第陸話 【2】 再戦! 妖魔人「閃空」

 慌てて黒狐さんから離れた僕は、急いで現状を確認します。


「わぁ……隕石が落ちたみたい……」


 目の前には、大きなクレーターが出来ていました。

 相手がそれだけの威力のレーザーを放ったからなんだけど、返すにしても、もう少し考えるべきでした。

 というか、妖魔どころか他の妖怪さんまで、この爆発に巻き込まれたとしたら……僕は、それだけの数を殺してしまった事になるよ。


「椿様、大丈夫です。あの辺りは妖魔が固まっていて、他の妖怪は誰1人として近付けずにいました。恐らく、妖怪は1人も殺していないと思いますよ。ただ、先程の衝撃で、この辺りの妖怪達が怪我をしているかも知れません」


 どっちにしてもごめんなさい……。


 妖魔の方は作られた者で、必ず他の妖怪や人間達に、命の危険があるほどの悪事をするそうなので、以前からセンターの方では、殺害許可が出ていました。


 それでも、命あるものに変わりないと思っていたんだけれど、そんな甘さがあったから、殺されそうになったり、大切な者を失ったりした。だからそこは、心を鬼にして退治します。


 でもね、捕まえられそうなら、全力でそうするよ。やっぱり僕は、まだ甘いのかな。


 僕達は屋上を後にし、さっきの部屋に戻ると、もう白狐さんの治癒は終わっていて、玄葉さんが立ち上がり、こちらにやって来ました。


「椿様、大丈夫ですか?! 先程の衝撃で、怪我等していませんか?!」


「大丈夫ですよ、玄葉さん。ただ、ちょっとやり過ぎちゃいました」


 僕は玄葉さんの言葉に、頭を掻きながらそう答えると、朱雀さんがさっき起こった事を説明しました。

 ところで、白狐さんはどこに? 見当たらないですよ。あっ、もしかして……さっきの衝撃で怪我人が出て、それの治癒に? やっぱり、やり過ぎてしまっていましたね。


「なるほど……しかし椿様、強くなられたのは良いですが、少しは戦略の事も考えましょうか」


 うっ……何故か龍花さんが、怒り気味でそう言ってきました。

 確かに、威力を倍増していたのを忘れていたので、怒られるのは当然です。でも、呆れているような様子でもあるんですよ。


「良いですか、直ぐに戦闘準備をして下さい。敵が総力を結集させ、ここに突撃して来ます!」


 どういう事ですか? ここって、敵から身を隠す為の場所でしょ? そんなに簡単にはバレないんでしょ? 派手な事さえしなければーーあっ。


「椿様、目を逸らさないで下さい。やっと気付きましたか?」


「気付いていないよ。うん、ボクナニモキヅイテイナイデスヨ」


 あんな派手な敵の攻撃を吸収して、更にその場所から、ピンポイントに返して来たとなると、ここに僕が居ますよ~って、敵にお知らせしている事になるなんて……そんな事、気付いていないですよ。


「わざとらしく口笛も吹かない! あの悪鬼からは、強くなる事しか修行されていないんですか?! せめてそのおつむも、ちょっとは賢くしておいて貰えれば、完璧でしたのにね~」


「いふぁいふぁい! ふかはん、ほへんなはい!」


 ほっぺ引っ張らないで下さい! 黒狐さんもやりたそうにしているし。というか、あとで絶対にやられるから。


「敵だ~!! 妖魔が、大量の妖魔が迫ってきた!!」


 嘘でしょう? 早くないですか? いや、周りに結構居た気もするし、そいつ等が先にここを襲撃して来たんですね。

 これが僕のせいなら、何とかしないといけません。だとしたら、あの状態になった方が良いですね。


「龍花さん、これも僕が対応するので、このマンションの守りはお願いします!」


『椿、待て。流石にお前だけではマズい』


 確かに、今までの僕なら危なかったですよね。

 だけど、もう昔の僕じゃないんです。それを、白狐さん黒狐さん、そして龍花さん達にも見て貰いたいんです。


「白狐さん、今外に居るんですか? 状況は?」


 そして僕は、白い勾玉に向かって話かける。これで白狐さんと連絡して、外の状況が分かります。


『椿か? いや、少しマズいな。他の妖怪達が戦っとるが、ちょっと数が多くてな。我はまだ、怪我をした者の治癒をせねばならぬ。すまんが、龍花達に言ってーー』


「大丈夫です。僕がやります」


『椿?! いかん! それで先程の様な事になっては、また怪我人が出るわ!』


 あ~やっぱり、白狐さんからも怒られました。何気に初めてですね、白狐さんから怒られたのは。ちょっと、嬉しいかな。

 だって白狐さんは、いつも僕を許してくれて、とても優しくしてくれていたけれど、それって……真剣に僕の事を想ってくれていないんじゃないかなって、そう考えちゃっていたんです。


