第玖話 【1】 寄生された歳経た妖怪
翌朝。早速おじいちゃんは、僕達を地下の大ホールに呼び出し、チームとして任務を行うようにと、ある依頼を渡されました。
妖界から人間界へと移動する扉、そこが乗っ取られたらしいので、僕達で解放しろとの事です。いきなり無理難題。
ちょっと待って下さい。それって、プロのお仕事ですよね? と、文句を言う前に――
「上級ライセンス持ちが2人居る時点で、お前さん等はプロじゃ」
おじいちゃんがそう言ってきました。
だけど、納得がいかないですよ。やる気満々な楓ちゃんは置いておいて、他の皆は不安になっています。
「それとじゃ。昨日お前さん等は、リーダーは誰にするかでもめとったが、椿よ、お前さんがやれ、命令じゃ」
「やっぱりですか……」
予想はしていましたよ。でも、おじいちゃんの言う事には歯向かえ無い。美亜ちゃんも不満そうにしているけれど、文句を言いません。というか、言えないと思う。
その後、おじいちゃんの家の地下にある、今まで入った事がなかった大ホールから出た僕達は、早速その現場に向かっています。
それにしてもあの大ホール……おじいちゃんの家の地下に、あんなのがあったなんて。
ずっと変な扉があったのは知っていたけれど、鍵がかかっていたし、開かずの間として有名でしたからね。それが、あんな大ホールだったなんて。
そしておじいちゃんの横で、大量の書類を一気に捌く達磨百足さんと、来客の対応に忙しなく動くヘビスチャン。そして、クビになった前センターの職員さん達が、一生懸命働いていました。おじいちゃんの家が、より一層賑やかになりましたよ。
しかもその大ホールの左右には、更に別の扉が大量にあって、そこから様々な場所の妖界へと飛べるという物でした。
僕達はそれで、妖界にあるという乗っ取られた扉の近くへと飛んで来たのです。こんな便利なのが、あの家の地下にあったなんて驚きです。何の為にあったのかは、教えてくれませんでした。だけど、その内装がセンターに近いものだったから、恐らくそういうものに使っていたのでしょうね。
「さて。それじゃあ、お手並み拝見といこうかしら。リーダーさん」
「美亜ちゃん、それは嫌味ですよね?」
今は近くの建物の陰に隠れ、向こうの様子を伺っているけれど、後ろから美亜ちゃんがそんな事を言ってきます。あんまり大きな声は出さないで欲しいです。
さて……今僕達が居る妖界の場所はというと、京都駅の直ぐ近く、あの東寺のある所です。
そういえば以前、人間界の東寺の方で、滅幻宗がウロウロしていた事があったけれど、ここに大量に湧いている妖魔と、何か関係があったのかな。
ここって妖界の方でも、何気に交通の主流だったりするし、こんなに大量に妖魔が居ると、電車が走れないんですよね。
前方と後方にそれぞれ1つずつ、とても大きな目玉が付いている『妖怪電車』さんがね。その目で危険を察知すると、急停車できる優れ物です。中は大変な事になるから、当然だけど妖怪さんしか乗れないですよ。
とりあえず、今にも倒壊しそうな木造の塔の周りが1番多そうですし、入り口を突破しても、その後がキツそうですね。それだったら……。
「美亜ちゃん。ちょっと入り口の所に、呪術で罠を張っておいてくれる? それで、他の皆はここで待ってて。出て来た妖魔達を、ここで捕まえてくれるだけで良いから」
「それじゃあ、妖魔を捕まえられるライセンスを持っている私が、順番に捕まえていくね」
「お願いします。わら子ちゃん」
それにしても……あの龍花さん達が、わら子ちゃんをこうやって外に出すのを、よく了解してくれたよね。
龍花さん達は絶対に反対すると思ったのに「座敷様の事、お願い致します」って、僕に言われてしまいました。
何だろう……皆の僕に対しての評価が、少し変わっているような……いや、良いです。今は目の前の任務に集中です。
「それじゃあ、ちょっと行ってくるね!」
僕はそう言って、白狐さんの力を解放して上空へと跳び上がると、そのまま建物の壁を蹴り、空中を移動し、東寺の中に飛び込みます。
その瞬間、妖魔達が一斉にこっちを向きました。
「うひゃあ……これは、寄生する妖魔に寄生されたのじゃなくて、純粋な妖魔ばかりですね。小さいのから大きいのまで、ざっと50体近くかな?」
「ナンノヨウダ」
えっ? 喋った。誰……何処ですか?
