第肆話 【2】 妲己
とにかくいつまでもフリーズしているわけにはいかず、僕の中に閉じ込められているそいつの後を、白狐さんと黒狐さんは着いて行く。
白狐さんはぬいぐるみにされている僕を抱き、そいつを睨みつけているけどね。
色々と衝撃の事を言ってきたけれど、とにかく先ずは、大量のぬいぐるみを動かしているであろう、その妖魔を倒さないといけない。
だけどそれも、本当にその妖魔が大量のぬいぐるみを動かしているのか、だんだんと分からなくなってきている。ぬいぐるみから話しかけてくるのが、その妖魔っぽくないんだよ……。
するとある教室の前で、僕の体を動かしているそいつが立ち止まった。
【ん~ここだと思うかな。良い? 椿がその妖魔を見つけて『みぃつけた』って言うのよ。そしたら、今度はそいつが鬼になって探そうとするはずよ】
『それで本当に上手くいくのか?』
そいつの言葉に、白狐さんは不信感丸出しの目で見ている。
そりゃ信じろと言う方が難しいから、その気持ちは分かるけれども、今はそんな事をしても意味がないからね。
「白狐さん。こいつに何を言っても、今はそれしか対処がないんだから、一度その通りにしてみようよ。もし騙されていても、白狐さんと黒狐さんがいるし、大丈夫でしょ?」
もちろんだけれど、白狐さんと黒狐さんは万能でもないし、絶対とは言い切れないけれど、それでもその力は、他の妖怪達よりも凄いから、ちょっとやそっとではやられないと信じている。
『むっ、椿が言うならしょうがない。おいお主、変な動きをしたらどうなるかは分かっておるな?』
【はいは~い、分かってますよ。私もこのままじゃ死んじゃうからね、ちゃんと協力してあ・げ・る。それに、終わったらあとでこの子の体で――】
「それ以上は言わないでぇ!」
舌なめずりしながら白狐さんに言い寄るとか、なにをしてくれてるんですか!
ぬいぐるみにの体にも関わらず、思わずそいつに向かって飛び蹴りをしていました。避けられましたけどね。
【あらっ、その体でそれだけ動けたら上等ね。ほら、あそこのボロボロの机が山積みにされている所、あの中に居るから】
まさか、僕をしっかりと動かす為に言ったのじゃないですよね?
でも、そこまでは考えていないはずだよ。だってあの目は、心底楽しんでいる目だったからね。
『椿、危なくなったら直ぐにこっちに引き返せよ。良いな?』
すると、黒狐さんが心配して僕に声をかけてくる。
結局2人とも優しいから、こうやって僕の心が揺らいじゃうんだよね。
「うん、大丈夫だよ白狐さん黒狐さん。あの妖魔は、遊んで欲しいだけに見えたからね」
だけど、ただ遊んで欲しいだけなら、なんであんな大量のぬいぐるみで、ここの生徒達を襲わせたのだろう。
まだその謎が分からないけれど、とにかく妖魔を捕まれば分かること。
そして僕は、ゆっくりとその机への山へと向かって行く。
教室の入り口には、白狐さんと黒狐さんが立ち塞がっているから、ここから逃げようにも逃げられないはずです。
すると、その机の山の中に、あの時見た小さな子供の姿を発見しました。それから、僕の中にいるそいつに言われた言葉を、大きな声で叫んだ。
「見いつけた!!」
そう叫んだ瞬間、机の山がガタガタと動き、その小さな子供が這いずり出て来ました。
しかしそこで、僕はあることを思い出したんです。それは――
妖魔は人間の言葉をあまり理解出来ないという事。
それなのに、額に大きな角を生やし、防災頭巾を被っているその妖魔は、にやにやと笑いながら流暢に喋ってくる。
「見つかっちゃった~じゃぁ、次は僕がお――にぃっ?!」
『妖異顕現、
どうやら妖魔が姿を見せた瞬間、黒狐さんが妖術を使い、妖魔の周りの重力を増したらしいです。
目の前の妖魔は今、カエルの様な格好で床にへばり付いています。
『白狐! 早く巻物に封じるんだ!』
『分かっとる!』
そして白狐さんが巻物を取り出し、その妖魔を封じようとする。
だけど、僕はまだ何かが引っかかっていた。
