第肆章 男女混迷 ~男の子が良い? 女の子が良い?~

第壱話 安住の地はどこ?

 翌朝。僕は学校に行くため、いつものようにレイちゃんに乗って移動中しています。


「へぇ、あんたレアなものをペットにしてるのね。これは便利ね~」


「うん、それは良いけれどね、何で美亜ちゃんまで着いて来ているの?」


 美亜ちゃんは今、なんと猫の姿になっていて、僕の膝の上でくつろいでいるのです。


 毛づくろいまでしちゃって、何してるの?


 レイちゃんは1人しか乗せられないから、猫の姿に変化して乗るのは良いけれど、何の為に着いて来てるんだろう。


「別に良いでしょ? あんたばっかり特別扱いされて卑怯よ。何よ、学校で半妖の子達を守る為に、手配書の妖怪が来たら退治するですって。あんたばっかり有利じゃない!」


「僕は別に、妖怪退治をしたくてしているんじゃないんだけどなぁ」


 その言葉に、僕は頬を掻きながら否定するけれど、美亜ちゃんにとってはそれが不思議なのか「じゃぁ、何で妖怪退治してるのよ?」って目で見てきました。


「あっ、えっと……白狐さんと黒狐さんに守られてばかりじゃ情けないと思って、こうやって妖怪退治をしていけば、強くなれるかなと思ってやってるんだよ」


「ふ~ん、そんなにそいつらの事が好きなのね」


「うん……えっ? あっ! ち、違う違う! そういう好きじゃなくて、あの、その……」


 流れで無意識に返事をしてしまいました。

 いや、嫌いではないですし、どちらかと言うと好きですよ。だけどそれは、愛しているとかではない方の好きだからね。


 うん、そうそう、そうなんですよ。それよりも、僕は誰に言い訳をしているんだろう?


「やっぱ面白いわねぇ、あんた。しばらく楽しめそうだわ」


「うぅ……お手柔らかにね」


 そんな僕の様子にも、白狐さんと黒狐さんがいつもの反応をしないです。

 そう……こんなのいつもなら、感激して良からぬ事を言ってくるんだけれど、家を出てからずっと無言なんです。


 きっと、昨日お風呂上がりに僕が、2人に新たに分かった事を伝えたからなんだろうね。

 おじいちゃんは、僕に女の子になって欲しく無かったということをね。


 僕の精神が完全に女の子になったら、記憶の封が解かれるかも知れない。そしてそうなると、妲己さんにとって有利な事が起こり、僕達にとっては最悪の事態になるかも知れないとういう事、その全てをね。


 そうしたらその夜は、ずっと2人屋根の上で呆然としていました。

 やっぱりショックだったんだろうね。自分達はとんでもない事をしてしまったんだと、後悔しちゃっているようです。


 それはそれで良かったし、僕は僕で、久々に1人の夜だったからさ、安心して寝られるかなと思ったんだけれど、チャンス到来と言わんばかりに、里子ちゃんと美亜ちゃんが僕の部屋にやって来て、その……白狐さん黒狐さんと同じ事をされました。


 いったい僕の安住の地は何処なの?


「んふふ、このまま2体が復活しなければ、また今夜も弄れるわね〜」


「美亜ちゃん、不吉な事を言わないで……」


 切実に、僕の部屋に鍵が欲しいです。

 そんな妖怪は居ないのかな? 扉に鍵を掛けてくれる妖怪。ただ居たとしても、なんだかゲームのモンスターと被りそうだね。


『いか~ん!! このままでは、椿が同性愛者になってしまうわ!』


『それだけは阻止する!! それに、記憶が戻って何か不味いことが起こっても、俺達が守れば良いだけの話だ!』


 すると、突然キーホルダーになっている2人が叫びだし、完全復活しました。僕にそっちサイドには堕ちて欲しくなかったようですね。


「ビックリしたぁ……いきなり復活しないで下さい。それに、今の状況で2人を好きになったら、それこそ同性愛者でしょうが」


『何処かじゃ?』


 白狐さんはそう聞き返すけれど、普通に考えたらさ、僕は心は男の子なんだから、このままの状態で白狐さんか黒狐さんかのどちらかと引っ付いたら、同性愛になるのは間違いないじゃん。


『言わなかったか? 俺達にはハッキリとした性別はないぞ。一応男の素振りの方が楽だからそうしているが、別に女性になろうとしてもなれるぞ?』


「ほぇ?」


 そういえば最初に言ってましたね……あれ、えっ、それじゃあ別に良いのかな。あれ? あれ? あれぇぇぇ?


