第玖話 【3】 新たなセンター長「雷獣」
任務から帰って来て早々、おじいちゃんの家で戦闘が起きているなんて思わなかったですよ。それだけ、今の妖怪センターの動きが早いと言う事……いや、早過ぎますね。
とにかく、今は変な勘ぐりよりも、目の前の妖怪さん達の対処を優先しましょう。
そして地下から上がり、家の外に向かった僕を待っていたのは、全員からの驚愕の目でした。
「椿……! それ、まさか。また暴走を?」
「雪ちゃん、心配しなくても大丈夫です。1回だけ、この力を使えるようになったから」
それでも、たった1回。でも、その1回で全員を退ける。
皆頑張って対抗しているけれど、相手の数が多すぎます。
楓ちゃんと雪ちゃんもちゃんと戦えているけれど、楓ちゃんが使える妖術は、相手の妖術を反射させる妖術だけで、あとは手裏剣を投げたりしていますね。忍者は諦めて無いのですね。
雪ちゃんの方は、一部だけでもしっかりと凍らせる事が出来る様になっていました。ただ、それで足を凍らせて動きを止めても、飛び道具を使っている相手には弱いようで、その対処は他の妖怪さんに頼っていました。
そして、戦況を確認している僕に向かって、誰かが叫んできます。
「これはこれは……誰かと思えば、最重要捕獲対象の椿さんではないですか」
誰でしょう? 派手なスーツにサングラスをして、髪の毛なんかギラギラの金髪で、根元から爆発したみたいに逆立っていますよ。
「誰ですか?」
「私は雷獣。この度、新たなセンターのセンター長として就任しました。以後、お見知りおきを……」
そう言うとその妖怪さんは、丁寧にお辞儀をしてきました。
つまりこの妖怪さんが、今のセンターを取り仕切っているんですね。亰嗟と手を組んだのも、この妖怪さんの意志。
いったい何を考えているんですか? あいつ等も、僕達妖怪を利用しようとしているんですよ。
「雷獣さん。僕としては、ちょっと話し合いをしたいんですけど……」
「それは、出来ません。と言うより、そちらにその意志が無いように思うが?」
多分、勝手に第2のセンターなんか作ったからでしょうね。でもそれは、そっちが先にここを潰そうとしていたからです。
「そっちが先だと思いますよ」
「ほぉ……なる程。新たなセンターの方針に、納得がいかないと?」
「僕はこの家に戻ったばかりで、その辺りは良く分からないけれど、言う通りにならないからって、その場所を潰すのはやり過ぎですよ」
僕はそう言うと、さっきからニヤニヤしている雷獣を睨み付けます。
この辺りの事は、とっくにおじいちゃんが言ってくれていたと思う。それでも僕はまだ、この妖怪さん達の事を詳しくは知らない。
何を考え、どんな信念の元に動いているのか。それを知らないと、否定も出来ませんからね。
「ふむ……なるほど。いいでしょう。簡単に言うと、古い考えはもう駄目なんですよ」
「はい?」
古い考えって、おじいちゃん達の事でしょうか?
「今は全てデジタルの時代! データの時代! それを怠った為に、敵の策略に気付けなかった! 未だに紙で報告? 情報を纏めている? 馬鹿か! だから出遅れるんだ!」
「あ~言いたい事は分かるけれど、それとこの家を潰すのと、何の関係があるんですか?」
何だかおじいちゃん達を馬鹿にされた気がしたので、僕はちょっと苛立ちながら言い返します。
「私は雷を操り、電気も自由自在だ。つまり、私が全ての情報をデータ管理する。だがな、その作業中に見つけたんだよ。鞍馬天狗の翁と、そこの達磨百足が隠蔽していた情報、白金の妖狐『椿』あなたの情報と、その危険性をな!」
それって、僕のこの力の事? でもそれは、おじいちゃん達が明るみに出ないようにって、色々してくれていたんですよね。それを快く思わなかったのですか、この妖怪さんは。
「僕のこの力が、他の妖怪さん達への脅威になるかも知れないからですか?」
「そうだ! それを隠すなんて、邪な事を考えている証拠じゃないのか? それは、悪だろう? そんな危険な妖怪達の施設など、もう潰すべきなんだよ!」
徐々に怒りを露わにしてくる雷獣さん。今までその考えを、その感情を、ずっと押し殺していたんでしょうね。
