第拾話 【2】 椿の料理スキル
久々にたっぷりと遊んだ僕は、足どりも軽やかに、おじいちゃんの家に帰って来ました。
「つ、椿様……お願いですから、あなたは適度に遊んで下さい」
「もう、情けないですね」
どういう訳か、龍花さん達はフラフラになっています。菜々子ちゃんも途中から参加していたけれど、疲れて寝てしまいました。今は玄葉さんの腕の中です。
でも、そんなに疲れましたか? ちょっと鬼ごっこで1時間程追い回しただけだし、ドッジボールもしたけれど、僕が徹底的に当てまくっただけですよ?
皆は僕の投げたボールをキャッチ出来ず、後ろに吹き飛んでいましたけど、ちゃんと手加減はしていたので、怪我はしていないです。
それでも、僕は楽しかったです。いっぱい動き回れたからね。
そして僕達が帰る頃には、皆ヘトヘトになって倒れ込んでいました。確かに、適度な気分転換は大事ですね。羽目を外し過ぎました。
そう思って、おじいちゃんの家の玄関を跨いだ瞬間ーー
「きゃわっ?!」
いきなり僕の足に蔦が絡み付いて来て、そのまま宙吊りにされてしまいました。その後に、酒呑童子さんが僕の頭に石を……。
「はい、アウト~てめぇ、今のは油断しすぎじゃねぇのか?」
「いや……気分良く帰って来た人に対して、これは無いと思います」
本当に、いつでも何処でも修行モードなんだから、今日みたいに息抜きをすると、つい羽目を外しちゃうんですよ。
というか、今回は美亜ちゃんを使うなんて、それはちょっと卑怯なんじゃないのですか?
「ふん。甘いわね、椿。味方がいつ敵になるかも分からないのよ。それは痛い程に分かっているでしょう?」
すると、酒呑童子さんの後ろから美亜ちゃんが現れ、僕にそう言ってきました。言っている事は分かるよ。でもね……。
「信じる心を捨ててしまったら、簡単に悪に堕ちちゃいますよ」
「まぁ、その辺りのバランスを取れと言う事だ。それに、直ぐに対処すれば、俺の石は避けられただろうが」
「うぐっ……」
それは反論出来ません。でもね、折角ストレス解消したんだからさ、ちょっと位は……いや、言い訳は駄目ですね。息抜きに遊んでも良いけれど、いつでも油断せずに、気を引き締め直さないといけません。
「というわけだ、今日の晩飯はお前が作れよ~」
「ん? どういう事ですか? 里子ちゃんがもう作ってくれているんじゃ……」
だっておじいちゃんの家では、里子ちゃんや給仕係の妖怪さん達がやっているからね。僕が作っていたのは、山篭もりしていた時だけです。
「その里子がね、風邪引いて寝込んでいるのよ。本当は朝も調子が悪かったのに、無茶をしたせいで、お昼頃に倒れたのよ」
「えぇ?! それじゃお見舞いを……」
「その前に、あんたは私達のご飯を作ってくれる? 流石に残った妖怪達では、里子がやっていた分までは、手が回らなかったらしくてね。それで、酒呑童子が椿に作らせろって言ったのよ」
それならそうと、早く連絡して欲しかったです。日が暮れる前には帰ったのに。
いや、まだ日が暮れてそんなに経っていない。時間がかかるのは無理だけど、おかずの一品や二品くらいなら、今からでも直ぐに出来ますよ。ご飯やお味噌汁は、纏めて作ってくれているでしょうからね。
「全くもう……それなら、こんな事しなくても作ってあげたのに」
「それだと修行の意味がね~だろうが」
言いたい事は分かるけれど、そんな事をやっている場合じゃないですよね。
それから僕は、美亜ちゃんの出した蔦を御剱で切って、クルリと一回転してから下に降りると、そのまま足早に家に入って台所に向かいます。
「それで、何人分作れば良いの?」
材料は十分にあるだろうし、どれだけ作れば良いかを確認する為に、僕は後ろから着いて来ている美亜ちゃんに話しかけます。
「とりあえず、椿と関係が深い妖怪達は、あなたの手料理を是非食べたいって言っているからね。あっ、それと、真っ先に白狐と黒狐が手を上げたからね。気合入れて作りなさい」
軽く数えても、10人近くはいるじゃ無いですか。それと、白狐さんと黒狐さんってば……そんなに僕の手料理を食べたいんですね。
