第弐話 【2】 4つ子の実力

 朝ご飯を食べ終えた後、僕は家の中をウロウロと回って、警戒をしています。


実は、この家に近づいて来るのが何か、さっきハッキリと分かりました。


 妖気です。


 それも、微弱な妖気が複数。つまりこれは……。


『椿よ。本当に、滅幻宗か亰嗟の下っ端が来るのか?』


 そわそわと落ち着きのない僕に、白狐さんがそう言ってくるけれど、僕の感知能力はかなり性能が良いし、先ず間違い無いよ。


「うん、間違い無いよ。どっちかまでは分からない……だけど、確実にこの家に向かってるよ」


 何の用で来るのか、そんなのは分かりきっている。多分、僕を狙っている。

 2つの組織の共通の狙いは、この僕らしい。だけど、来るのが分かっていれば警戒が出来るし、奇襲にもある程度対応が出来る。


 因みに黒狐さんは、広間で鼻血を出して倒れています。


 今の僕が、どこまで女の子っぽいことが出来るのか、試しに黒狐さんでやってみたの。まだハードルが低そうなものからやってみたよ。頬ずりというものをね。

 それでもかなり恥ずかしくて、凄い抵抗感があったから、まだまだ無理そうだよ。


 でも、それくらいで鼻血出して卒倒する黒狐さんは、やっぱり変態ですね。


『全く、黒狐の奴は情けない』


 僕の隣で白狐さんが呆れているけれど、そう言うあなたもやって欲しくてソワソワしているよね。


「ふ~ん……」


 白狐さんに疑いの目を向けるけれど、目を逸らされました。まぁ、良いけどね。


 するとその時、家のある場所から爆発音が聞こえてきた。


 しまった! まだ距離があると思っていたけれど、白狐さんとじゃれている間に、だいぶ近くに来られていた。


 あれ? でも、爆発音のした方って確か……。


『いかん、椿! 狙いは座敷わらしだ!』


「えぇ! そっち?!」


 4つ子の守護が居るからって、そっちは考えていなかったよ。

 とにかく、急いで白狐さんと一緒に、わら子ちゃんの離れへと向かう。途中で、復活した黒狐さんと合流してね。


 ―― ―― ――


 離れに着くと、おじいちゃんも含めたこの家の妖怪さん達が、わら子ちゃんを守ろう――としていたんだろうね。

 だけど、4人の守護者によって、襲撃者達があっさりと撃退されていて、皆呆然と見ているだけでした。


『ふむ、心配要らなかったか』


 その様子を見て、白狐さんが呟く。

 うん、これは確かに強すぎるね。その気迫から、4人に全く隙が無いのが分かるよ。


「ふん、こんな弱さで座敷様を攫おうなど、片腹痛いな」


「龍花、油断は禁物だ。まだ、こいつらに指示を出している人間が、そこらに居るかも知れない」


 青竜刀を、襲ってきた人物の首に押し当て、威嚇をする龍花さんに向かって、虎羽さんが注意をしている。

 リボンで区別をするのも良いけれど、持っている武器で区別しても良いかも知れませんね。


 だって龍花さんは、装飾の施された青龍刀でしょ。虎羽さんは、鉄で出来た鉤爪を手の甲に付けている。

 朱雀さんは、背中に朱雀の羽かな? 燃え盛る羽を付けているし、玄葉さんはこの前見た、透明な盾を浮遊させている。


 恐らくあの武器は、京都の四大守護神から授かったんだろうね。妖気とは別で、神妖の力に近いものをその武器から感じるよ。


 そんな時、丁度家を囲っている壁の上から、誰かの声が聞こえてくる。


「あらあら、全く。使えない奴等ね~まぁ、しょうが無いかしらね、相手が相手だものね」


 そう言うと、その人物は家の中に降りて、ゆっくりと僕達に近づいて来る。

 その姿は、高級そうなスーツにサングラスをしていて、髪は金髪でモジャモジャしてるよ。格好からして男性なのは明らかだけど……喋り方からして、この人って。


「それにしても4つ子なんて、良いわねぇ。しかも、どの子も私好み。んふふふ」


 オカ……ニューハーフですね、絶対。あの居酒屋の店主、珠恵さんを思い出すよ。


 すると龍花さん達は、あからさまに嫌そうな顔をすると、直ぐに武器を構え、その男性に突き付けた。


「あなたが、座敷様を攫う計画を立てた者ですか?」


「そうよ~亰嗟の戦力として、ちゃんと使って上げようと思ってね~こんな所に閉じ込めるより、よっぽど有意義な使い方だと思わない?」


 そいつは、自信満々にそんな事を言ってくる。

 その話し方に怒りが込み上げてくるけれど、僕以上に怒りが湧いているのは、あの4人ですね。


 相変わらず、亰嗟の考えは理解が出来ない。