だからって、それを容認出来る訳が無いです。僕は僕で、守らなきゃいけない大切な妖怪さん達がいる。僕を信じてくれている妖怪さん達がいる。
僕のこの力は、悪じゃない。
「それは……僕の事を知って、僕を知らない他の妖怪さん達が、パニックにならないようにする為です! おじいちゃんと達磨百足さんが、そんな悪い事を考える訳が無いでしょう!」
「情報を隠す事こそが悪! 情報は全てさらけ出し、たとえパニックになろうと、全ての妖怪に決めさせるべきなんだ! 危険な力は、排除すべきだとな」
それは、僕を信じてくれた白狐さん黒狐さん、それにおじいちゃんに達磨百足さん、そして美亜ちゃん達の様な妖怪さんに、カナちゃん達の様な半妖さん。その全ての妖怪さん達を愚弄しているよね。
だから僕は、ただ証明するだけです。僕は絶対に、この力を完全に扱えるようになるって事を。
「これを見ても、それが言えるんですか?! ❘
そして僕は、新たに出した白金の尾から、大量の光を発します。浄化の光をね。
これは、ちょっとでも悪い事をしているなと、そう感じている人や、妖怪の良心に訴えかけ、その悪の心を浄化するものです。
それと、ほんの少しだけ、僕の言う事を聞いてくれるようになるかな? この浄化の光のせいだと思うけどね。たまに、その……拝まれる場合もあります。
「なっ、なんだ? 目を眩ますだけで、何て事も――」
「そうですか? 周りを見て下さい。悪い事をしているなと、そう思っている妖怪さん達は、戦闘を止めていますよ」
「なに?! くっ! 何をしているんだ、お前達!」
半分かそこらは、これで戦意喪失するかなと思ったけれど、その大半、7割から8割の妖怪さん達が、戦闘を止めていました。
「ねぇ、雷獣さん。この状況を見て、どっちが悪なのか分かりますか? さて……皆、良心の呵責があるなら、本当に悪いと思う人を捕まえて下さい!」
すると、戦意喪失した妖怪さん達が全員、雷獣さんと残った妖怪さん達の方を向き、そして雄叫びを上げて襲い始めました。
「「「うぉぉぉお!!」」」
「なっ! き、貴様ぁ!!」
だけど、流石は雷獣さん。咄嗟に雷を操って、その集団から逃げましたね。でもね、雷ならこちらにも、扱うのが得意な方が1人居ますよ。
『よぉ。遅いな、お前の雷は』
「な、何?!」
雷獣さんが逃げた先には、既に黒狐さんが待っていて、その手に黒い雷を纏っていました。
そんな様子を見たおじいちゃんは、雷獣に向かって自分の考えを伝えます。
「雷獣よ。お前さんは、1つの事に囚われ過ぎとる。広い目を持ってくれんかのぉ。椿も危険な妖狐では無いし、その力に暴走の危険性があっても、他の妖怪に危険が及ぶような事には絶対にさせん。それは、情報を隠した儂等が、責任を持ってそうすると決めたのじゃ」
「くっ……!」
それでも、雷獣さんは納得していません。だけど、この状況を見てもまだ、我を通そうとする程頭が悪い訳ではなかったようです。
「良いだろう……今回は負けを認めよう。しかし! 必ずお前達は後悔するからな! 俺の考えに賛同すれば良かったと、そう思う日が来るからな! そうなってからでは遅いのだ! ふはははは!」
雷獣さんはそう言った後、高笑いをしながら雷を操り、そのまま去って行きました。更に、相手の妖怪さん達も我に返ったようで、慌てておじいちゃんの家から去って行きました。
ずっと僕の言う事を聞かせる事は出来ません。それは、たったこの1回だけでも、僕が力尽きるからです。
『椿!! 大丈夫か?!』
「大丈夫……じゃないです」
すいません、白狐さん。何とか気合いで立っていましたが、もう無理です……立てません。そして、激しくお腹が空きました。
しかも、白狐さんに支えられたその後に、僕のお腹が可愛い音を鳴らしてしまって、更に恥ずかしかったです。
『椿よ、また無茶を……』
「無茶じゃないです。いっぱい頑張っただけです」
『それを無茶と……まぁ、良い。良く頑張ったな、椿よ』
「ふへへへへ」
そして僕は、白狐さんにお姫様だっこをされ、そのまま家の入り口に向かった。また僕を心配していた、皆の所にね。
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