黒い部屋とあなたの姿:ホラー

【相転移】【不特定多数】【見知らぬ天井】



 さてはてこんにちは。

 今回ワタクシ、黒い部屋にまつわるお話をさせていただきたいと存じます。

 皆様方は知っておいででしょうか。赤い部屋でもなく、白い部屋でもなく、黒い部屋のお噂を。

 えぇ、えぇ。ご存じない方が多いかと思います故、お少し説明させて頂きたく存じます。

 黒い部屋の噂、というのはですね、何でも不特定多数のお人たちが、真っ暗い部屋の中でいろいろなものに姿を変えてしまうという、この地方に伝わる不思議な伝承なのでございます。

 人が人でないものへと姿を変える。まるで水が氷に相転移するかのように、でございます。

 この場合、相転移、ならぬ層位転移とでも申し上げましょうか。

 えぇ、えぇ、つまりでございますね。人が人の層位から解脱することで、人ならざるものへと昇華されると、そういう黒い部屋が存在していますよ、というお話なのでございます。

 信じられませんでしょう? ワタクシメも初めてお話をいただいた時はとても驚きました。えぇ、えぇ。

 ですがそれが本当なのです。

 その証拠を御覧に入れましょう。

 こちらです、こちらのムジナはですね、えぇもとは橋巻孝之君という十六歳の少年だったのです、えぇ。

 それが、森の中奥へと踏み込んで、発見されたときにはすでにこの姿でした。

 信じられませんか? それこそワタクシには信じられません。

 如何してかって? それは決まっているではありませんか……。

 こんなにもはっきりと声が聞こえるのに、どうして言葉を信じてあげられないのです?

 はて?

 聞こえない? 聞こえないと申されますか?

 なるほど、なるほど。

 皆様方、そういえば気が付いていらっしゃいますか?

 あなた様方のお姿がもうすっかり人ではないものへとなり替わっていることに。

 はてはて、冗談だと思われますか?

 ぎょぎょぎょ、御意でございます、それではただいま鏡のほうをお持ちいたしますね?

 それはさておき、知っておいでですか? 

 どうしてキツネやタヌキムジナや狛犬が神通力と呼ばれる力と高い知能を兼ね備え、人を化かすその理由を。

 ぎょぎょぎょ、ぎょぎょ。


 .

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る