【ふふふふ、良いわね〜その調子よ。ちゃんとした女の子に、早くなってね】


「あぁぁ、妲己さんまで話しかけないで下さい! 僕の頭はもうパニックだよぉ!!」


 レイちゃんの背中で悶えながら、頭を抱えてそこから煙を出す僕を、本当に嬉しそうにしながら眺める美亜ちゃん。何か言いたげですね。

 昨日あんな事があったけれど、こうなって良かったのかも知れない。あんな家族と過ごすより、ずっとずっとマシなんじゃ無いかな。


「そういえば、神格化した妖怪の中には、たまに性別が無くなる奴も居るわね。つまり、この2体があんたを気に入って味方しているだけで、もの凄いアドバンテージなのよ」


 美亜ちゃんは、尻尾を振りながらそんな事を言ってくる。そう言いながらも、嬉しそうですね。


 そう言えば前に、変化で男子になれるんじゃないかと思って聞いたんだけれど、あの後もっと詳しく聞いたのです。そうしたら、人型の妖怪は基本的に、異性に変化する事は出来ないと言われました。


 そこはやっぱり、きっちりと生まれ持った性を守らないといけないみたいなんです。


 妖怪にも適応されているとは思わなかったよ。


 人型の妖怪じゃなければ、男性にでも女性にでも変化出来るし、神格化した妖怪なら、性別が無くなるから好きな性別に変化出来る。僕も神格化出来たらな……って、ちょっと羨ましく思っちゃいましたね。


 そんな事をしている内に,学校の近くに着いちゃってました。そしていつものように、人気のない所に降りる。その時に、白狐さんと黒狐さんも変化を解き、狐の姿になりました。


 2人は人には見えないので、ここからは別に変化する必要は無いんだよね。

 単にレイちゃんに乗れないから、キーホルダーになってくれているだけです。もちろん、美亜ちゃんも普通の人には見えませんよ。


「おっはよう! 椿ちゃん!」


「あっ、おはよう。カナちゃん」


 すると、まるでそこに僕が降りてくるのを待っていたかのようにして、木の陰からカナちゃんがひょっこりと顔を出し、そのまま挨拶をしてきた。


「ん? その子は?」


 カナちゃんは半妖で、その中でも多少は妖怪が見えたりする。そして、初めて見た美亜ちゃんの姿に目を丸くし、僕に説明を求めてくる。


「あら、この子半妖なのね。良いわ、それだったら自己紹介しないとね。私は金華猫の美亜よ。椿と同じように、ライセンスを持っているのよ。そして、この子と一緒に仕事をした仲でもあるわね。うん、まぁ友達よ」


 えっ? 今美亜ちゃん、僕の事を友達って……そんな風に見ていたんだ。何だか泣いちゃいそう。駄目だ、泣き虫から直さないとだね。


「あら、そうなのね。あっ、私は辻中香苗。カナちゃんって皆からは呼ばれているわ。椿ちゃんの“最初”の友達よ」


 ちょっとカナちゃん、そこで張り合わないで下さい。友達に最初も最後も無いでしょうーーって駄目だ、2人の間に火花が散っているんだけど……この2人も相性良いと思ったのになぁ。


「ふっ、なるほど……まぁまぁやるわね。良いわ、それじゃあ私は、2番目に甘んじて上げる」


「ふ~ん、案外聞き分け良いんだね。私達、仲良くなれそうね。美亜ちゃん」


 んっ? あれ、えっと……待って待って、この流れはごく最近見たような……。

 あっ、握手なんかしちゃってる。でもさ、美亜ちゃんは猫の姿だからさ、お手だよね、それ。そしてさらに、2人して不敵な笑みを浮かべ、僕を見ていました。


「ねぇ、白狐さん黒狐さん。僕の安息の地って何処? たまには1人でノンビリしたいって思った時は、どうしたら良いの?」


『何じゃ、人気者なのに何処が不満だ?』


『安息の地か。まぁ、たまには屋根に上って来い。俺が癒してやるわ』


 黒狐さんと一緒だと落ち着きませんし、僕の心が堕とされそうで怖いんです。そこに白狐さんも居たら、もう危険ですね。

 この2人の攻めの前では、男の子としての心を保てないと思うんだ。ゆっくりと、誰にも弄られるずに過ごせる場所を探そう。


 カナちゃんに尻尾を撫でられながら、学校へと向かう道すがら、僕は真剣にそんな事を考えていた。


 あっ、そうだ。座敷わらしちゃんの所ならどうだろう。うん、次の休みはそこに行ってみよう。

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