第陸話 【1】 パワーアップし過ぎた能力
龍花さんの案内で、僕達は駅からちょっと行った所の、ボロボロの家屋が立ち並ぶ場所にやって来ました。
白狐さん黒狐さんを引きずってね。
もう……何で僕のあの声で倒れるんでしょうか。とにかく、早く起きて下さい。
「さっ、こちらです。今は、虎羽と朱雀が見てますから」
そう言って龍花さんは、その中のあるマンションに入って行く。5階建てくらいのマンションだけど、やっぱり蔦とか伸び放題。壁もボロボロで、所々に穴が空いている。
それなのに、中はそこそこ綺麗なので、いつも不思議な気分になります。妖術か何かを使って、綺麗にしているんでしょうね。
そして龍花さんは、1階の1番奥の部屋に向かい、声をかけながらその部屋に入って行きます。
「3人とも、戻りましたよ」
部屋の中は、真ん中に玄葉さんが寝ていて、2人がその横に座っていました。
そして、龍花さんが帰って来たのに反応して、2人が立ち上がろうとしたところで、その後ろの僕の姿に気付きました。
「「「椿様?!」」」
あっ、玄葉さんまで立ち上がろうとしていますよ。ちょっと落ち着いて下さい。見たところ、頭と腕に包帯を巻いているじゃないですか。意識はあるし、動けるみたいですけど、無茶して傷口が開いても困りますよ。
「いっ……つぅ!」
「玄葉さん。無茶しちゃ駄目ですよ」
ほら~痛みで顔をしかめているじゃないですか。自分が怪我しているのを忘れる程に、びっくりしたんですか? たった半年だったからかな。
「すみません、椿様」
「玄葉、あなたは寝ておきなさい。全く……私達を庇って、あんな攻撃を受け止めるなんて」
身体を起こした玄葉さんを、朱雀さんが支えながら、再度布団に寝かし付けました。
だけど、それも直ぐに治ると思うよ。だって、白狐さんが居ますからね。
「それじゃあ、白狐さんーーあっ」
「えっ?! 白狐様、黒狐様。いったいどうされたのですか?! まさか、敵に!」
「すいません、虎羽さん。僕のせいです……」
「は……?」
とりあえず、この2人を起こさないといけませんね。
でもどうやって? 実はここに来る前に、色々と試してみたんですよ。ほっぺをペチペチしたり、頭叩いたり、あとは耳元で囁いてみたり。これは、僕が恥ずかしかったです。
「う~ん、あとは何が……というか、本当はもう起きているんじゃないの?」
「可能性はありますね」
「ですよね、龍花さん」
それなら、ちょっとだけ試してみましょう。
「ふぅ……大丈夫。1回やってるんだ」
それでも、ドキドキしちゃうよ。自分からなんてね。
それから僕は、深呼吸をして心を落ち着かせると、ゆっくりと白狐さんの顔に、自分の顔を近づけていきます。そのままいったらキスしちゃうんだけど、多分起きているのなら……。
『何故白狐からだ』
「はい、アウト。やっぱり起きてましたね」
『黒狐!! お主、もう少し我慢というものをせぬか!』
『うるさい! こういう時、いつもいつも白狐からじゃないか!』
2人とも、叫びながら飛び起きました。この2人は、こんな時まで……。
そうそう、何で白狐さんからだったのかというと、黒狐さんはその後が危なそうだからです。襲われそうで……。
「さてと……それじゃあ白狐さん。あとは分かっているよね?」
『むっ……う、うむ』
示し合わせた訳でもないのに、同じ行動をするなんて。この2人は、本当に仲が良いですね。
そして白狐さんは、玄葉さんの元に向かいます。
『さてと……玄葉、珍しいな。お主がこんな怪我を』
「申し訳ありません。敵の妖魔に、あんな者が居るとは思わなかったのです」
白狐さんの治癒を受けながら、玄葉さんはそう言ってきます。敵の妖魔の中に、玄葉さんの盾を突破する程の奴が居るんですか……それは困りました。
と、その時。僕達の居る部屋の扉が開き、見知らぬ妖怪さんが叫んできました。
「大変だぁ! あの妖魔が……レーザー砲を放つ妖魔が、また充填しているみたいだぞ!」
「何ですって?! つぅ!」
『いかん、玄葉。まだ治癒は済んでおらん。落ち着け』
その声に、また玄葉さんが起き上がろうとしたけれど、まだ白狐さんの治癒は終わってないらしく、そのまま布団に倒れ込みました。
「し、しかし……私でなければあれは……」
レーザー砲か……上手くいくかなぁ。
『仕方ない。目視出来るところで、俺の変異の力でーー』
「黒狐様。それをしても『攻撃』には変わりないでしょう? レーザーから変化させても、物理的ダメージはあるのでは?」
『うっ……』
虎羽さんに言われた事が言い返せず、黒狐さんが黙っちゃいました。図星だったようですね。
「仕方無いです。僕が何とかします」
「「「「椿様?! しかし……!」」」」
4人とも一斉に声を揃えて驚かないで下さい。何もかも揃っていたから、気持ち悪かったです。その後に、白狐さんも僕を止めてきます。
『椿よ、危険過ぎる。玄葉でこの怪我なんじゃ、お主だけではーー』
「大丈夫ですよ、白狐さん。いったい何の為に、僕が修行したと思っているんですか?」
僕はそう言うと、立ち上がって後ろを向き、自分の尻尾を見せつける様にしながら、左右に振りました。
それで、白狐さん黒狐さんは何で悶えているんですか?
