第参話 【1】 椿の作戦

 4人は完全に、身動きが取れなくなってしまっています。


 恐らく、あのニューハーフが付けているサングラス、あれが原因だと思う。

 そこから、微弱な妖気を感じるので、あれは妖具ですね。そして、見た者を石化させる能力と言えば……。


「それ、まさかゴーゴンの?」


「あら、良く分かったわね~正解よ。正解ついでに、あなた達も動かないでくれるかしら?」


 そう言うとそいつは、僕達の方を向いて、またサングラスに手をかける。

 それはつまり、見て直ぐに石化出来るのでは無く、何かスイッチの様なものがあるんだ。


「甘いわ!!」


 すると、おじいちゃんが僕の後ろから、天狗の羽団扇でものすごい突風を発生させ、その男性と一緒にサングラスも吹き飛ばそうとするけれど、男性はその場で踏ん張り、それでは吹き飛ばなかった。

 サングラスの方もしっかりと持っていたから、吹き飛んでいないですね。つまりあの男性は、普通の人じゃないという事になります。普通の人なら、今ので吹き飛んでいるはずだからね。


「おじいちゃん、あいつは……」


「あぁ、分かっとるわ……椿。彼奴は半妖のようじゃな。何の半妖かは知らんが、儂の突風を耐えおるとは、中々に強力じゃの」


 おじいちゃんがそう言うと、ここの妖怪さん達全員が、そのまま臨戦態勢を取った。白狐さん黒狐さんも、隙あらば攻撃を仕掛けようとしている。


「あ~ん、こっわ~い。皆そんなに睨まないで~」


 駄目です、我慢我慢……あいつの言う事に、耳を傾けたら駄目だ。そして見ても駄目。服装は男性なのに、クネクネと動いていて、行動が男性らしくなく、そのギャップのせいで凄く違和感だらけ。余計にイライラしてしまうよ。


 それは皆も同じらしく、そいつの全体を見ない様にしています。


「は~い残念~全員石化しといてね~」


 えっ? 何、この変な妖気は。不味い……! 何とか間に合って……。


「あ~あ、面白く無いわね……何これ。最強の妖怪もいるって聞いていたし、それに近い人達も戻って来たって言うから、こんな所まで遊びに来たっていうのに~」


 そんな考えでここを襲うなんて、どうかしていますね。だけど、僕はギリギリ間に合いましたよ。


 だから、わら子ちゃんは攫わせない。


「ん? あら?」


「白狐爪撃!!」


「きゃぁ!! ちょっと……何、あんた!? 何で動けるの?!」


 ギリギリで避けられちゃいました。この人、反応速度だけはずば抜けていますね。

 何の半妖か気になるけれど、今はとにかく、そのサングラスを壊さなければいけません。


 僕は間に合ったけれど、皆はさっきので、手足を石化されてしまった。そのせいで、全員完全に動けなくなったんです。だから、僕だけが動いた事に、皆びっくりしています。


 そう、僕だけは石化を逃れました。


『つ、椿……お主、何故動ける?』


 白狐さんもそう聞いてくるし、目の前の男性も、さっきから何回も何回も、サングラスの横を押す様な仕草をしている。


「そっか、スイッチはそこだね。それと、そのサングラス。本当にゴーゴンの妖具なの?」


「だから、何で石化しないのよ!」


「あぁ、それはね。白狐さんの力を使って、ある能力を発動しているからだよ。使いどころが分からなくて、ずっと使って無かったんだよね。状態異常無効化能力を、ね」


「何ですって?!」


 僕の能力を聞いて、男性は驚きの声を上げるけれど、後ろからも同じ様に、驚いた声が聞こえて来ましたね。


 でも、どうしようかな……相手は武器を持っているのですよ。

 しかも、石化が効かないと分かった今、再び巨大な斧を出現させ、片手で振り回しています。凄い力ですね。

 そしてその武器は、多分お札の力で隠しているよね。さっきまで無かったもん。握り手にお札も見えるから、恐らくそれの効果だと思う。


「……んふふ、良いわね。ちょっとは楽しめそう。あなた、名前は?」


 その男性は、気持ち悪い笑みを浮かべながら、僕を見てきます。あんまり見られたくないし、こっちからも見たくは無いけれど、視線を外すと攻撃されそう。

 そして、さっき皆が石化された共通点。それは、あいつから視線を外したから。さっきの4人は、敵の攻撃で発生した砂煙で、相手の姿を見失っていて、その隙に石化されてしまったのだと思う。


