第陸話 ようやく解決
全てが終わり、僕達は再び校長室に戻ってきた。
すると真っ先に、霊狐のレイちゃんが僕に飛びついて来て、顔をペロペロと舐めてきました。
「レイちゃん、くすぐったいよぉ」
戻る最中に白狐さんから言われたのは、やっぱりレイちゃんも連れて来た方が良かったのかも知れない、という事です。
実は最初に『はぐれ鬼』を操っていた、あのぬいぐるみの子達に連れ込まれた時、僕がぬいぐるみにされなかった理由が、レイちゃんが霊的な作用から身を守る為、僕の周りに結界を張っていたからだそうです。もちろんレイちゃんは無意識ですけどね。
そして、一通りの事情を聞いた校長先生は、すぐに知り合いの住職に連絡してくれて、その子達を供養をすると言ってくれた。
あの子達の大量の遺体を、ここに持ってくるわけにもいかないので、妖界から出して、旧校舎のテレビが大量に置いてある、あの教室に一旦保管しています。
あの部屋の大量のテレビは、いじめられていた女子生徒が用意した物ではないという事も分かり、旧校舎の方は、もはや学校側の不祥事が目立っている場所になってしまっていました。
もちろん、今の校長先生の時代ではないですけど、やっぱり釈然とはしないです。
「校長先生。ここにあったぬいぐるみも、あの妖魔に捕らわれていた子供達の魂だったんですよ。いつからあの妖魔があそこに居たかは分からないけれど、あれだけ大量の子供達が犠牲になっているなんて、おかしいですよね?」
僕は納得いかない表情のまま、その事を校長先生に問い詰めた。
ただの事件じゃないのは分かっているし、これ以上首を突っ込むのは良く無いって分かるけれど、でも……。
「君は優しいんだね。お察しの通りだよ。あの校舎は、学舎として使われた事は1度も無い」
そうだよね。ちゃんとあそこが校舎として使われていたのなら、その当時から怪事件は多発していたはず。
もちろん遺体の中には、あそこで度胸試しをした子達もいたよ。20年前に『こっくりさん』をやったであろう、生徒達の遺体がね。
服装で判断するしか無かったけれど、そういう度胸試しをした子達だろうなっていう遺体が、あそこにいくつかあったんだ。
でも、20年より前に怪事件があったなんて話しは、僕が知る限りでは聞いていない。
「あそこはね、この学校が出来た当初、出来の悪い生徒達を再教育する為の、更生校舎と言われていた場所さ。でもそれは名ばかりで、あの場に缶詰状態にし、徹底的に人格更生させようとしていたのさ」
この学校は確か、戦前からあるくらい由緒ある学校と言っていた。
旧校舎はその当時からずっと保管されていて、時代を感じさせる物だからって事で残されているけれど――それも、建前なのかな?
「もちろんその当時から行方不明になる子が居たと、日誌等には残されていた。それでも、更正の辛さから逃げ出したとされ、ろくな捜査はされなかったみたいだよ。戦後直ぐ、それがバレるのを恐れた国が、校舎を取り壊そうとしたけれど――まぁ、後は分かるよね?」
校長先生のその言葉に、僕はゆっくりと頷いた。
「何故か工事関係者の人達が怪我をしたり、死んだりしたのですね」
すると校長先生が、扇子を取り出して広げようとしてきた。嫌な予感がするので先に行動しましょう。
「妖異顕現、黒焔狐火」
僕は左手を狐の形にして、校長先生の扇子に向けると、そこから黒い炎の塊を出し、その扇子に命中させた。意識して小さくしたので、ちゃんと扇子だけを燃やせましたよ。
「うわちゃちゃちゃ! 何するんだい?!」
「校長先生。今は真面目な話をしているので、おちゃらけは禁止です」
少し目を座らせて僕が言うと、校長先生が罰の悪そうな顔をして、縮こまっちゃいました。僕、そんなに威圧はしていないのにな……。
「つ、椿ちゃん。向こうで何があったの? なんだか、雰囲気が……」
カナちゃんが僕の後ろで心配し、白狐さんと黒狐さんまで不安そうにしている。
『つ、椿よ。まさか、また妲己が?』
あれ? さっきの僕、妲己さんみたいでした?
白狐さんが恐る恐る顔を覗き込んでいる所を見ると、多分そうだったんだろうね。
「白狐さん、大丈夫だよ。そんな簡単には自分の体を乗っ取られたりはしないから」
【へぇ、それならば試してみる?】
「うわぁ!!」
白狐さんにそう答えた瞬間、頭の中に妲己さんの声が聞こえてきた。
びっくりした僕は、思わず耳も尻尾も跳ね上がってしまいましたよ。
『どうした?! 椿!』
『なんだ? 妲己の声でも聞こえたか?』
黒狐さん、その通りですよ。
だから僕は、黒狐さんに向かって物凄いスピードで頷くと、キョロキョロと辺りを見渡します。
【ふふ、見えないってば。今私は、あんたの中にいるんだからね】
「な、何で声だけが聞こえるの?」
だいたいの原因は予想出来ているけれど、確認の為に聞かないと、これはこれで落ち着かないです。
【分かっているんでしょ? 成熟した妖魔を取り込み、私の力が増したから、こうやって話が出来るようになったのよ】
力が増してこうなるって事は、その内僕の体が取られるんじゃないでしょうか……。
【ただそうは言っても、あなたの体を乗っ取るまではいかないだろうし、そのつもりも無いから安心しなさいよ。それに、話すといってもほんの少ししか出来ないわね。凄く無理している状態だからか、直ぐに眠くなるわね。というわけで、お休み~】
一通りの説明をし、どうやら妲己さんは眠ったようです。
とりあえず、今すぐどうにかしないといけない危機ではないみたいですね。
『椿、大丈夫か? 体を乗っ取られたりは?!』
気づいたら白狐さんが僕の体を揺すっていましたよ。
妲己さんと話す時は、周りへの意識が疎かになるのかな? あんまり話したくもないから話さないけどね。
「白狐さんありがとう。大丈夫、体を乗っ取る気は無いって。信じられるかは分からないけれど、今はちょっと話しただけで直ぐに疲れて寝ちゃっているから、しばらくは僕の体が乗っ取られる心配はないと思う」
僕がそう言うと、白狐さんと黒狐さんは安心したようで、2人とも顔を緩ませていた。
それを見ていた校長先生もカナちゃんも、何が何だか分からないと言った顔をしています。ちゃんと説明しないとね。
そして半妖の警察官の人は、それを聞きながら色々とメモを取っているけれど、大丈夫ですよね? あとで連行なんてされないよね?
