第伍話 【2】 合流した先では

 朝食を食べ終えた後、早速僕は雲操童に乗って、龍花さん達が任務をしている、妖界の街に来ました。白狐さん黒狐さんも一緒にね。

 レイちゃんは、白狐さん黒狐さんを復活させる為に、力を使い過ぎたせいで、大きくなれないみたいなのです。


 そしてこの妖界の街は、丁度京都市右京区、西京極の辺りですね。あの辺りは少し治安が悪くて、結構危ないんですよ。

 だからかな? こっちもガラの悪そうな妖怪さん達が、沢山居ました。しかも、そのガラの悪そうな妖怪さん達が、妖魔と戦っています。


「うわぁ……なんですか、この状況は」


『うむ。話には聞いていたが、ここまでとは……』


 まるで、抗争が起きている様な感じです。あちこちで怪我人も出ているし、龍花さん達が心配ですね。

 そうです。龍花さん達の任務は、ここに大量に現れる妖魔を退治し、その原因を突き止める事です。


「とにかく、龍花さん達が心配です。探しましょう」


 ここには広めの運動公園があって、皆そこに避難しているのかなと思ったけれど、何とそこは、逆に妖魔のたまり場になっていました。


 公園自体が、爆弾でも落ちて来たのかなって思うくらい、地面が抉れ、壁も落ちていてボロボロなのに、そこに100体以上の妖魔が集まっていれば、その光景は異様になってしまいます。

 ここにはスタジアムもあるんだけれど、そこを中心に群がっています。


 これは確実に、誰かが妖魔を操っていますね。

 誰がって……それはもう決まっていますよ。そのスタジアムから聞こえてくる声、忘れもしないです。高くて子供みたいな声。今は、歪な響き方をしている。


 滅幻宗の幹部だった、閃空の声です。


『椿、どうした?』


 僕の表情がおかしかったかな? 極力いつも通りにしようと、そう意識をしていたけれど、黒狐さんが心配そうにしながら、僕に話しかけてきました。


「うん……白狐さん黒狐さん。あのスタジアムに、閃空が居ます」


 確かに、こんな重要な事を黙っていてもダメだから、ちゃんと2人に報告します。


『なっーーんじゃと! あいつが……!』


『しかし、滅幻宗は事実上崩壊し、もう無くなったぞ。例の5人と華陽だけは、妖魔を使って暴れとるから、手配書でSSランクが付いたがな』


 つまりその時点で、この任務はSSランク。最も危険で難しい任務となってしまった訳ですか……それって、僕達や龍花さん達が受けても良いのでしょうか?

 いや、確か……SSランクの妖怪さんは、2人しか居なくて、その2人も今は居ないって事だった。だから、Sランクの龍花さん達が受けたのでしょうね。


 それなら、龍花さん達でも時間がかかりますよね。本当に、僕が行っても力になれるんでしょうか? ちょっと不安になって来たよ。


 ううん、僕はちゃんと修行したんだ。自分を信じないとね。


『椿よ、とにかく一旦離れるぞ。雲操童よ。ここから離れて、あの駅に向かってくれ』


 そう言うと白狐さんは、ここから少し離れた所にある、駅の広場の方を指差します。

 丁度その駅前は、妖魔が少なくて降り易くなっていますね。それでも、2~3体居る。


「白狐さん黒狐さん。僕が先に降りて、アレを倒しておきます」


『なっ!? 椿よ、待て!』


『お前が先に行く必要はーー!』


 2人が止めようとしていたけれど、そんなの聞かずに、僕は飛び降ります。

 だってこの状態なら、直ぐに倒せると思うよ。あっ、切れ味が上がっているのには気を付けないと。


 そして僕は、相手に気付かれない様にし、妖魔の背後に静かに着地すると、そのまま1番近くに居た、熊みたいな妖魔を斬りつけて倒し、その後にそいつの前方に居た、猿みたいな妖魔2体を斬りつけました。これで終わりですね。


 というかこの気配、熊と猿が、寄生する妖魔に寄生されていましたね。御剱で斬ったから、ついでに浄化されていきましたよ。

 もちろん、この3体は既にこと切れているから、そのまま動かなくなりました。可愛そうに……。


 今のところ僕は、寄生されてしまったものを、元に戻す事は出来ていません。浄化して、消滅して上げることしか出来ない。

 だけど、賀茂様みたいに抵抗していたら、あんな風に剥がせる事は分かった。


 湯口先輩はどうなんだろう?

 あれから半年、もう完全に妖魔になっているかも知れません。それでも、他に方法があるかも知れない。僕は諦めないよ。


『全く、椿よ。相手が油断しておったから良かったものの、そうでなければどうしーー』


「え? 普通に戦って、さっきと同じ事をするだけですけど」


 動物に寄生した妖魔は、実力的にはAランクです。それくらいなら、心配しなくても何とかなりますよ。僕には、それだけの実力が付きましたから。


『そ、そうか……強くなったな。椿よ』


『逆にだ、俺達が要るかどうかだな……』


『むぅ……黒狐よ、それは……』


「いや、戦力は多い方が良いので、居てくれた方が良いです」


 どうやらさっきので、2人のプライドを若干傷つけたっぽいです。

 そうだよね、僕の方が強いかも知れないってなると、2人の立場が無いよね。だって、守り神だもん。


 それにしても、周りが少し騒がしいですね。皆ザワザワしています。


「えっ? もしかして、椿様?」


 すると、ボロボロな駅の中から、聞き覚えのある声が聞こえてきました。

 ポニーテールと青いリボンは相変わらずで、殆どその姿が変わっていない、凛とした容姿の龍花さんです。


「龍花さん!」


「やっぱり、椿様!? どうしたのですか? 修行の方は、もう終わりですか?」


「えっとね、山篭もりは終了です。修行は続行中ですけど……」


 僕の姿が意外だったのか、龍花さんが驚いた様子で近付いて来ました。他の人から見たら、驚いている様には見えないけれど、

これは驚いていますね。


「白狐様、黒狐様まで……申し訳ありません。私達にしては、珍しく時間がかかっており、心配をかけてしまったようですね」


 そしてその後、龍花さんは2人の方を見て、申し訳なさそうにしながら言いました。


『いや、大丈夫だ。相手が閃空となると、これは仕方が無い』


『この妖魔は、その閃空が?』


「はい。寄生する妖魔を大量に保持しており、大苦戦を強いられています」


 うわぁ……むちゃくちゃ力押しなんですね。でも、この数ってやっぱり……。


「僕を、おびき出そうとしている?」


 色んな所でこうやって暴れたら、お人好しの僕が出て来ると、そう考えているみたいですね。実際に、こうやって出て来ているけどね。


「椿様が修行に行ったその1ヶ月後には、もう華陽は動いていました。よっぽど椿様の記憶を……妲己の身体の在処を知りたいようなのです」


 酒呑童子さんは、その辺りの事を何も言っていなかったよ。ある程度の事は、昨日おじいちゃんから聞いたけれどね。

 修行に集中させる為にと、あえて言わなかったのは分かるけれど、また僕は、皆に守られていたんだって思うとね、こっちも申し訳なくなってきますよ。


 だからーー


「あっ、いけない椿様! また妖魔が……!」


 この騒動はーー閃空は、僕が倒します。


「御剱、神威斬!」


「ガッ?!」


 後ろから襲おうとしても、僕には分かりますよ。そのまま後ろを斬りつけて、襲って来た妖魔の胴体を切り裂き、あっという間に浄化しました。


「つ、椿様……今のを、一撃で?」


 そういえば、他の3人はどうしたのでしょう? ここには居ないのかな……。


『つ、椿よ……気付いとらんのか? 今のは少し、デカかったぞ……』


『しかも恐らく、Sランクではないか? だいぶ濃い気をしていたぞ』


「えっ? あ……」


 本当だ、ビルの2~3階位の大きさでしたね。しかも、白狐さん黒狐さんの言うとおり、妖気が濃いです。それと、顔が兜を被った感じで、目や口が無いですね。


 そして、その切り裂いたところから、煙みたいな靄が出ている。まだ倒せていないんですね。もう、面倒くさいなぁ……それが本体かな。


「天神招来、神風の禊!」


 それなら、浄化の風で吹き飛ばし、今度こそ終了です。

 よし。相手の身体も、煙となって消えていっていますね。相手が油断してくれていて助かりました。


 僕が弱そうだから、真っ先に狙ったんでしょう。でも、残念でしたね。


「そうだ、龍花さん。他の3人は?」


「えっ? あ、あぁ……その、玄葉が怪我をしたので、その看病を」


「えっ、玄葉さんが?! 大丈夫なんですか? そうだ白狐さん、治癒をーーって、白狐さん黒狐さん?」


 何で2人とも、僕の後ろでボーッと突っ立っているんですか? 呆けている場合じゃないですよ。


『ぬぉ……! おぉ、そうか、そうじゃな。玄葉は何処じゃ?』


『椿が……いや、俺の嫁になるなら、これくらいは。いや……しかし、可愛さが』


 もぅ……2人とも。さっきの僕の力を見て、ショックだったんですか?

 あのね、僕はあんまり変わっていないですよ。それにしても、このままショックを受けたままでは、任務のお手伝いが出来ないですね。しょうがないなぁ。


「黒狐さん、黒狐さん。キュ~ン」


『なっ……!!』


 あっ、やり過ぎました。カナちゃんも鼻血を出す程の、あの切ない鳴き声だから、黒狐さんも鼻血は出すと思ったけれど、卒倒しちゃいましたよ。


「わ~!! 黒狐さんごめんなさい! やり過ぎました~!」


「白狐様? 白狐様?!」


 わ~!! 白狐さんにまで聞こえていました?! 龍花さんの前で倒れていますよ。


 もう僕のこの鳴き声は、ずっと封印しておきます!

 何より僕も恥ずかしいですし、効果がありすぎですよ! 皆、なんでなの? 龍花さんは平気なのに……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る