それなら、1つ1つ作っていたら時間がかかるので、1つ大皿料理でも作って、後はお魚で何か作りましょう。
「誰か時間を測ってくれる人が居たら助かるけれど……」
「それなら、私がやるわよ」
そう言って、美亜ちゃんも一緒に台所に入って来ました。
すると、台所に入るなり、給仕係の妖怪さん達と氷雨さんが、僕の元に駆け寄って来ました。何故か、かなり心配しているみたいです。
「椿ちゃん、大丈夫? 何だか心配だから、皆無理してでも手伝うって言ってくれてるわ」
「んっ……大丈夫です、氷雨さん。ご飯とお味噌汁が出来ていれば、あとは何とかなりますから」
そうと決まれば、エプロンを借りて、早速お魚さんを……と、あったあった。サーモンみたいなお魚さん。でもサーモンじゃないんですよ。味は似ているし、身も赤いけれど、そもそも顔がサーモンよりも厳つくて、ちょっとトゲが多いんですよね。その代わり、小骨が少なくて、驚く程に身をほぐしやすいんです。
そんな事よりも、これを丁度良い大きさに切り分けて、アルミホイルの上に次々と乗せていきます。
そして次に、エリンギ等のキノコを適当な数に分けて乗せ、あとは調味料を使って、ちょっとピリッとした感じの味付けをしていきます。
その後は、そのままアルミホイルで巻いて、蒸し焼きにします。
流石は、大量の妖怪さんの食事を作る台所です。大きな蒸し器がありましたよ。あとはそこに入れてっ……と、このまま蒸すだけですね。
「美亜ちゃん~時間見ててね」
「え、えぇ……というか、椿。あんた、手際良いわね。昔は、跳ねまくっている魚に苦戦していたのに……」
「美亜ちゃん、それいつの話ですか?」
確かにさっきのお魚さんも、妖気を注入されていたから、死んでいるのに規則的な跳ね方をしていましたね。
でも、頭をまな板に叩きつけて動けなくしてから、直ぐにその頭を切り離せば、調理する間はじっとしています。その後は、また跳ねまくるけどね。アルミホイルがグネグネ動いてるよ……。
あっ、キノコも妖気を注入されているから、かさから食べたらいきなり大きくなるし、調理をする時も、かさは触らないようにしないと、凄く大きくなっちゃいます。
それよりも、もう一品作らないとね。
材料があるなら、シンプルにお肉多めの野菜炒めですね。でも僕が作るのは、ケチャップを使って、卵も多めにした洋風のものです。
それでも、基本的には切って炒めるだけです。だから、白狐さんの力を開放して、直ぐに終わらせます。だって、そこそこの量があるからね。
「ほいほいっと……! さて……あとは、順番に気を付けて炒めるだけですね」
そして僕は、油をひいた大きめのフライパンに、材料を入れていきます。
当然この材料にも、妖気は注入されているので、炒める時には沢山跳ね上がります。まるで熱がっているかの様にね。
でも、これはこれで便利なのです。いちいち混ぜる必要が無いんですよ。勝手に混ざるからね。
「ちょっと椿! あんた炒める前に、袋に入れて回したの?! 飛び出るわよ!」
「あっ、大丈夫です。僕が蓋を使って防ぐから。ほっ! よっ!」
そう。普通は、さっき美亜ちゃんが言った方法をするんだけど、僕ならこの方法でも大丈夫なんです。
「それ、あんたにしか出来ないわよね?! 全ての材料が暴れ出してるわよ!?」
「うん。だから、あんまり話しかけないで、美亜ちゃん。あっ!」
「ちょっーーあっつぅい!!」
あぁ、もう……話しかけるから、1つ逃して美亜ちゃんの額に乗っちゃいましたよ。それ、美亜ちゃんが食べてね。
「ほ、本当に大丈夫かしら……」
氷雨さん、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。
あとは僕が、一生懸命動いて炒めるだけですから。何かおかしいかも知れないけれど、この方法の方が、信じられない程に美味しく出来るんですよ。食べたらびっくりするよ。
ふふ、白狐さんと黒狐さんも絶対に驚くよ。美味しいって言ってくれるかな? あっ、ちゃんとケチャップとかで、味付けをしないとね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます