第捌話 【2】 チームのリーダーは誰に?
その日の夜、おじいちゃんに半ば無理やりチームを結成された僕達は、とりあえず一緒にお風呂に入りながら、連携をどうするかの作戦会議です。
あっ、そうそう。浮遊丸さんは封印された牢に入れられているので、流石に覗きは出来ないよ。そう、出来ないはずなのに……。
「ぎゃぁぁあ!! なんやこれ! 蔦が蔦がぁぁあ!」
何で、出られているんでしょうか?
美亜ちゃんが呪術で罠を張ってくれていたので、何とか捕まえたみたいです。もうこの妖怪さんは、完全に封印した方が良いかも知れないです。もしくは……。
「浮遊丸さん。今度覗きをしたら、私が滅しますよ」
「は、はひ……」
全く……懲りない妖怪さんです。今回ばかりは本気で脅しておきました。
「椿ちゃん……その状態、大丈夫なの?」
「ん? あっ、ごめんごめん、里子ちゃん。大丈夫だよ」
脅すためとは言え、神妖の力を解放していましたからね。皆に心配をかけてしまいました。とりあえず戻しておきます。
すると、離れた所で髪を洗っていた美亜ちゃんが、泡を洗い流した後、こっちにやって来ながら話してきました。
「まぁ、それだけ強くなって貰わないと、私とチームを組む権利なんて無いわよ」
「嬉しいくせに」
「何か言ったかしら? 雪」
美亜ちゃんは雪ちゃんの近くに来ると、湯船につかり、そのままちょっと睨み付けているけれど、雪ちゃんはちょっとだけニヤニヤしていました。
僕達は既に、体や髪を洗い終えていたから、とっくに湯船に浸かっていたけれど、美亜ちゃんは時間がかかっていましたね。
どうも美亜ちゃんは、熱いの全般が苦手らしいので、熱さに慣れる為にと、シャワーで頑張っていましたよ。
「ふぅ……で、どうするのよ?」
「どうするのって、何をですか?」
そのまま美亜ちゃんは続けてくるけれど、何が言いたいんでしょうか? 今更、チームで動くのは嫌だって言うのかな。
「チームで動くなら、リーダーが必要でしょ? リーダーが」
「あっ、そう言いう事でしたか。う~ん、確かに必要だけど……って、何で皆驚いているんですか?」
何故か皆「えっ? それ決めるの?」と言う目をしています。まさか、リーダーなんて必要無いって思っていました?
だけど、これから集団で動くなら、ちゃんと状況を分析して把握し、的確に他のメンバーに指示を出せる者を選ばないといけませんよ。そうしないと、バラバラでは危機に陥りやすいですからね。
「す、すいません。自分、姉さんがやるもんだと思っていました」
「あっ、私も」
「同じく」
「私は当然、椿ちゃんのペットだから、従順に言う事を聞くだけです」
「えっ? 皆そう思っていたの?!」
とりあえず、最後に里子ちゃんがとんでもない事を言ったけれど、それは無視しておきます。
う~ん……楓ちゃんはまだまだ未熟だし、雪ちゃんは修行して強くなったと言っても、半妖ですし、わら子ちゃんは僕よりライセンスが上だけれど、彼女への危険性や負担が増えるような事を、あの龍花さん達が簡単には容認してくれそうに無いし……。
そうなると、消去法で僕と美亜ちゃんだけになっちゃいます。それなら仕方無いですよね、僕がやるしかないです。と思っていたら、美亜ちゃんが反論してきました。
「ふん。あんたら、分かってないわね。こんな風に尻尾を掴まれて悶える子が、リーダーなんか出来るの?!」
「んっ……!」
ちょっと美亜ちゃん、いきなり尻尾を握らないで下さい!
でも残念でした、もう半年前とは違うんですよ。そんなので悶えたりしませんから。
「あら?」
「ふ、ふふ~ん。流石にいつまでもそんな弱点、残しておくわけ無いでしょう? それに、美亜ちゃんの方が尻尾は弱いでしょう!」
「んにっ?! ふ、ふ~んだ。私だって、自分の弱点くらい克服してるわよ」
あれ? 悶えるようにと結構強めに握ったし、色々弄っているのに、美亜ちゃんも悶えません。
「やっぱり椿ちゃんの尻尾って、どの妖狐さんよりもフワフワで、しかも水気も弾いていてすごい……久しぶりに触ったけれど、やっぱり椿ちゃんの尻尾が1番好き」
そこは気付いていたけれど、多分毛質でしょうね。ってそう言いながら、わら子ちゃんも触って来ないでくれませんか? 流石に2人はきついです。
「あ~ら、どうしたの椿? やっぱり克服出来ていないんじゃないの?」
「くぅ……そ、そんな事な、い! というか、僕ばっかりズルいです! 楓ちゃん、里子ちゃん! 美亜ちゃんの尻尾を弄って!」
「了解っす! 姉さん!」
「は~い! 椿ちゃんの言う事なら喜んで~」
「えっ? ちょっと! ふにゃあ!? や、止めなさいよ、こらぁ!」
これで2対1。やっぱり僕の方に分があり――って、待って下さい。雪ちゃんの事を忘れていました。ゆっくりと僕に近付いて来ないで、待って待って……目が輝いているよ、ちょっと雪ちゃん?!
