第肆話 【1】 寺院の中は

 何とか、筋肉兄弟を倒した僕達。倒したと言っても、ただ兄弟喧嘩で殴り合って倒れただけですけど、勝ちは勝ちです。


 そしてその後、玄葉さんがその兄弟の身体を探り、何かを探しています。


「やはりありましたね。札を使い、このような筋肉を付けていただけでした」


 そう言って、兄弟の身体からお札を見つけた玄葉さんは、それを僕達に見せていたけれど……それ、今何処から出したんですか? 下半身の、触ってはいけない所から出してきたような……。


「く、玄葉さん。それ、あの……こっちに近付けないで下さい」


「分かっています。私も出来たら、こんな所なんか探りたくは無かったですよ。だけど、他をいくら探しても無くて、ここしかなかったのです。全く、何て所に貼り付けているんですか! もう許せない。潰します」


「玄葉さん、それだけは止めてあげよ?」


 流石の玄葉さんも、これには感情的になっているけれど、わら子ちゃんが止めてきました。

 まぁ、僕にも多少分かります。潰すのだけは、止めてあげた方が良いかな。


 そして、玄葉さんが札を取った後、その兄弟達の身体が一気に縮んでいきます。いや、筋肉が取れていってる? 無くなっていってる? 何だか、風船の空気が抜けた様にして、どんどんしぼんでいきますよ。


「うわ、本当はこんな身体だったんだ……」


 そこに横たわる2人は、もう筋肉ムキムキではなくて、細くて筋肉なんて殆ど無いんじゃないかって程の、ヒョロヒョロの身体になっていました。


「さて? これが本来の身体なのか、それともこの札を使った反動なのか、それは分かりませんね」


 そう言うと、玄葉さんは手に持っていた札を破り捨て、ついでにその人達の股間を蹴りつけました。


 もう、玄葉さん……その人達が起きちゃうでしょ。


「あの、椿ちゃん? 何でそこを押さえてるの?」


「な、何となくです……」


 う~ん、まだ男の子の気持ちが残ってるのかなぁ……。

 簡単に想像が出来るよ、その痛みが。それに、兄弟は起きるどころか、口から泡吹いて白目になっちゃいました。どれだけ強く蹴ったんですか? 玄葉さん。


「さっ、行きましょうか」


 玄葉さんは表情を変えていないし、僕は少し恐くなってしまいました。


 ―― ―― ――


 その後、牢屋から脱出した僕達は、寺院の廊下を玄葉さんが先頭で歩いています。


 やっぱり寺院ですね。廊下は高級そうな木を使っていて、部屋は襖で仕切られています。

 その襖にも、煌びやかな絵や装飾が施されていて、どれだけお金をかけているのか、想像もつかない程です。


 襖じゃなくて、ただの障子で仕切られている部屋もあるので、僕達は慎重になって、奥へと進んで行きます。


「あの、玄葉さん。これ、本当に寺院なんですか?」


「おや、気付きましたか? そうですね、寺院とは名ばかり。奴等の居住地として作り直されているので、最早寺でも無いですね」


 そうですよね。何だか一部屋一部屋、普通の寺院の部屋じゃないんです。


 お寺はあくまで、お坊さんの活動をする場所であり、住む場所では無いはずです。本堂は特に、居住スペースでは無いのです。

 お坊さんの住む場所とかは、隣に引っ付いて作られていたりと、完全に別扱いですからね。

 だから、こんな所に台所があったり、テレビが置いてあったり、ソファーがあったりしていたらおかしいんですよ。


「因みにここは1階で、2階が寝室となっていて……」


「ホテルか何かですか?」


 もうこんな所、寺院じゃないです。


 そうなると、滅玄宗という団体が自体が、かなり怪しくなってきます。そんな中、僕はあのお坊さんの霊の話で、更にもう1つ分からない事があるのに気付きました。


「あの、玄葉さん……良いですか?」


「何ですか?」


 応接室の様な部屋を、外から確認している玄葉さんに、僕は静かに話しかける。もうこんなものではつっこまないよ。ここはただの敵の隠れ家です。


「あのお坊さん達が言っていた5人って……」


「あぁ、私はあの人達から、その5人の特徴を聞きました……答えてくれたのは、4人の風貌だけですがね。もう1人は、顔を隠していて分からなかったようです。でもそいつらが、その人物を奈田姫と呼んでいたようです」


