第玖話 【2】 急襲! 新妖怪センター

 妖魔に寄生された老人の妖怪は、僕に斬られた後、光の粒子になって消えました。妖魔に抵抗する意志は、最初から無かったみたいです。


「初めから、この妖怪は負の感情だけで動いていたんですね」


 とにかく、この中の妖魔達は全部外に出しました。

 あとは、美亜ちゃん達が上手く――うん、やってくれていますね。ここからでも、美亜ちゃんの呪術で生み出された木が、はっきりと見えましたよ。


 それをわら子ちゃんが全て捕まえてくれていたら、任務完了ですね。


 僕もそれを手伝う為に外に出ると、皆が美亜ちゃんの発動した呪術の木から、妖魔を次々と捕まえていました。わら子ちゃんの巻物を使ってね。それ、良いのかな……。


「あっ、椿ちゃん! 良かった~手伝って~! ちょっと多すぎ!」


「そのつもりですよ、里子ちゃん」


 この妖魔の数は本当に凄いです。半年の間に増えたという事なんでしょうか? 厄介ですね。


「ねぇ、わら子ちゃん。この半年の間で、妖魔が増えたんですか?」


「うん、一気に増えたんだよ。椿ちゃんが修行している間にね」


 やっぱりそうでしたか。それでも皆は、今まで頑張ってやって来ていたんですね。そうなると、早く華陽を何とかしないといけません。このままじゃ、妖界どころか人間界まで滅ぼされそうな勢いですよ。


『黒狐よ。我等は……別に来なくても良かったのでは?』


『うっ……物凄い妖気を感じたし、スマホで調べたら大妖の妖気だったから、これは助けが要ると思ったのだが……なんだ、これは? もう解決した……だと?』


「あれ? 白狐さん黒狐さん。来ていたんですか?」


 後ろから声が聞こえたので、誰かなと思ったら、白狐さんと黒狐さんが呆然としていました。


『う、うむ。翁の家に居ても、我等でも感じる程の物凄く強力な妖気だったので、翁の許可を得て、急いで飛んで来たのだが……椿よ、まさかとは思うが、もう倒したのか?』


「あっ、はい。その妖怪さんは、寄生する妖魔に寄生されていたし、抵抗する意志も無かったので、浄化しました。そうだ。来てくれたのなら、ちょっと手伝って下さい。この数の妖魔を、全部一度に浄化するのは無理なので、捕まえられる奴だけ捕まえているんです」


 僕がそう言うと、2人は納得がいかない表情をしながらも、僕達を手伝い始めました。

 ごめんなさい、僕を心配して来てくれたのは嬉しいですよ。でもね、僕はもう、半年前の僕じゃないんだよ。ちょっと怖かったけれど、何とか勝てましたからね。


 だからね、どうせ来てくれたのなら、誉めて欲しいなぁ……。


「あの……白狐さん黒狐さん、それだけ?」


『ん? あぁ、驚いてはおる。だが、とりあえず妖魔の方を――』


「あっ……うん」


 そ、そうですよね。まだ任務を完了してないですし、全部処理してからですよね。で、でも、ちょっと位は……。


「椿、可愛い……」


「何がですか?!」


 いつの間にか雪ちゃんが隣に居て、僕の顔を覗き込んでいました。しかも、ニヤニヤしながら。うぅ……何故か雪ちゃんにはバレているよ。


 しょうが無いです、おじいちゃんの家に帰ってからで……。


『とにかく、良くやったな。椿』


「あっ……」


 そんな時、突然後ろから、黒狐さんに軽く頭を撫でられたよ……そういう所は、黒狐さんの方が鋭いのかな。

 あっ、駄目だ。僕、また揺れてしまいそうです。せっかく白狐さんよりになっていたのに、黒狐さんったら~!!