だって妖魔は喋れないし、人語を理解出来ないんですよ? たった1つの負の行動に縛られ、それで動いているだけです。
つまり、こうやって集団で集まっている時点で、もうおかしいのです。だから、ここは僕1人で行く事にしたんです。その判断は正解だったかな。
この妖魔達は、僕が現れても襲って来なくて、ジッとしているだけです。すると、その集団の中からゆっくりと、誰かが僕に向かってやって来ます。
腰が曲がり、杖で支えながら歩く、老人の様な外見をした妖怪さんがね。だけどこの気配……この妖怪さんは、寄生する妖魔に寄生されています。
妖怪の場合は、妖怪さんの方に抵抗する意識があれば、僕の浄化の力で、その妖魔だけを吹き飛ばせるみたいだけど……。
「ココハ、ナガネンワシガネムッテイタバショ。ヨウヤクメザメ、モクテキヲハタセルンジャ。ジャマモノハ、カエレ」
凄い殺気です。これは、抵抗の意志が見られないや。だけど、寄生されて間もないんじゃ無いかな? ここを乗っ取られたのも、1週間程前だって言っていたしね。
「それで、目的ってなんですか?」
とりあえず、御剱を巾着袋から取り出して、手に持っておきます。いつで対応出来る様にね。
「シレタコト。ダレカガアケタコノミチカラ、ニンゲンカイニムカイ、ワレヲフウジタ、ニクキニンゲンドモヲ、ホロボシテヤル」
その瞬間、その妖怪さんから物凄い妖気が溢れ出し、そしてそれに反応する様にして、周りの妖魔達が動き出しました。
「サァ、イケ、オマエタチ。アバレロ」
この妖怪さん、他の妖怪や妖魔を操る力を持っているんですか? それなのに、自分が寄生されて操られるなんて……いや、もしかしたら。
嫌な予感がした僕は、急いで辺りを確認するけれど、あの妖魔人の4人の姿は無かったです。
だけど、可能性としては十分に考えられるよ。封印されていたこの妖怪さんに、寄生する妖魔を寄生させて、無理やりその封印を破った。
封印する程なんです、いつもの巻物で捕まえるのは無理でしょうね。とにかく今は、人間界に向かおうとしているこの妖魔達を止めないと。
「御剱、神威斬!!」
僕は御剱を振り下ろし、巨大な光の刃を放ち、妖魔達を次々と切り裂いていく。でも、これじゃあ全てに対処が出来ない。それなら……。
「一気に外に吹き飛んで下さい!」
そのまま今度は、浄化の風を発生させ、竜巻の様にして御剱に纏わせると、それを妖魔達に向かって放ちます。
そして続けてもう1本、別の妖魔の集団にも放ちます。こっちに向かって来る妖魔達は、御剱で斬りつけて浄化です。
「ホォホォホォ。コレハナカナカ……ジャガ、ワシガイルイジョウ、マタヨベバヨイ」
「残念だけど、そうはさせないよ。あなたもこのまま、浄化されて下さい。僕はおじいちゃ――じゃない。鞍馬天狗の翁から、そして第2のセンター長達磨百足さんから、特別な権利を貰っています。捕まえるのが不可能だと思った強い負の感情、邪念を持つ者は、容赦無く浄化しても良いってね!」
「ホォ……ナラバ、ワシモジョウカシテミヨ!!」
「そのつもりです」
でも、近寄れば斬られるんじゃないかと思うほどの、激しい気を撒き散らしているから、こっちも油断は出来ません。
そしてその妖怪は、杖を水平に両手で握り締め、腰を更に深く落としてきました。
これってもしかして……居合い? しかも、一般的な腰に携える型じゃない。より早く、より確実に仕留める為に、抜きに集中した型。
「くっ……」
そのまま、相手の殺気が徐々に広がっていく。
落ち着け、僕。何の為に修行をしているんですか。酒呑童子さんのあの特訓は、こういう敵とも対等に戦う為のもの。
そして次の瞬間、相手の姿が一瞬で消え、殆ど音も無く僕の腕が斬りつけられた。
だけど、僕はギリギリで身を反対側に倒していたから、掠っただけで済みました。ほんの一瞬、空気を斬る音が聞こえて来たから、何とか反応出来たよ。
でもね、僕だってただ避けただけじゃないです。避けながらも、ちゃんと御剱を振っていました。
それが相手に当たるか当たらないかじゃない、もう勘です。ここなら絶対に当たるという直感。それだけで、僕は相手の胴を斬る事に成功しました。
「ヌゥ……マサカ……コノ、ワシガ……」
「はぁ……はぁ。危なかった……でも、酒呑童子さんよりも遅かったですね」
最後のあの一瞬、僕には相手の光る刃が見えました。仕込み杖でしたね。だけどこの妖怪は、戦闘能力も恐ろしかったけれど、他の妖怪や妖魔を操るという方が恐ろしかったです。
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