 僕達の事を道具扱いする考えは、いったいどこから来るのでしょう。


「その口を、今すぐ閉じろ!」


 だけど、男の言葉に真っ先に反応したのは龍花さんで、突き付けた青龍刀を、一気に横に切り払った。

 でもそれを、その男性は後ろに軽くジャンプして、簡単に避けてしまう。そして、また人を怒らせる様な動きをしながら、気分を害する様な事を言ってくる。


「んもう、怖いわねぇ。せっかくの可愛い顔が台無しよ~」


 男性のくせにクネクネウネウネと、見ていてムカついてきますね。ちょっと、一発殴って来て良いかな。


『落ち着け椿。今行くと巻き込まれるぞ』


 そう言われて、黒狐さんに肩を掴まれました。

 いつの間にか僕は、足を前に出していて、あそこに参戦しようとしていたようです。


 だけど次の瞬間、龍花さん以外の2人が、その男性に向かって攻撃を仕掛ける。


 朱雀さんは空に上がり、上空から背中の羽を広げ、そこから炎の羽根をマシンガンの様にして撃ち出す。

 虎羽さんは、その羽根を避けながら一気に距離を詰め、男の懐に潜り込んだ。だけど、虎羽さんの方は速すぎて、気付いたらそうなっていたよ。


「くらえ!!」


 そして、虎羽さんがそう叫ぶと、腕を素早く前に突き出し、手の甲に付けている爪で、目の前の敵をひき裂こうとしたけれど、男は蝶の様にヒラヒラと舞いながら、虎羽さんの攻撃も、朱雀さんの攻撃も、全て避けてしまった。


「あっぶないわねぇ、乙女の肌に傷を付ける気? あっ、もう。火の粉が擦ってたわ……火傷してるじゃないの、もう~」


 何ですか……この人。


 緊張感が無いと言うか、ふざていると言うか、何が狙いなのか分からない。

 人を怒らせる様な事ばっかり……んっ? 怒らせる……あっ、まさか……。


「ふっ、そうやって余裕で突っ立って居れば良いわ」


 僕がそいつの策略に気付いた時には、もう遅かった。既に龍花さんは、青龍刀を上に掲げていて、そこに力を溜めていた。

 つまりさっきの2人は、その時間を稼ぐ為に、相手にひたすら攻撃をしていたんだ。


 でも、駄目だ。それでも、相手に焦りの色が無い。


「白狐さ――」


 僕は白狐さんに頼んで、4人に守護をかけてもらおうと思ったけれど、それを言う前に龍花さんが声を上げた。


「散れ、身の程知らずの族が。守護青龍奥義、散華さんげの舞い!」


 龍花さんは、掲げた青龍刀を振り下ろすと、切っ先から青より濃い、藍色の斬撃を無数に飛び出させ、その男に向かってあらゆる方向から斬りつけた。


「きゃぁああ~! 私、ピ~ンチ……なん、ちゃって~とりゃあ!!」


 男はまたわざとらしく、その攻撃に驚いたふりをしていたけれど、突然態度が豹変し、いきなり大きな斧をその手に出現させると、それを地面に振り下ろしてくる。


 するとその瞬間、地面が抉れてめくれ上がり、その衝撃で龍花さんが放った斬撃はかき消され、そして斧によって発生した衝撃が、その先の4人を襲う。


「あぁ! 龍花さん~!」


 僕は思わず声を上げてしまったけれど、他の妖怪さん達は平然としているよ。あれ? 僕だけ焦ってて恥ずかしい……。


『椿、良く見よ。まだ1人いるだろう。攻めは不得手だが、守りは鉄壁の奴がな』


「へっ? あっ……」


 忘れていました、玄葉さんの事を。流れからして、あの人は玄武だ。そして、さっき浮遊していたのは……。


「この程度で、私の盾を壊す事など出来ませんよ」


 土煙が晴れると、4人の前には透明だけど、とても分厚い盾があり、皆無傷でした。

 その姿を見た僕は、取り乱した自分が恥ずかしくなり、耳を倒して顔を伏せ、真っ赤になっているであろう顔を隠します。


 だから……ニヤニヤしながら見ないでよ、白狐さん黒狐さん。


「あらあら、ざ~んねん。あなた達の負けね」


 えっ? 今何を言ったの……。


 その言葉に耳を疑い、僕は顔を上げて4人を確認する。


「な、何ですか?! これは!!」


 なんと、4人の手足が石化してしまい、動けなくなっていました。朱雀さんも、空を飛んでいられなくなり、そのまま落ちてきてしまいました。


「おかしいわねぇ……完全に石化するはずなのに、途中で止まるなんて。妖気が足りなかったのかしら~? まぁ、良いわ。目的は果たせそうだしね」


 男はそう言いながら、サングラスを触って得意気になっている。


 まさか、そのサングラス……。

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