第弐話 【3】 電磁鬼を捕まえろ!

 今僕は屋上で、白狐さんと黒狐さんの逆探知の様子を眺めている。


 それにしても、尻尾だけだと格好悪いし耳も出しちゃおう。

 どうせ2人にもらった勾玉で、外見変わってても気づかれにくいんだよね――んっ? あれ?


「ねぇ、僕さ。一生懸命尻尾とか耳とか隠していたけれど、意味無かった?」


 僕がそう言うと、2人は明らかにニヤニヤし始めた。その笑みはやっぱり。


『そうじゃな、全く隠す必要はなかったぞ。その勾玉で気づかれないようにしているからな』


『必死に隠している姿は可愛かったなぁ、白狐よ』


 本当にこの2体は最悪です、早く言ってよね。

 でもやっぱり言い返せないので、ほっぺを膨らませてせめてもの抗議を――


『怒っているつもりだろうが、その顔も可愛いの。余計にいじりたくなってくるから、止めた方が良いのでは無いか?』


 止めとこう。白狐さんの言葉に黒狐さんもニヤニヤしている。やっぱりこの2体には抵抗出来ないのでしょうか?


『ふむ、しかしそうこうしている内に、かなり時間が立ってしまったの』


 すると突然、白狐さんがスマホの時計を確認してそう言ってくる。

 確かに、あれからもう何時間も立ってしまっていて、既に放課後になっちゃっています。


「僕、そろそろ帰らないと……」


 そう言うと、白狐さんと黒狐さんも諦めたらしく、僕の元にやって来てまた狐の姿になった。


『そうじゃな、また明日にして帰るとするかの』


『こういうのは根気じゃな』


 本当にクラスの人達は操られているのかな? でも、明日もまたいじめられる事は確定だね。


 2人の話を聞いてから、スマホを持っていなくて良かったって思ったけれど、僕も一緒に操られた所で、何か意味があるのかな? というか、何故クラスの皆を操っているのかな?


 僕はそんな事を考えながらも、今度は家で待っている事を考えてしまいました。

 そして憂鬱になりながら校舎に入り、屋上への階段を降りて、更に下に降りる為に別の階段へと向かう。ここの屋上に続く階段は、下に行く階段が無いからね。


 でもその時僕は、突然変なものを捉えたような感覚に陥った。


 ハッキリ言って気持ち悪い。ゾワゾワするような感覚が、全身を駆けめぐっている。耳も垂直に立って震えてしまい、尻尾も脚の間に挟み込みます。


『んん? どうした、椿』


 その名前を言われてもピンと来ないですよ、僕は翼だもん。それよりも何この感覚……ソワソワして落ち着かない。


「う~なにこれ。なにかいるの? 変な視線の様な、そんなのが漂っている気がするんだけど?」


『椿……お主まさか』


『おぉ、自力で妖気を感じられるのか?』


 白狐さんと黒狐さんが驚いている。

 どういう事? 自力で? 驚いている所を見ると、そんなに難しい事なのかな。


『普通は、生まれたての妖怪や成り立ての妖怪は、妖気を自力で感じる事が出来ないのじゃ。妖気を感じ取る様になるには相当の訓練が必要でな。実は他の妖怪も、その面倒くささからやっている奴は少ない。スマホで調べられるしな』 


『しかしお前は、その耳と尻尾を両方使って妖気を感じるようだな。さっきは耳を隠していたから分からんかったのか』


 それは分かったけれど、なんとかしてよ。足がすくんでしまって動けない。


「じゃあ、どこかに妖怪がいるの? ちょっと怖いんだけど……」


『あ~ちょっと待て。どれどれ……』


 そう言うと、白狐さんが再び人型になって、スマホの妖気アプリで辺りの妖気を調べていく。


「そういえば、2人も自力で妖気を感じられるでしょ? そんなの使わなくてもいいんじゃ……」


『いや、一応分かるんじゃがな。ただ、どんな妖怪のものなのかは分からんし、どこに居るかも分からんからアプリで調べとるんじゃ』


 そんなに精度悪いの? でも、僕はある一点から凄く見られている様な、そんな感覚があるんだけど。


『ふむ、操っている妖気の糸が混線しとるの。これだけ妖気の糸が束みたいになっとるから、それを察知したんじゃろ』


 そう言って白狐さんがスマホを戻そうとする。


 えっ、嘘でしょ? こ、こんな怖い視線みたいなの、捉えられないの?


「ちょっ、ちょっと待ってよ。そんなんじゃなくて、すっごく見られているんだけど?」


 その僕の言葉に、2人が顔を合わせた。


 そんなに変な事なの?

 でも、とりあえず何とかしてくれないと、僕ここから動けないよ。


『白狐よ、これはもしかすると』


『うむ、とんでもない能力かもしれんぞ。椿よ、因みにどこから視線を感じるんじゃ?』


「え? えっと、右の空き教室」


 あっ、椿と呼ばれて普通に返事するなんて……でも、今はそれどころじゃない。


『う~む……』


 すると、白狐さんが再び妖気感知アプリで、空き教室の中を調べ始める。

 とにかく早く見つけてよ、ずっと腰が引けちゃってるから腰が抜けそうだよ。


『ふむ、やはり混線しとるの。椿よ、中に入ってもう少し詳しく調べられんか?』


「えぇぇ!! 無理無理!」


 首を横に振って拒否したけれど、後ろから狐状態の黒狐さんに、軽く腰を小突かれてしまい、そのままバランスを崩して後ろに倒れ込んだ。


「うわっ?! えっ? うぷっ!」


 でも黒狐さんは、上手に鼻で僕の体を転がす様にして、自分の背中に僕を乗せていました。


『こうすれば、我も一緒にいるから怖くないだろう?』


 うっ、そうだけれど……それでも少しは怖いよ、空気が重いんだもん。


『まぁ、どんな妖怪かは見れば分かる。自分が理解出来ないものだから、極端に怖がるのはしょうがないが、そのせいで妖気が大きく感じられてしまうんじゃ』


 おばけみたいな感じですね。似たようなものだから怖がるのはしょうがないでしょ。

 でもそんなものはお構いなしと、黒狐さんはトコトコと空き教室に入って行く。


 ちょっと恨みますよ……。


 そしてその教室に入った瞬間、それがより一層強い視線として感じられて、僕は全身の毛が逆立つ様な感覚になった。


『おぉ、どうした? 尻尾も耳の毛も一斉に逆立っているぞ』


 実際逆立っていました。でも今なら分かるんだよ、どこに居るかがはっきりと。


「い、居る。そこ、窓際の机の下」


『ん? おい、白狐。机の下に何かあるぞ』


 僕がそう言うと、黒狐さんが机の下を確認し、後ろの白狐さんに何かあることを伝える。

 すると、人型になっている白狐さんが前に出てきて、机の下をしっかりと確認しようとした。


 だけどその時、四角い物が物凄いスピードで机の下から走り抜け、そして教室の出入り口から逃げて行ってしまった。


「なに今の?!」


 あまりの速さに分からなかった。いや、悲鳴を上げて良いかが分からなかったの。だってそれは――


「――今のってスマホ?」


『お主、今のが見えたのか?!』


 白狐さんがまたびっくりしている。確かに凄いスピードだったよ、でもはっきり見えた。


「あれが妖怪? スマホが立っていて、そこに細い脚みたいなものと腕みたいなものがあって、一生懸命走っていたよ」


 正直に言うと、ちょっと可愛かったかも。


『おい、ボケッとしてる場合ではない! 追うぞ!』


「あいたっ!!」


『おぉ、すまん! 大丈夫か?』


 黒狐さん、前を良く見てよ。急に出ようとするから、教室の出入り口の上の部分に頭が当たったじゃん。


『黒狐、お主はもう少し落ち着かんか。椿よ、今度はどちらから感じる?』


「えっと、こっち。いたた……」


 そう、僕がまた怖い視線を探れば良いだけなんだから。


 ―― ―― ――