「ありがとう、白狐さん。ちゃんと怒ってくれて。でも、今度は大丈夫です。しっかりと考えていますよ」


『ぬっ……しかし』


 そして僕は、そのままマンションの外に出ると、巾着袋から御剱を取り出し、神妖の力をその刀剣に込めていきます。


 確かに、妖魔がいっぱい居ますね。

 でも、これでまだ全部じゃないんだよね。それなら、いちいち戦っていたらきりがないです。


 だから、一点突破で敵の大将ーー閃空を叩く。


 勝てるかどうかの自信は無いよ。何が起こるか分からないですから。だけど不思議と、僕の心は落ち着いています。


『椿! せめて、我か黒狐のどちらかを……』


 白狐さん、ちゃんと治癒して上げないと。その妖怪さん、途中ですよ。

 マンションから出て来た僕が、足を止めずに妖魔の群れに向かっているから、心配になったんでしょうね。


「白狐さん、大丈夫です。僕は……私はもう、あの時とは違いますから」


『なぬ?! つ、椿……その姿は!』


『うぉ! 椿、その長髪の金髪は……まさか、神妖の力を全開にしたのか?!』


 黒狐さんまで、僕を心配して出て来ました。でも、大丈夫ですよ。僕は僕のままですからね。それに、これでも全力全開ではないですよ。


「黒狐さん、大丈夫ですよ。私はもう、ただ負なる者を滅ぼすだけの、危ない存在じゃないですよ」


『なっ?! あ……つ、椿? 暴走、していないのか?』


「はい、そうです。白狐さん……ちょっと、だらしなく口を開けすぎです」


 そんなに驚いたのかな? でもこの状態は、要するに混ざった状態なんです。頭の中で色々考えているのは、僕ですよ。

 だけどその精神は、神妖の力が暴走した時の『私』口調の僕なんです。


 だから、その……ちょっと反応が僕とは違うから、違和感あるかも知れません。


「さて……この状態。以前にも増して力が強くなり、とても安定しています。それに何より、気分が良いです。それっ」


 僕はそう言った後、御剱を前方に振り、妖魔だけを一掃して消し飛ばしました。

 やっぱり『浄化』の神妖の力を使うなら、この状態が1番良いですね。


『なっ……あ……』


『つ、椿。それも、修行の成果か?』


 白狐さん黒狐さんが、口を開けたまま呆然としていますね。しかもその後ろには、龍花さん達まで……。

 玄葉さんはまだ寝ておいた方が良いのに、そんなに僕が心配だったんですね。


 でもそれは、周りに居た妖怪さん達も一緒で、皆目を丸くして呆然としていました。

 そんなにかな? 前方から襲って来ていた妖魔を、ほんの2~30体浄化して、消しただけですよ?


「どうですか? これなら、何とかなると思いませんか?」


 それでも、皆から返事は無しですか。ちょっと、驚き過ぎですよ。


「いや、椿様! う、上を!!」


「ん~? おっと!!」


 上から斬撃? 龍花さんの注意で咄嗟に避けたけれど、妖気を感じなかったよ。

 でも……なるほどね。それがこの妖魔の能力、という訳なんですね。いや、妖魔人でしたね。忘れたくても忘れられないよ、あの日の事は。


「まさか、あなたが直接やって来るなんて思いませんでしたよ、閃空」


「ふん! 当然だ! 僕達のトップ、亜里砂様が狙っている妖狐。そいつが直ぐ近くにやって来たとなれば、速攻で捕まえるだろう! 半年間も雲隠れしやがって。だ~けど~やぁ~っと出て来やがったな~! さぁ、とっとと捕まえてやるか!」


 あの謎の巨大な球体に乗り、閃空はそう叫ぶ。

 だけど閃空の方は、あれから妖気が変わっていない。減るのは無いにしても、増えてもいないですね。よっぽど、その力に自信があるんですね。それともーー


「ただ籠もっていた訳ではないですよ。さぁ、負なる者。私が滅してあげましょう!」


 そして僕は、御剱を閃空に向かって突き出す。


 速攻で捕まえる? 出来るならやってみて下さい。だって、今の君の妖気を確認して、1つ分かりましたから。


 油断しなければ、勝てる。 

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