第捌話 【2】 添い寝だけ?
お風呂で少しのぼせた僕は、フラフラと自室に向かっています。
里子ちゃんに弄られ過ぎました。
女の子の体には慣れてきたけれど、こういう事はまだ恥ずかしいし、そもそも里子ちゃんの体も、あんまり見ないようにしていたくらいですよ。
それなのに……あんな事をされたら、しばらくは里子ちゃんの顔を直視出来ないよ。
『おぉ、長風呂だったな椿よ』
『中々焦らしてくれるな、全く――って、閉めるなこら』
そして自室に着いた僕は、なにも考えずにその扉を開けてしまいました。部屋に居た白狐さんと黒狐さんの姿を見た瞬間、帰りにあった出来事を思い出したよ。
だから慌てて扉を閉めます。ピシャリとね。
そうだった。今日は里子ちゃんの部屋で――いや、里子ちゃんも危ないですね。それならどこにしよう?
「おじいちゃんがあんな状態じゃなければなぁ――って、わひゃぁ?!」
部屋の外で今晩どこで寝ようかと考えていたら、いきなり扉が開き、そのまま黒狐さんに首根っこを掴まれ、部屋の中に引きずり込まれてしまいました。
「ひぃぃ! た、助けてぇ! ぼ、僕はまだ心までは女の子じゃないんだし、体の関係を求められても困るよ!」
だけど、必死に抵抗する僕を、黒狐さんがいじめられっ子を見るような目で見てきます。
変わろうと決意した瞬間これですか? 神様はとんでもない試練を僕に与えてくれますね。
『ふふ、そうかそうか。それならば、女の子の心になったら良いと言う事だな?』
「あっ、いや、ち、ちが……」
『それに、なんでもすると言ったのは椿だろ?』
黒狐さんは更に執拗に責めてきます。でも、負けていられない。ここで負けたらいつもと同じだよ。
「そ、それでも……この一線だけはダメです!」
すると黒狐さんは、僕が反抗するのが意外だったのか、驚いた顔を見せてきました。だけど、直ぐに元の顔に戻り、僕の頭をゆっくりと撫でてきます。
白狐さんと違ってなんだかゾクゾクしてくるんですけど。何ですかこれは? 非常に嫌な予感がするのですが……。
『止めんか黒狐。どちらにせよ、今の椿の体では我々を受け入れられんわ。焦るな』
そんな時、白狐さんが後ろから黒狐さんの頭を殴り、黒狐さんを止めてきました。
た、助かりました……やっぱり白狐さんは優しいです。
『言っただろう。がっつかずにじっくりと、椿を理想の女にする方が良いとな。力尽くでは意味がないわ。ジワジワと堕とせ』
前言撤回です。白狐さんも同じ事を考えていましたよ。
でもこの2人は、僕の事を嫁にするって言っているんだから、この反応は当然ですよね。今夜は大丈夫そうだけれど、でもその内に……。
これは想像はしないでおきましょう。それこそ2人の思う壺だから。
『それに、あんまり騒ぐと霊狐が起きてしまうぞ』
「あっ、そうだ。レイちゃん大丈夫?」
白狐さんの言葉を聞き、ある事を思い出した僕は、急いで部屋の隅に向います。そして籠の中で毛布に包まり、可愛い寝息を立てているレイちゃんを覗き込みました。
レイちゃんは夕方の戦闘中ずっと、僕の背中に小さくなって引っ付いていて、その戦闘が終わった瞬間に寝ちゃったのです。そして、未だに起きずにずっと寝ています。大丈夫なのかな?
すると、心配そうにレイちゃんを見ている僕に、白狐さんがレイちゃんの状態を説明してきました。
『心配するな。あれほど巨大な鬼の魂を取り込んだのだ、体に馴染ませる為に寝ているだけだ。明日の朝には起きるじゃろう』
「そっか、良かった~いきなり寝ちゃったから心配したよ」
おじいちゃんや他の皆からも、レイちゃんを飼っても良いと言われたからね。ほとんど僕の上目遣いでごり押ししましたけど、僕ってそんなに可愛いのだろうか?
やっぱり、女の子なんだって割り切った方が――ううん、まだ答えを出すのは早いよね。だから、もうちょっとこの姿で様子を見てみようと思う。
その前に、自分が妖狐なのだという事を受け入れる方が、体よりも先かも知れません。
まだこの尻尾と耳の感覚に慣れずにいて、座る時に踏ん付けたり、耳の位置を間違えて音を聞き漏らしたり、そしてそのせいで人にぶつかりそうになったりと、女の子の体以上に慣れないのです。
なんとか慣れようとしても、長年人の体でいたからね。それに馴染んでいるし、上手くいかずに苦戦しています。
『椿、どうした? 尻尾と耳を同時に動かして』
「なんでもないです、黒狐さん。あっ、そうだ! 携帯の充電もう終わった?」
この2人に相談してもいじくられるだけな気がするので、なんとか誤魔化して回避しました。
そして僕は、今日貰ったばっかりの妖怪用スマートフォン、略して妖怪フォンの充電が終わったかどうか、それの確認に向かう。
2人がずっと僕を見ているし、なにか怪しんでいるかもしれないけれど、気にしない気にしない。
それにしても、この充電器は独特ですね。
普通のスタンドタイプの充電器かと思いきや、ぽっかりと開いた口の形をしていました。ここに突き刺す時、若干
だって携帯を食べさせているみたいだし、凄く不安になったけれど、白狐さんに大丈夫だと言われ、恐る恐るその充電器の口に差し込む様にして入れると、側面についていた目がカッと見開き、真っ赤に光り出したんだ。
これで充電中ということらしいけれど、僕が入り口の扉まで、驚き飛び退いたのは言うまでもありませんよね。
良く見たら今は目を閉じているので、これは充電が終わったということなのかな?
「それにしても、不思議な充電器ですね。まさかこれ、妖怪で『
『ん? 誰から聞いた? その通りだ。特殊な電磁妖気をその身に溜め、また自らに繋いだ物に、その電磁妖気を送る妖怪じゃ』
白狐さんは感心していたけれど、僕は引きつった笑顔で、その充電器を眺めています。冗談のつもりで言ったのに、まさかその通りだったなんて思わないでしょ。
「まぁ、いいや。えっと、アプリは――っと。ちゃんと使える様にしないとね」
『待て椿、そんなのは明日でいいだろう。なんだか意図的に避けていないか?』
「ギクッ、そ、そんな事無いですよ、黒狐さん」
『口でそんな事を言ってどうする。とにかく安心せぇ、椿はまだ未熟だから、体までは求めん。添い寝するだけじゃ』
白狐さんがそう言ってくるけれど、本当かなぁ?
だってそうは言っても、2人は男性だからあんまり信用出来ないのですよ。
そうやって僕が疑いの目を向けていると、白狐さんと黒狐さんは心配するなと言わんばかりに、手招きをしてきます。
それと、2人ともいつの間にか甚平みたいな寝間着に着替えている。
さっきまではいつもの和装だったのに、妖術で服装も変えられるのかな?
逆に僕の方は、ピンクのフリルが付いたパジャマです。里子ちゃんがこんな物しか用意してくれなかったから、仕方なくこれを着るしかなかったんだよ。
「う~本当に何もしない?」
尻尾を足の間に挟みながら警戒する僕だけど、2人は柔やかな笑顔で、その僕の不安を取り除こうとしています。だけど、黒狐さんの笑顔だけは信用出来ません。
でも、いつまでもこうして警戒しているわけにもいかないし、流石に眠くなってきました。
「良い? な、何もしないでよね」
だから、僕はそう言ってから、2人の待つ布団に潜り込みました。だけどその瞬間、2人は僕を挟む様にしてきます。これは予想していたから大丈夫です。
そのまま僕は、しばらく2人に挟まれながら、妖術の使い方を2人から聞く事にしました。
この2人の力ですからね、2人から聞いた方が、しっかりと使いこなせるようになると思う。
それにしても、2人とも良い匂いがするんですけど。何だか頭がぽーっとしてくる。あれ? もしかして嵌められた?
『やっぱり、椿は良い匂いがするな』
僕の後ろから抱きしめている黒狐さんが、僕のうなじに鼻を付け、その匂いを嗅いでいます。
『いやいや、やはり肌の味が何ともたまらん』
前から抱きしめている白狐さんは、僕の首元を舐めてきます。
そうだった、2人はそれぞれ変態フェチを持っていました。というか、首ばっかりにそんな事をされたら、こ、声が――
「う、うう……ふぅぅ」
それなのに僕は、口を手で押さえ、必死に声を抑えるしかできなかったです。
だって、止める為に声を上げようとしても、多分変な声が出ると思うから。
『我慢するな椿。甘い声くらい聞かせろ』
すると、黒狐さんが僕の尻尾を優しく握り、ゆっくりと擦ってきます。
それはなんともいえない感覚で、尻尾から電流が走ってきたかのようになった。しかも背筋までゾクゾクしてしまい、遂に僕はあられもない声を出してしまいました。
「んぅ……あっ!」
そんなに大きな声では出さなかったけれど、やっぱりあまりにも恥ずかしいので、僕は咄嗟に布団を被ろうとしました。
だけど、それは2人に阻まれてしまい、僕は真っ赤になった顔を見せ続ける羽目になりました。
『おぉ、何とも愛らしい表情だ。たまらんなこれは』
『ほんとだな白狐よ、これはたまらん』
「うぅぅ、見ないで見ないでぇ! あぅっ!? あと、尻尾をそんな風に触らないでぇ!」
でも、2人に触れたりすればするほど、徐々に頭が沸騰してきてしまって、まともな判断が出来なくなっていく。
もしかして2人とも、僕に何か変な妖術でも使いましたか?
そして、徐々にそんな考えも出来なくなり、僕はただ、2人の為すがままになってしまいました。
このままでは、割と早くに僕は、身も心も完璧な女の子になっちゃうかもしれません。この2人の手によって……。
お嫁さんにされるわけにはいかないけれど、この2人を前にしたら、僕の抵抗なんて微々たるものなんですね。
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