『いや、しかし……やはり危険だ。俺も行くぞ』
「と、とにかく急いでくれ! ここには対処出来る奴がいないんだ!」
もう……分かりましたよ、1つ目の妖怪さん。そんなに慌てなくても、充填中ということは、まだ少しは余裕があるのでしょう?
「とにかく、高い所に行きたいですね。ここのマンションの屋上には、上がれますか?」
「そこは上がれるが、いったい何を?」
「今は急いでいるんでしょ? それと、遠目の効く妖怪さんは居る?」
「それも、屋上で見張りをしているが……」
それじゃあ、屋上に行くだけで良いですね。
僕は部屋を出ると、急いで階段に向かい、屋上へと上がって行きます。マンションの構造なんて、人間界と一緒ですから、屋上への行き方は分かります。
そして屋上に着いた僕は、早速その先に居る、慌てた様子の妖怪さんに話しかけます。
「敵はどこから撃って来るんですか?」
「あっ? えっ? 君は……?」
うわぁ……この妖怪さん、目が伸びています。飛び出しているんじゃなくて、目全体が伸びていますよ。
確かに、これなら良く見えそうですね。外見は人なのに、どんな名前の妖怪さんなんでしょう? って、今はそれどころじゃなかったよ。
でも、その妖怪さんに確認しなくても、この妖怪さんが見てる方向に、妖魔が居ましたね。凄い妖気を感じます。
「分かりました、あっちですね」
『椿、良いか。無理なら直ぐに言うんだぞ』
「椿様。最悪、私が盾に……」
あれ? 黒狐さんはともかく、何で朱雀さんまで着いて来ているんですか? 皆心配症ですね。僕なら大丈夫なのに。
そして僕は、妖魔の居る方角を向き、屋上の端まで行きます。すると、直ぐに大量の妖気が放たれる気配がしました。
更にその直後、物凄く眩しい光の塊が、こちらに飛んで来ます。
これが、相手のレーザー砲ですか。ちょっと大き過ぎませんか?
このまま直撃したら、この辺り一帯が消し飛びますよ。妖気が放たれる直前に、両手を前に向けていて助かりました。そうじゃないと、多分間に合ってなかったです。
「術式吸収!」
そのまま僕は、妖術を吸収する要領で、そのレーザーを両手で吸収していきます。
これもちゃんと、レベルアップしていますよ。物理攻撃じゃなければ、全て吸収出来ますからね。限度はあるけれど。
「よし、成功です」
吸収は成功しました。限度内なのは、放たれる前に分かっていましたから。
そして次に僕は、自分の尻尾を前に出して、その尻尾の先数センチを、ゆっくりと細くしていきます。
この力「術式解放」もパワーアップしていて、威力を更に倍増して返す事が出来ます。
だからこうやって、狙いをつけやすくした後に、細い線の様にしたさっきのレーザーを、そのまま相手に返します。
「そ~れ、お返し~!」
『待て、椿!!』
「ちょっ……! それは、威力を倍増にしているのでしょう?! そのまま返したら駄目です!」
えっ? あ……しまったーーと思ったけれど、もう遅かったです。
相手の妖魔が居たであろうその場所に、そのレーザーが返っていき、それが消えた瞬間ーー
大きな光を発しながら、超強力な大爆発が巻き起こり、その衝撃がこっちまでやって来ました。
「きゃぁぁあ!! しまったぁ!!」
しかも、踏ん張るのを忘れていました! 誰か止めーー
「うぷっ!」
『おぉ、椿が俺の胸に……』
あっ、黒狐さんが抱き止めてくれたけれど、ちょっと待って、そのまま抱きしめないで下さい。苦しいです。
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