「黒狐さん、ズルい……」


『はっはっは。白狐には負けてられんからな。言っただろ? 俺はまだ、諦めないぞってな。それで、どうだ? 俺の方に傾いたか?』


 あっ、待って。そのまま顔を近づけて来ないで。今は駄目。顔が真っ赤だと思うから。


『離れんか!! 黒狐! おのれ、我としたことが失念しとったわ!』


『おっと~自分に傾いているからって、油断する方が悪い』


 どうやらようやく、白狐さんの方も僕の要望に気付いたらしく、僕と黒狐さんの間に飛び込んで来ましたよ。

 だからって、その……白狐さん。頭を撫でるついでに耳まで弄らないで! そこはまだくすぐったいから。


「へぇ~まだ任務中なのに、3人でよくイチャイチャ出来るわね~」


「わぁ~!! み、美亜ちゃん! 後ろから蔦、蔦が!?」


 何故か美亜ちゃんが怒っている?! いや、怒って当然でした。そして、美亜ちゃんの後ろからは蔦が伸びていて、僕達に迫って来ていました。


『よし、椿よ。とりあえず、妖魔を処理するぞ』


『待て、白狐。それは椿達にやらせろと、翁に言われただろ。俺達は見ているだけだ!』


 あっ、そうだったんですね。とにかく、これ以上美亜ちゃんを怒らせたらいけないので、蔦に捕まっている妖魔を処理していきましょう。


 ◇ ◇ ◇


 それから数十分近くかかって、何とか全ての妖魔を片付けました。あとは、家に戻って報告ですね。

 でもその前に、白狐さん黒狐さんが、人間界と妖界を結ぶ道を閉じていました。半年前、滅幻宗のお坊さんがウロウロしていたのは、これをする為だったんですね。


 今になってそれを利用してくるなんて、華陽は抜け目が無いようです。それだけ、僕を誘い出す事に必死なんですね。

 そうなると、白狐さんと黒狐さんの作業、早く終わって欲しいです。こっちに近付いてくる妖気があるんですよ。あの凶悪な4つの妖気がね。


「白狐さん黒狐さん、終わった?」


『ん? あぁ、何とかな』


「それじゃあ、早くおじいちゃんの家に戻ろう。あいつ等がやって来ているから」


『なに?!』


『ちっ、この騒動から、椿がやったと断定したのか? 丁度良い――うぉ?!』


 なに戦おうとしているんですか? まだ僕達じゃ勝てないんだから、このまま逃げますよ。三十六計逃げるにしかずってね。

 だから僕は、白狐さんと黒狐さんの尻尾を掴んで、そのままおじいちゃんの家と繋がっている扉へと向かいます。


「2人とも焦らないでよ。まだ勝てないんだから、落ち着いて下さい」


『ぬっ……そうなのか』


『くっ……感知能力の高い椿が言うなら、間違い無いか』


 でもとりあえず、華陽とあの4人は、この妖界に居るようです。なんの為にここに居るかは分からないけれど、何か企んでいますね。


 そこにはきっと、湯口先輩も……。


 でも、今回は急いで人間界に戻ります。皆はもう先に戻っていったし、何よりおじいちゃんの家は安全だからです。


 それにしても……行きも帰りも場所を指定して留めておける、おじいちゃんの家の地下にあったこの扉って、実はセンターの扉なんかより高性能なんじゃないのですか? これなら、今のセンターに対抗出来そうです。


 更におじいちゃんの家は、強力な意識阻害のかかった結界があります。ちょっとやそっとでは――


「おぉ! 白狐に黒狐、椿も戻ったか! 戻って来て早々で悪いのじゃが、この家が、現センターの襲撃を受けている。直ぐに対処に向かってくれ!」


「嘘でしょう?!」


 そういえば、先に戻っていた美亜ちゃん達が居ないな~っと思っていたら、そんな事になっていたんですか?! それなら急がないと。


『おのれ……向こうにも、結界破りの妖怪がいるのか?! 翁、亰嗟は?!』


「まだ確認しとらん! とにかく急いぐんじゃ! 数が尋常じゃない!」


 う~ん。確かに外の妖気を確認したら、これ……100や200じゃ済まないですね。そうなると……対多人数戦用に、アレを使わないと駄目かな。


「まったく。酒呑童子は酒呑童子で、椿が戻れば問題無いと言って、何処かへ行きよった! 椿だけでもどうしようもなかろうが! あやつめ!」


 ということはつまり、アレを使えと言う事ですね。しょうが無いなぁ……。


『おい、椿。急いで――って、椿?!』


「ん……ちょっと静かにして下さい、黒孤さん。調整が難しいんですよ、これ。というか、まだ1回しか成功していないのに、酒呑童子さんったら」


「つ、椿……お前さん、尾が2つに……」


 そうですよ。だってずっと修行していて、妖気が高まったし、そもそも僕だって、そこそこ生きている妖狐なんですからね。尾だって、2つに分かれていてもおかしく無いよ。

 その内の1本にあの時の、カナちゃんを失った時に暴走した、僕本来の神妖の力を流していきます。


 この半年で、僕は自分自身の神妖の妖気も、ほんの少しだけ扱える事が出来る様になりました。ほんの少しだけでも、暴走しそうですけどね。


『片方の尾が、白金に……あ、あの時の? 椿よ、よせ! それは――』


「大丈夫、です。これをする前に、一瞬だけ繋ぎを使いました。浄化の神妖の力をね」


 そう。浄化の神妖の力を使う時の僕は、本当の僕の神妖の力を使う為の鍵というか、橋みたいなものだったのです。それを半年前はすっ飛ばして、怒りに任せて解放したから、あんな風に暴走したのです。

 ちゃんとした手順を踏めば……と思ったのだけれど、やっぱり僕本来の神妖の力は相当です。ちょっと使おうとしたら、一気に膨れ上がるんですよ。これ、本当に使いこなせるようになるのかな。


 とりあえず、1回です。この状態だと、1回しか妖術が使えません。それで、襲って来ている全ての妖怪さん達を、ここから撤退させます。

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