でも、それなら納得出来ますね。白狐さん黒狐さんは別として、ですけど。
そうなると、無闇に尻尾を触らせない方が……。
「はぁ……椿お姉ちゃんの尻尾、何時までも触っていたい……」
これ、もう遅いでしょうか?
菜々子ちゃんお願い。これ以上、僕の尻尾を触らないで下さい。そのまま引きずられないで下さい。菜々子ちゃんを僕が引っ張っているような感じがして、凄く罪悪感があります。菜々子ちゃんを飼っているみたいで……。
「さぁ、着きましたよ。椿様」
そうやって、菜々子ちゃんを気にしながら歩いていると、見た事ある風景の場所にやって来ました。
ここって……昨日、龍花さん達が任務をしていた、西京極の運動公園がある所ですよね。妖界の方は公園というより、荒れ果てた広場ですけどね。
そこに連れて来られたんだけど、その中央には、あの時の妖怪さん達がいっぱい集まっていました。
どうやら、昨日は捕まらずに済んだみたいです。良かったよ……気になっていたんだ。
「あ、来た! 椿さんだ!」
「よぉ~また大活躍だったそうじゃないか~流石だな」
「俺達のお礼がまだなのに、あの新しいセンターを追っ払いやがって、少しはゆっくりしろよ~」
そして、皆が僕の元にやって来ると、そのまま手を取って引っ張られて行きます。
「ちょちょっ……何? 何ですかいったい?!」
いきなりの事で訳が分からなくなっていると、龍花さん達が、少しだけ嬉しそうな口調で話しかけてきました。
「椿様。たまには、自分自身を労ったらどうですか?」
「あなたが行った事で、これだけ感謝をしている妖怪達が居ます」
「それを、たまには受けたらどうですか?」
「今のあなたは、少し頑張り過ぎです。たった数日でも、そう思う程です。いつか壊れちゃいますよ」
「「「「昔の私達みたいに……」」」」
龍花さん達は、最後だけ真剣な顔で言ってきました。
龍花さん達にも、過去に何かあったんでしょうね。でも……僕が頑張らないと。今の状況を打開するには、僕が……。
すると、念の為にと腕に付けていた火車輪も、ほんのりと温かくなりました。
カナちゃんも、少しは休めと言うんですか? 全くもう……。
「椿お姉ちゃん~! お菓子がいっぱいだよ! 美味しい!」
「ちょっと菜々子ちゃん! 君が主賓じゃないでしょ?!」
いつの間にか、菜々子ちゃんが僕の尻尾から離れていて、中央のシートに座り、そこにあったお菓子をバクバク食べていました。朝ごはんを食べたばっかりなのに、良くそんなに食べられるね。
でも、他の妖怪さん達は一切気にせずに、菜々子ちゃんと接していました。初対面なのに、もう打ち解けている……。
というか、妖怪さんって基本的に、直ぐに打ち解けちゃうんですよね。だから困るといいますか……それが良いんだろうけどね。
色々遊び道具もあるし、今日は無礼講で、ここで遊びまくろうという事なんでしょうか? そう言われたら、最近遊んでいなかったですね。
「しょうがないなぁ……今日は龍花さん達の言う通り、遊びまくりますね」
そう言って僕は、近くに置いてあったボールを拾い、それを眺めます。口があるし目があるし、何ですか? このボール……。
「おっ、椿さん。妖怪キャッチボールでもするか? そのボールはな、フラフラと色んな方向に飛んでいくんだぜ。それに、キャッチ出来ずに落とすと、噛みついてくるぜ」
あぁ、妖怪バレーボールと似たようなものですか。面白そうですね。
「良いですよ、だけどーーほっ!」
「なっ?!」
こんな物は、動けない程に速く投げてしまえば、関係無いのですよ。
あっ、ちょっと強すぎたかな? 白狐さんの力を解放して投げたけれど、そのまま遙か彼方に飛んで行っちゃったよ。ごめんなさい、あとで回収しますね。妖気を感じるので、何処にあるかは分かりますから。
「椿様……その、妖気は使わず遊ばれた方が……」
「え~? だって、妖怪用のお菓子もあるし、妖気は補充出来るでしょ? 僕、本気で遊びたいんです。玄葉さん、良いよね?」
「「「「「ひ、ひぃぃいい!!」」」」」
あれ? 何で皆逃げるんですか?
あっ、分かった。鬼ごっこですね! この様子だと、僕が鬼ですね。無駄ですよ。僕のスピードを舐めないで下さい。
「全員、10分以内に捕まえてあげる!」
「「「「「うわぁぁあ!! 助けてくれぇ!」」」」」
ほらほら! 既に3人タッチしたよ。これだと5分以内に終わっちゃうよ~あ、飛んでも駄目~ジャンプして届くからね。
もうひたすら本気で遊びまくりますよ。せっかく用意してくれたんだから、ちゃんと楽しまないと失礼だよね。
「つ、椿様。修行が、辛いのでしょうか……?」
「こんなにもストレスを溜めて……」
「しかし、溜めすぎてはいけませんね……こんなにはしゃいで」
「可愛いですけど、これは流石にーーはっ!? こっちにも来た!」
何をブツブツ言っているんですか? 龍花さん達も強制参加だよ、捕まえちゃうよ! ほらほら!
「あはは~いけいけ~椿お姉ちゃん~」
「「「「うわぁぁあ!!」」」」
そして、その日は半日程、公園からの笑い声と歓喜の声が絶えなかったです。
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