「やっぱり私は、椿の尻尾の方が、良い。椿の尻尾に一票」
「そういうので選んでいるんじゃ無いです! あぅっ?! 待って……雪ちゃんわら子ちゃん、その弄り方は駄目!」
2人とも、手を上下に動かさないで下さい。そういうのは、まだちょっと我慢出来ないんです。
「ふ、ふふ……どうしたのよ、椿。悶えているんじゃないの?」
うぅ……お返しに、美亜ちゃんの尻尾を弄る暇が無い。我慢するのに精一杯です。ということは、僕の方が沢山弄られている。それはマズいです。
「ん~羨ましいっす! やっぱり自分も、姉さんの尻尾を触りたいっす! 姉さんの尻尾に一票!」
「だから、そういうのじゃな~い! って、里子ちゃんまでいつの間にこっちに?!」
「えへへへへ。言う事を聞いたご褒美~」
里子ちゃん、これは言う事を聞いていないと思いますよ!
あぁぁ……結局全員で、僕の尻尾とか耳とか弄りまくっています。も、もう駄目です。流石に我慢出来ません。
というか、作戦会議をするはずが、なんでこんな事に……。
「ふっふっ。この程度で悶えるようなのを、リーダーには出来ないでしょ? やっぱり私の方が――」
「んぅ、くっ……それ以上に、僕の尻尾の方が魅力的なのでしょう? はぁ、はぁ……それなら、人望の厚い方が、くぅ……リーダーに、向いているんじゃないんですか? きゃぅ?!」
「悶えながら何言ってんの? 皆、その子より私の方が、頼りになると思わ――」
残念だけど美亜ちゃん。皆聞いていないですよ。
「はぁ、はぁ。椿ちゃんの尻尾……フサフサ尻尾~」
里子ちゃんなんかはもう、トリップしたかの様な目をしているし。
「椿……今日こそは、一緒に寝よう」
雪ちゃんも僕の事しか頭にないですし、このまま寝るのも一緒になりそうです。
「はぁ~何だか椿ちゃんの尻尾って、触っていると落ち着くんだよね~」
わら子ちゃんも、幸せそうな顔をしながら僕の尻尾を触っています。君、座敷童だよね……。
「そういえば、姉さんの尻尾……何気に初めて触るっす。か、感激っす~こんなに触り心地が良いなんて……ぐす」
楓ちゃんは泣き始めました。
あれ? そうでしたっけ? もう色んな人や妖怪さんに触られて、分からなくなっていましたよ。でも、触らした事がある様な無いような……うん、分からないです。
とにかく、皆がこんな調子なので、美亜ちゃんの主張は聞いていません。
「ちょっと! む、無視しないでよ。私の方が、私の方が……ぐす」
あっ、ちょっと皆、美亜ちゃんの話を聞いてあげて。もう泣いちゃいそうですよ。
「ちょっと皆……! 流石に美亜ちゃんを無視するのは――ひぐっ?!」
「はぁ、はぁ。フサフサ尻尾~」
「これを握って、このまま寝たいなぁ」
「確かに、眠くなってくる……」
「姉さんの尻尾、最高っす」
駄目です! 皆聞いていない!
あれ? ちょっと待ってください。今思い出したけれど、確か妖狐の種類によっては、その美しい尻尾を使って、他者を魅了したりするのもあって、もし僕がその能力を、両親から受け継いでいたのなら……。
「あわわわわ!! 今更大変な事に気付いちゃった~! 皆、僕の尻尾から手を離して! というか離れて!」
半年前は、魅了の力が弱かったのだろうけれど、修行して強くなって、その力も上がっているとしたら? 今のこの状態、皆を魅了しているとしたら? それはちょっとマズいです。
「わぁ~!! お願いだから、皆離れて~!」
「ぐす……ちょっと! 私を無視しないでって言っているでしょう! ズルいわよ……もう! 椿の尻尾は私のよ~!!」
「あ~!! 呪術の得意な美亜ちゃんまでぇ!」
美亜ちゃんも呪術の修行をしていたし、その耐性も上げていたから、こういう魅了系や操るタイプのは、効かなくなっているのかなと思っていたら、しっかりと効いていました。それだけ、僕の尻尾の魅了が強力って事じゃないですか……。
結局僕は、そのまま全員から尻尾を弄られまくってしまい、悶えに悶えながらいると、あっという間にのぼせてしまいました。
そして、全員でそんな事をしていたものだから、その上気で皆ものぼせてしまい、お風呂が遅いと心配して見に来た氷雨さんに、無事に発見されて何とか助け出されたけれど、その後に氷雨さんからお説教をされてしまいました。
作戦会議は何処へやらですよ……。
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