第6話
やがて倉持智也、中西博美、浅羽幸弘と、彼女を囲むことになった。倉持と浅羽は中学時代からの同級らしく、帰路をともにするのだろう。浅羽が意外にも長らく話し込んでいたが、これと言って思うところはなさそうだ。中西は、勝負する相手の部活終わりでも待つつもりなのかもしれない。
「せっかくだから一緒に帰ろうよ」
会話に一区切りついたころ、木村雪乃がこちらに顔を向けた。
「でも木村さんって上り方面じゃなかった?」
「駅まででいいよ」
突然のことに困惑していると、
「じゃあ俺らもご一緒してもいい?」
浅羽が胸の辺りに手を添え進言するも、
「駄目ー。最後は優と一緒に帰るんです」
無邪気な笑顔を振りまいた。
「優モテモテかよ」先刻の中西との演劇の話を掘り返し、「まあたっての希望ってなら、邪魔ものは帰るか。博美は?」
矛先を変えたが、
「私はこれがあれだから」
親指を突きたて、それからおでこのあたりからボールを放つような仕草を見せる。彼氏はバスケ部か、聞いたことはなかった。
午後十二時半、ついに散会となる。朝食を抜いていたせいで、おなかが鳴りそうで不安だった。
浅羽たちが先に教室を出て行き、中西を教室に残したまま、木村雪乃と並んで歩く。どうしてご指名を受けたのか、余り詮索するつもりはなかったが、心当たりも同様に、存在しない。
校舎を抜け、国道沿いを歩いていると、
「ごめんね」泣いたせいですっかり鼻声になったまま、「付き合わせちゃって」
「いや」そんなことを言われて、迷惑などと返せるわけもない。「全然。最後だしね」
その言葉がいかように響いたのか、彼女は黙って、俯いた。膝の少し上で揺れるスカートが、段々、作る波を小さくしていく。
立ち止まってしまった彼女を振り返ると、顔を傾け、斜め下を見て、眉根を寄せ、口を結んでいる。
「どうしたの?」
少々あからさま過ぎる感も否めないが、そう聞いて欲しいのだったら、聞いてやるくらいの人情はあった。
「ううん」
スカートのように、小さく顔を揺り動かし、再び歩みを再開し、隣までやってくる。
「ううんってことは、ないでしょ」
「なんでもないよ」
「何、言ってみなよ」
このやり取りの価値を見出せないまま、それでも付き合ってやる。
木村雪乃は歩みを強行するつもりはないらしい。
「最後なのに、こんなことを言ったら頭可笑しいと思われちゃうかも」
そしてそんなことを言って、笑いもせず、こちらを向いた。涙の残りで、少し潤んだ瞳が、視界に入る。
「何?」
なるべく意識せず、聞いたつもりだった。
「どう言えばいいかな」
そんなものの答えは、持っているわけもない。
「思いつくように言えばいいよ」
「うーん」顎を摘むように擦る。「笑ってもいいけど、ちゃんと聞いてね」
「うん」
「私ね、今日の夜、殺されるんだ」
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