「奈田姫……って、待って下さい。それって、この滅玄宗の総大将の?」


「えぇ、そうですね。そして他の4人も、霊から聞いた風貌からして、あの4人で間違いないです。玄空、栄空、閃空、峰空です」


「えっ……」


 待って待って……そもそも、乗っ取られたのがだいぶ前で、少なくとも僕が隠れていた時期よりも、もっと前のはずです。


 えっ? あの人達、軽く100年以上も生きている? 下手したらもっと? そんなお年寄りみたいには見えないですよ! どうなってるの……。

 あっ、そっか……例のお札で若返っているのかな? うん、まだ色んな可能性がある。決めつけるのは早いですね。


「椿様。この5人に関しては、謎だらけです。調べても調べても、出て来る情報が少なすぎます。更に、生年月日まで分からないですし、極めつけは全員戸籍も無いのです」


「へっ?! で、でも……それなら湯口先輩を、どうやって学校に? それに普通の生活もさせているし、玄空の方の戸籍が無かったら、そんなの難しくないですか?」 


「椿様、不可能では無いです」


 確かにそうですけど……でもそれって、人間の法を犯している可能性がありますよね? いや、今はそんな事を考えるよりも……。


「椿ちゃん、今は……」


「わら子ちゃん、分かっています。敵の総大将、奈田姫の確認ですよね」


 先ずは、それをしないといけません。事実確認は、その後にいくらでも出来ますね。今は、僕達に出来る事をします。白狐さん黒狐さんも心配して……。


「あっ……」


「どうしたの? 椿ちゃん」


「忘れてた、勾玉……僕、白狐さん黒狐さんと連絡が取れるんでした」


 それに気付いた僕は、早速勾玉に話し掛けます。


「白狐さん黒狐さん、無事ですか? もしもし~」


 あれ? 反応が無いです。えっ? もしかして、白狐さん黒狐さんも連絡が取れない状態に……。


「椿様。どうやらこの場所一帯に、ジャミング効果のある札が貼られているようですね。私も、他の3人に連絡を取れる妖具を持っていますが、繋がらないのです」


 そう言って、玄葉さんは手に小さな亀の置物を乗せて、僕に見せてきました。

 つまり玄葉さんも、それを使えば龍花さん達と連絡が取れるはずが、繋がらないんですね。良かった……白狐さん黒狐さんに何かあったんじゃ無かったんだね。


「ふふ、椿ちゃん面白い。ここまで一喜一憂するなんて、そんなに白狐さん黒狐さんと連絡が取りたかったの?」


「えっ? いや、ち、ちが……向こうが無事かなって、それを確認したかっただけで……声が聞きたかったんじゃないです」


「そこまで言ってないよ?」


「あぅ……」


 また自爆しました……わら子ちゃん、嬉しそうにニコニコしちゃってますよ。


「2人とも、何度も言いますが、敵陣ですからね」


「「すいません……」」


 ちょっとふざけ過ぎましたね。2人一緒に、玄葉さんに怒られちゃいました。


 そうですね、気を引き締め直さないと。いつ何が起こるか分からないですし、他の皆もこっちに向かっているのなら、早く僕達のやるべき事をやってしまわないといけません。


 そして僕達は、ゆっくりと廊下の奥へ奥へと進んで行き、部屋を確認して回って行く。もしかしたら、ここに先輩が居るかも知れないからね。


 実は、先輩は牢屋には居なかったのです。


 そうなると、父親の所かな? そうだとしたら不味いです。

 出来たら戦闘は避けたいし、あの4人にも見つかりたくはないです。やっぱり先輩の事は、諦め無いといけないのかな……いや、まだそこに居るとは限らないです。


 とにかく、父親の所には居ないで欲しいと願いながら、僕達は1階の部屋を期待の入り混じった状態で、順番に見て回って行きました。


 お願いです……先輩。どうか、無事でいて下さい。

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