―― ―― ――
「椿ちゃん……どんどん厄介な事が増えていくね」
「あ、はは……ほんとにね。女の子にもなっちゃうし、神様って居るとしたら、どんだけ僕に試練を与えるつもりなんだろう」
妲己さんの事や、今回の事件の全容を全て話し終えた時には、既に辺りは薄暗くなっていました。そして校長先生から「残りは大人がやる事だから今日は帰りなさい」と言われました。
白狐さんや黒狐さんも、学校に残って事後処理を手伝うようで、先に帰っているようにと言われ、今はこうやってカナちゃんと一緒に、今日の事を話しながら途中まで一緒に帰っています。
だけど、事件が終わった後も黒狐さんは終始暗かったし、本当にいったいどうしたんだろう? 悪いものを食べたわけでも無さそうだし、ちょっと心配です。
「それにしてもさ~何かおかしいと思わない?」
「えっ?! カナちゃんも黒狐さんの様子がおかしいの気づいてたの?」
ふいにカナちゃんがそんな事を言ってくるので、驚いて僕が聞き返すと、カナちゃんが目を見開いた後、そのまま意味深な笑みを浮かべ始めた。
「椿ちゃんってば、ほんとに可愛いねぇ。私が今言ったおかしいっていうのは、旧校舎に結界が張られていた事だよ」
「えっ? あっ!! あぁぁぁぁ……」
やってしまった、やってしまった、やってしまいましたぁ! 黒狐さんの事を考えていたのがバレちゃったじゃん!
いや、だけど……様子がおかしいから心配していただけで、他意はないんだよ。
「悶えている椿ちゃんも可愛い~」
これ以上、カナちゃんの好き勝手させるわけにはいきませんよ。
「あっ、あ~そうだね。結界、結界はおかしいよね! 子供達が見つけて欲しいって思っていたのに、何で結界が張られていて、そこに入れないようになっていたんだろうね。誰かが20年前に、あの妖魔を閉じ込める為に張っていたにしても、あの結界はもっと古くから張られていた感じがするしね」
「ふ~ん、無理やり話し戻すんだ。良いけどね」
良いんです。黒狐さんの話しはもう良いです。このままでは、また墓穴を掘ってしまいそうですよ。
「でもいくら考えても、こればかりは私達では分からないし、あとは校長先生達の調査次第だよね」
確かにこれは大きな矛盾であって、僕達の頭じゃもう分からない。
それだったら、今は白狐さんや黒狐さんに頼るしか無い。妖魔の事は、あまり首を突っ込まない方が良いよね。
僕は僕で、悪い妖怪を退治する事に集中すれば良い。
今回の噐は、完全に便乗していただけだったけれど、そのおかげでいじめられていた女子生徒は、妖界に引きずり込まれずに済んだ。
酷い目にはあったけれど、もっと酷い目に合わなくて良かったかもしれないね。
因みに、その女子生徒にいじめをしていた2人が、必死に土下座で謝っていたのは言うまでもないですよね。
それでもいじめられていた方の傷は消えないから、それで全て解決とまではいかない。もう後は時間だけが、その女子生徒の傷を癒やしてくれるのを待つしか無いんだ。
「それじゃあ、私の家こっちだから。あっ、そうだ! 今度そのレイちゃんに乗せて貰って、椿ちゃんの家に行ってみたいな~」
「えっ? う、うん。良いよ」
カナちゃんの目が期待に溢れた目をしていたので、断れそうになかったです。断る理由なんて無いんだけどね。カナちゃん半妖だしさ。
「あっ、ぼ、僕も……カナちゃんの家に遊びに行ってみたいな」
「ん? 良いけど、私1人暮らしだから、あんまり面白く――あっ! な、何でも無い! じゃ、また明日ね!」
そう言うと、カナちゃんはいきなり信号機を渡り出し、そのまま反対側へと渡ると、僕に手を振り走り去ってしまった。
「ぼ、僕、何か不味い事言っちゃったかな?」
もちろん僕は呆然としています。実は凄く勇気を振り絞って出した言葉だったのです。
ショックだったけれど、その次のカナちゃんの言葉の方が驚いたよ。
1人暮らしって――中学生で1人暮らし??
カナちゃんにいったい何があったのだろう? いや、僕も人の事は言えないけれどね。
カナちゃんは半妖だし、父親が妖怪と言っていた。それなら、母親は人間だよね? さっきの言葉からして、両親と一緒には暮らして居ない?
何だか気になる事が1つ増えちゃったじゃないか! カナちゃんのバカ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます