第参話 【1】 抜かれた魂の行方
なんとか妖怪を封じたけれど、只今僕は絶賛正座中です。
いや、カナちゃんは怒っていないし、レイちゃんもちゃんと元の僕だって分かってくれたので、今はもう怖がってはいないけれど、なんだか申し訳ないので、僕の方から正座して説明をしていたのです。
「そうなんだ。椿ちゃんは大変だね、そんな変なのが中に居るなんて。結局、そのもう1つの人格というか、閉じ込められている人は妖怪なの?」
「う~ん、それもよく分からないんだよ」
そいつは僕の体を使っている時だけしか出てこないし、本人を見た事がないんだよね。さっき捕まえた
「あっ、それとさ。その子の魂がどこに入っているか探さないといけないんだよ」
「えっ?! この子今、魂が抜かれている状態なの?」
それも説明しないといけないですよね。
そこで僕は、手配書で調べた情報をカナちゃんに見せて、その噐の能力を確認させてあげると、カナちゃんはいきなり顔を真っ青にしていった。今日2回目ですね、カナちゃんのこの顔は。
「ちょっと、これ不味いよ! 魂が抜かれている状態だと、1日で魂が昇天してしまうよ!」
「えっ? でも、どこかに入れられているなら……」
「生き物じゃないと駄目なの! 生き物以外に入れられている可能性が高いでしょ?! 今の時間は――って、超ギリギリじゃん。急がないと!」
スマホに表示されている時刻を確認すると、カナちゃんは慌ててその教室から飛び出して行った。
行動派な人はこれだから困るのです。いったいどこを探しに行くんですか? 適当に探してもしょうがないのになぁ。
それとね、この女子生徒を運ぶのは僕になるのかな? そりゃ僕は男の子だけどね。それでも体は女の子だからさ、力も多分女子のそれと同じなんだよ?
「戻ってくる気配がないなぁ……追いかけないと。しょうがないです、白狐さんの力を使えば何とかなるかな?」
そこで僕は、試験の時にやったように意識を集中させて、純粋な思いで心を満たしていきます。そして、ただ力を欲する。
すると、あの時のように体が軽くなったのを感じたので、そのまま尻尾を確認すると、その毛色は真っ白になっていた。
「ムキュッ、ムキュゥ!」
それを見てか、なぜかレイちゃんが興奮しているんだけれど、僕がレイちゃんと同じ尻尾の色になったし、お揃いだって喜んでいるのかな?
そうだとしたら可愛いなぁ、レイちゃんは――って、ちょっと待ってよ。レイちゃんって、確か霊狐ってやつで、幽体とかの感知に優れているって、そう白狐さんに言われたんだった。と言うことは……。
「ねぇ、レイちゃん。もしかしてだけど、この女子の魂がどこにあるかって、分かったりする?」
「ムゥ? ム~」
するとレイちゃんは、僕を喜ばしたいのか力になりたいと思っているのか、ちゃんと言う事を聞いてくれて、その子の近くにフワフワと飛んで行きます。そして鼻を近づけ、その子の匂いを嗅ぎ出した。
魂も、体と同じ匂いがするのだろうか?
「ムキュッムキュゥ!」
レイちゃんは、その女子の魂の場所が分かったのか、そのまま猛スピードで教室を飛びだして行きました。
ちょっと待って……皆さん行動派過ぎますよ。
「待って待って、レイちゃん!」
僕は慌ててその女子の体を背負い、白狐さんの力で身体能力の上がったこの体で、レイちゃんの後を追いかけるけれど、ちょっと力を入れすぎたのか、あっという間にレイちゃんを追い越しちゃっていました。
「わっ、わっ! もう……! まだ力の加減が出来ないや」
「ムキュゥゥ」
すると、立ち止まった僕に向かって、レイちゃんが「こっちだよ」と言っているかのようして鳴いてくる。
そっちは大階段で、下に行く事になるんだけれど、レイちゃんは自信満々に階段を浮遊しながら下りていきます。
僕もそれについて行くと、途中でカナちゃんの後ろ姿を見つけた。
どうやら、カナちゃんは1階から順番に探すつもりだったらしいです。そもそも、どれに入っているかも分からないのに、どうやって探すつもりだったんだろう?
「カナちゃん待って! レイちゃんがこの子の魂を探してくれるから」
「えっ? ウソ! 凄いじゃんその子――って、椿ちゃんも何その姿?!」
あっ、白狐さんの力を使っている姿は見せていなかったっけ。黒狐さんの力を使っている時の姿は、校長室で見せているけどね。
「えっと、白狐さんの力を使っている時はこんな姿になるんだ」
僕がそう言うと、カナちゃんはまじまじとその姿を見て、たった一言「奇麗だね」って言ってくれた。
女子に見た目を誉められたことはなかったので、僕の顔は今真っ赤になっているはずです。
嬉しいやら恥ずかしいやらで俯いてしまうけれど、レイちゃんがそんな事は気にせずに先に行こうとしていたので、慌てて顔を上げてレイちゃんに着いていきます。
「それにしても、霊体を感知するだけじゃなく、結界まで破るなんて……この子、霊狐にしてはかなり強力よね?」
「うん、白狐さんにも言われたよ。上位の霊狐にしては強力過ぎるって」
確かにレイちゃんは少し不思議です。
それに、一目見て直ぐに懐く事もないそうで、時間をかけないと懐かない妖怪だって言っていました。それなのに、僕には一発で懐いたのが不思議だそうです。職員も驚いていたぐらいだからね。
まるで最初から、僕が飼っていたかのような懐き具合だそうです。
もしかして、封じられている記憶の中にレイちゃんも居たりして――なんて考えちゃいますが、そもそもこの子は幼体で、僕が小さい頃にはまだ生まれていなかったはず。
「椿ちゃん、レイちゃん外に出ちゃうよ?」
「あ、あれ? ほんとだ。ちょっとレイちゃん、何処行くの?!
だけどレイちゃんは、そのまま旧校舎を出ると、自信満々に今使われている校舎の方へと向かって行く。
それが気になって廊下の窓を見てみると、校舎の中はまだ騒動が収まっておらず、ぬいぐるみ達から逃げ回る皆の姿が見えた。
その様子を見てさ、僕はあることを思い出したよ。
噐が人ではなく、まだ物に入っている状態でこの子の体と交換していたら?
そもそもこの子は、1人で『1人でかくれんぼ』をやっていた。その時には他の人はいなくて、他にある物といえばぬいぐるみだけだったよね。
つまり、そのぬいぐるみに噐が入っていたんだ。
「カナちゃん、僕分かったよ。急いで白狐さんと黒狐さんに連絡しないと!」
「うん。私もレイちゃんが見ている方向を見て分かったよ。でも私、そのぬいぐるみを2つ程、燃やしちゃったんだけど……」
あっ、そういえば……校長室に侵入してきたぬいぐるみを、カナちゃん燃やしていましたね。
そこにこの子の魂が入っていないのを祈るしかないですね。だけどそれに気づいたカナちゃんは、その事が心配で気が気でないのか、少し走るスピードが速くなっている。
僕は一旦2人に連絡を取るため、勾玉を取り出そうとしたけど、魂が抜かれた女子生徒を背負っているから、その勾玉が取り出せなかった。やってしまったよ……。
「カナちゃん待って、落ち着いて。白狐さんと黒狐さんに連絡取りたいから、この子をお願い! それと、レイちゃんもストップ!! この子の魂が何処にあるかはだいたい分かったから、あとは大量にあるぬいぐるみを集めるだけだし、集まったぬいぐるみから探してくれる?」
「ムキュゥ!」
レイちゃんの方は、この2日の休日の間にしっかりと躾けておきましたよ。
だから、僕の言うことは絶対に聞きます。躾けておいて良かったよ。やっぱり、躾けられるペットはちゃんと躾けないと駄目ですよね。
そして僕は、背中に背負っていた女子を降ろして、懐から勾玉を取り出すと、とりあえずその2つの勾玉に向かって話しかけてみた。
そうしろって言われたからしてみたけれど、これで白狐さん達に繋がらなかったら、僕バカみたいですよ。
「白狐さ~ん! 黒狐さ~ん! 聞こえる?!」
すると、直ぐさま勾玉から返事が返ってきた。
『おぉ、椿よどうしたのだ? 何かあったのか?!』
『椿どうした? 何かあったのか?!』
2人とも先ずは僕の心配ですか。うれしいけれど『何かあったのか?!』の部分が被ってしまい、見事にハモってましたよ。
『ん? 何故お主も呼ばれとる!』
『白狐よ! お前まで呼ばれてどうするんだ! 助けに行くのは俺だけで充分だ! お前はぬいぐるみとおままごとでもしていろ!』
勾玉の先で喧嘩しないで下さいよ。そして話を聞いて下さいお願いします。
「白狐さん黒狐さん、待って! 行方不明の女の子なら見つけたから! ただ、呪術を解くのはこの子じゃないと出来ない上に、この子今、魂が抜かれて体を交換させられたの! 妖怪は捕まえて体は取り戻したけれど、この子の魂がぬいぐるみに入ったままなんだよ!」
とにかく一息に言っておかないと、また喧嘩しちゃうかもしれないんだよ。
するとカナちゃんが、何故か同情の目を向け、その後「大変ね」って呟かれました。
『むぅ、なるほど。それなら丁度良い。今捕まえた先から校長室にまとめて縛っておるから、そこで落ち合おう。ぬいぐるみは後もう少しなのでな』
「うん、分かったよ。でもカナちゃん曰く、時間がもう無いんだって。だから急いで、白狐さん黒狐さん!」
僕がそう言うと、白狐さん達は了解し、雄叫びと共にぬいぐるみを捕まえていっているようでした。勾玉の向こうでそんな激しい物音が聞こえてくるからね。
「カナちゃん、時間はあとどれくらいあるの?」
「ん~、この子を旧校舎に入れた時間からして……あと、1時間もないかな」
意外と残り時間が少ないですね。
それも2人に言わないといけなかったけれど、伝えようとした瞬間に、勾玉から白狐さんの声が聞こえてきた。
『よし、全部捕まえたぞ椿よ!』
早いですよ、白狐さん黒狐さん。心配なんか要らなかったみたいです。
「分かった。僕達も校長室に行くね」
それから、僕は勾玉を戻し、再びカナちゃんと一緒に走り出し、校長室へと急いだ。
もちろん、魂が抜かれた子は僕が背負っています。良いですけどね。別に重くないし、運べるから。
だけど文句も言わずに、当たり前の様に運んでいる僕も僕なのだろうか?
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