第拾陸話 【2】 先輩とのコンビネーション
それでもこの状況下で、僕のやることは変わらない。生徒達を助ける。滅幻宗を追い払う。それだけです。
湯口先輩の友達の人達が、幹部4人の気を引こうと、下で必死になっているけれど、多分4人は無視していますよ。逃げた方が良いような気もします。
『いかん! 椿よ、上だ!』
すると次の瞬間、白狐さんか叫び声を上げる。
大丈夫、分かっていますよ。一瞬で玄空の姿が消えたから、一気に移動されましたね。その筋力で破壊力を上げるだけじゃなく、移動するスピードまで上がっていますよ。
「よっ……と!」
「ぬっ?!」
それでも、酒呑童子には遠く及ばないよ。まだ見えているからね。だから僕は、後ろに飛び退いてその場から移動し、敵の攻撃を避けます。
そして着地と同時に踏み込み、相手が攻撃した後の隙に、御剱で攻撃します。
「それ!」
「ぐぉ!! この……!!」
脇腹に命中したのに、そのまま腕を横に振り抜いてくるなんて、タフですねこの人……。
しゃがんで避けていないと、僕の顔面に当たっていましたよ。危なかった。
「ちょっ……椿、少し動きに気を付けろ。その……見えているぞ。多分ずっと気付いてないだろう?」
「えっ? あっ!!」
しまった……今日の僕は、下にスパッツを履いていないから、その……スカートの中が丸見えでした。
「見ないで!!」
「いや、どうしようもないだろう!! って、うぉ!!」
あっ、先輩が動揺している隙にと思ったのか、閃空が攻撃して来ました。だけど先輩は、何とか避けられたようです。
スカートだから、もうしょうが無いですね。気にしていたら捕まっちゃうよ。
「パンチラくらいで動揺するなんて、靖君ってウブだね~」
「少し黙れ、爆!!」
「うわっ!! 既に仕込んでたの?!」
先輩が叫んだ瞬間、閃空の居る足元が爆発しましたよ。だけど、閃空は驚いた声を出していても、一切怯むこと無く、直ぐに体勢を立て直しました。
「ぬぉぉおお!! 大人しくしろ、妖狐!」
「ひぇ! くっ……嫌、ですっ!」
人の心配を心配をしている場合じゃなかったです。
玄空はさっきから、僕ばっかり狙って来るよ。とにかく、御剱を振って対抗した後、思いっ切りお腹に蹴りを入れてみたけれど……。
「何かしたか?」
「えっ? きゃぁ?!」
戦い方を学んでも、元々の力が弱いと意味がなかったよ! 僕から妖術を取ったら、ただのか弱い女の子でした!
しかも、そのまま足を掴まれてしまいました。これって……僕ピンチです。
「くっ! 椿!」
「だから~余所見は……」
あっ、でも先輩の方もピンチですよ。後ろから閃空が襲って来ていて、しかもその巨大な球体からは、鋭い刺が出ていました。
でも、その直ぐ後に、閃空の周りを複数の人達が取り囲みました。
「それは……」
「こっちの台詞だぁ!!」
「くらえ! 連弾符!!」
「なっ!? うぐぅ!!」
これって……地道な努力の勝利って事ですか? 先輩の友達の人達が、一生懸命ここまで登って来て、いつの間にか閃空を取り囲んでいました。そこから、一斉にお札を投げ付けてきましたよ。
それが、そのまま衝撃の塊みたいな物に変化すると、一気に閃空目掛けて飛んで行き、何発も何発も命中し、閃空を木から落としました。
しかもその後も、まだ閃空目掛けて飛んで行っていますよ。まるでマシンガンですね。
「くっ、嘘だろう。この、雑魚が……!」
「雑魚でも活躍出来るんだよ!」
「そら、もっともっといくぞ!」
「うわぁぁあああ!!」
うわぁ……まだ撃つんですか? 容赦ないですね。
「椿を……離せ!」
「ぬっ?! くそ……意外な展開に、呆気に取られていたわ。閃空、あの間抜けが」
「先輩、助かりました」
確かに、玄空も呆然としていましたよね。そんなに意外だったのかな? でもそのおかげで、先輩が玄空の手を錫杖で打ち、僕を助けてくれました。
「椿! 力で駄目でも、技術で何とかなるだろう! 人体の急所を忘れたか!?」
「えっ? あっ、そうでした」
それなら、戦いようがありましたね。
先輩に言われ、僕のやる気が少し戻ると、御剱を固く握り締めます。力では無く、技で相手を圧倒すれば良いんだ。
「えぇい、馬鹿息子が……」
「ふん。俺はもう、あんたの息子じゃな――」
「いいや、息子だ。まだ、息子だ」
「なっ……!? 先輩……この人」
「ちっ、胸くそ悪い笑顔向けやがって……」
そう、玄空が笑っている。だけど、笑い方がおかしい。
あれは、笑い方が分からない人の笑いだよ。感情が籠もっていない。まるでロボットが笑っている様な、そんな笑顔です。
「さぁ、息子よ。今ならまだやり直せる。我が元へ……」
「断る!!」
先輩は、そうはっきりと言ってくれた。もう、滅幻宗の元には戻らないと、はっきりと言葉に出してくれた。ただそれだけで、僕は嬉しいです。僕に求愛してくるのだけは、止めて欲しいけどね……。
「そうか、残念だ……」
「がっ!!」
「先輩!!」
だけど、その言葉を聞いた玄空が、一瞬で湯口先輩との距離を詰め、殴りつけて後ろへ吹き飛ばしました。それよりも、あんなに太い腕で殴られたら、先輩は……。
嘘でしょう? 先輩……。
「がはっ! ゲホゲホ、くそ……手を抜いたな?」
「当然だ、息子なんだ。例え何を言ってこようと、今は反抗期と言うものだろう? だから、父は責めはしないさ。躾は、しないといけないがな」
先輩、生きてました……。
だけど、玄空が手を抜いていても、あれだけの攻撃力……その内、先輩の身体の方に限界がきますね。
本気を出さないと、勝てない。
「妲己さん、お願い」
【――ったく、しょうが無いわね】
でも、妲己さんが居るからって、安心をしたら駄目。暴走したら、妲己さんでも止められない場合もある。前みたいにね。
だから、ちゃんと考える。戦いに必要なのは、力だけじゃない。技術と知恵も必要なんです。
「妖異顕現、黒焔狐火!」
「むっ? 今更そんなもの……ぬぉっ?!」
しまった、避けられました。先輩に注意がいっている今がチャンスと思ったけれど、玄空は油断していなかったですね。
「椿……お前、それ。御剱に、黒焔を纏わせているのか?」
「うん、そうです。黒焔を、手や指に纏わせる事が出来るなら、物にも出来るはずだと思ってやってみました」
僕はそう言いながら、御剱に纏わせた黒焔を見せるようにして、何回か空を切る。その度に黒焔が揺らめき、それにちょっとでも触れたら、燃え移ってしまいそうです。
これでもう、相手は僕の攻撃を避ける事しか出来ないよ。
「そうだ、椿。その黒焔、刃にして撃てないか?」
「えっ? 刃? えっと……1回刃を飛ばす技はやっているから、その時の感覚でやれば、多分出来ると思う」
「よし。それなら、今撃ってくれ。ちょっと面白い事を考えた」
何だか先輩の顔が真剣だし、敵に聞かれまいとして、僕に顔を近づけて来るんだけどね、今は戦闘中! 顔が近いからって気にしない。
「わ、わかりました。えっと、敵に向けて?」
「あぁ、そうだ!」
先輩がそう言うなら、やってみるけどね。別に1回しか出来ない訳でもないからね。
「じゃぁ、行くよ。てい!!」
そして僕は、前にやった刃を飛ばす技、あれをやった時の感覚で、御剱を縦に振り抜いてみました。
すると、上手く黒焔の炎が御剱から離れ、刃の様な形のままで、相手に向かって行きます。しかも、思い切り振り抜いたからなのか、それが切れる様になっていて、周りの木々を焼き切って進んでいますよ。
「よし、今だ! 爆!!」
そして少し経つと、先輩が再びそう叫ぶ。その後、今度は黒焔の刃が飛んでいる方向、僕達の前方で、大量の爆発が発生し、僕の黒焔を、その爆炎の中に隠してしまいました。
「ふん。見えなくしたところで、俺には関係な――ぐわぁ!!」
「えっ? 後ろから?」
なんと、僕の放った黒焔の刃が、いきなり玄空の後ろから現れ、玄空を切り裂きました。どういう事……。
「どうだ? あんたは忘れていたようだが、俺にはたった1枚だけ、あんたに持たされていた物があったんだよ。『転移符』をな。こいつを使って、椿の技をお前の後ろに飛ばしたんだよ」
そう言いながら、先輩はその札を玄空に見せつけています。
まさか……滅幻宗達がいきなり現れたり、変な空間に消えるようにして逃げて行っていたのは、全てその札の力だったんですね。
爆発も、その空間に黒焔の刃が入る所を、相手に見られない様にする為だったんですね。
「うぐぅ……こんな、炎如きで――き、消えんだと?!」
「そうですよ、僕の黒焔は消えません。さぁ、降参をして下さい。そうしないと死にますよ」
だけど、僕の言葉に玄空は首を縦にも振らず、降参の言葉も口にしません。
いや、死ぬってば……でも、消したらまた、僕を襲う。ど、どうしたらいいんでしょう……。
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