その夢は本物ですか?:現代ドラマ

【プラシーボ】 【愛しき悪夢】 【インスタント】 【最低限文化的な】


「おねーちゃんっ これあげる!」


 夢を見た。記憶にあるはずの、だけれど実際にはなかったはずの出来事だ。

 私には妹はいないはずなのになぜかいつも同じ夢を見る。

 こうまで同じ夢を見続けるとそれはそれで気になってくる。

 違うんだ、なんとなくこう、妹がいる気になってくるというか……。

 これもある種のプラシーボ効果ってやつなのかな。

 夢の中のその女の子は八年間も成長することもなく五歳くらいの幼い姿で私にクマのぬいぐるみを差し出してくれる。くれ続ける。

 なのに私はいつも受け取る瞬間に目が覚めるのだ。悔しいったらありゃしない。


「どうしたの結良ゆら?」

まえー、あたしなんであのぬいぐるみを受け取れないんだろう?」

「あぁ、また夢の話……。聞き飽きたから一人で壁に向かって話しかけといてよ」

「ひっどー、酷くない? 自分で私に話しかけといてその塩対応って……!」

「だって、毎度毎度いもしないアンタの脳内インスタント妹設定に付き合うあたしの身にもなって?」

「うぐぐっ、ぐぬっ……」


 舞が私に対して酷いのは割といつものことだとしてもやっぱりと納得がいかなかった。


「ひ、人の愛しい悪夢ちゃんをインスタント妹って酷くない!? むしろ私としてはちゃんと最低限文化的な妹設定だと思うんだけど……!」

「ゴメンネ、結良あたしにはアンタが何を言っているのか一ミリも理解できないわー」

「くっそー! どうせ最初から理解する気なんかないんでしょう!?」

「よーく分かってるじゃない。だからホラ、さっさと帰ろう? あんたの妹談義を聞くよりはあんたと一緒にゲーセンでも行ったほうが楽しいての」


 この何とも言えないデレ加減が魅力的ですなぁ。


「うふふ、うれしいなぁ舞っ。でもごめん、なんか今日はお父さんが人を連れてくるって話でさ……」

「お? 何、あんたのパパさん再婚でもするの?」

「さー? 勝手にしろって思うんだけどさ、やっぱそうもいかないし……」

「仕方ないね、んじゃまた明日」

「うん、また明日ね」


 それから私は一人で自宅へと帰り着いて、ぼんやりと夢の中の妹について考え続けながら夕食を準備して、それからボケとテレビを眺めていた。


「結良、結良。帰ったぞー!」

「んあ、父さんおかえ、り……?」


 帰ってきた父を出迎えてみればそこには知らないおばさんと、なんとなく知っているような顔だちをした少女が同伴していた。


「えぇと、キャバクラから連れ帰ってきちゃったの?」


 言葉に詰まった私は思わずだいぶ失礼な茶化しを入れた。


「お前な……。大体俺はキャバクラなんて通ってない……」

「冗談冗談、あっ、その失礼なことを言ってすみません……」


 さすがに気に障っただろうか、などと考えて先手を打って謝罪を入れておくことにした。


「いいのよ別に、突然お邪魔したのはこっちだもの」


 どうやらこの人は気のいいおばちゃんらしかった。

 そしてその隣でニコニコと笑う女の子もどうやら怒ってはいないらしい。安心安心、一安心。


「とりあえず上がってください」

「お邪魔します」

「お邪魔しますっ」


 そして私は父を含めた三人を迎え入れリビングへと案内する。

 おばさんのほうは優枝ゆえさん、娘さんのほうは美恵みえたんというらしい

 穏やかに会話を進めつつ食事を終えた私は、居住まいを正して、それから父の言葉を促した。


「そのだな、結良。父さんこの人と再婚しようと思う……」

「うん、いいんじゃない」


 覚悟はできていたし、父さんにもそろそろ私を育てることと仕事以外のことにも精を出してもらいたかったから、異存はなかった。

 でもたぶん、父さんとしてみればあっさりし過ぎて拍子抜けだったのかもしれない。

 でもね、娘なんてそんなものだよ、父さん。


「結良さん、あのこれ……」


 そう言って美恵たんはカバンからごそごそと何かを取り出す。


「う、そ……? いいの、コレ?」

「うん、お姉ちゃんにもらってほしいなって……」


 それは夢の中で見慣れたあのクマのぬいぐるみだった。


「ありがとう!」


 それから私の新しい家族生活が始まったのでした。


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