 そして今度は、準備室に使われている教室にたどり着く。確かに物が散乱しているここは、隠れるのに絶好の場所かも。


『よし、挟み撃ちにする。黒狐、お主も準備せぇ』


『分かっとるわ』


 そう言うと、黒狐さんは僕を降ろして人型になった。僕は怖いけれど、そのまま見られている様な視線を辿って行く。

 この部屋も、さっきの空き教室と同じ様に、視線の様なものがはっきりと分かるくらいになっている。


「多分あそこ。机の上、物が散乱している所」


 また飛び出してきそうで怖いなぁ……襲ってきたらどうするんだろう?


『よし白狐、反対側に……』


『分かっとると言うに、今度は逃がすなよ黒狐』


 そして2人はジリジリと迫って行く。


 そう言えば、ここに来るまでに何人かとすれ違ったけれど、僕の姿に何も言わなかったという事は、気づかれていない?

 いや、いじめられているから無視されているだけだろうけど――って、今はそんな事よりも妖怪の事だよ!


 僕は思い出した様にして2人に視線を戻すと、いつの間にか2人が机にかなり接近していた。

 すると、机の上に雑多に置かれた物の隙間から、さっきと同じ物体がいきなり飛び出して来た。


『逃がさん!!』


 その瞬間黒狐さんがそう叫び、片手を影絵でやる狐の形にして妖怪に向ける。

 すると、出入り口にいた僕の前方で、スマホの形をした変な物が立ち止まった。というより動けなくなっている。


「うわ!! あっ、やっぱりスマホだ……何これ」


『そいつが電磁鬼。クラスの奴等を操っている張本人じゃ!』


 そして黒狐さんが叫んでくる。でも僕は怖くて、何か出来るわけでもなく、震えながらその妖怪の全貌を良く見る。


 ん? 怖い……? 怖いかな、これ。


 だって見た目は完全にスマートフォンで、下に細長い脚が付いていて、横にも細くて長い腕が付いている。

 更に画面の真ん中に大きな目が1つ。それと上には耳かな? そんな感じの尖った物がついている。


『椿、気をつけろ!』


 今度は白狐さんが叫んでくる。でもその瞬間、目の前の妖怪の目の下が大きく開く。どうやら口みたいだけど……ま、まさか。


『キィィィイイ!!』


「うわぁぁああ?!」


 そいつはそのまま、口から電磁波の様なものを僕に浴びせてきた。

 僕はあまりの出来事に、腰が抜けてその場にへたり込んだけれど、そのおかげで直撃を受けずに済んだよ。


 めちゃくちゃ凶暴じゃん。


『おのれ、我の嫁に向かって攻撃するとは何事だ!』


 白狐さんが凄く怒っている。

 そして鋭い爪を出すと、勢いよくそいつを切りつけた。


『ギィィウ!!』


 白狐さんの攻撃を受けたそいつは、叫び声を上げて完全に動かなくなった。


 もう何が起こっているのか僕にはサッパリです。


『黒狐! 封印の巻物を早く出せ!』


『今出したわ! それ受け取れ!』


 その後、黒狐さんがどこからか取り出した巻物を放り投げると、白狐さんはそれを軽々とキャッチしてすぐに広げた。

 そして、その巻物に書かれた丸い円に指を当てると、そこから光が飛び出して目の前の妖怪に直撃する。


 すると、そのスマホから妖怪だけが抜き取られる様にして、巻物に吸い込まれていく。

 その後には、普通のスマートフォンが地面に落ちて動かなくなっていた。


 もう何が起きているのやらですよ……。

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