第肆話 【1】 身体が咄嗟に……
僕の攻撃を受け、地面に倒れたそいつを見下ろし、僕は石化を解く方法を聞いた。
「ゲホッ、はぁ……はぁ。ま、真ん中に、もう一個スイッチがあるの、それを長押しすれば、石化はリセットされるわ」
「へぇ、そこはちゃんと教えてくれるんですね」
「当たり前よ。男が敗北を認めたのなら、筋は通さないといけない、でしょ?」
「男で良いの?」
「あらヤダ、恥ずかしい」
まだ素だったようですね。全く……ふざているのか真剣なのか、良く分かりません。
だけど、相手は完全に動けない様で、その傷も浅くはないはず。だから、こうやって冗談を言っていても、顔はキツそうです。
とりあえず、僕は皆の石化を解き、そして全員に怪我は無いかどうか、一人ずつ確認をしていきます。
『椿よ、その武器はいったい? 我等も知らないぞ』
『あぁ、しかも凄まじい力じゃないか』
白狐さん黒狐さん、あなた達に怪我が無いか見ようとしているのに、逆に僕に怪我が無いかって見てこないで下さい……大丈夫ですから。
「おじいちゃんが何か知っているみたいだけど……多分、僕が思い出した事と一緒だと思う」
『なっ! 椿、お主記憶が?!』
「あっ、大丈夫。全部じゃないよ。この刀の事と、神妖の力の事しか思い出していないから」
その言葉に一番安心していたのは、おじいちゃんでした。やっぱり僕の記憶が戻ると、何かマズい事が起こるのでしょうか……
そして僕は、自分の思い出した事を皆に簡単に話した。
産まれた時から、神妖の力を持っていた事。僕が産まれた記念に、この神刀を渡された事。それだけをね。
白狐さんとの事は、話していません。まだ恥ずかしいので……。
「それで、僕はそこまでなんです……だから、わら子ちゃんが持っていた理由までは分からないです」
僕がそう言った後、全員わら子ちゃんに視線を移したのは言うまでもないけれど、皆一斉に見すぎです。
わら子ちゃんが怖がっちゃって、龍花さん達の後ろに隠れちゃうし、龍花さんもそんなわら子ちゃんを守ろうと、前に出て来て僕達を睨んでいますよ。
「まぁ、わら子には後で事情を聞くとして、先ずは襲って来た敵を全員縛っておき、それから零課に連絡じゃな」
そうでした、敵をあのまま放っておいたら危ないですからね。
そして、おじいちゃんが皆に指示を出し、皆が敵を縄で縛ろうとした瞬間、上空から突風が吹き付けられ、敵に近付いていた皆が吹き飛んだ。
また敵……増援ですか。
「残念ですが、その方を捕らえられては困るんですよ」
そして上空から降りてきたのは、この前の旅行の時、海で磯撫でさんを連れ去った、あの烏天狗でした。
「貴様~!! どの面下げてやって来た~!!」
真っ先にそう叫んだのは、当然おじいちゃんです。
怒鳴った瞬間に天狗の姿になり、顔を真っ赤にしながら激怒していて、めちゃくちゃ怖いです。
関係の無い僕まで、その迫力に震え上がってしまうほどなのに、降りて来たその烏天狗は、おじいちゃんを前にしても平然としている。嘘でしょう……。
そして、上空からやって来た烏天狗は、ニューハーフの半妖に近付くと、そのまま連れて行こうとしています。
だけど、それを見ているだけにするほど、おじいちゃんは優しくは無い。天狗の羽団扇で風を起こし、烏天狗を吹き飛ばそうとする。
「カッ!」
でも、その烏天狗が一喝すると、おじいちゃんが巻き起こした風がかき消されてしまった。
「なんじゃと! 貴様……何をした!」
おじいちゃん、落ち着いて下さい。でも、相手のあまりの余裕っぷりに、僕もちょっと焦っています。
このついでに、磯撫でさんの居場所も聞き出せるかと思ったのに……このままだと、何の情報も得られずに逃がしてしまうよ。
「これだから、古い考えのあなたは駄目なんですよ、翁」
「何じゃと……! ちょっとばかし怪しい道具を使っているだけで、いい気になるな。それにじゃ、亰嗟は妖怪を札に封じ込め、妖怪を使役しているのだぞ。お前さんも、その内にそうなるぞ!」
これは、時間稼ぎでしょうか?
おじいちゃんが怒鳴っている間に、他の妖怪さん達がゆっくりと動いていて、その烏天狗の周りを囲い、そして徐々に近付いて行っている。
「あなたの古い考えでは、妖怪は今すぐにでも消滅し、そして滅んでしまう。だが、亰嗟の考えは違う。人間界を妖界に変え、世界中で妖怪が安心して暮らせる、そんな世界にしようとしているんだ!」
その烏天狗さんは、少し興奮気味になって叫びだした。
でも、亰嗟がそんな事をしてしまったら、人間はどうなるんですか?
あっ、そっか。人間界が妖界になってしまったら、妖気にあてられた人間は、そのまま妖怪になるだけですね――って、それはそれで駄目ですよ。
「そんな――」
「そんな事が許されると思っておるのか? 良いか、妖怪は人間達の恐怖の感情から産まれ、その感情でもって成り立っている。人間が妖怪を怖がらなくなるという事は、儂等は用済みという事。人間によって自然に産み出された儂等は、人間によって自然に消えるが運命よ」
これは、おじいちゃんにずっと言われ続けている言葉だ。
言い返そうとしたら割り込まれたけれど、流石はおじいちゃんです。言葉に重みがあるよ。
でもね……おじいちゃん。残念だけど、僕も消えたくはないよ。
生きられるのなら、ずっと生きていたいよ。
だけど、こいつらのやろうとしている事が違うというのは、分かるよ。犠牲を出してまで生きたくはないかな。
そのおじいちゃんの言葉にも、相手は顔色ひとつ変えずに平然としていた。そして、倒れている丘魔阿さんを担ぐと、その場から飛び立とうと羽を広げた。
「だから、あなたは駄目なんですよ。生きとし生ける者ならば、生にしがみつくが運命。枯れた事ばかり言うあなたには、もうウンザリなんだ!」
「考えの相違じゃな。続きはじっくりと、牢で聞いてやろう。皆、捕らえよ!!」
おじいちゃんがそう言うと、周りを囲っていた皆が一斉に向かって行き、逃げようとする烏天狗に飛びかかるけれど、耳の良い僕は、その時嫌な音を聞いてしまった。
撃鉄を起こす音を。
まさか――って思っていた時には、もう既に体が動いていた。
皆が一斉に捕らえようと動いていて、それこそ龍花さん達も、玄武の盾の能力を持つ、玄葉さんだけを残し、3人とも向かってしまっている。
そして玄葉さんは、まだこの音に気付いていない。
無防備になっている! わら子ちゃんが……相手の狙いの、座敷わらしが。
「甘いですよ、だから駄目だって言っているでしょう? 妖術の事しか頭に無い、古い考えのお前達はな」
「何じゃと?」
おじいちゃんまで、まだ気が付いていないの?!
いや、違います。これは……遠いんだ。引き金を引いた音がしたのに、誰も気付いていない。
とにかく僕は、白狐さんの力を使って、ギリギリでわら子ちゃんの元にたどり着くと、彼女を咄嗟に庇った。
そして次の瞬間、肩の辺りを何かが貫く。
「ぐっ……!!」
その後、やっと銃声が聞こえて来ました。
つまりこれは、スナイパーライフルで遠くから狙撃されたという事。
『『椿!!』』
そして、白狐さん黒狐さんが同時に叫んでくる。
だけど、大丈夫です。弾は途中で止まっているけれど、白狐さんの治癒の妖術があるからね。
だけど……何でだろう。痛いと言うか、撃たれた肩が凄く熱い気がする。それに、ちょっと頭がクラクラする……。
「椿ちゃん! 何で……何で!」
「あっ……わら子ちゃん、大丈夫?」
「わ、私は大丈夫だけど、椿ちゃんが!」
大袈裟ですね、わら子ちゃんは。確かに大怪我だけど、直ぐに治るから大丈夫ですよ。
あ~あ……わら子ちゃんの目からポロポロと涙が落ちて来て、思い切り泣いてしまっているよ。
「チッ……捕らえられないなら殺せとの命令だったが、それも失敗か。狙撃されているのが分かれば、次は防がれるな。その4人にな」
『貴様~!!』
『落ち着け黒狐! あの4人が捕らえようとしている。だから今は、椿の方だ!』
だから、これくらいで……って、何で体に力が入らないの?
自分の体の異変を不思議に思っていると、僕の中の妲己さんが話しかけてくる。
【バカ、良く見なさい。肩じゃ無いわよ】
「へっ? あっ……これ、胸? う、そ……」
【あっ、ちょっと! 意識をしっかり持ちなさいよ! バカ椿!!】
そうしたいのですけど、これはちょっと厳しいですね……それに、息もしにくい。やってしまいました。
そして僕は、完全に力が抜けてしまい、その場に倒れてしま――う前に、白狐さんに抱きかかえられました。
いや……その白い着物が、僕の血で汚れるってば。
『椿、しっかりしろ! 今治してやる!』
白狐さんの声に安心したからか、それとも、胸に広がる暖かい光のせいなのかは分からないけれど……でもその瞬間、僕の意識は途絶えた。
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