「ちょっと待って! 白狐さん黒狐さん、一旦冷静になってよ! 何かおかしくない?!」
絶対におかしい。妖魔にしてはおかしいよ。
そいつを巻物に封じ込めただけでは、僕は元の体に戻れないかも知れない。
【勘が良いわね椿。大正解よ。この子はね、この妖界のエリアにいる大量の子供達の悪霊に、体を乗っ取られているのよ】
やっぱりそうでしたか。
だってその妖魔からは、妖気の他にも色んなものが混ざっていて、ぐちゃぐちゃになっていたからなんです。
怨念はもちろんだけれど、寂しさからくる哀しみと、自分だけじゃなく、他の者も同じ目に合わせてやろうという怒り、そして自分の体を、その遺体を見つけて欲しいという願い。
色んな子供達の色んな想いが混ざり、固まり、ここに居た妖魔の体に取り憑いて操り、そして自分達は人形になって、他の子達が来るのを待っていたんだと思う。
僕のこの状態も、恐らく怨霊による祟りや、本物の呪いの力でこんな姿にされたんだと思う。
そうだとしたら、この子達を除霊するしか、僕が戻る方法は無いんじゃないのかな。
『なんと……それはいかんな。我々は除霊などは門外漢だぞ。どうする?』
白狐さんはそう言うと、なにか対策はないかと悩み始めました。
こういう事態は、妖怪退治をやっているとあるんじゃないんでしょうか? 悪霊とかが化けて、それで妖怪になることもあると思うんだけれど。それは違うのかな?
『しかし椿よ。お前は妖気だけじゃなく、そういう勘の良さや、人の気を感じる能力にも長けているな。ある意味、その力はお前の強力な武器になりそうだな』
「黒狐さん。僕を誉めている暇があったら、この子達の除霊の方法を考えてください」
いきなり黒狐さんらしからぬ言葉をかけられたので、照れ隠しでつい変な事を言っちゃったよ……。
う~ん、最近の僕はどうかしているよ。なんだかこの2人に心をかき乱されている気がする。
【ふ~ん、良い感じね。ふふ】
「何がですか?」
僕の体を操っているそいつは、白狐さん達とのやり取りを見て、不敵な笑みを浮かべながら意味深な言葉を言ってくる。
いったいこいつは、何を狙っているのだろう? 僕の体を狙っている訳でもなさそうなので、全くその意図が読めないのです。
『椿よ。やはり悪霊となったその子供達の、1番の願いを叶えるしかないようじゃな』
「やっぱり、そうするしか除霊する方法はないようですね」
この子達の1番の願いは、ここでずっと犠牲者を増やしながら、永遠に遊び続けるのではないと思うんだ。
この子達が行う隠れんぼには、この子達の願いが隠されているはずです。
「やっぱりこの子達の遺体を見つけて、この妖界から出して上げないと。それから供養するしかない――よね?」
【ご名答~椿って頭良いね~】
あなたに言われてもあんまり嬉しくないですね。
ただそうなると、この子達の隠れんぼに付き合う事になるのかな? それとも、勝手に探してあげたら良いのかな?
「危険でも、レイちゃんを連れてくれば良かったかな……」
『椿。霊狐は霊体を見つけられても、その遺体は見つけられんぞ』
「あっ、そうか」
黒狐さんに言われて気づきましたよ、今回の場合、霊体を見つけても意味がないですね。
それならば、ここを片っ端から探すしかないんだね。それは時間が掛かりそうですね。早くしないと、僕の体が死んじゃいます。
『それよりも――じゃ。先程、椿の体を動かしている貴様の、その邪悪な妖気をアプリで調べさせて貰ったが、我の手配書アプリでも表示されんかったわ。つまり貴様の手配書があるとしたら、それはSランク以上』
白狐さん……ずっとスマホを持っていて、何か作業しているなって思っていたら、そんな事をしていたのですか。
画面びっしりと草書文字で書かれていたので、全然分からなかったよ。
『そこで、緊急のためということで、センター長に調べてくれとメールをしておいたのだ。この妖気を添付させてな。すると、とんでもない回答が帰ってきたわ』
僕の中に居る奴って、そんな驚く程の存在なの? そうだとしたら、やっぱりいつか僕の体を……?!
『手配書ランクはSSランク。椿の封じられている記憶とも関係しているようで、箝口令がどうのと口うるさかったが、緊急事態でもあり、椿の命もかかっていると言ったら、渋々手配書を送ってくれたわ。のう――“妲己”よ』
白狐さん、今何て言いました? 『
妲己って言えば、
何で知ってるのって? 妖怪退治をするに辺り、情報はあったほうが良いと思い、あれから色々とネットで調べているのですよ。
確か、悪女の代名詞として有名だけれど、一節には白面金毛九尾の狐が化けた姿とも言われているよね?
それが、実は更にランクの高い妖魔だったって事? だってSSランクなんて、妖魔じゃないと付かないって……。
【ふふ、ご名答。よく調べたわね。妖怪の中でも、このSSランクにされているのは私だけだし、そりゃ直ぐに見つかるわよね。どう? 凄いでしょう?】
すると僕の中のそいつは、胸を張って自慢気にしだした。
でもそれ、僕の体だから……小さな胸が目立つよ。止めて欲しいな。
とにかくこいつは、その九尾の狐なんだね。僕の中にとんでもない妖怪が居たものです。
そしてそいつが、この妖魔を生み出したって言っていたから、えっと――これって、凄い重大情報じゃないのですか?
「ねぇ、白狐さん。僕達って今、何気に凄い情報を得ているのですか?」
『う、うむ……その通りじゃな。正直我も予想外だわ』
珍しく白狐さんも焦っているみたいですね。
黒狐さんにいたっては、頭を抱えて痛そうにしていますよ。というか、本当に頭痛でも起こしたのでしょうか。顔もしかめていますよ。いったいどうしたのかな……?
『う、ぐぅ。妲己……だと? よ、嫁。くっ、お、鬼……嫁。き、九尾。うぅ』
それを思い出したくないような表情をしているけれど、妲己の名前を聞いた瞬間、黒狐さんは断片的に何かを思い出してしまっているようです。
ということは、黒狐さんの記憶の封が解けちゃう?!
『はぁ……はぁ。そ、そうか。俺はお前から逃げる為に、稲荷山に隠れたんだ』
【あ~ら、そんな所に隠れていたんだ】
僕の体を使っている妲己は、不気味な笑みを浮かべながら黒狐さんを見ていた。
それでもまだ、黒狐さんは頭を抱えている。痛みは引いたようで、もう苦しそうな表情はしていないです。どうやら、完全に記憶が戻ったわけではなさそうです。
『しかし解せんな。何故それくらいで、俺の記憶にまで封をされるんだ?』
確かに、妲己からただ逃げていただけですよね。
そうだとしたら、まだ何かあるのでしょうか? これ以上はもう、勘弁して欲しいですよ。
【あら残念。そこまでの記憶しか戻らなかったか。しょうがないわね、ゆっくりいくしかなさそうね。さっ、今度は子供達の体を探すんでしょ? 手分けして探さないと、半日なんてあっという間よ】
妲己はそう言うと、その教室から出て行こうとする。
白狐さんは、どこからか取り出したロープで妖魔を縛り付け、そのまま担ぎ上げました。どうやら一緒に持っていくそうです。
とにかく色々な事が分かってきたよ。
でも次は、悪霊となった子供達の体を、この妖界から見つけてあげなければならない。
妖怪退治が一転して、こんな事態になるなんて……こんなの誰も予想していませんでしたよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます