第参話 【2】 試験開始!
「し、試験なんて聞いてないよ!」
僕は突然の出来事に、白狐さんと黒狐さんに文句を言っています。
ただ、文句を言ってもここまで来てしまったので、今更引き返せないとは思う。分かってはいるけれど、やっぱり言っちゃうよね。
『大丈夫じゃ、椿よ。我等の力を持っているのだぞ? こんな試験など余裕じゃよ』
本当かな? なんだか不安です。また怖い僕が出て来ちゃったらどうしようって、そう考えてしまいます。
そもそもあの怖い僕、あれは何なのだろう?
僕の封じられた記憶と何か関係があるのは間違い無いだろうけれど、あんなに怖いのが僕の中に居るって思うと、妖狐の力を使うのを躊躇してしまうよ。
「よし。丁度今日、ライセンスの認定試験がある。その間にライセンスの説明でもしておこうか?」
『そうだな。椿は知らないから頼む』
黒狐さんが僕の代わりにそう言った。そんな姿を見て思ったのは、僕ってば何でもかんでも白狐さんや黒狐さんに頼っちゃってるよ。ダメだなぁ……。
僕は男の子だって、そう心に散々言い聞かしているのに、今の状況を心地良く感じている僕もいて、ちょっと複雑な状態になっていたよ。
この達磨百足さんにもちょっとずつ慣れてきたので、白狐さんの陰から出て、僕もしっかりと説明を聞くことにしました。
しっかりしないといけないよね。
「さて、ライセンスには等級が存在していてな、十級から一級まで存在している。それによって、手配書の妖怪や妖魔への挑戦する権利が存在する」
「えっ? 手配書にはランクがあるのは聞いたけど、誰でもその妖怪を退治して言い訳じゃないの?」
不思議に思った僕は、達磨百足さんにそう聞いたけど、返してきたのは白狐さんでした。
『当然じゃ。なにせ手配書のランクが高ければ、命に関わる程の大妖だからじゃ。誰でも簡単に挑戦をして、次々と殺されて命を粗末にされては困るだろうが。だからライセンスがあり、その等級によって狙える手配書が変わってくるんじゃ』
い、命を落とす事もあるのですか……。
そんな恐ろしい妖怪とは戦いたくはないから、学校の防衛だけやれるようにしておきましょう。
「続けるぞ。ここは他者からの依頼も、こういうライセンスを持っていないと出来ない。次に等級ごとによる手配書の、各ランクへの挑戦可能域だが、ざっとこうなっておる。そして、等級によって捕まえられる手配書のランクを制限しているのは、上級ライセンスの妖怪達による、下級手配書の乱獲を防ぐ為だ」
そう言うと、達磨百足さんが縦長の紙を広げてくる。
そこには、等級ごとでどのランクに挑戦出来るのかが記されていた。
《十級~七級 D~Cランク手配書。それに準ずる依頼
六級~四級 C~Bランク手配書。それに準ずる依頼
三級~二級 B~Aランク手配書。それに準ずる依頼、もしくは危険犯罪の鎮圧対応
一級 A~Sランク手配書。それに準ずる依頼、もしくは危険犯罪の鎮圧対応及び発生の抑制に務める事
特級 S~SSランク手配書。機密事項任務を主とする特殊ライセンスの為、詳細は取得後別紙にて》
「えっ……一級より更に上があるの?」
特級なんて文字を見て、つい声が出ちゃった。
それよりこうして見ると、本当にしっかりした中身になっています。
「因みに手配書のランクは、Aランク以上は全て妖魔となっておるからな。しかしそもそもからして、一級は数十人しかいないし、特級など、妖怪史上2人しか出ていない。昨今の妖魔の凶暴化により、認定試験がキツくなっているからな。制度を改める必要があるかもしれん。そこの白狐と黒狐ですら二級だからな」
僕はその言葉を聞き、ソッと2人の顔を見てみた。
2人とも少しドヤ顔をしておりましたね。とても自慢気だよ……でも、あなた達より上がいると言うことだから、それが凄いのかどうかは僕にはピンとこなかった。
「あの……その特級が2人しかいないということは、SSランクってよっぽどの奴なんですよね?」
そして僕は、1つ気になったことを聞いてみた。
もしこのSSランクの手配書が、そこそこの数あるのなら、その2人は大変なんじゃないのかな?
「ん? 気になるか? 安心しろ、SSランクの手配書なぞそうそう出ない。というか、ここの所出現していない。それにな、その特級の2人と言うのは――っと、いかんいかん。うっかりと喋る所だったわ」
そう言いかけたところで、達磨百足さんが慌てて別の手で口を押さえた。
いったい何を言おうとしていたのだろうか。誰にも言えない程の機密事項何でしょうね。
「あぁ、あとはな。ライセンスは誰でも十級からというわけでは無い。妖気の強さで決める為、いきなり八級からスタートしたりする場合もある。しかし制度により、四級より上は必ず昇級試験を受けなければならなくなっている。と、説明は以上だが、頭には……入ってないな」
達磨百足さんが僕の様子を見ると、ため息を付きながらそう言ってきた。
そうです。僕の頭はヒートしそうで、煙が出ているのではと、そう錯覚するくらい熱くなっています。
『安心せぇ、試験と言うが、筆記は無い。そこまで心配する必要はないぞ』
そんな僕の様子を見た白狐さんが、僕を安心させる為なのか、そんな事を言ってきた。
でも、試験は僕1人で受けないといけないみたいだから、結局完全に不安が無くなることはなかったよ。
すると、その試験の時間が来たのか、長い廊下から鬼の姿をした、職員みたいな服装を着ている人が現れ、ホールに向かって声を張り上げる。というか鬼ですね、あの方。
「妖怪ライセンス認定試験を受験する方は、こちらに集まって下さい!」
『おっ、試験が始まる様だな。よし、行ってこい椿』
黒狐さんにいきなり背中を押されてよろけた僕は、バランスを崩しながらも、白狐さんと黒狐さんの前に出た。
「やっぱり、僕1人で受けるのか……」
『すまんな。それに、人間達の試験も1人で受けるものであろう?』
そうですよね、確かにその通りです。試験は1人でやるものですよ。
僕は自分自身にそう言い聞かせ、恐怖心を抑えながら廊下の前に向かいました。
その時、振り返ってもう一度2人の姿を確認すると、大丈夫と言わんばかりに力強く頷いてくれました。こういう時、2人は本当に頼りになるから助かります。
すると僕の横から、母親らしき女性に何かを言われていた女の子が、こちらにやってくるのが見えた。
当然僕は見えていたから、それを避けようとした次の瞬間――その子はわざとらしく僕に当たり、なんとそのまま突き飛ばしてきた。
「うわっ?!」
「あ~ら、ごめんなさい。あんまりにも気配が無さ過ぎて、気づかなかったわ~」
その子は、僕に対してそんな辛辣な言葉を投げかけてくる。
その時ついでに、黒くて艶があり、癖っ毛の無いロングヘアが靡いた。良く見ると、髪と同じ毛色の猫耳に、猫の尻尾も生やしている。
化け猫かな? 尻尾が1本だから、猫又ではないよね?
そして、その子はそのまま、案内役の鬼の人の所に向かって行きました。なんて凶暴な子だろう。
僕は痛む膝を押さえながら、ゆっくりと立ち上がり、ヨロヨロと案内役の鬼の元に向かった。
あぁ……後ろから視線を感じる。絶対に、白狐さんと黒狐さんが心配そうな顔をしているに違いないよ。
それでも頼り過ぎるのも嫌だから、せめてこの試験だけは、僕1人で頑張ってみよう。
―― ―― ――
ザワザワと妖怪達が集まってきた。
それからしばらくしてから、案内役の鬼がざっと周りを見渡して、他に受験希望の妖怪がいないかを確認すると、集まった僕達に向かって、自分に着いて来るようにと指示をし、薄暗い廊下へと向かって行く。
その廊下の先は長くて、下には赤い絨毯が敷かれていた。
それはまるで、地獄の閻魔大王の元に向かうんじゃないかって、そう思ってしまうくらいに、恐ろしい雰囲気を放っている。
「うぅ、怖いなぁ……」
僕はそう呟きながら、一番後ろから皆の後を着いて行く。
だって、前の皆は全員妖怪さんですよ。
体中に大量の目玉を付けていたり、人間の女性の姿をしているけれど、口が耳元まで裂けていたり、体が全部大量の毛で覆われていたり、もちろん首が宙を浮いている人は何人もいます。
でもその中には、僕の様に人型で、そんなに怖く無い人達もいた。全員僕みたいに、獣の耳や尻尾が生えていたけどね。
大丈夫。僕だって妖狐だし、人間じゃないんだし。取って食われる事なんてないから大丈夫だ。
また自分にそう言い聞かせながら、僕は皆の後を着いて行きます。
それでも無意識なのか、尻尾は足の間に潜り込み、耳は恐怖でペタンと倒れていました。
情けないなぁ……この試験を突破できたら、これも少しは克服できるかな?
そんなことを考えながら、1人でひたすらに長い廊下を歩いて行く。
そう1人なんです。気が付いたら前に誰も居なかったよ。
「あ、あれ? 皆は?!」
慌てて辺りをキョロキョロと見渡すけれど、前も後ろも、ひたすらに長い廊下が続いているだけで、後は左右に無数の扉があるだけです。
するとその時、天井に着いているスピーカーが――じゃない、人の口みたいな物が現れ、パクパクと動き出していた。
思わず壁にへばり付いたのは、もう仕方ないよね。
『それではこれより、試験の方を開始します! まずは、皆さん多少はあるであろう、妖気感知の能力テストです。この中にある扉は1つだけ、次の試験の試験官のいる部屋へと繋がっているので、それを制限時間内に見つけて下さい!』
そう言うと、天井に付いていた口が一斉に消えた。
妖怪の試験なんだから、人と同じように、受験なんかをする部屋なんて無かったんだ。
このセンター全体が試験会場だったのです。
いつの間にか始まった試験に、僕は頭を切り替え、何とか突破する事だけを考えることにした。
そうだ。ここで頑張らないと。
そうじゃないと、あの2人にいつまでも頼ってしまうような、そんなか弱い存在なんて嫌なんだから。
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