 だから、出来るだけ視線を外さずに、相手に返事をします。


「相手に名前を聞くときは、先ず自分からでしょ?」


「あら、それは失礼。私は亰嗟でナンバー2の男であり、ナンバー2の女性でもあり、あの方の右腕的な存在。おか魔阿まあよ!」


「えっ? いや、それは知ってます。というか、オカマじゃ無くてニューハーフじゃないと駄目なんでしょ?」


「あら、良く知ってるわね~そうよ、ニューハーフよ。オカマじゃ無いわよ~」


「えっ? でもさっき、オカマって……」


「そうよ、丘魔阿よ」


 あれ? 良く分かんなくなってきましたよ。どういう事だろう。なにか食い違いがあるような。


「ニューハーフじゃなくて?」


「あなた、何か勘違いしているわね。良い、私の名前の事よ。こう書くの」


 するとその男性は、落ちていた木の棒を手にし、地面の砂の部分に、自分の名前を書き始めた。

 それを見て、確かに僕が勘違いしていたのが分かったけれど、これややこしいですね。


「ややこしいね、これ」


「そうなのよ~私の父親も同族でね。それで、男の子が生まれたら絶対に、この名前を付けるんだって、そう決めていたんですって。嫌になるわよ~オカマじゃ無いわよ全く~」


「それはそれは、ご愁傷様です。あっ、僕は妖狐の椿です」


 相手が自己紹介したから、ちゃんと僕も自己紹介しないといけませんね。

 でも、僕が狙っている妖狐だって分かったら、危ないかな? いや……どっちにしても、戦ったから直ぐにバレちゃうよね。


「あら、あなたがそうなの? ニューハーフの妖狐、椿ってのは」


「その情報はどこからですか? 僕はそんなんじゃないですよ。ちゃんとした女の子の妖狐です」


「あら~残念ね~」


 何が残念かは知らないけどね。でもこれは、作戦通りにいけそうです。


『お主等、何をのほほんとしとるんじゃ……』


 白狐さんがそう呟いたのを、僕は聞き逃さなかった。

 大丈夫ですよ、白狐さん。これは作戦ですから。上手くいけば、サングラスを破壊出来るかも知れません。


「あっ、そうだ。そのサングラス凄いね、ゴーゴンのじゃ無いの? レアだね~」


「あ~ら、お目が高いわね~そうよ、これはゴーゴンのと言うよりは、グライアイの妖具の1つ、と言った方が良いかしらね」


「グライアイ?」


「3姉妹の魔女の事よ。その有名なゴーゴンは、グライアイの姉妹とされているわね。まぁ、ゴーゴン自体3姉妹設定ですし、かなり曖昧な妖具と言えるわね~因みに能力は、見たら石化するのと、視線を外したら石化する、よ! 両サイドのスイッチで切り替えるの~」


 やっぱり、海外の妖怪の物でしたね。海外にも、日本で言うところの妖怪みたいな者が居ると、おじいちゃんから聞いていたけれど、亰嗟は海外にまで手を出していましたか。

 それにしても、能力は僕の予想通りだったけれど、見たら石化する能力もあるとは思わなかった。海外の妖具は強力ですね……。


「んふふ、今やグローバル化の時代よ。このサングラスの様に、海外の妖怪の方が、強力な妖具を持っている事が多いのよ!」


「へぇ~凄いですね~確かに、海外の妖怪とか凄そうですよね~」


「あら、あなた分かってるじゃない~」


「ちょっと見ても良い?」


「良いわよ~ほら」


 バカですか? この人。あっさりとサングラスを外して、僕に手渡してきたよ。


 なるほど……さっきは右のスイッチをずっと押していたし、視線を外したら石化するがバレたと思い、もう1つの左のスイッチ、見たら石化を使っていたのか。

 という事は、左がその見たら石化する能力で、右を押したら視線を外すと石化するんですね。でも、このまま壊すから関係無いね。


「どう? すごいでしょう~? って、あれ?!」


「今頃気付きました? 本当にあなた、亰嗟のナンバー2なんですか? 馬鹿でしょ?」


 僕はそう言うと、舌をちょっとだけ出して、からかっている様な素振りをする。

 つまり、今度は逆に僕が相手を怒らせて、冷静さを失わせようというわけです。でもその前に、これを壊して皆を動ける様にしないとね。


 そして、僕がそのサングラスを地面に叩きつけようとすると、丘魔阿さんが声を張り上げ、それを止めてくる。


「待ちなさい! それを壊しても意味がないわよ~その妖具で石化した者は、その妖具を使わないと、石化が解除出来ない仕様になってるのよ~」


 こんな所で悪あがきですか? と思ったけれど、相手の目が真剣だし、これは嘘じゃないかも知れない。

 確かに、その可能性もあるかも知れません。サングラスを壊しても、皆が元に戻らないとなれば、僕はどうしたら良いんでしょう……。


 白狐さん黒狐さんも、僕がご飯を食べさせてあげたりと、身の回りのお世話をしないといけないかも知れないね。

 あっ、待って……お風呂はどうするの? お湯を持って来て、体を洗って上げる? う、うわぁ……2人の裸を見ないといけない。そのついでに、あんな事やこんな事まで頼まれたりして……。


『椿、戦闘中に何を想像してるんだ』


『うむ、涎を垂らしてどんな想像をしとるのやら』


「あれっ?! 僕、涎出てました?!」


 慌てて口元を確認すると、確かに涎が出てました。恥ずかしいしみっともないし、穴があったら入りたい。


「あなた……いい度胸してるじゃないの。敵の目の前でさ~」


 だけど、相手を怒らせる事には成功したようです。そいつが口元をひくつかせ、怒りのオーラを放っている。どうやら、僕の行動にキレてしまった様です。


「さぁ、それを返しなさい。そして、あなたも座敷わらしも、両方とも攫って行くとするわ。と・く・に、あなたは私を怒らせた。アジトでた~~っぷりと可愛がって上げるわ~」


 何だか背筋がゾクッとしましたよ。


 作戦成功と思ったけれど、そう上手くはいかないですか。

 本当に、この人はナンバー2の実力を持っているかも知れない。絶対に油断はせずに、戦いながら、石化を解く方法を聞き出すしか無いですね。

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